異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと 作:アニッキーブラッザー
「ぐがっ!」
トンファーがアバラに突き刺さった! やべえな、たぶん何本かイッちまったな。
ほんとやべえ。それなのに、全然体が動いちまう!
「ぎゃふっ!」
俺の警棒がトンファーをぶち折り、神乃の腕に直撃した。
本来なら激痛で苦しむはずの一撃。だというのに、神乃の野郎、笑ってやがる!
お前も、どうやら俺と同じみたいだな。
「くはははははははははは!」
「わはははははははははは!」
そうだ、骨が何本折れようと、俺たちの心は何一つ折れちゃいねえ。
この腹の底にたまったもんは、まだまだ収まりつかねえからだ!
「そうだろ、神乃ッ!」
「そうだよ、朝倉くんッ!」
神乃のトンファーが俺の額にめり込んで、俺の蹴りが同時に神乃の腹にめり込んだ。
「ヴェルト・ジーハと呼ばれていたな、あの小僧……この最終局面で、我がただの傍観者となるとは、分からぬものだな未来とは……」
そんな時、一人の魔王の呟きが、耳に入ってきた気がした。
「しかし、だからこそ希望があるのかもしれん。クロニアと愉快な仲間達。そして我らヤヴァイ魔王国。そして三大未開世界に、聖騎士と『聖王ミシェル』ぐらいであった。破滅しかないと思われた世界の真実を知りながらも、それでも足掻こうとするのはな。だが……今ここに、もう一つ希望が生まれた」
無論そんなこと気にしている場合じゃなかったから、俺は聞き流した。
だが、それでもその魔王は確かに言っていた。
「胸の高鳴りの大きさは希望の大きさを表す! 打ち勝てる……ヴェルト・ジーハ! クロニア・ボルバルディエ! この二人なら世界を変え、世界を導き、『ハルマゲドン』を超えられるッ!」
それは、世界最強の名を冠し、世界と歴史に名を轟かせた弩級魔王の言葉。
その言葉の意味を考える間も知る間もなく、徐々に俺たちの動きが意思とは無関係に鈍ってきた。
「はあ、はあ、はあ、はあ…………」
「うひ~、はあ、はあ、…………」
いつまでも続けたいという気持ちとは裏腹に、やはり決着はつけなくちゃいけねえ。
自分の体が徐々に限界に近づいてくることが理解できたからこそ、どこか寂しさを感じた。
「へへ……最初は……学校の面白さも知らないムス~っとした同級生に、学校の面白さを教えてやらないかんぜよ……ってな感じだったのに、何だか楽しいのは私の方みたい、朝倉くん」
「神乃……」
「この世界で生まれ変わり、記憶が戻り、でも、それでも私は生きていこうと思って家出して、自由に多くのものを見てきてたくさん笑った。でも、こんなに楽しいと思ったのは、本当に久しぶりだよ」
神乃も分かっている。
決着が近いことを。
「私はいつも笑っていたけど、それでもやっぱり苦しかったよ。知らなきゃいいことを知っちゃって、そして私は紋章眼まで持ってたから……知らんぷりなんてできなかった。背負わないといけないって、戦わなくちゃいけないんだって、そう思って生きてきた」
そして、こんな神乃も俺は初めて見た。
「でも、結局、あんまり何もできなかったよ。勝手にゴチャゴチャメチャメチャウダウダしちゃって、君と会うことにも怯えたり、こんなになるまでマニーを救うこともできなくて………なにやってんでしょーね、私は………」
切なそうに笑いながらも、辛かった何かを打ち明けて、そして弱音を吐くところを。
弱音。それは神乃美奈にとっては最も程遠いものだった。
そんなもの見たくもねえし、許さねえ。女だからとか人間だからとか関係ねえ。
神乃美奈にそんなことは許さねえ。
でも、だから、言ってやる。
「じゃあ今度は、俺らを頼れよ……神乃。そして、クロニア」
「……朝倉くん……」
「確かにテメエが何考えてんのかよく分かんねーし、マニーのことも救いきれなかった。挙げ句の果てに、クロニア・ボルバルディエ自身が世界の敵になっちまった。でも……神乃美奈の味方なら、この世界にはまだ存在している。なら、そいつらに打ち明ければいい」
そう、居るんだ、この世界には。
「現時点でこの場には、綾瀬、備山、宮本、加賀美、ミルコ、十郎丸、鳴神、そしてお前の仲間っぽい、ハットリってやつも居るみたいだしな」
……………………………………………………ん?
「おおおおおおい、俺! 俺! 俺っ! 俺を忘れてるんでッ!」
「……………あと、ドカイシオンくんまで居る!」
やべ、素で忘れてた……って、そうじゃなくて……
「そして、今、お前の目の前にも一人いるじゃねえかよ」
「ッ!」
「なあ、クロニア。俺はもう、朝倉リューマじゃねえ。ヴェルト・ジーハだ。そして俺たちのほとんどは、あることがきっかけで、前世と決別してこの世界で生きていこうと誓った。でも、それは……前世にすがるのをやめただけであって、前世の想いまで切り離したわけじゃねえ」
言いたかったこと。
お前の力になってやる。
だから、お前も頼れ。
それを言いたかった。
「どうして?」
「あっ?」
「どうしてそこまでしてくれるの? 朝倉くんは私のこと、メッチャウザがってたジャンクフード」
「そういうところだよ! そういうところがウザイッ! そう、ウザくて、ムカついて、イライラして……気安くて、人の心の中にいつの間にか入り込んでいて……」
そして、この言葉も胸に秘めて言えなかったこと。
「でも……朝倉リューマは……そんな神乃美奈に、いつの間にか惚れていた」
「………………………………………………………はいっ?」
「そう。朝倉リューマは、神乃美奈のことが好きだったんだよ。惚れた女ともっと関わりたくて学校にも行ったし……行事にも参加したし……修学旅行にだって行った。そう、お前が俺を無理やり連れて行ったんじゃねえ。きっかけはお前かもしれねえが、俺は自分の意思で行った。そういうことだ」
さっきとは違う。今度は勘違いされないよう、面と向かって言ってやった。
「あ……朝倉くん……君は頭大丈夫かね?」
「真顔でそれはねーだろうがっ!」
「いや、君~! チミ~! うおおおい! あのさ~、それはねーでしょ~! 複数の奥さんと可愛い娘の前で、そりゃね~でしょ~!」
まあ、言わんとしてることは分かる。
しかし、顔を真っ赤にしてテンパる様子を見る限り、そこまで悪い印象ではなさそうだ。
だが、同時に付け足しておかなきゃいけないことがある。
ヤバイ絶望に満ちた表情で見上げている、嫁さんたちのためにも。
「だが、俺はヴェルト・ジーハだ。そして、今のヴェルト・ジーハには、ヴェルト・ジーハを愛してくれている奴らが居る。俺はそいつらに、男として気持ちに応えるつもりだ」
「……ふふっ……そっか……」
「ああ。だから、今の俺にあるのは、神乃美奈だった女と結ばれることじゃねえ。前世の朝倉リューマを成仏させてやるためにも、朝倉リューマが好きだった女の力になってやりたい。それだけだ」
恋人になれなくても、好きだった女の力になってやりたい。
それが、俺の、こいつの力になってやりたいという理由だ。
「ありがとう。朝倉くんの想い、そしてヴェルト・ジーハくんの想い、二つの想いが、とても胸に響いたよ」
そして、弱音を吐いていたクロニアの表情が、元のこいつらしい表情へと戻って、笑った。
「本当にそうだよ! なんで、私は気づかなかったのかな? この世界には、あの濃くて最強すぎるクラスメートたちが居るのに、何で頼らなかったのかな? 今になって、そんなことに気づくなんて、やっぱ私は、おバカリーナですなっ!」
もう、迷わないとその瞳、その笑顔が語っている。
「君との再会まで長いこと長いことかかって、ようやく私も分かったよ」
答えは出たと、こいつも言っている。
「ああ。本当に、長かったよ」
長かった。だが、ここで終わりじゃねえ。
「だから、この戦いが終わったら……私を助けてね! ヴェルトくん!」
「ああ、そのために、俺は今ここにいるんだよ! クロニアッ!」
この決着は、ここから新たに始めるためのもの。
その、開始の合図を鳴らすかのように、俺たちは世界の中心で、もう一度だけ最後にぶつかった。
そして、神族大陸で発生した最後の閃光の中、弾かれたトンファーが、神族大陸の空で粉々に砕けちったのを俺は見た。
……長かった