異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第63話 仕方ねえじゃん

 戦争にも参加せず、これまでずっとエルファーシア王国内に居た俺は外の世界に対する知識が乏しい。

 だが、そんな俺でも魔族と亜人について知っていることがある。

 

 それが、『世界三大称号』と呼ばれた、『七大魔王』と『四獅天亜人』、そして『光の十勇者』という称号だ。

 

 広大な魔族大陸に置いてその頂点に位置する七つの大国家。その国家を束ねる七人の魔王に与えられた称号が『七大魔王』の称号だ。

 

 それに対して、星の数ほど存在する多種多様な種族が生息する亜人大陸は、明確な国の数は誰も把握していない。だが、そんな世界の中で戦闘能力のみに特化した亜人に与えられる称号。それが『四獅天亜人』だ。

 

 『光の十勇者』の称号は単純な戦闘能力では計れない。世界的な貢献度や功績などを加味されてその称号が与えられる場合もある。言ってみれば、戦闘が不得意な者でも発明や軍師などの実績で選ばれている者もいる。

 

 だが、『四獅天亜人』は違う。誰が一番強いのか? そんな単純などつきあいで最強と認められた四人に与えられる称号だ。

 正に弱肉強食の獣らしいシンプルな勲章だ。

 

「ったく、マジで勘弁しろよ。国を出て数日で四獅天亜人と絡むとか、ふざけんじゃねえ!」

「私も四獅天亜人は一人も会ったことがないが、父上は私に絶対に戦うなとだけは強く言っていた」

「クソが。割に合わねえな」

 

 船の甲板に座り込む俺たちの気分は沈んでいた。

 正直、そんなものに関わりたくない。だが、このまま見捨てるのは何か心が痛む。

 

「できるなら、関わらないで欲しいでござる。おぬしたちは拙者たちの恩人。恩人を死地に向かわせるわけにはゆかぬ」

「ムサシ。テメエは、今からシンセン組に合流するのか?」

「ん? いや、拙者はこちらを優先するべく離脱したので、戻るつもりはないでござる」

 

 死地か。そりゃそーだな。正直、俺も多少は強くなった気はしているが、そういう化け物には勝てるわけがねえと分かりきっていた。

 

「こっちの船の準備ができたの」

「私たちも帰るだよ」

 

 解放された亜人たちを故郷に送るべく、チビッコ三人組が隣の船から言ってきた。

 とりあえず、こいつらとはここで別れることになるわけだが、さて、俺たちはどうする?

 

 

「今から急いでもシロムには一週間近くかかる。書簡の類も同じだ。もう間に合わねえ。いっそのこと、近隣諸国に伝えて援軍の派遣要請だけでいいんじゃねえのか?」

 

「そうだな。我々三人でどうにか出来る事態でもあるまい。むしろ出来るのはそれぐらいだろうな」

 

「まあ、そうだよな」

 

 

 確かに、ウラとファルガの言うとおり、それが俺たちに出来る限度だろうな。

 だが、俺たちがそれを決める前に、悲痛な声が挙がった。

 

「ちょっ、待ってください!」

 

 それは、檻の中に居るジーエル、そして競売職員の連中だった。

 

「その話が本当だとしたら、四獅天亜人がシロムを襲撃し、国は戦火に巻き込まれるということでしょうか?」

 

 まあ、そうだろうな。俺たちは小さく頷いた。

 すると、ジーエルをはじめ、競売職員の連中が目の色を変えて叫びだした。

 

「ちょっ、待ってくれ! 国には、国には俺の妻と息子が居るんだよ!」

「俺の彼女は城下町に住んでるんだけど、そこも狙われるのか?」

「俺の母ちゃんは貧民街に住んでるんだ。俺の仕送りだけで暮らしてるんだが、そこは無事なのか?」

 

 こいつらだって、人間だ。当然育てた人間も居れば、大切な人や家族も居る。

 当たり前のことだ。

 

「そ、そんな、おっ、お願いです! 今すぐこの船をシロムに向けて下さい! この事実を今すぐ知らせなければ」

 

 爽やかなジーエルがパニくってるが、正直状況はどうしようもない。

 

「無理だな。クソ亜人の話によれば、シンセン組とやらの襲撃は今から三日後だ。ここからシロムまでどんなに飛ばしても一週間かかる」

「それでも、それでも何もせずに黙っているなんてできない! あなたたちだって、国や家族があるはずです! 私たちの気持ちもどうか分かって下さい!」

 

 このとき、正直俺たちはかなり複雑な気持ちだった。

 それは、こいつらの気持ちを理解できたからではない。

 それは、

 

「か、勝手なことを、何を勝手なことを申すでござる!」

 

 その思いを、ムサシが叫んだ。

 

「おぬしら人間は、そうやって何人の亜人を傷つけた! おぬしらが連れ去り、売り払い、陵辱し続けた亜人にだって、国も家族もいたはずでござる! その叫びを、おぬしらは一度でも聞いたことはあったでござるか?」

 

 まあ、ムサシがそう思うのも無理はねえ。

因果応報と言っちゃそれまでだが、ジーエルたちの言葉は身勝手な意見ではあるな。

 

「俺たちにそんなこと言われたって……俺たちだって命令でやってたんだ!」

「そ、そうだ! 俺たちだって生活していくうえで仕方なかったんだ!」

「むしろ、すぐに処刑されるはずの亜人に仕事を与えてやっていたんだぞ!」

 

 うわお。開き直ったよ。

 いや、というよりは、……それ以前だろうな。

 

「やめとけ、ムサシ。こいつらに言っても仕方ねえよ」

「ヴェルト殿!」

「だってこいつら、そもそも亜人を奴隷にしたり売ったりするのが悪いことだとは思っていないからだ。仕方ねーじゃん、人間の文化と法律がそうなってんだから」

 

 金がないから仕方なく犯罪に手を染める。

 人を殺すことが悪いことだとは分かっているが、犯罪者を止めるため、戦争のために仕方なく殺す。

 そういう「仕方なく」な話は良くある話だ。

 だが、こいつらはそれ以前なんだ。

 奴隷制度が当たり前にある国で育ったから、そもそもそれが良いことか悪いことかなんて意識がないんだ。

 だから、言っても仕方がないってことだ。

 

「しかし! しかし、それで済む話ではない! むしろ、自覚していないうえに、自分たちの家族だけは助けろだと? 亜人を侮辱するにもほどがあるでござる!」

 

 そうだよな。それで納得できるわけがない。

 じゃあ、何が悪かったのか? 人間? 亜人? 魔族? 戦争? そんなもの、分かるはずがない。俺だけじゃなく、この世の誰もが自分の言い分があるからだ。

 だから、どこかで割り切るしかない。

 でも、割り切れない。その繰り返しが今の時代を作ってるわけか。

 

「そうだよな。本当に」

「ヴェルト殿?」

「鮫島も、宮本も、こんな世界で何を抱えて、何を変えようと生きてるんだろうな」

 

 本当にその通りだ。

 平和ボケで、くだらなくて、でも楽しかったあの高校時代を過ごした俺たちが、この世界でどうしろっていうんだよ。

 俺にはどうすることもできねえ。つか、興味もねえ。

 なのに、鮫島も宮本もそうじゃないんだろうな。

 

「昔話を懐かしみながら、再会を喜び合う。そんな甘い話じゃねえかもしれねえ」

「ヴェルト殿?」

「なあ、ムサシ。一つ教えてくれ。お前のジイさんは、人間をどう思っているんだ?」

 

 鮫島は魔王として生まれ変わり、魔王として生きてきた。

 宮本もまた、亜人に生まれ変わり、亜人として生きてきた。

 だが、忘れてはいけないのは、二人はもともと人間だったってことだ。

 

「それは、もちろん良い感情は持っていないでござる。大ジジの息子、つまり拙者の父も人間に殺されたでござる」

「ふ~ん……」

「ただ……」

「ん? ただ?」

「うむ、その、これは拙者の思いこみかもしれぬが……大ジジは人間に対する憎しみを一度も口にしたことがないでござる。悲しみはあるが、どこか苦しそう。それが、拙者の抱いた印象でござる」

 

 そうか。あいつは、ひょっとして、悩んで苦しんでるのかもしれねえな。

 だって、誰にも相談できないだろうからな。

 

「人間が憎いって素直に口にできねえか。そりゃそーだ。言えるわけがねえ」

 

 人間を憎む一方で、当の自分もまた前世は人間だったんだもんな。

そう思ったら、

 

「仕方ねえ。行くか、シロムに」

 

 俺は自然と言葉を口にしていた。

 

「な?」

「正気か、ヴェルト!」

「ヴェルト殿!」

 

 ああ。自分でもバカな考えだと分かってる。

 でも、

 

「たぶん俺はここで行かなきゃ後悔する。俺に出来ることなんて何もねえかもしれねえが、このままじゃダメな気がする」

 

 行かなきゃ何も見えないし、分からないままだ。

 

「おい、言っておくが俺は断じてお前らのために行くわけじゃねえ。だから、シロムに着いて、お前らの家族がどうなってようと俺には関係ねえからな?」

 

 念のため感激しているジーエルたちには釘を刺しておいた。

 

「おい、愚弟。テメェ、本気か? ヘタをしたら間違いなく死ぬぞ?」

「ヴェルト、何があったかは分からぬが、少し冷静になった方が良いのではないのか?」

 

 分かってるさ。俺がどんな馬鹿なことをしようとしているのか。

 でも、もう決めちまったんだから仕方ねえ。

 

 

「別に俺は戦争に行くわけでも、シロムを救いに行くわけでもねえ。ちょっと会いたい奴が居るだけだ。だが、確かに今回は二人の言うように、マジでヤバイ。だから……コエーから一緒について来てくれたら嬉しいぜ」

 

「「……………………」」

 

 

 すると、二人は呆れたように苦笑した。

 

「ふん、分かってるじゃないか、愚弟。俺たちの性格を」

「ウム。危ないから、私たちは来なくていいなどと言ったら、地平線の彼方まで殴り飛ばしてやった」

 

 そう言って、俺の肩を叩く二人の顔は、イカした面構えだった。

 

「な、なにを、ヴェルト殿、それで本当に良いでござるか?」

「ああ。ムサシ、テメエはどうする? 来るなら構わねえし、帰るならさっさと船から飛び降りな。時間がねーみたいだしよ」

「し、しかし!」

 

 ワリーな、ムサシ。もう、お前とイチイチ議論している時間もない。

 俺は、やると決めたら勝手にやらせてもらう。

 

「さあ、いくぜ! ふわふわ宙船」

 

 俺は進行方向を向く。

 方角はシロム国。

 

「くはははは、シロムまで一週間? それは海上からだろ? だが、空ならどうだ?」

 

 見せてやるよ。俺の本気をな。

 

「ッ、愚弟、てめえいつの間にこんな!」

「おっ、おおお、ヴェルト、お前はここまで!」

「な、なななな、何があったでござる! ふ、船が空を飛んでいる!」

「な、なんじゃこりゃあ!」

「ひ、ひいいいいい、おかーちゃん!」

 

 種族問わずに慌てふためく甲板。

 チビッコ剣士や捕まっていた亜人共が、目を丸くしたまま固まっている。

 いいね~、その反応。苦労しがいがあるってもんだ。

 

 

「さーて、始めるか。空の旅をよ」

 

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