異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと   作:アニッキーブラッザー

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第76話 名を上げる

 俺たちが朝飯兼昼食を口にできたのは、既に日が真上に登った頃だった。 

 昨日のうちにシロムから北へと爆走した俺たちは、山岳地帯の麓にある小さな村にたどり着き、安宿の狭い部屋を借りて雑魚寝していた。

 魔族や亜人という異種族が帯同しているが、シロム国の近くということもあり、奴隷を帯同されていると思ったのか村人もそれほど過剰な反応は見せなかった。

 むしろ、俺とファルガを見て、「なかなかいい奴隷連れてるじゃねーの、具合はどうだ?」などとゲスな笑みを浮かべてきたが、面倒なので無視した。

 

「見ろ、シロム国について記事が載っているぞ」

「へ~、あのジジイの言った通りだったな。見せてみろよ。俺たちについてはどう書いてる?」

 

 ブランチの目玉焼きとカリカリベーコンをベランダで頬張りながら、俺はファルガに渡された朝刊の一面を開いた。

 そこにはデカデカとシロム国が亜人に強襲されたことが書かれており、さらに四獅天亜人のイーサムの名が、事の深刻さを余計に際立たせていた。

 

「ほお。四獅天亜人のイーサム率いるシンセン組の強襲により、シロム国商業地区及び港町に大損害。しかし、突如現れた正体不明の部隊との交戦直後、イーサムによる終戦宣言が発せられ、シンセン組は即日シロム国より撤退。生存者からの証言では謎の四人組がイーサムを撤退させたとのことだが、真偽は定かではない。ん、これだけか?」

 

 だが、実際に新聞を読んでみて、俺は少しだけガッカリした。 

 それは、イーサムが俺たちの名前がすぐに世界中に広まるだろうと言っていた割には、新聞には俺たちの名前も詳細も一切書かれていなかったからだ。 

 

「ふむ、私たちのことは特に書かれていないな」

「まあ、そうでござろう。イーサム様の思惑がどうであれ、亜人族側が情報を公にしなかったのでござろう」

 

 俺的には少しドキドキしていたのに、どういうことだ?

 

「殿、考えてみてください。これだけ戦乱の世が続く中、あの四獅天亜人を撤退させる力を持った、世界が知らぬ英雄がまだ存在したということが明るみになることで、亜人の誰が喜ぶでござる?」

 

 確かに言われてみりゃそうだ。

 亜人側がこれで俺やファルガの存在を公にすれば、それは人間側にとっては希望になるが、亜人側にとっては四獅天亜人という絶対的な称号の格を落とすことに繋がり、それは亜人側にとって大きな不安を生むことになる。

 シンセン組創設者の孫娘であるムサシが裏切ったことや、さらに、亡国の魔族の姫が生存したことが知られれば、人間だけでなく魔族にとってもこれ以上ない朗報となる。

 つまり、俺たちの存在を明るみにさせることは亜人側には何のメリットもないということだ。

 シロムの連中に俺たちの存在を知られなかった以上、謎の英雄は謎のままの方がいい。そういうことだ。

 

「なーんだよ。ちょっとガッカリだな。自分から売名するのは嫌だが、自然と名が轟くことは楽しみだったのによ」

 

 俺は新聞を放り投げて、椅子の背もたれに寄りかかった。

 自分からシロムでイーサムを撤退させたのは俺ですなんて名乗り出るのは恥みたいなもんだったが、人知れずに名が売れることはまったく期待していなかったと言えば嘘になる。

 ちょっとガッカリした気分だった。

 

「意外だな、愚弟」

「あん?」

 

 その時、俺の様子を見て、ファルガが珍しそうに訪ねてきた。

 

「いや、お前は戦争にまるで興味のない男だ。それゆえに、名前が世界に広まることも好まないやつだと思っていたが」

「あっ、それは私も思ったぞ、ヴェルト。お前はそういうのに興味ないやつだと思っていた」

 

 ああ、そう思われてたのか、俺は。

 確かに、ファルガやウラがそう思うのも無理はないが、俺だって男だ。

 

「あのなあ、俺は戦争には興味ねえけど、別に平和主義者ってわけじゃねーんだ。こういうのは興味ある無しじゃなくて、不良の本能みたいなもんなんだよ」

「本能? どういうことだ?」

「簡単なことさ。頭が悪くて、人に好かれる才能もねえ。人に誇れるのは喧嘩の腕ぐらい……そんなバカが腕っ節で名が上がる。それを生きがいにしていた時代が俺にもあった」

 

 俺の言葉にファルガが首を傾げた。

 

「そういう時代? あったか? お前に、そんな時代」

「まあな。それこそ中学時代~あ~いや、えっと……と、とにかく、俺もお前らの知らないところで色々あったんだよ! 今は別にそうじゃねえけど!」

 

 やべえやべえ。五歳の頃から会ってるファルガからすれば、「いつの時代にそんなことあった?」と思われても仕方がない。

 ウラですら十歳の頃から俺と出会ってるわけだしな。

 にしても、言っていて俺自身の懐かしくなった。

 中学時代。それこそ今のヴェルト・ジーハと同じ歳の頃だ。

 あの頃は本当に、自分よりツエー奴は許せねえ。最強になって全員に俺を認めさせるとか、痛いことをしてたな。

 喧嘩の腕を認められるのなんか、ガキの時だけの話だっていうのによ。

 

「なら、なぜだ? 今のお前は自分から名前を上げる気もなくなったんだろう? なのに何故、名が上がることを期待したんだ?」

「大した理由じゃねえよ。ただ、不良のサガってやつは何年たっても消えるもんじゃねえってことさ。ようするに、名前が売れて有名になるのは悪い気分じゃねえってことだ」

 

 うまく言えないが、男ってのはたいていそんなもんじゃねえかな?

 

「そうか。お前は目立つのがクソ嫌いだと思っていたが」

「くだらねえことでチヤホヤされるのは嫌いだが、誇れることで目立つことはそれほど悪い気もしねえよ。英雄とか勇者とかってのは勘弁だけどな」

 

 すると、ずっと黙っていたウラが一つため息を吐いて微笑んで俺の腕にすり寄ってきた。

 

「戦争には参加しないが、名が上がるのは構わない、か。まあ、ヴェルトが人気者になるのは面白くないが、私のヴェルト……夫の実力が世界に認められるのは悪い気はしないな♥」

 

 その後ろで、ムサシも激しく頷いている。

 

「殿ーっ! 分かりますぞ、拙者には殿のお気持ちがよく分かるでござる! そう、自分から名を売り込むのは二流三流のすること。名前を上げることに興味がないなどと申すのは枯れた老人のすること。真の武士は名を語らずして、その名を天下に轟かせるもの! その通りでござる!」

 

 いや、天下っていうのはさすがにな~。

 中坊のころ、俺が目指していたのは、狭い街の中でのナンバーワン争いだしな。

 すると、俺の考え方に何かを思ったのか、ファルガは少しだけ笑みを浮かべた。

 これは、機嫌がいいときのファルガだ。

 すると、

 

「ならば、愚弟。少し名を轟かせてみるか?」

「はっ?」

「テメェがこの旅で、何を探しているのかは未だによく分からねえが、誰かを探そうってならテメェの名前が有名になることは悪い事じゃねえ」

 

 どういうことだ? そう思った俺の前に、新聞のページをめくったファルガが、ある一面を俺に見せた。

 

 

「あ~、なになに~、『シロム国の競売組織より、競売予定だった、『カラクリドラゴン』が脱走』? 『北の山岳地区へ飛び立ったという目撃情報もあり』……って、なに?」

 

 

 カラクリドラゴン?

 何だそりゃ? 初めて聞いたぞ、そんなドラゴン。

 ドラゴンだから一応、亜人に分類されるのか? でも、ムサシも首を横に振って知らなそうだ。

 

 

「俺も噂でしか聞いたことがねえ。ただの希少種なのか、魔法で作られたのか、あるいは別の何かの力で生み出されたのか……そのへんは謎に包まれている。それと、カラクリドラゴンと関係があるかは不明だが、全身が人工の物質で覆われたような見た目のドラゴンが、神族大陸でこれまでに何度か目撃されているらしい」

 

「全身を物質で? そんなもん、機械……いや、だからカラクリか? んなもん、本当に存在するのかよ」

 

「さあな。ハンターの中で、特にドラゴンスレイヤーの間では、宝石竜種や竜王種と並ぶレア度だ。正直俺もクソ興味がある」

 

 

 シロム国の北の山岳地区か。うん、ここだな。

 そうか! それで機嫌が良かったのか、このドラゴンマニアめ!

 なんか、いつもは怖い目で睨んでいるファルガが、やけに目を輝かせている。

 でも、俺は別にそんなドラゴンあんまり……

 

「いや、俺は興味が」

「あ゛あ゛?」

 

 やばい、今のファルガは恐ろしいほど怖い。

いつもなら、何だかんだで俺を甘やかしてくれるブラコンなのに、今日はマジだ。

 断ったら、ぶっ飛ばされそうだ。

 

「ま、まあ、ちょっとだけなら」

「クソあたりめーだ。」

「う~む、しかしドラゴンか~、私もなんか嫌だがな」

「ご安心を! 殿は拙者が守るでござる!」

 

 しかし、何か胡散臭い名前のドラゴンだが、一応はドラゴンだ。

 四獅天亜人の次の日くらいは、少しマイルドなものにして欲しかった。

 

 

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