アンダーワールドの創造者 作:l.l.(pixivでも活動中)
ーーーなんであの時、止めなかったのだろう。
僕は後悔しながら、アンダーワールド用のナーヴギアの被る。初期設定などとうに終わらせている。
「リンクスタート」
この世界での最後になるかもしれない言葉を発し、僕は『ソードアート・オンライン』にダイブした。
***
最後に入ったのは何日前だったっけ? そんなことを思いながら、始まりの街をブラブラしながら見渡す。私がマップを担当したのになんだか新鮮な気分だ。
まだチュートリアルは始まってないようだね。なら、βテスターは今頃平原でコボルドたちを狩って、レベリングをしているだろうね。
「ーーーーーー吞気なものだね」
私は柄にもなく、そんなことを呟いてしまう。
「何が呑気なんだ?」
アストの呟きが聞こえたのだろう。初期アバターの人物が明日人に近づいてきた。
「君は?」
アストは愛剣の『シルヴァリー・エタニティ』で件の初期アバターの人物の喉元に突き付けながら、問いかける。
「ちょ、別に怪しい者じゃないって。ただ気になることを言ってたからつい、な」
初期アバターの人物は両手を上げ、困ったように弁明する。
「ああ、ごめん。不審者かと思った」
「酷いなぁ! おい!」
「だって、いきなり後ろに人が来て、話しかけてきたらその人怪しいでしょ」
「ぅ……というか、否定しきれん。そういえば、自己紹介してなかったな。俺は“キリト”よろしくな」
「……アスト」
「アストか……男っぽい名前だな」
「男っぽいも何も正真正銘男だよ、私は」
アストは妖艶な笑みを浮かべながら、キリトにしてやったり、と言いたげな顔をした。
私の告白にキリトは非常に驚いていた。
まあ、主任たちも初めは目が飛び出るんじゃないかってくらい驚いていたから、キリトのこの反応は普通なのだろう。
「確認する?」
私はキリトに意地悪な問いを問う。その時、ふと疑問に思った。普段なら、こんなに主任たちや家族以外でこんなに話すことなんてなかったのに、と。
だけど、その疑問の答えはすぐに分かった。おそらく、キリトに対して……だけじゃないね。SAOプレイヤーたち全員に罪悪感があるのだろう。
「するか!」
キリトの反応を見て、初心だなと思った。まあ、この初心な反応も後数分で消え去る。
そんな思いを心の裡で吐露してると、私を含めたここら辺にいたプレイヤーたち、いや、『SAO』にログインしているプレイヤーが全員始まりの街に転移した。
***
「おいおい、バグか何かか?」
あたりでそんな声が聞こえてくる。キリトも慌てているようで、「どういうことだ?」と独り言を言っている。
私はただ待つだけだ。この
少ししてから空が血のような赤に染まり始め、上空に文字が出現した。六角形状の図形内にそれぞれ「WARNING」と「System Announcement」の二単語が表示されており、六角形は交互にパターン表示されたいる。
その上空の中央部から血液のような赤い液体が流れ出し、途中で形を変えて、身長二十メートル近くある真紅のフード付きローブを纏った巨人へと変化した。
来た……! 私がそう思った瞬間、巨人ーーーいや、主任が存在しない口を開いた。
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ。私の名前は茅場晶彦。今やこの世界のほぼ全てをコントロールできる人間だ』
茅場はまるで、全てをコントロールできないかのような言い回しをした。だが、この言葉の意味を理解できた者はとある一人を除いて、存在しなかった。
『プレイヤーの諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す、これは不具合ではなく『ソードアート・オンライン』本来の仕様である』
「し、仕様……だ、と……?」
キリトの近くにいた人物が割れた声で呟いた。その語尾に被さるように、滑らかな低音のアナウンスは続いた。
『諸君は今後、この城の頂を極めるまでゲームから自発的にログアウトすることはできない』
茅場は言葉を発した後、間を置いた。そして、
『……また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合……』
と、決定的な言葉が発せられた。
『ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』
キリトと先程割れた声で呟いた人はお互いの顔を呆けた表情で見合わせ、「はは……何言ってんだアイツ。頭おかしいんじゃねぇか? んな事できるわけがねぇ、ナーヴギアは……ただのゲーム機じゃねぇか。脳を破壊するなんて……そんな真似できるわけがねぇだろ」と話し合っていた。
私はキリトたちの会話に横やりを入れるのは無粋だと思ったが、彼らに辛い現実を突きつけた。
「言っておくけど、ナーヴギアは三割がバッテリーセルでできている。それだけのバッテリーが有れば脳を破壊するのは可能だよ……」
私の言葉に彼らの顔が絶望の表情に染まっていくのと同時に、再び主任が話し始めた。
『より具体的に説明すると、十分間の外部電源切断、二時間のネットワーク回線の切断、ナーヴギア本体のロック解除、分解、破壊を試み、いずれかの条件によって、脳破壊シークエンスが実行される。この条件は、すでに外部世界では、当局およびマスコミを通して告知されている。ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり、その結果、すでに213名のプレイヤーがアインクラッド及び現実世界からも永久退場している』
私は元々知っていたから気にしていないがキリトは後ろに数歩よろめき、先程の人物に至っては虚脱した顔でその場で尻餅をついた。
「信じねぇ……信じねぇぞオレは……」
石畳の上に座り込んだ彼が今度は掠れた声で呟いた。
『現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアか多数の死者が出ている事を含め、繰り返し放送をしている。諸君のナーヴギアが強引に除装される危険はすでに低くなっていると言ってよかろう。今後、諸君の現実の体はナーヴギアを装着したまま二時間の回線切断猶予時間のうちに病院やその他の施設へ搬送され、厳重な看護態勢の元に置かれるはずだ。諸君には安心してゲーム攻略に励んでほしい』
それで励む者はいないだろうね、と思っていたら、主任はさらに言葉を続けた。
『しかし、充分に留意してもらいたい。諸君にとって、『ソードアート・オンライン』はすでにただのゲームではない。もう一つの現実というべき存在だ。………今後、ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。HPが0になった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される。諸君がこのゲームから解放される条件は、たった一つ。先に述べたとおり、アインクラッド最上部 第百層まで辿り着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすれば良い。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされる事を保証しよう』
「クリア……第百層だとぉ!?」
突然、彼が立ち上がり、右拳を空に向かって振り上げた。
「で、できるわけねぇだろうが!! ベータじゃろくに上がれなかったって聞いたぞ!!」
その通りだ。βテストにて千人が二ヶ月間プレイした中でクリアされたのはたった十層。それも何百、何千、何万の死亡と蘇生を繰り返しての結果であった。
『それでは、最後に諸君にとってこの世界が現実であるという証明を見せよう。諸君のアイテムストレージに私からのプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ』
ただの確認ではあるがアストはメインメニューを開いてアイテム欄のタブを叩き、一番上にあったアイテムーーー手鏡ーーーをオブジェクト化した。
プレイヤー全員が街ごと白い光に包まれた。2~3秒ほどで光は消え、プレイヤーの顔は仮想世界のアバターではなく、現実世界の顔に変化していた。
「お前……誰?」「おい……誰だよおめぇ…」といたるところでその言葉が木霊していた。
すると、キリトが「茅場晶彦は俺たちに認識させようとしてるんだ。ここはもう一つの現実で、本物の命なんだと。だからわざわざ俺達の現実の顔と体を再現したんだ……」と茅場の意図を読み取った。
「何でだ!? 何でこんな事を……!?」
すると、主任は野武士のような顔の人の問いが聞こえていたかのようにその答えを厳かな声で発した。
『諸君は今、何故と思っているだろう。何故私は…SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんな事をしたのか?と。私の最終的な目的は……この状況そのものだ。この世界を作り出し、鑑賞するためにのみ私はナーヴギアをSAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた……以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る』
茅場の最後の一言が終わると、真紅の巨大なローブ姿が音もなく上昇し、やがて上空の血に波紋を残して消え、同時にシステムメッセージも消滅した。
少しの間を置いて、全プレイヤーのいる始まりの街は凄まじい阿鼻叫喚に陥った。悲鳴、怒号、絶叫、罵声、懇願、咆哮、もはや地獄としかいいようがない状態である。
そんな地獄絵図の中、アストはただ一人、この場を音もなく離れた。