「……全く、とんでもないことしてくれたね。」
私は今硝子さんが葵先輩を治療している傍らで正座している。地面に何かひいているわけではないのでとても痛い。
「でも……兄様が」
「その兄様の言うことに従って君は人を殺しかけたんだぞ?素直なことは美点だが、素直すぎてもダメなんだよ。」
「ごめんなさい……」
こうなったのは葵先輩に告白された私が断る時に術式を解放して本気でアッパーを決めたからだ。硝子さん曰く葵先輩でなければ死んでいたそうだ。良かった、1番最初に告白してきたのが葵先輩で。
「まあ五条は私が言っておく。あとで東堂にも謝っておくんだぞ。」
「はい……」
意気消沈しながらグラウンドに戻る。先輩達全員が私の顔を見るとニヤァと口角をあげる。
「お前、東堂殴り飛ばしたらしいじゃん?」
「あ、はい。」
なんだろう、怒られるのかな。私は先輩達と葵先輩との関係を知らないからな。仲良かったのなら怒るよね。
「良くやったな美悟!いやぁーあのゴリラうざいけど強いからどうしようもなかったんだ!」
真希先輩がすごい笑顔で肩を組んで言ってくる。先輩達にとって悪いことじゃないのか。ん?それでもなんか酷くない?
「真希先輩は葵先輩のこと嫌いなんですか?」
「真希だけじゃない。俺も棘も嫌いだよ。」
「しゃけしゃけ」
葵先輩……めっちゃ嫌われてる……。なんでここまで嫌われてるんだろ。ほんの少しだけ会話したけど悪い印象は受けなかったけどな。
「お前東堂の十八番の質問されてないのか?」
「十八番の質問?」
「あいつ初対面のやつには必ず好きな女のタイプを聞くんだよ。それで自分と趣味が合わなかったら襲いかかってくることもある。」
ちょっと過激な人だとは思うけどそこまで嫌うほどか?もしかしてまだ嫌われる要素があるのか?
「そして何より、アイツのタイプが尻と身長がデカい女なことだ。」
「ホント女の敵ですね。殴った後悔なくなりました。」
ちょっとそれは許容できないかな。だってそれって、私のこと身長とお尻しか見てなかったってことでしょ?あーむしゃくしゃしてきた。交流会でもっとボコボコにしよ。
「美悟ーもういけるよー。」
どうやら兄様も仕事を終わらせたようだ。顔を見る限りかなり明るい感じだから京都の学長に言いたいことを言ったようだ。それはそれとして……
「兄様!告白を断るときにアッパーしたら殺しかけちゃいましたよ!私に嘘をつきましたね!」
「え?告白されたの?ていうか本当にアッパーしたの?……プッ」
どうやら困惑している様子だが私が首肯したことで爆笑しはじめた。でも兄様が言ったことだから兄様にもちゃんと責任をとってもらわなきゃ困る。ん?でも葵先輩もクズだから別に良いか。ということで私の責任をとって私を一生養ってください。
「いい加減にしてください!さっさと修行に戻りますよ!」
「へいへい。」
誠に遺憾ながらインスピレーションを葵先輩から得ることができた。葵先輩に対して抱いた嫌悪感。嫌悪感は人間の負の感情であるため、呪術と相性がいい。他者に嫌悪感を抱くことを呪いへと昇華することで
ここまできたのならあとは実践あるのみ。術式を付与する対象の嫌悪している、するべき要素を思い浮かべることで術式対象への嫌悪感を発露させる。そしたらその嫌悪感を呪力に変換して私の術式に流し込むことで、術式対象が拡張され物体を加速させることができるのではないだろうか。
道端の小石を加速させてみよう。小石への嫌悪感を発露……小石への嫌悪感ってなんだ?路傍の石に感情なんて抱いたことがない。……このままだと拡張術式の対象が私の嫌悪しうるもののみになってしまう。
「何悩んでんの?」
「拡張術式のヒントが得られたんですが、ちょっと壁にぶつかりまして……」
「言ってごらん。」
「物体を嫌悪したら術式対象を拡張できると思ったのですが……嫌悪できないものに対してどう解釈すれば良いのかなと。」
「こじつけで嫌悪してやればいいのさ。例えば今美悟が持っているその小石に対して
「……なるほど!」
小石への嫌悪感をこじつけで作りだす。その嫌悪感を呪力に変換し術式に流し込む。小石を学園都市第三位の超電磁砲のように発射。加速は成功し小石が木を数本貫通した後、威力が減衰し地面に落ちる。
「やった、ありがとう!兄様!」
「よーしえらいえらい。」
ようやく拡張術式を成功させたことに歓喜した影響で兄様に抱きついてしまった。……え?何やってんの私?名残惜しさを感じつつ兄様から離れる。恥ずかしいぃ……今顔真っ赤だよぉ……
「恥ずかしがるならやらなきゃいいのに。」
「だって……嬉しくなって我を忘れてしまったんですよ……忘れてください!」
「まあでもここまできたのならあとはひたすら反復練習だ。今は意図的に行なっている呪力操作を無意識にできるようにする。あとは、拡張術式だと落ちてしまう出力を通常と同じぐらいまで持っていくだけだ。」
今の感覚を忘れないうちに回数を積もう。目標としては小石が大岩を穿つぐらいまで加速させたい。それぐらいの威力があれば特級呪霊にダメージを与えるのに十分だろう。
あとは呪具の応用で多節棍を使ってみたい。もしも通常の術式と拡張術式の同時使用ができるなら、腕の加速と多節棍の先端を同時に加速させることができる。二重で加速の恩恵を受けることができるのである。真希先輩「游雲」貸してくれないかなぁ。同時併用が成功したらお願いしてみようっと。
「来たか、夏油。」
「高専襲撃計画について色々煮詰まったのでね。」
南国の砂浜のような生得領域で行われる怪しげな会議。会議の参加者は人間1人と呪霊4体。いずれも特級に分類されるほど強力な呪霊達だ。
「今回は私も出るよ。」
その瞬間話を聞いていた呪霊達に衝撃が走る。夏油と呼ばれた男は昨年12月24日に起こした「百鬼夜行」で当時一年生の乙骨憂太に敗北し、死んでいるはずだ。その夏油が生きていたことなどが広まってしまえば、即刻五条悟に殺させにくるだろう。そのため、夏油は高専関係者に顔を見られるわけにはいかないのだ。
「今回学生達の所に花御だけ送っても祓われてしまうからね。顔は覆面でもして隠すさ。」
「五条悟以外の特級術師でもいるのか…?」
「いやいない。ただ今年の一年には
「奴に妹がいたのか!」
五条悟の妹。それだけで警戒する価値があることを火山頭の呪霊の敗北でこの呪霊達は思い知っているのだ。
「しかし術式を使ったら残穢が残ってしまうだろう。それにもし五条悟に見られてしまったらアウトだろう?」
五条悟は六眼と呼ばれる特殊な眼を持っている。六眼は見た者の術式、呪力の流れといった呪術関連のものを正確に見抜くことができる。もしも夏油が見られてしまったら肉体に刻まれた術式から見破られてしまうのだ。
「帷が降りてから姿を見せて、早々に五条美悟を戦闘不能にして離脱する。これなら五条悟に見られることはほぼない。」
「分かった。我々の計画に変更はないのだな?」
「あぁ、ないよ。」
「ではまた1ヶ月後に。間違っても五条悟に殺されるなよ?」
「私は誰にも殺されるつもりはないよ。」
怪しげな会議は踊る。呪術師に降りかかる大きな災いが始まろうとしている。
主人公がそこそこ強いから花御だけだと戦力不足だよねってことで参加させることにしました。