もりもり書けた。
間に合え!お願いだから間に合って……!
以前宿儺が復活した時のように帳を下ろさず術式を行使する。違う点としては初めから術式の出力を最大にしている点だ。
音速で移動をしているため、普通だったら周辺の建物の窓ガラスが割れるといった被害が考えられるが、呪力を放出することで自らの周辺に存在している空気の壁を拡散させることで窓ガラスが割れるほどの衝撃ではなくなるようにしている。
目的地に到着した美悟は息を整える前に周囲を見渡し、自然と声が漏れる。
「………………は?」
今日の任務は一級呪霊を祓うだけの簡単なお仕事。私は一級術師の中でも上位の実力を持っているため、一級ごときでは苦戦することすらない。ただ、呪霊の等級はかなり変動しやすいため油断は絶対にしない。認定された等級から-2等級は想像しておく。二級呪霊の場合でも一級までは想像しておくってこと。
四級術師が勝利することができる最高ラインは基本的に三級までだ。「自分では勝てない」という基準で呪霊の等級付けを行う影響から二級以上の等級を指定する。二級以上のどこを指定するかは基本的に対応した術師の主観で判断するので、呪霊の等級は実際に戦うまでは判断しないほうが良いのだ。まあ自分より強い相手の実力を測るのって難しいよねって話。
今回の任務は事前情報通り一級呪霊であったので、無傷の勝利。あとは補助監督に報告して高専まで送ってもらうだけ。帰ったら何をしようかなぁ。兄様は今出張中でいないから鍛錬のお願いもできない。かといってほかの一年に鍛錬を頼んでも実力に差がありすぎて相手にならないしなぁ。スマブラでもやろ。
うんうんと悩んでいると気づいたら高専についたようで、スマブラに誘うためにほかの一年生の部屋に向かう。スマブラは一人でオンライン対戦をするとただただストレスがたまるだけだからね。
「恵も悠仁も野薔薇もいない。はぁ一人でスマブラやるかぁ。」
どうやら私以外の一年生も任務に赴いているらしい。いないものは仕方がないので諦めて寮の自室でおとなしくスマブラのオンライン対戦をすることにする。
しばらくスマブラのオンライン対戦をしてストレスをためていると補助監督の伊地知さんが私の部屋にノックもせずに駆け込んでくる。乙女の部屋にノックもせずに入ってくるのはよくないと思うよ?兄様の高専時代の後輩とじゃなかったら関節技でも仕掛けていたところだ。
「そんなに急いでどうしたの伊地知さん?」
何かしゃべろうとしているが息が整っておらずコヒュコヒュとしか声が出ていなかったため、ひとまずは水を飲ませて落ち着かせる。私もこの人がここまで焦っているところを初めて目撃したので何かやばいことが起きていることを理解する。
「はぁはぁ…………落ち着きました、ありがとうございます。」
「ほいほい。んでどうしたの?」
「虎杖君、伏黒君、釘崎さんが特級呪霊と交戦。虎杖君が時間稼ぎで残りその場から伏黒君と釘崎さんを逃がし、宿儺を開放し呪霊に対抗しているみたいです。伏黒君は状況を見届けるために現場に残りました。」
なんで特級呪霊に一年生が派遣される!?とりあえず宿儺が暴れるかもしれないし恵とか悠仁が殺されるかもしれないってことか。
「私がその現場に行けばいいんだよね!?」
「はい!西東京の英集少年院です!ご武運を!」
悠仁が宿儺を開放したのならきっと呪霊は祓われるはずだ。問題は宿儺を開放する前に悠仁が特級呪霊を足止めしたこと。その時に悠仁の精神がやられている可能性がある。もし精神がやられている状態で宿儺に変わったのなら宿儺を引っ込めるまでにかなりの時間を要してしまうだろう。そうなると多分恵は殺される。
私の第一任務は宿儺に恵を殺させないこと。第二任務は悠仁が戻ってくるまで宿儺と戦い時間を稼ぐこと。単純明快で無理難題な任務だけど今この任務を達成しうる術師は私しかいない。なら私がやるしかないし、他人に任せるつもりもない。さあ、いそごう。
「………………は?」
思わず声が漏れる。状況が理解できない。とりあえず第一任務の達成は確認できた。恵が生きていたから。台に任務の達成が不可能になっていた。その理由はもうすでに宿儺から悠仁に戻っていたからではない。
悠仁が死んでいたのだ。
恵はただただその死体を見て何かをこらえている。状況を聞かないと。何もわからない。
「どういう状況なの……?」
「……宿儺は自らの心臓を取ることで虎杖が戻ってくることがないようにした。宿儺は虎杖に自死を選択できると思っていなかったようだ。だけど虎杖は戻ってきた。その結果心臓がない虎杖は……死んだ。」
「最後に何か言ってた……?」
「長生きしろ……だそうだ。」
うつぶせになっている悠仁の死体を壁にもたれかけさせる。……笑っている。なんで笑って死ねるんだ。それで私たちが笑えると思っているのか。
長生きしろって。死ぬ奴が言う言葉かよ。本当に長生きするべき奴は私なんかじゃない。悠仁だ。悠仁は善性でで呪術師になった。私のように自己中心的な理由ではない。
怒りで視界が狭窄する。特級に一年生を派遣する上層部に。なにより、こいつらが死にかけているときに遊んでいた私自身に。私が兄様のように瞬間移動出来たら。兄様のように上層部を脅せるぐらいに強かったら。後悔と怨嗟が私の中をぐるぐる廻る。
あぁ。雨が降っていて良かった。雨粒が目に入っただけ。その雨粒が垂れたとしてもなんの違和感もないのだから。
高専に戻ってきた私は悠仁の死体を硝子さんに渡し、ただ何をするでもなく一日を過ごした。翌日、高専の社で待機しているはずの恵と野薔薇のもとに向かう。なんでわざわざ待機しているのかというと、二年生の先輩たちに呼び出されたから。たぶん交流会の人数合わせだろう。憂太先輩とか金次先輩とかの代打だろう。
もうすでに先輩たちと話していたようだ。
「お、美悟!お前も出るよな?交流会。」
話しかけてきたのは禪院真希先輩。呪術師の家系に生まれながら呪力がほとんどないという縛りの代わりに圧倒的な膂力を獲るという天与呪縛を抱えた先輩。
「出ます。私強くならなきゃいけないので。」
「おっけー。これで交流会の団体戦は貰ったな。美悟強いからなぁ。」
この人?はパンダ先輩。パンダでしかない。
「しゃけしゃけ。」
この人は狗巻棘先輩。術式の影響で語彙がおにぎりの具しかない。
「恵達は私たちが鍛えるけど、美悟はどうする?」
先輩達は強いが正直に言うなら私の方が強い。先輩達もそれを分かっているから私に選択肢を与えてくれているのだ。私がこの人たちの特訓に参加したところで得られるものは少ない。
「兄様に特訓を頼みます。」
「まあそっちのほうが良い。今憂太いないし。」
交流会まであと一ヶ月。その間に少しでも兄様との差を縮めてやる。もう誰も死なせないために。そんな決意を胸にしまい兄様を探す。
「あ!兄様!」
「ん?どうかした?」
「交流会までの一ヶ月間、私を鍛えてください!」
私はまだ順転しか使えない。これから特級術師になるためには拡張術式、反転術式、領域展開は使えなければお話にもならない。これら全てを使いこなし、現代最強の術師となった兄様に鍛錬してもらうのは当然だ。
「いいよ。僕もしばらくは仕事が少ないからね。」
悠仁。守れなくてごめんね。でも恵と野薔薇は絶対に守るから。だから、天国から見守っていてね。
後半はタイトルと内容が乖離しているけど許して。