アイを甘やかしたい   作:甘えん坊将軍

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第11話

「唐揚げする時の注意点だけど、鶏肉は食中毒を起こす可能性があるからしっかり火を通すこと。下ごしらえの時に鶏肉にフォークで刺したのも火が通り易くするためね。

 ただ火を通しすぎると身がパサパサになるから。ちょっと手間だけど2度揚げするのがおすすめ。

 このくらいのサイズだと最初に2分揚げて一度油から取り出して余熱でしっかり火を通す。大体4分くらいかな。最後に高温でカラッと揚げる」

「料理って大変なんだね……」

「料理は愛情って言うだろ。あれって別に精神論とかじゃないんだよ?

 料理って手間を掛ければ掛けるほどおいしくなる。だけど手間を掛けるのは大変。愛情があればその大変な作業も苦にならないって意味もあるんだよ」

 

自分で食べるだけだとそこまで手間を掛けたりはしない。

ただ誰かにおいしく食べてもらいたいって思えば、それなりに気合を入れて作ろうと思える。だとするならこれも愛なんだろうか?

 

「が、頑張ります」

 

そう言って揚げ物鍋に向き直るニノ。

この場に居るB小町の面々。その背中を見ながら、しかしなんでまた俺は料理教室の先生役なんてやってるんだろう?と思わずにいられなかった。

 

 

 

鏑木プロデューサーからの紹介を通して五反田監督に会いに行った。

見た目怖そうなヒゲ面で、初見じゃ取っ付き難い印象。

挨拶もそこそこに。

 

「鏑木さんからの紹介だし、面倒見てやってくれって言われてる。別に教えるのはかまやしねぇけどよ。なんでまたアイドルが?」

「隠すようなことじゃないけど……」

 

B小町の事。やろうとしてる事。

包み隠さず全て話した。

 

「はぁー。言っちゃなんだが無駄だろ。それ」

 

と一刀両断にされた。言い難い事ズバッと言うね。

だけどそれは俺も思っていることで。

ニコニコ動画やyoutubeを始めとしたネット広報をしたとしても、彼女たちが売れるとは限らない。

……いや、取り繕うのはよそう。たぶんこの人には見抜かれている。

 

「……おそらくは売れないと思ってる。彼女たちには売れるだけの武器が無い」

 

壱護さんが見出しただけあって、他のグループなら皆センターを張れるくらいには質が高い。

だがそれでも、アイでさえ運が良ければ芸能界で生き残れるかも、と言われるくらいに競争の高い世界なのが芸能界という場所だ。

売れるためには彼女たちにしかない強みを持たせる必要がある。だけどそんなものがパッと思い付くはずもなく。

 

正直に言うと俺だって人の世話を焼いている余裕がないくらいだ。

 

「じゃ、なんでまた」

「言い訳……かな。やるだけやった。だから仕方ない(・・・・・・・)って。」

 

彼女たちに。自分に。そしてなによりアイに。

諦めるにしても納得が必要なんだ。彼女たちにも必要だろう。今のままだと勝負の場にさえ立てていない。

 

「まーた……難儀なやつだな。お前さん」

「……」

「まぁいいさ。やるだけやってみたらいい」

 

何事も経験っていうしな。と。

口調も気怠そうで。気難しそうなんだけど、まあ何と言うか。根っこのところで人が良いよな。この人。

 

 

 

そんな感じで映像編集を教えて貰えることになり、そのイロハを突貫で叩きこまれた。

アイドル家業の片手間ではあるが何とか形になったライブ映像をアップする。

ライブ映像以外にもファンへのメッセージなどイメージアップに使えそうなものを継続的に上げていく。

編集作業の関係から早くても週に一本上げられればいい方なのだが。

 

MEMちょが言っていた。一度きりのバズでは効果がない。導線を確保して継続して客を呼ぶ必要があると。

まぁそもそもがバズってないんだけど。それは置いておいて。

 

色々考えながらの手探りでの広報。

MEMちょと違ってそんな経験の無いが俺1人で出来る事じゃない。

俺とアイとB小町全員で考えながらアイディアを出し合い、一つ一つ積み重ねていく。

 

 

 

……実のところ、それだけじゃない。

 

「壱護さんが手伝ってくれてる事、本当に皆に言わなくていいの?」

「……蔑ろにしてるのは事実だしな。どのツラ下げてって話だよ」

 

俺たちのやっていることは、特に隠している訳じゃない。

それどころかアイディアが実現可能か、やっていい事かの最終判断は壱護さんに委ねている。

素人判断では火傷してしまう事だってあり得る。

壱護さんは苺プロとしてのリソースを割くことはできないが、せめて知恵くらいはと。

 

「俺だって……今のままでいいと思ってるわけじゃねぇけどよ……」

 

俺が拝み倒した時、そう言って苦々しい顔で頭を搔いていた。

B小町の現状を憂いているのは壱護さんも同じ想い。

いやB小町を立ち上げたのは壱護さんなんだから、半ば諦めている俺なんかよりもその想いはずっと強いのだろう。

 

「俺たちがもっと売れて行けば、バーターに使えるかも知れないけど……」

「お前らのせいじゃねぇよ。俺の力不足だ。だからそんな顔すんなって」

 

だけど壱護さんも大概不器用だよな……。

 

 

 

Twitterもインスタもないネット全盛期とは言えない現代。

大した資金も掛けないネット広報。やれる事はそう多いとは言えない。

すぐに知名度が上がる訳でもないし、効果が出る訳でもない。そもそも効果なんて出ないかもしれない。

それでも広報作業を共にして協力し合う事で、少しずつではあるがB小町の面々との関係も改善し始めた。

自分たちの為に骨折りしてくれる相手を嫌厭出来るほど彼女たちは擦れていないという事だろう。

 

とはいえ片手間でもやっぱり手間は手間。

いつまでも掛かりきりになれるほど、俺にもそう余裕はない。本業を疎かにはできないから。

だから彼女たち自身が広報出来るようになってくれるのが一番いい。

まぁだからと言って手伝わないという訳じゃないけど。

 

彼女たちに教えながらの忙しい日々は続いていく。

 

そうして月日は流れ、久しぶりに仕事もレッスンも完全なオフ。

B小町の面々には悪いが、久しぶりのオフなのだし羽を伸ばさせてもらおう。

 

「アイ。今度のオフ、デートしようか」

「ほんと!?楽しみ~♪」

 

アイとデートしたのはどれくらいぶりだろうか。

あまり構ってやれない日も多くあり、寂しい思いをさせていたお詫びも兼ねて。その日は丸一日をデートに費やし、アイも終始ご機嫌だった。

こういう時は兄妹設定が活きる。出歩くくらいなら仲がいいで通せるからね。手を繋いだり腕を組んだりしたくはあるんだが、まぁそこは我慢。

そこで色々あってずっと延ばし延ばしになっていたアイに料理を教える約束を思い出した。

 

……それは本当にちょっとした思い付きだった。

たまたまB小町の動画撮影で使ったカメラが手元にあったから。

フリルの付いたピンクのエプロンと真新しい三角巾で髪を結ったアイのエプロン姿が可愛くて。

だから撮影した理由は100%自分のため。

 

最初は投稿しようとか考えていたわけではなかった。

動画をB小町の面々に見せたのも単純に自慢というか惚気たかっただけなんだ。

それを言いだしたのはニノだったかナベだったか。

 

「それ、投稿してみない?」

 

なんて。あれよという間に壱護さんの耳にも入りゴーサインが出た。

正直ちょっと驚いた。アイはミステリアスさも売りだと思っていたから。

まぁ危ないところは編集でカットしたんだけど。

 

苺キッチンと仮題して投稿したこれが思いのほか反響があった。

 

普段はあまり見せないアイドルの純朴な、等身大の身近な姿。

それなりの再生回数を叩き出したのはアイの魅力あってこそだろう。

……と最初は思っていたのだけど、なんだか雲行きが怪しい。

 

ニコ動のコメントを読むと

『合間合間に挟まれるネタ話が一人暮らしあるあるすぎてじわる』

『年齢詐称疑惑www』

『誰かの受け売りにしてはヤケに年季入ってるよな』

『中学生の草臥れ具合じゃない件w』

 

アイちゃん可愛いのコメントに比べて、俺に向けたコメントの方が多い。

なんでだよ!?俺が出てる部分なんて全体の2割くらいだろ。お前らもっとアイをすこれ!

という俺の主張はともかく。

 

「てかさ、壱護さん。あれ、いいの?アイドルってイメージ勝負みたいなとこあるでしょ」

「いいのも何も。だいたいお前のイメージ通りだろ」

 

俺のイメージってなんだよ(哲学)。

 

「シスコン。は、まぁ置いといて。

 お前時々世慣れした大人みたいな顔を見せるだろ。ステージ上でのお前と、そのギャップが刺さるんだよ」

 

シスコンは狙ってやってるから。

そういうものなのか。アイドルって良く分からん。

 

「それよか料理できるんなら料理番組に企画書持ってくけど、やるか?」

「俺の料理の腕なんて所詮家庭料理だけど。いいの?」

「あんだけできりゃ上等だろ」

「まぁ料理は嫌いじゃないし、やってもいいかな」

 

自分のためだけなら手を抜く。それでも時々は凝った物を作りたくなることもある。大抵すぐ飽きるけど。

 

「でもおにいちゃんてどこで料理おぼえたの?今まで料理してたとこ見たことないよね」

 

前世で。とは言えないので代わりに「禁則事項です☆」とアイの真似をしてテヘペロ顔しておいた。

 

「むぅー。誤魔化してる……」

「レシピ通り作ればいいだけだって。料理なんて化学と一緒だよ」

 

料理は芸術であり、かつ高尚な科学である。とロバート・バートンの名言が残されている。

例えば肉を構成するタンパク質は66℃以上で加熱すると急激に収縮しだす。また66℃から肉の水分も流出していき肉汁が失われていく。

そのためこの45℃から65℃までの加熱をゆっくりと時間をかけて調理する事で旨味が詰まった肉汁を流出せずに加熱する事が出来る。

と言ったようになんとなく適当にレシピ通り作るのではなく、なぜその工程を踏むのかを考えながら作ることが肝要で。

 

よくレシピ通りに作ってるのに。

と言って失敗するやつが居るが、だいたいの場合はレシピ通りに作れていないことが多い。あと目分量とかはマジでやめろ。

まぁネットに転がってるやつだとレシピそのものが間違っている場合もあるが。

 

「お前、それ出来る奴しか言えないセリフだからな」

「壱護さんも料理してみたら?」

「俺はいいよ。そういうのはミヤコに任せる」

「ミヤコさん可哀そう……。離婚調停の時には俺はミヤコさん側に立つから」

「わたしもー」

「うぉい!やめろってマジでよ……」

 

なんだかだんだん壱護さんが弄られキャラになっていってる。

最初に弄り出したの俺なんだけどね。反応が面白くって、つい。

 

「んっとにこのクソアイドルどもはよぉ……」

「まあまあ。それだけ遠慮がなくなってきてるってことで」

 

最初は他人行儀に斉藤社長。それから壱護社長。壱護さん。と呼び名が自然と変わっていた。

特に意識して変えようとした訳じゃない。いつの間にかそうなっていた。

 

「自分で言うこっちゃねぇだろ」

 

ったくよぉ。とぶちぶち言いながらもどこか嬉しそうに出て行った。

言った通り企画書でも作りに行ったのだろう。

 

その後壱護さんが取ってきた枠は料理対決の番組だった。

いや、確かに料理番組だけどさ。対決は聞いてないってばよ。

バラエティ番組だったから番組を盛り上げるのが優先。勝ち負けは二の次と言われていて。

分からないでもないけど、ちょっと不完全燃焼……。

 

おまけに小町達に負けたことを煽られたんで、その腹癒せ代わりに久しぶりの本気でエビ料理を振舞ってやった。

大ぶりのブラックタイガーを丁寧に殻と背わたを取りそれを塩と片栗粉で洗う。

塩と片栗粉で洗うのは汚れをしっかりと吸着してくれるのもさることながら、ぬめりと共に魚介類特有の臭みを取ってくれるのでお勧め。

下処理したエビをキッチンペーパーで水気をふき取り小麦粉をまぶし、たっぷりのオリーブオイルで表面を焼き火を止めた後蓋を閉めて余熱でしっかり火を通す。

味付けにお手製エビチリソースとマヨソース。エビチリソースは辛みを抑えたものとピリ辛の2種類。マヨソースは練乳を加えた甘めの味付けとシーチキンと塩コショウのツナマヨソース。

4種類のハーモニー。実にご飯に合う。スライスチーズとトマトとアボカドとレタスを一緒にパンズで挟んでバーガーにするも良し。の自慢の一品である。

 

実に大好評で。

うまうまと食べるアイにご満悦しながらB小町連中を煽り返してやった。

男に料理の腕で負けて今どんな気持ち?

いつもやられてばかりなのだ。ちょっとした意趣返し。

悔しそうにぐぬってる小町たちに、少しだけ笑ってしまった。

 

それはそれとして壱護さん。つまみにしてビール飲むのやめよ。別に酒好きって訳じゃないけど、そんな旨そうに飲まれたら飲みたくなる。中学生だから飲んじゃだめ?ですよねー。

 

「おにいちゃん、おかわり!」

「はいよ」

 

……人付き合いが煩わしいと思う気持ちが無くなった訳ではないが、たまには大人数で食卓を囲むのも悪くない。

 

事務所内の空気も良くなってきたことだし、親睦を深めようという意図があった事は否定しない。

出来る事なら、この関係が少しでも長く続いてほしい。

 

 

 

後日なぜか俺が小町達に料理を教える事に。なんで?高峯とかナベは料理できたろ。

仕返し?あっはい。

アイも入れて女6人に男は俺1人。い、いつかの悪夢再び……。と戦々恐々としながら死んだ目をした俺がいた。




唐突な飯テロ。エビ料理は>>1の得意料理や。
ブラックタイガーがお高い。普段はインド産無頭エビで代用。
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