アイを甘やかしたい   作:甘えん坊将軍

12 / 24
第12話

 

「アイちゃん。誕生日おめでとう」

「おめっとさん」

「アイ。おめでとう」

「ありがとう。みんなー」

 

ミヤコさん、壱護さん、そして俺から贈る、アイの15歳の誕生日のお祝い会。

 

「これでヒカル君と同い年だね☆」

「学年は同じなんだから変わらない気もするけど」

「ちがうのー」

 

違うらしい。

 

「それより、ね?ね?」

「はいはい。分かってるよ」

 

待ち切れないとばかりに期待する様子のアイ。

その様子に俺も笑みがこぼれる。

 

「おおっと、ちょっと待った。ヒカルはトリな。まずは俺からだ。先にやらせたら霞んじまう」

「先でも後でもどうせ霞んじゃうわよ」

「うっせうっせ」

 

じゃん。と口で効果音を口遊みながら壱護さんが取り出したのは綺麗にラッピングされたプレゼント。

 

「フルラっていうブランドのポーチだよ。中々お高いんだぜ」

「あら、壱護にしてはセンス良いわね」

「壱護さんのパソコンに『娘 プレゼント 人気』って検索履歴残ってましたけどね」

「おま、なんで知ってんだよ?!」

「カマかけただけなんだけど……」

 

去年お前らがさんざんけなしたからだろ……。と壱護さんが零す。

流石に誕生日に花束は娘に贈るものとしてはちょっと……。狙い過ぎとしか。

 

「あははっ。でも嬉しいよ♪」

「じゃぁ、今度は私。前にアイちゃんが良いって言ってたアロマオイルのセットよ」

「おお~」

「ブレンド用具も付いてるから、今度ブレンドの仕方も教えてあげるわ」

 

ミヤコさんセンス良いよね。同性だからか女性への贈り物の引き出しが多い。

去年はコスメ系で。物によって人に合う合わないがあるらしく、正直内容聞いてもチンプンカンプンだったけど。俺も去年は相談に乗ってもらったし。

 

「ヒカル君♪ヒカル君♪」

「分かってるって。でも中身は知ってるだろう」

「そうだけど。早く早く」

「ああ、おめでとう。アイ」

 

手渡したのは手の平に乗る小さな箱。

物にはあんまり頓着しないアイが珍しくおねだりしてきた。

欲しがっていたものは誕生日よりクリスマスの方がロマンチックな気がするが、クリスマスはクリスマスで欲しいものがあるとの事で。

ともあれ。それが欲しいと願われたら、彼氏としては張り切るしかないだろう。

 

アイが壊れ物を扱うようにラッピングを丁寧に解き、箱を開ける。

少しの間ぼうっとそれを見つめていて。

 

「ヒカル君。付けて」

「ええ。お姫様。お手を拝借」

 

芝居がかったそれは少し、いやかなりキザだったかもしれないが今日くらいは許されるだろう。

アイの左手、その薬指に。

シンプルなデザインにワンポイントのハートを模したルビーを嵌め込んだ指輪を。

 

「……」

 

うっとりと指輪を見つめるアイ。滅多に見ないアイの表情。それが見れただけでも張り切った甲斐があったというものだ。

 

俺はアイを最優先することを決めた。アイをカミキヒカルには会わせない。

その所為でルビーがアイの子供として生まれて来れなかったとしても。誰にも知られない。誰にも理解されない罪を背負うことになっても。

だから、アイとルビーを少しでも繋いであげたかった。無意味な感傷と言われれば否定できないけど。

 

「頼むからそれ外ではつけんなよ……」

「ええ~。ダメ?」

「当たり前だろ。んなもん付けてたら一発アウトだ」

「おにいちゃんからのプレゼント☆って言ったらだいじょぶじゃない?」

「……お前らの普段の様子だと無いって言えないのが、また」

 

壱護さんが頭抱えてる。すいませんね。

ただ俺としては付けていて欲しいとは思ってる。虫除けにもなるし。

 

「それにしても。あれ幾らぐらいしたの?」

「諭吉さんと5人ほどさよならしました」

「あらま……随分張り込んだわね」

 

中学生という年齢を考えれば破格だろう。

ただアイドルの仕事分の給料を全額管理を任されているから、出そうと思えば倍どころか十倍でも出せる。信頼されているのか放任なのかはさて置き。

普段あまり金を使わないんだよね。

どうも転生してから前世と比べて物欲が薄くなっている気がする。

施設暮らしの時にはそもそも自由になるお金自体が無かったし、アイドルになってからは漫画だのゲームだのにうつつを抜かしている暇がないから気付かなかったが。

別に漫画やゲームが嫌いになった訳ではないけど、今はそれよりレッスンしたりアイの相手をしている方が楽しいと感じてしまう。

ツクヨミが言ったように、今の俺は斉藤ヒカルであって前世の自分とは別人なのかもしれない。

 

とはいえ今後のことを考えるとお金は幾ら在っても良い。

結婚、出産、育児。今考えることではないかもだけれど、いずれは考える必要があるかもしれない。

お金で幸せは買えないけど不幸は減らせると言うし。

Google辺りの株は今後伸びる事が分かっているのだから、今後のことを考えれば余裕がある今の内に投資なんかで稼いでおくのも良いかもしれないな。

 

 

 

15歳。アイが双子を宿した歳。

この一年はこれまでよりも一層気を抜く事ができない。

なにがあってもアイを守り抜く。そう決意を新たにした夜は賑やかに更けて行った。

 

 

 

そう決意を新たにしたのは良いものの、特にトラブルに見舞われることもなく仕事は順調。

メディアへの露出もゴールデンタイムの音楽番組に出られる程になり、地方へのツアーなども積極的に行っていく。

観光する暇もない詰め詰めのスケジュールでどさ回りさせられ、学校行事など参加することも出来ない程度には忙しい。

 

指輪の件でネットで少し騒ぎになりはしたものの、アイの「おにいちゃんにおねだりしたの☆」との一言であっと言う間に鎮火した。

『知 っ て た』『アイちゃん(おにいちゃん)なら然もありなん』という好意的?な感想も多いが、中には『あっ…(察し)』『無理無理。背徳感エグイって』『インモラルすぎワロエナイ』といった否定的?な意見も散見され。

とは言え問題視されない程度には俺とアイの関係性は周知されていた。

 

 

「これ、いい感じに編集してくれ」

「了解」

 

五反田監督との付き合いは今も続いている。この人との縁を手放す気はさらさらないから。

関係としては原作アクアに近い師弟関係みたいなものか。一点違うのは役者としても使われている事くらい。

 

「お前演技の経験あるのか?」

「事務所で演技のレッスンを受けたことと、アイドルを演じてることくらいかな?」

「ああ、なるほど」

 

なんてやり取りの後エキストラに使われたのが最初の役。セリフもないモブA背景その1。

俺としてはアイの方を使って欲しいのだけど、監督曰くアイはエキストラや端役で使い辛いらしい。

なんで?と思ったが存在感が在りすぎる。と返ってきた。流石のちに主演しか出来ない女優と呼ばれるだけはある。

俺に関しては黒星モードをオフにすればモブA背景その1に早変わりだ。

本当に何なんだろうこの黒星は。オンオフ自在ってアイより使いこなしている気がする。

 

まだまだ脇役しかやらせて貰えてないが、監督からは「もっと売れっ子になったらお前が主演の映画を撮ってやるよ」と励ましの言葉が。

 

そんな五反田監督だがたまたま映画が取れるデッカイ子供って評価は本当に的を得ていると思う。付き合いが長くなればそれが良く分かる。

映画以外でも子供みたいなところがあるが、映画に関しては本当に子供だ。クリエイターとしては正しいのかもしれないが。

 

懸念していた鏑木さんからララライを紹介されることもなく。当然カミキとのエンカウントも無い。

鏑木さんは俺とアイが役者としての道に足を踏み入れたことに「五反田くんを紹介した甲斐があったよ」とホクホク顔だった。

 

光陰矢の如し。何かが起きる訳でもなく時は過ぎる。

 

あの日、ツクヨミと会ってからすでに1年以上の時が過ぎた。

あれ以来一度も会う事は無く。それどころか八咫すらも姿を見せなくなっていた。

ツクヨミの言い分からすれば、今は会う必要が無いというだけなのかもしれない。

 

 

 

「うぅ……さぶぅぃ……」

「ほんと。めっきり寒くなったな」

 

あっという間に12月に入り、今年も残すところあと僅か。

 

「ヒカル君、暖めて~」

「はいはい」

「むぅ。なんか雑じゃない?」

「そんなことないって」

 

クリスマス・イブ。恋人たちの特別な日。

前からこの日だけは仕事を入れないで。とアイの懇願もあって壱護さんが折れる形でオフになった。

クリスマスが近づくと頻りにアイがそわそわし、ミヤコさんはニコニコと。壱護さんが妙に煤けていたのが気にはなったが。あえて気にしないふりをした。

 

今までに何度もデートを重ねてきたが、デートプランは2人で決めていた。

けれど今日に限っては完全にアイのお任せで。どこか決意を秘めた瞳をしたアイの姿に、特別な何かを感じていたから。

これまでずっとアイを見てきた。常と違うアイはいつもより魅力的に見えて。

 

クリスマスはクリスマスで欲しいものがある。そう言っていたのに、当日になってもまだ教えてもらえてない。

一応誕生日に贈った指輪に合うデザインのネックレスを用意しておいたけれど。まぁ欲しいものとは別に渡せばいいか。

 

二人でショッピングをしながら色んな店を冷かして。

ムードのあるレストランでディナー。

夜も更けてくると夜空を背景にしたクリスマスのイルミネーション。

周りに人がいない訳ではないけれど、誰も俺たちに注目なんてしていない。

少し変装しているのもあるけど、それでなくても注目されないだろう。

だって誰もが自分たちの恋人に夢中なのだから。

 

 

「変な事言うけど、笑わないでね」

 

幻想的な空間で俺とアイの二人。アイはそう言って口火を切った。

 

「いつからだったかな、夢を見るようになったの。不思議な夢」

「どんな夢なんだ」

「私じゃない私のことを見る夢。たった一つのことしか違わないのに、何もかも違う。すごく不思議な夢」

 

アイの横顔は思いつめたような、張り詰めた表情。

 

「ヒカル君が、居ないの。ヒカル君と出会わなかった、私じゃない私の夢」

 

そう語り出したアイの夢の話。それは斉藤アイにならなかった星野アイ(・・・・)の夢。

衝撃的で、でもどこかで納得できた。転生者に神様が実在する世界なんだ。あり得ないなんてあり得ない。

 

「その私はずっと一人。一人ぼっち」

 

「壱護さんにスカウトされてアイドルになったけど、やっぱり一人。ミヤコさんも、壱護さんも。家族にならない」

 

「ヒカル君がいないから、その私はB小町なんだよ」

 

「でも、ぜんぜん上手くいかなくて。ファンの前でだけ仲良しって嘘ついてる」

 

「その私がなにを思って、なにを感じてるのかは分からないの。ただ、私だったらって想像するだけ」

 

アイの手がぎゅっと繋ぐ力が強くなる。

 

「だから余計に怖くなる。怖くなって、目が覚めるとヒカル君を探しちゃう」

「それでか。朝になると抱き着いてきてたの」

「……うん」

 

一時期朝に会うとアイに抱き着かれていたことがあった。

只ならぬ様子に訳を聞いても怖い夢を見たとだけ。少しの間抱き締めているといつものアイに戻っていたから。3日か4日くらいでそれも無くなったから。あまり深くは考えなくなったけれど。

 

「それから、その私もヒカル君に会うの。おんなじ名前のヒカル君。顔とか結構似てるんだけど、でも別人」

 

「ヒカル君は大きくて、あったかくて、安心する。その子はとても小さくて、今にも壊れてしまいそう」

 

「その私が、その子をどう思ってたのかは分かんない。でも、大切に想ってるんだなって、なんとなくだけど、そう思ったの」

 

「でね、いきなり場面が飛んだの。次の場面じゃその私は妊娠してたんだよ。なんで?って感じ」

 

「きっとその私は私に見せたくなかったんだと思う。ヒカル君だけど、私のヒカル君じゃないから」

 

星野アイにとってカミキヒカルと出会ったことは不幸だったのだろうか……。きっと、そんなことはない。

カミキヒカルと会わせないようにしていたのは、もしかしたらただの醜い独占欲だったんじゃないだろうか。

 

「生まれてきた子供はね。男の子と女の子の二人。男の子がアクアマリンで女の子がルビ―。良い名前だね。さすが私」

 

「それからはね。その私は子供たちの事人生で一番真剣に考えてた。ずっとずっと子供たちの事を考えてた。大変だけどすごく幸せだったと思う。やっと一人じゃなくなった」

 

「なのにね。そんな幸せな時にファンに刺されて、血がどばーって出てて。すごい急展開。妊娠してた時よりびっくりした」

 

「なんで?ひどいよ。こんな終わり方あんまりだよって」

 

「でもね。子供たちにちゃんと伝えられたんだ。愛してるって」

 

「その私が死んじゃったのはとても悲しいけど、ちゃんと愛せたのは、すごいなって思うんだ」

 

星野アイを語るアイは誇らしげで。

若くして亡くなったことは悲しいことだけど、カミキヒカルと出会ったことは、子供たちの母親になったことは星野アイにとっては決して不幸なんかじゃなかった。幸せなことだった。

 

「なぁアイ。もしも人生をやり直せるとしたら……、そのアイになりたいか?」

 

俺はアイを救いたいと思った。アイに幸せになってほしいと思った。

でもそれは俺が考えた救いで、俺が考えた幸せ。それはアイが望む幸せとは違うのではないか。

 

「嫌。絶対に嫌」

「……即答だな」

「だってヒカル君がいないもん。そんなの嫌」

「居たじゃないか。ヒカル」

「違うよ。あの子はヒカル君じゃない。私のヒカル君はあなただけ」

 

 

「あのね。最後に、その私が私に言ったの。

 

 私は言えなかったから。大切なこと。本当に言いたかった人に言えなかった。だから、あなたは後悔しないように、ちゃんと言ってあげてって。

 

 そう……言ってくれた」

 

 

私が見ていたように、その私も私を見ていたのだと。そうアイは語る。

俺を見るアイの瞳が薄っすらと涙で潤み、切なげに揺れて

 

「ヒカル君―――

 

 

愛してる

 

 

 

とても重く。万感の思いの込められた言葉だった。

 

「……良かったぁ。嘘じゃない……」

 

泣き笑いのアイ。言葉に出来ない想いまで一緒に伝わってくる。

まっすぐに見詰められて、気恥しさと嬉しさが募る。アイが俺を選んでくれたことで心が軽くなった。

 

「聞かせて。ヒカル君の気持ち」

 

「……アイに初めて会って最初に思ったのは、ほっとけないだった」

 

どこか昔の自分を思い出させるアイにかつての自分を重ねていた。

 

「少しずつアイとの時間を重ねて、幸せになってほしいと思うようになった」

 

それはアイの行く末を知るが故の同情でもあり、俺の身勝手な願望だった。

 

「アイの輝きを間近で見て、俺なんかじゃアイに相応しくないなんて思い込んで」

 

余りにも強い輝きに、自分が惨めに思えたから。隣に立てないなんて決めつけて、アイを守ることをアイの近くに居られる免罪符にしようとしていた。

 

「アイを愛したい。そう思えたからアイに相応しくなりたいと思った」

 

ツクヨミに会って、望む未来に手を伸ばせば良いと諭されて。アイの隣に立ちたいと思えた。

 

「アイに幸せになってほしいと願うだけじゃなくなった」

 

今まで誰にも抱いた事がない想い。前世の俺は最初から間違えていたんだ。

愛してみたいという結果だけを求めていて、一度だって誰かの幸せを願ったことなんて無かった。

 

「俺がアイを幸せにしたい」

 

きっと誰かの幸せを願う事が俺にとっての愛するという事のスタートラインだった。

 

「今なら、はっきり言える。愛してる」

 

……もう言葉はいらない。ただ唇を重ねていた。

 

 

どれくらいの時間そうしていたのだろうか。耳が痛くなるほど寒い夜なのに、心は温かい。

 

 

「そうだ。アイ、クリスマスのプレゼント。開けてみて」

 

誕生日に贈ったルビー(・・・)の指輪に合うデザインのアクアマリン(・・・・・・)のネックレス。

 

「アクアと……ルビー……。ヒカル君も、あの夢を見たの?」

「夢とはちょっとちがうけど、知ってたよ」

「そっか。……ねぇ、ヒカル君」

「なに?」

「欲しいものがあるの。ネックレスは嬉しかったけど、他に欲しいの」

「いいよ。アイが欲しいもの。何でも言って」

「じゃ行こ?」

「行くってどこに?もう10時過ぎてるぞ。どこも、もう店なんてやってないだろ」

「いいから。行こ」

 

アイに手を引かれて。二人で歩きだす。

上機嫌なアイの楽しそうな鼻歌を聞きながら。まぁいいかと思えてしまう。

 

「あった。ここだね」

「どこだよ。ここ……」

 

アイと二人で10分くらい歩いて、辿り着いたのは一見すると雑居ビルが立ち並んだ一角。

 

「えーと、Hの3-2。H、H、あっちのビルだね」

 

もう何が何だか分からない。こんなところに何があるんだ?

またもやアイに手を引かれながらビルの階段を上がり3階へ。2番目のドアを、アイが誕生日に壱護さんからプレゼントされたポーチから取り出したカギで無造作に開けて。

 

「ちょっと待て。アイ。なんでこんなところのカギを持ってるんだ?」

「いいから。入って入って」

 

背中を押されながら入ったビルの一室。真っ暗な部屋の電気をつけると、中はホテルのような内装。

 

「なんだかすごい嫌な予感がする」

 

まるで飢えたライオンの檻の中に足を踏み入れた様な。まさかそんな。

背後で小さな物音が。

 

「……アイ。今なんでカギ閉めてチェーン掛けたんだ?」

「もちろん。逃げないように」

「……誰が」

「ヒカル君が」

 

見惚れてしまう程、可憐な笑顔のアイ。

なのにどうしてこんなにも底冷えするような気配を感じるのか。

 

「ヒカル君。えっちしよ」

「まてまてまて……。待ってくれ。どうしてそうなった」

「あの夢の中でね、私が言ってたの。15歳、私が君たちを宿した年って。だから今妊娠したら、アクアとルビ―に逢えるかもって思ったの」

「いや、待て。その理屈はおかしい。その夢のヒカルと俺は別人だ。父親が違うなら同じ子供が生まれる筈がない」

「そうかもね。でもね、ヒカル君となら逢える気がするの。そう思ったら止まらなくなった」

「それにだ。今妊娠なんてしたらミヤコさんと壱護さんが」

「それは大丈夫」

「は?大丈夫って何が?」

「ミヤコさんには協力してもらったの。壱護さんは説得した」

「……あの二人もグルか」

 

考えてみれば俺でさえ知らないこんな場所をアイが知っていることがそもそもおかしい。

出掛ける前に壱護さんが妙に煤けていたのを不審に思ってはいたが、これが理由だったか。

外堀が完全に埋められている。

 

「アイドルとしての幸せと、母としての幸せ。それから女の子としての幸せ。全部欲しい。どれが欠けても嫌」

「……アイは欲張りだな」

「そうだよ。私は欲張りなの」

 

ああ、それでも。それでこそアイだ。

アイの眼は強い目だ。星の光は見えないのに燦燦と輝いている。

 

「まいった。降参」

 

困った。ちょっと勝てない。

俺も色々覚悟を決める必要があるんだろう。

けど、それはつまりそういうこと。




何度アイエミュレートしてみてもアイが自分からその言葉を口に出来るとは思えなかった。
死に際というきっかけが在ってようやく口に出来た愛してるをそうでないシーンで言えるものだろうかと。それぐらいアニメ1話のあのシーンのインパクトが強い。

幼少期に嘘の仮面を叩き壊して、本音を言うハードルを下げたとしても、そんな程度で口に出来るとは思えず納得も出来なかった。

だから逆にアイがその言葉を言えるならどんな状況だろうかを考えた。
考え付いたのが、愛してると言えた星野アイを追体験すること。星野アイがアイの背中を押すこと。これが最もアイに勇気を与えられるんじゃないかと。

最初は原作アイ救済物のはずが、別時間軸というか原作アイとは別のアイになってしまった。
というのも8話で書いた通り、原作アイはカミキヒカルを許すのではないかと思えて仕方ないのです。
原作116話でのフリルのセリフにある「アイ役がどういう演技をするかに懸かっている」というセリフから。そしてゴロサリばれのツクヨミの「悪手だよ」のセリフ。
アイ役を務めるのはルビー。ルビーにとってカミキヒカルはアイの仇であると同時に雨宮吾郎の仇でもありました。
ルビーが映画を通じてアイを理解していき、アイがカミキヒカルを許したとしても、雨宮吾郎の仇のままであればルビーはカミキヒカルを許す事は無いでしょう。
しかしゴロサリばれしたことでルビーにとって雨宮吾郎の仇という認識から外れてしまう。
アイが。そしてルビーがカミキヒカルを許す土壌がちゃくちゃくと出来上がってしまっている。これがツクヨミの悪手と評した理由なのではないかと。アクアが復讐だけを考えるなら間違いなく悪手になる。
他のも理由はあるのですが、長くなるので割愛。全部書いてたら書ききれないので。

ともあれ。原作アイの救済は、カミキヒカルを許すと思う原作アイが望むものとは違うように思えてしまい断念。
並行世界のアイというか、アイの一つの可能性。といった位置づけにする意味も込めて原作アイが拙作アイの背中を押す形に。

>>女の子としての幸せ
原作では求めていなかったのか、口にしなかった。
でもこれを一番言わせたかった。原作アイよりもっと欲張りなアイ。もっともっと欲張ってもええんやで。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。