アイを甘やかしたい   作:甘えん坊将軍

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半年以上の間が空いてしまい申し訳ありません。
少しずつですが次回作の方を書いていました。この度お蔵入りが確定しましたが。
詳しくはあとがきにて。





後日談 特にタイトルが思いつかない繋ぎ回

 

 

 

 

「……長かった。やっと……やっと……」

 

目の前に鎮座するものの前で、アクアは震える声で歓喜に打ち震えた。

 

「……おむつから解放される」

 

幼児用便座と登りやすいように手摺のついた補助階段を取り付けられたトイレの前で。

非常にシュールな光景だが本人は至って真面目。

成人男性の精神を持つアクアにとって、おむつ着用は堪え難いものがあった。

 

「父さんもそうだったから気持ちは分かるんだけど……でもアクア。ごめんね。まだしばらくはおむつ継続だよ。ミヤコさんたち、ちょっと早いんじゃない?って心配そうにしてたから」

 

ヒカルの宣言にアクアは無言で天を仰ぐ。

その眦に溜まったものをヒカルが見なかった事にしたのは優しさか、それとも罪悪感故か。

 

転生の事を知らないミヤコや壱護に怪しまれない様にと、トイレトレーニングと称して早い時期からおまるに跨る様を見せてはいた。

しかしミヤコたちの心配も仕方ないことだと言えよう。年齢的に。幼児だから。まだ2歳なのだから。

 

「でもほら、ちゃんと一人でトイレに行けるって分かればミヤコさんたちも安心するだろうしさ。もうちょっとの辛抱だよ」

「……そうだね。自分でトイレに行ける様になった事だし、一歩前進。それに時期的にそろそろ授乳を卒業してもおかしくない頃合い」

「……そんなに嫌がらなくてもいいのに」

 

転生者の三大試練も徐々に終わりに近づいている。そう思えば、アクアの表情も少し明るくなる。

アイはそんなアクアと対照的に少しだけ不服そうな表情。

ルビーがアイに似ているという事は、アイはルビーに似ているという事でもある。

その不服そうな表情はルビーのそれとそっくりだった。

 

結局アクアへの授乳は両手で数える程度の回数であり、アイの涙目攻勢*1も最早アクアに通じなくなっている。

それだけの回数で留めたアクアを褒めるべきか、あの手この手でアクアに授乳させたアイを褒めるべきかは判断が分かれる。

 

「……嫌じゃないけど、普通に恥ずかしい」

「お兄ちゃん。お母さんのおっぱい吸えるのは今だけなんだよ?今後一生味わえないんだよ?」

「僕はルビーと違ってそこまで突き抜けてないから」

 

一方のルビーは三大試練もなんのその。

「おっぱい吸うのは娘の私の当然の権利」とのたまう。

授乳というより単にアイの胸に吸い付くことが目的のように思えるのはきっと気のせいだろう。たぶん。

またアイと一緒にお風呂に入ることは毎日の楽しみの一つ。

割と大きなダメージを負っているアクアと比べてルビーは転生ライフをこの上なく満喫していた。

 

 

アクアとルビー。二人は2歳の誕生日を迎え、人前で立って歩いたり喋ったりしても怪しまれない程度には成長し、活動範囲も少しずつではあるが広がっていた。

 

 

 

 

そんなある日の出来事。

全員で揃って夕食を終え、皆でのんびりと過ごす憩いのひと時。

夫婦でソファに並んで座り、アクアもルビーもそんな二人に寄り添う。

一家4人でも十分に広いと言えるリビングでの密集率が高い家族であった。

 

そんな憩いのひと時は穏やかながらもあっという間に過ぎていく。

気が付けば時刻は9時を回り、子供たちは睡魔に誘われて微睡みに落ちていく。

 

子供たちを寝かし付ければやってくるのは夫婦の時間。

それはゆったりと寄り添うだけの時もあれば、互いを求めあう時もある。舐めるようにお酒を嗜む事もあれば、映画や音楽の趣味に興じる事もある。

結局イチャイチャしている事に変わりはないって?それはそう。

 

今日はというと、雑談に耽るようである。

 

 

「ついにB小町も解散か。寂しいなぁ……」

「仕方ないよ。アイ。ナベなんか四捨五入すれば30歳とか自虐してたし」

 

始まりがあればいつかは終わりがやって来る。

B小町。発足から12年の時を経て、その活動の幕を閉じようとしていた。

月日というのは誰に対しても平等に。残酷かつ無慈悲。

 

始まりは中学生モデルという幼いと言えるグループでも、12も年齢を重ねればそろそろお肌の調子も曲がり角。

 

「皆もいい加減アイドル名乗るのキツイって零してたからね……」

 

本来であればアイが加入し、メンバー関係を複雑骨折させながらドーム公演までスターダムに駆け上がるアイドルグループ。

しかしヒカルの存在によって彼女たちは本来の道筋を外れることとなる。

 

その道のりは決して順風満帆とは言い難い。

人気の低迷。アイドルの群雄割拠と言えるほどに飽和した時代に頭角を現すのは並大抵の事ではない。

その歩みは牛歩と呼べるほどに鈍く、自分たちは足踏みをして前に進んでいないと錯覚させるほど遅々としていた。

 

しかし牛歩の歩みながらも、堅実に。着実に。一歩一歩を踏みしめるように。その歩みは確かな足跡を残していた。

 

 

「ラストライブは武道館かー。チケット取れると良いな」

「なんだったら壱護さんに用意してもらう?」

「ダメダメ。自分で取らなきゃファンとは言えないもん」

 

そう言いながらもアイはチケットが手に入らなかった時には関係者席に座る気満々だったりする。

 

 

本来であればB小町メンバーの一員であったアイとの関係もまた、違う様相を呈していた。

同一グループであれば常に比較され、後塵を拝し続ける事で拭いきれない劣等感を植え付けられて、アイとの関係は険悪なものとなっていた。

 

しかし同事務所所属でありながら別グループという、近すぎず、けれど遠すぎない立ち位置。

その間にヒカルという緩衝材が置かれたことで、親密とは言えないまでも良好な関係と呼べる程度には収まっていた。

 

「またオタ芸しちゃおう。今度はアクアとルビーも一緒に。きっと楽しいよ」

「いや、アイ。ダメだからね?さすがにラストライブを台無しにしたら、皆今度こそ本当に怒るよ」

 

名案だ。とばかりに目を輝かせるアイに「アクアとルビーと一緒にオタ芸ってのは、ちょっと心惹かれるけど……」と零しながらも、今度こそ本当にシャレじゃ済まなくなると思い、ヒカルはアイを止める側に回る。

 

「だめ?」

「……だめ」

「……ちぇー」

 

小首を傾げるあざといポーズに心を揺さぶられるも、すんでの所で踏み止まる。

 

 

「……解散したら、皆どうするのかな?」

「どうだろうな……。皆も、あんまりそういう話したがらないから」

 

自然と二人とも声のトーンがしんみりとしてしまう。

 

B小町はアイドルグループとしては間違いなく成功したと言っていいだろう。

ある種の到達点と言えるドームほどではないが、武道館とて並大抵の業績ではない。

もう誰も彼女たちを地下アイドルとは呼ばないだろう。

 

しかし、そんな成功したアイドルグループにさえ芸能界の壁は高く険しい。

グループ全体での仕事は兎も角、個人個人が得られる仕事は決して多くはなかった。

 

そして時を重ねることでグループ全体の仕事にも陰りが見え始めた。

 

その厳しい現実は彼女たちに一つの岐路を突き付けた。

すなわち、「それでも芸能界に残る」か、「芸能界から去る」か。

グループの解散は、その選択の結果だった。

 

 

「ああ、でもナベは苺プロ(うち)で就職するかも。動画編集とかのスキル持ってるし。ネットタレント部門の人たち熱心に誘ってたから」

「……そうだといいな。今度私も誘ってみよっ」

 

少しでも明るく。弾むように。

私が復帰した時にまた一緒に仕事できたら良いな。と、アイはそんな未来を思い浮かべ誘い文句を考える。

 

「それと高峯は解散決まった時「やっと彼と結婚できる」って零してたから、結婚するんじゃないのかな」

「たかみー結婚するんだ。結婚式はいつごろ?」

「まだ決まってないんじゃない?何も聞いてないし。公演終わって解散してからになるだろうから」

「……呼ばれない。とか、ないよね?」

「……さすがにそれは無いと思う。でも仕事上では兎も角プライベートでの付き合い薄いから……。友人枠じゃなくて同僚枠?」

「……そんなぁ」

「アイは妊娠してからは特に会ってないしね……。」

 

元々親密と呼べるほどの深い関係ではない上に、休業して妊娠・出産・子育てと忙しい日々を過ごしている。

ここ数年は顔を合わせるのも年に数回という状態だった。

これにはアイもしょんぼりと意気消沈した様子を隠せない。

 

 

「……そう言えばさ、B小町が解散するって事はアイドル部門からっぽになるよね?どうするの?畳んじゃうの?」

「あれ?アイ、壱護さんから聞いてないの?」

「何を?」

「ええと、ちょっと待って」

 

ポケットから取り出したスマホを手早く操作し、

 

「ほら。これ」

「『明日のアイドルは君だ!』。アイドルオーディション?」

 

スマホに表示されていたのは苺プロのホームページ。

アイドルオーディションと銘打たれたそのページは、大々的に謡い文句を飾られている。

凡そ16歳前後の、本格的に売れ始めた時期のヒカルとアイを中心にB小町メンバーを加えた苺プロオールスターの写真は、『自分もこうなれる』『こうなりたい』と、見る者を惹きつける魅力を備えていた。

 

「まだ募集始まったばっかりだけどね。俺たちの後輩って事になるかな。

 アイも言ったようにアイドル部門が空っぽになっちゃうから。壱護さん、「やっぱりうちはアイドル推してなんぼだ!」だって」

「へー。後輩かー。いいね、楽しみ♪」

 

別れがあれば出会いもまた。

まだ見ぬ後輩たちへの期待から自然と声が弾む。

 

「むぅ……。でも壱護さんめ、どうして教えてくれないのー」

「さぁ。なんでだろ?」

 

特に口止めされていたりするわけでもない。

アイに教えていない理由が思いつかず、ヒカルも首を傾げるしかない。

 

休業中のアイには直接の関係が無いこともあって、ただ単純に言い忘れていただけだったのだが。

後日問い質したら「ん?言ってなかったっけ?」との返答が返ってくる。そのことにアイがへそを曲げ、再びアクアとルビーを抱っこするのを禁止にする。

ミヤコ同様に双子の事を割とダダ甘に可愛がっている壱護にとってはこれが一番ダメージが大きい仕返しだった。

 

 

「どんな子たちが来るかな?」

「一応募集要項は15歳から20歳まで。それ以外は特に決まってないみたい。そもそもどれくらい応募が来るか分かってないしね。

 ……出来れば男の子もそれなりに来てほしいんだけどね。女性比率高いんだよね、うち。ぴえヨンさんが癒し枠だぞ」

 

「オーディションて、これどんなことするの?」

「一次が書類審査で二次がアピールタイム込みの面接。三次審査は人数次第じゃ変更もあるとか言ってたかな。

 て言っても実際の審査って俺も見た事ないんだけど。言ったら見学させて貰えないかな?」

「あ、私も見てみたい」

 

オーディションに。後輩に。話題は尽きることなく、ゆっくりと夜は更けていく。

 

 

 

【推しの子】、B小町と立て続けに成功へと導いた事で苺プロは芸能事務所としては大手と名乗りを上げられる程度には知れ渡っていた。

まだまだ規模は小さいとはいえ、製造、流通、販売と事業を拡げ始めている。

そんな苺プロがアイドルを募集するとなれば、「それなりの応募は来るだろう」と準備はしていたのだが、それでもその見積もりは甘かったと言わざるを得ず、想定の数倍は応募が殺到することになり、スタッフ総出ででも修羅場ることとなる。

 

実はそのオーディションにはMEMちょが応募していたりするのだが、ヒカルはその事に気付いていない。

MEMちょとは名乗っておらず、髪も染めていない。さらにはそもそも彼女の本名を知らないのだから気付けという方が酷といえよう。

彼女がMEMである事に気付くのはもっとずっと後のこと。

 

そして本題ともいうべきMEMの母親についてだが……ヒカルは一切関わっていない。

というより関わる必要すらなく、気が付いた時には事はとっくに終わっていた。

 

ナレ救済とか雑にも程があるが、ヒカルは関わっていないのだからどうしようもない。

本当に一切合切蚊帳の外で、それでいいのだろうかこの主人公とか言わないであげよう。

 

 

事はアイドルオーディションの最終選考後。一連の審査が終わり契約の段階でのこと。

アイドルとして活動するには専属契約書に署名捺印する必要があるのだが、まだ未成年の彼女は当然保護者同伴。

保護者説明も兼ねたその場にて化粧で誤魔化していたものの、それでも顔色の悪さを隠しきれなかったのをミヤコが見咎めた。MEMがサバ読んでいたことを一目で看破した観察眼は伊達ではないのだ。

そのためミヤコは半ば無理矢理に近い形で病院への健診を勧め。結果過労と診断される。

 

今のところ命に別状はないが今後も無理を重ねれば突然死もあり得ると宣告され、当然のごとくMEMはアイドルを辞退しようとし、母親はそんなMEMに夢を追うように説得する。

すったもんだの末に解決策を提示したのは一連の人情噺にすっかり絆された、なんだかんだとお人好しな聖人ミヤえもんである。

アイドル稼業の傍ら苺プロで働かないかと提案。壱護を説き伏せて陰に日向にサポートに奔走するミヤコの姿に恩義と感銘を受け、MEMは以降ミヤコを慕うようになったとか。

 

 

ミヤコがそれほどまで献身的にMEMに接していたのは理由がある。

MEMを見出したのはミヤコだった。書類に、面接に、今回のオーディションにおいてMEMの審査の全てに関わった。それはただの偶然であったが、見出されたのは必然。自分に振り分けられた何千人分の応募の中からこれはと思う者を見出した。

 

今回のオーディションを通して、ミヤコに一つの夢が生まれた。

 

 

斉藤壱護が叶えた夢。ドームをサイリウムの光で染め上げる。

その光景をもう一度見てみたい。今度は自分がプロデュースしたアイドルと。

 

 

無論簡単な事ではないと理解している。

不世出の才を持つ二人ですら8年も掛かった。ずっと二人を傍らで見続けてきた。

宝くじで一等を引き当てるよりもなお低い確率かもしれない。斉藤壱護が叶えた夢はそんな奇跡のような出会いが紡いだ夢だ。簡単なはずがない。

 

それでも。夢は見なければ始まらない。

 

 

その夢はまだ一歩を踏み出したばかり。

その夢の行く先は、まだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

*1
嘘泣き。









先日154話でカミキとアイの過去とDVDの内容が判明しました。
次回作はカミキの過去とDVDの内容が明かされてから描こうと思っていたんですが、我慢出来ずにちょこちょこ書いていました。
だってまさか半年以上DVDの内容オアズケされるとか思わないですし。アイ甘の方も描いてはいたんですが、この半年間比率的にはそっちがメイン。


明かされたカミキヒカルの過去も思った以上にお労しい。
カミキヒカルの漢字って光じゃなくて輝かよ……。
姫川ニキの大輝って名前、カミキヒカルから来てたのエグすぎて草枯れる……。

そして一番問題なのがカミキにアイを殺害するつもりが無くリョースケの暴走だったというオチと、アイがカミキに対して明確に特別な感情を抱いていたこと。
この二つがもうね、致命的。特に後者。アイがカミキヒカルを許すというのは予想していましたが……。
次回作の構想が修復不可能なレベルで盛大にぶっ壊れた……。

原作の展開によってプロット壊れる。二次創作あるあるです。
ちょっと気持ちが途切れてしまった事もあり、次回作は一旦筆を置くことにします。
まだ公開もしてないのでダメージは小さいですし。

こっちの拙作アイはカミキヒカルとは逢ってないから。原作アイとは別人だから。ギリセーフ(震え声)


154話は賛否両論でしょう。全体的に否が多い印象。
私も色々と思う所のある回でした。別れる際のセリフが酷いとか、時系列おかしいとか、過去描写との整合性とか。多々あります。
ですが個人的には良かったと思います。

アイはやはり「人並みに恋をする普通の女の子」なのだと分かりましたから。

判明した内容に合わせて12話の内容を少し変更します。ほとんど間違い探しレベルの変更ですが。
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