アイを甘やかしたい   作:甘えん坊将軍

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第5話

 

蛍光灯の明かりに照らされてコンビニで買ったメロンパンを千切り、手の平に乗せて差し出すとカァと鳴き声を上げて器用に食べる一羽のカラス。

手の平に乗せたパンを手を傷つけない様に啄ばむとか普通のカラスじゃないだろ。お前。

 

「なぁ八咫。いい加減お前のご主人様あたりに逢わせてくれないか」

 

そう言うと、ついっとそっぽを向くカラス。

 

「お前絶対俺の言葉分かってるだろ……」

 

ここ苺プロのビルの屋上でこのカラスに出会ってから、かなりの月日が流れた。

例のカラス幼女の事もあり、逃げも鳴きもせずにジッと此方を見つめるカラスなんて怪しすぎる。と思い話しかけたのが始まりだ。

日本でカラスの神様といったら八咫烏だろうと安直に八咫と呼び始めたらこいつも返事をするようになった。

 

色々と考えなくてはならない事が多い。

目下の急務はアイ殺害の黒幕と目されるカミキヒカルに実行犯のリョースケこと貝原涼介か。

ただカミキが黒幕ってのもミスリード臭いんだよな……。と思いながらもミスリードと確定している訳ではないし、危険な事には変わりがないのでアイに会わせるのは躊躇われる。

ただアクアとルビーの事を考えると胃の辺りが重くなるが。

俺を転生させた超常存在がカラス幼女なのか、それとも別の存在なのか。またその思惑次第で対処も変わる。

 

その辺りのカギを握るであろうカラス幼女の思惑が分かれば打開策も見えてきそうなものだが。今以ってカラス幼女との邂逅は果たせていない。

 

つらつらと考え事をしていると突然カラスが翼を広げて飛び立った。

数秒もしないうちに屋上の扉が開く。

あいつ、俺が一人でいる時にしか近寄ってこないんだよな。ほんと隠す気ないだろ。

 

「お疲れです。社長」

「おう。ヒカル。こんなとこで何してんだ?」

「ちょっとボーっと考え事を」

「うん? アイはどうした?」

「Bコマメンバーに攫われました」

「ふうん。お前は行かなくていいのか?」

「女6人の中に俺1人で行けと?」

「ああ。うん。そうだな。悪かった」

 

斉藤社長と二人。

カラスの食い残しのメロンパンを齧りながらビルの屋上で落下防止のフェンスを背中に雑談に興じる。

 

「そろそろお前たちがデビューして一年か」

「……そうですね」

 

デビューから1年。俺とアイがスカウトされたあの日から1年と約2カ月が過ぎようとしていた。

あの日以降激動といっていいほど俺の日常は様変わりした。

 

あの日、俺がデビュー?と困惑している中。斉藤社長が「俺にいい考えがある!」とぶちまけたのが、俺とアイの二人でアイドルユニット組んでデビューとの事だった。

 

なんでだよ!まるで意味が分からんぞ!と脳内は完全にパニック状態。

 

俺がアイドルとか無理無理。そもそも売れる訳ねーべ。何言ってんだこいつ。とガチ素の状態で当然お断りした。

が、斉藤社長のそれを真に受けたのがアイだ。

俺としてはアイと別れる気なんぞ1ミクロン足りとも無かったんだが、俺の本気の演技はアイすらも騙してしまっていたらしい。マジかよ。と戦慄した。

そんなアイにとって「アイドルになっても俺と別れる必要がない」「俺と一緒にアイドルになれる」というのは福音に近いものだったようで。

斉藤社長だけならまだ固辞できたかもしれないが、アイとタッグを組まれて勝てる訳もなく。

 

アイがB小町に加入しない事態に推しの子のストーリーが破綻してる。と頭を抱えた。

最終的には一年間の区切りで売れなかったらアイをB小町に加えることを条件にデビューすることに同意した。

ただこの時には天童寺さりなの事が完全に頭から抜けていたことに気付いてさえいなかったんだが。

 

僅か2カ月というレッスン期間を胃の痛みとこんがらがった頭で我武者羅に励み初ライブでデビュー。【推しの子】というユニット名で。

これに関しては俺じゃなくアイが提言し頑として譲らなかった。

あの時、アイがアイドルになると決心した日の出来事が決め手になってしまったそう。ことの発端が俺なのは変わらないか。

もうこうなったら毒を食らわば皿までと【】を付けさせた。

その事に「ヒカル君のこだわるポイントが分かんない」とのコメントが。

普通は分からないよな。理解が及ぶのは俺と同じ転生者くらいだろう。もし俺以外の転生者がいるなら目印になるかもなと思っての事だ。

今以って見たことないし、接触された事は無いが。

 

デビューライブは今にして見返してみると学芸会以下と酷評されても仕方ない出来だろう。

無我夢中でライブを乗り切ったが、たかが2カ月程度の付け焼刃。ダンスは振り付けを間違えてるし、歌は音程を外している。踊りながら歌うというのは想像よりずっと難しい。

社長が言うには「今の内に失敗を経験しろ。失敗しない人間なんぞいない。ミスった時どうリカバリーするかを学べ」との事で。上出来な方だと。

転生者であっても芸能なんて無縁の世界で生きてきたんだ。足を引っ張らないだけで精一杯だよ。

 

しかし俺が思っているよりも遥かに順調そのもので。

ほぼ同時期にデビューしたB小町と売上などを数字で比較されると明確にそれが分かる。

殆どがアイのお陰だと思っていたが、数字だけで見るなら俺はアイと割と拮抗している。

ホントかよ。これ数字いじってない?俺のグッズとか誰が買ってるんだよ。信じられねぇ。なんて当時は思っていた。

 

どうも俺が思っているよりもこの黒星の眼は芸能界という舞台では武器になるようだ。この黒星の眼は人目を惹きやすく記憶に残りやすい。もちろんそれだけで戦えるほど温い世界ではないが、一つでも武器があるというのは安心感がある。

とは言ってもアイを純金とするなら俺は精々金メッキが関の山。黒星のブースト無しでは儘ならないのだから調子に乗れるものではない。薄いメッキが浮き彫りになるだけだ。

 

毎日毎日リハやレッスンに追われてイベントやライブを繰り返す日常も半年も経てばいやでも慣れる。

少し余裕が出来れば周囲に気を配ることも出来るようになり、この頃からB小町メンバーとの交流も増え始めた。同事務所だからこれまでも仕事上の付き合いはあったけど。

アイのいないB小町は中学生の寄り合い所帯といった印象で、メンバー関係が複雑骨折してはいないようだった。もちろん衝突しない訳ではないだろうが、いい意味でも悪い意味でも中学生の範疇。

アイへの嫉妬は……どうなのだろう。これからそうなるのかもしれないが、現時点では目に見えるものではない。今日も女子会なるサバトにアイを誘っていった辺りそう悪くはないんじゃないだろうか。

実は最初の頃に誘われてホイホイついていった事が一度だけある。

女3つで姦しい。そして女で男を挟んだ『嫐』という字がなぶると読む意味を魂で理解した。なら姦男姦となったら?

……忘れよう。思い出したくない。

 

そうこうしている内に月日は流れ。何度目かのB小町と合同のライブイベント。

それでも500人規模の箱が満杯だったと社長が嬉しそうに語っていたのを覚えている。弱小事務所の地下アイドルデビュー一年生にとっては快挙といっていいのだとか。

そんな事言われると、これ妖しげな神様辺りがテコ入れしてないか?と勘繰ってしまう。

 

俺たちはトークを挟んでも30分程度の短い持ち時間。やること自体は変わらない。ライブは恙なく終わる。

問題はライブ後の物販チェキ会握手会。そこで全く予想もしていない不意打ちの遭遇をした。

彼女に、天童寺さりなに出会った。

忙しさにかまけて完全に頭から抜け落ちていた。正直に言うと黒星モードでなければ絶対取り乱していた。後になってさりながライブに行ったシーンを思い出したくらいだ。

しかしアイがB小町に加入していないにも関わらず彼女は当たり前のようにアイ推しになっている。推しの子のストーリーが破綻しているように思ったが、実はそれほど致命的ではなかったのか。

ただ最推しはアイだが俺の事もファンだと笑顔で告げられ、俺も少しくらいは自信を持ってもいいのかと思えた。

それでアイと俺とさりなの三人で一枚の写真を撮った。だが写真を撮った後に彼女は倒れ、救急車で病院へ搬送された。その為写真は彼女に渡せず仕舞いで未だに俺の手元にある。

確か宮崎総合病院だったか?出来れば渡してやりたくて、電話して所在を確かめたら郵送でもしようと思ったのだが、その様な患者はいないと言われた。単に守秘義務でそう答えただけなのか、それとも本当にいないのか。そう言われては追及も難しい。

直接行くことも出来ず、時期を考えたらおそらくもう……。

 

 

「んで、どうすんだ?」

 

激動の一年間を思い返していると問い掛けられた。何をとは聞かなくても分かる。

 

「……続けてみようって思えるようになりましたよ。最近では。こんな俺でも推してくれるファンがいますしね」

「相変わらず自己肯定感が低いな。なんでかね」

 

芸能とは無縁の前世の記憶の所為。とは流石に言えない。

それでも最近は少しマシになってきていると思う。

 

「もうちょい自信持っていいと思うぞ。そいつを克服したらアイドルとして一皮剝けると思うんだがな」

「……今後の課題ってことで」

「自分で言うのか。ま、辞めたいと言わなくなっただけ進歩してるか」

 

これ以上突かれるのは居心地が悪いだけなので話を逸らそう。

 

「それより社長、いい加減男手増やしてよ。俺と社長だけって」

「しょうがねぇだろ。うちはアイドル専門だぞ。若ぇの多いから下手なの入れらんねぇんだよ」

「すんごい肩身が狭いんだけど」

「ハーレムじゃねぇか。喜べ」

「男が皆ハーレム願望持ってると思う?」

「枯れてんなぁ」

 

女心と秋の空。

ご機嫌取りはアイ一人でも大変なのに最近じゃB小町メンバーにパシられる事も増えてきた。女に囲まれて仕事してるとハーレム願望なんて消し飛ぶわ。

 

「それにミヤコさん、この前死んだ魚みたいな目で書類と格闘してたし。事務員増やした方がいいでしょ。そのうち逃げられるよ?」

「お、おう……そうだな。考えとく」

 

「マジかよ……」とショックを受けた様子の斉藤社長にちょっとだけ留飲が下がった。嘘は言ってない。ただちょっとご機嫌取りの大変さを味わえという意趣返しも含めていたのは否定しないが。

その後暫らくは雑談が続いた。精神年齢的に近いからか学校の男子より斉藤社長との付き合いの方が気兼ねしなくていいから楽なんだよな。

 

 

 

 

『斉藤』の表札のマンションの一室。

 

「ただいま」

 

誰も居ないのは分かっているが、口にしてしまうのは癖なのだろう。

脱いだ靴を靴箱に放り込み、自室へと向かう。手荷物を置きラフな部屋着へ着替えた後、勉強道具を持ってリビングへ。

コンビニで買ったコーヒーを口にしながら教科書とノートを広げる。

 

この部屋での生活にも随分馴染んだな。と思う。

施設を退所したのが一年前。斉藤の表札が示す通り、この部屋の持ち主は斉藤夫妻だ。

本来施設の退所期限は満18歳。高校卒業までは施設で暮らすはずだったのだが……。

 

「まさかアイと義兄妹になるとは……」

 

本当にどうしてこうなった。と自問自答する。

最初は俺とアイでアイドルユニットを組んでデビューする?正直アホかと思った。男女のアイドルユニットなんて、そんな話聞いた事がない。

アイドルの客層はガチ恋やリア恋と呼ばれる人がメインターゲットだろうに。男女のカップル売りなんてそれらを全て捨て去るようなものだ。ミュージシャンやアーティストならともかくアイドルの売り方じゃない。

だからそういったガチ恋勢をも取り込む為に兄妹設定で売り出すと。男女の性差もあり多少の似てなさはカバーできる。お前たちの目なら説得力があると社長は言う。

ちょっと違うが、ボカロの鏡音リン・レンみたいなイメージの売り方か。

 

ただ俺は絶対バレると反対した。バレた時のダメージが大きすぎる。

けれど色んな意味で覚悟を決めたらしい斉藤社長が、ならば本当に兄妹にしてしまえばいい。と俺とアイを養子にしようとした時には正気を疑った。

言っては何だが当時の俺は一年区切りでアイドルを辞める気満々だったのだ。だというのに養子縁組などしてしまえば、辞めた後でも俺を養育する義務が生じる。それを分かっているのかと。

 

結局斉藤社長の覚悟とかアイ関連の諸々に最後は折れた。折れざるを得なかったともいう。覚悟ガンギマリすぎだろあの人。

 

この一年間、俺が本気で取り組んだのはそれも理由の一つではある。

本気で我武者羅にやって、それでも売れなければ斉藤社長の見る目がなかったと諦めも付く。けれど、そこまでの期待を懸けられて本気でやらないのはあまりに不義理だと。

まぁ試験養育という制度があり養子縁組は養育実績を積んでからになる。その為完全に籍を入れたのは結構最近だったのだけど。

 

「結果的には社長が正しかったのかね」

 

アイドルアイドルした衣装をアイとペアルックに化粧までされるのは未だに慣れない。が、なんだかんだ言っても結果が出ている。売れている以上文句も言えない。

最近ではどこからか社長がとってきたモデルの仕事もあり、アイと並んで雑誌に載ったことも。写真で見ると確かに似ていなくもない。

ただこの時ちょっとだけ嫌な予感がした。アイとカミキヒカルが実は姉弟という説があったことを思い出した。

まさかと思い社長に頼んで俺とアイの遺伝子鑑定をして貰うことにした。社長は残念がっていたが、杞憂だった事に胸を撫で下ろした。

 

「ただいま~」

 

遠くの方で聞きなれた声が聞こえた。

時計を見ると8時を回っている。考え事していて全然勉強進んでねぇや。

 

「ただいま。おにいちゃん」

「おかえり。アイ」

 

アイは俺をおにいちゃんと呼び、俺は星野をアイと呼ぶようになった。

俺がアイの事を一貫して星野と呼んでいたのは、アイに入れ込みすぎないようにと考えていたから。俺なんかがアイの隣に相応しいとは思えない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)と。

 

……だけどデビューしてからはそうも言ってられない。

呼び方など一番バレやすい要因だから、役作りの一環として普段から呼び方を徹底させられている。

 

「楽しかったか?」

「うん。皆でサイゼ行ってご飯食べてきた!」

 

明るい笑顔。

 

「おにいちゃん、なにし……着替えてくるね」

 

俺が勉強しているのを目敏く見つけて逃げたな。

自室に早足で向かうアイの背中を見送りながら、良い傾向だと思う。

 

……アイが俺に依存している。

 

それが分かったのはあの日の事が原因だ。

今にして思えば俺は一度もアイを拒絶したことがない。邪険にすることも変に拗れることもなく接し続けた。

前世の記憶がある俺はどうしたって自分は大人だという認識が抜け切らない。その為かアイに対しても子供を相手にしている感覚がどうしても抜けきらなかった。度々アイがやらかす事にも多少の小言を言うことはあっても、仕方ないなと受け入れてしまう。アイに悪気がない事が分かるから余計に。

母親に捨てられた幼い少女に、唯一残った無条件に自分を受け入れ肯定してくれる存在。

 

あの日のあれは演技だったが、アイにしてみれば世界が壊れるほどの衝撃だったのだろう。

それほどまでアイの中で俺の存在が大きくなっているなど考えてもみなかった。

 

あの日以降アイは俺にベッタリになり片時も離れようとしなくなった。

あれ程眩く輝いていたアイが、常時ダークなお目目。

あれ?この子大丈夫?病んでない?なんて、茶化せる雰囲気じゃなかった。

 

本来なら本心を隠し孤独に過ごした幼少期の経験がアイの自立心を育てたのだろうが、その経験を一切積めていない。

支えがなければ立ち上がれない。歩き出せない。一人ではただ蹲るしかできない。

 

俺はアイを救いたいと思った。良かれと思いしてきたつもりだった。

だけど、これじゃアイの為になんてなっていない。ただアイを壊しただけだ。

 

改善の傾向が見られたのは俺とアイが斉藤夫妻のマンションに住むようになり、アイが俺をおにいちゃんと呼び始めたころ。

兄妹という関係。家族という繋がりがアイに安心を齎した。その点は斉藤社長に本当に感謝している。

 

それでも完全とは言えなかった。それも当たり前だと言える。アイにとって家族とは絶対に壊れない関係性ではないからだろう。

四六時中行動を共にできる環境も相まって少しずつ安定していって。

カウンセラーの助言もあり、今は大分改善傾向にある。

俺がいなくてもB小町メンバーと交流できるようになったのも改善した証拠だろう。

 

「アイ、着替え終わったらこっちおいで」

「うぅ……」

 

自室のドアから顔だけを出して様子を窺っているアイに声を掛けた。

 

「もうすぐ試験なんだから、ほら頑張ろ?」

「は~い……」

 

しょんぼりした様子に、つい甘やかしてしまいそうになる。

アイはかなり頭が良いと思うのだが……。勉強に向いてる性格じゃないのか、とにかく勉強を嫌がる。

それでも中学は義務教育。高順位を獲れとは言わないが少しくらい気にするそぶりを見せて欲しい。自発的にするところを見たことないぞ。

 

結局一時間もせずに音を上げたアイを膝枕で癒しつつ夜は更けていった。

なお後日の試験では俺はそれなりの順位を獲れた。一年生の頃は殆ど勉強する暇がなくて平均以下だったから躍進した方だろう。

アイ?うん。まぁ。その。察しろ。





こんなのアイじゃない!と思う方もいるでしょう。私もそう思う。
ただこの時期のアイは情報が少なすぎてアイエミュレートが難しい。

そんな時に128話のルビーアイを見たらなぜかアイエミュレートにルビーが混じってた。
母娘だからね。アイもルビー同様距離感バグってる印象。ゴロさりバレ後のアクルビがベース。

後このアイさんは甘えん坊。
精神的に成長できてない。
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