アイを甘やかしたい   作:甘えん坊将軍

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第8話

「八咫は……いないか」

 

苺プロの屋上で独り言ちる。

出来ればあいつにも聞いてほしかったかな。言葉が返ってくる事は無いけど、雰囲気とかでなんとなく言いたいことが分かる時もある。

カラスが相談相手ってボッチ拗らせすぎな気もするが、内容的に相談できる相手がいないから。

 

カラス幼女。いやカラス幼女は失礼だからツクヨミと呼ぼう。

ツクヨミに会ってから、色々ありすぎた。

 

「恋人……で、いいんだよな」

 

なんか一足飛びに関係が進み過ぎて、夢でも見てるんじゃないかと思ったこともある。

あれ以来アイのスキンシップが増えた。

カウンセラーによるとスキンシップによる安心感は愛着形成に大きく関わっている。出来る限りスキンシップを拒まないでいて欲しいと助言を受けている。

その為スキンシップ自体は以前からだけど、なんというか遠慮がなくなった。

以前は子供が甘てくるような感じで、はいはいと受け流せていたけれど。

今は、そう……女としての甘え方になってきている。

嬉しいには嬉しいのだが、発散させる場所がないせいで悶々とする一方で。

 

「いやいや……。いつまでも色呆けてる訳にはいかないだろう!」

 

頭を振って思考を切り替える。

アイとの事で色々後回しにしすぎてた。ツクヨミとの会話を反芻する。

 

―――君が望む未来に手を伸ばせばいい

―――君次第だよ

 

俺次第で未来は変わる。そのお墨付きと言っても良いのだろう。少なくとも否定はされなかった。

ただそれは言い換えれば俺のせいで悪くなることもあると言える。

ツクヨミがあれと呼ぶ超常存在のこともあるし、一層気を抜く訳にはいかない。

 

考えるべきはカミキヒカルについてだろう。

カミキヒカルに関しては、正直どうなんだろう?

今のアイの様子を見ているとカミキヒカルに靡く……とは考えにくい。というかそんなことになったら俺は間違いなく女性不信になる。

だいたい関係性もイマイチどころかイマサンくらい分からないんだよな……。

アイの方はカミキヒカルを憎んでいるとか嫌っているという感じでもなかったように思える。別れる事情があった。そう考えた方がしっくりくる。

険悪な関係ならそもそもそういう行為をしないだろうし、子を産みたいとも思わないだろう。

愛せないと決別している。なのに子供を産むことを受け入れている。

なにより、アイは多分カミキヒカルを許す気がする(・・・・・・・・・・・・・)自分を殺したカミキを(・・・・・・・・・・)。本当にそうなったのかはもう分からないけれど、アイを見ているとそう思えてしまう。

 

 

そこまで考えて、

 

「あ゙~~~」

 

なんで俺は好きな女と別の男の関係の考察をしなくちゃならんのだ……。

しなきゃならんのは分かるが、脳が拒否する。情緒がバグりそう。

 

「……別の方面から考えよう」

 

カミキヒカルとアイの関係はともかく、カミキヒカルとアイを会わせるのは危険だと考えて動くべきだろう。

カミキヒカルは片寄ゆらを殺害している。才能溢れる云々や奪った命の重みがだのの発言から考えてみても、直接関係がなくてもアイをターゲットにする可能性は十分あり得る。

劇団ララライのワークショップ。そこでアイとカミキは出会った。それを阻止すれば―――

 

「ただなぁ……」

 

アイとカミキヒカルと会わせないという事は、必然子を成す事など出来なくなる。

双子が生まれなくて、アイは愛を知ることが出来るのだろうか?

アイが知った愛は親から子へ贈る愛であって、それは必ずしもアクアとルビ―でなければならないと決まっている訳ではないが。

 

 

「それにそもそも紹介されて断るって無理じゃないか?」

 

絶賛売り出し中とはいえ、今現在はアイドルデビュー2年生の分際。

メディアへの露出は音楽系ラジオのゲストとして2回。地下アイドル雑誌に数回掲載された程度。

ワークショップへの参加はスキルアップもさることながら、参加者とのコネという得難いものを作るチャンス。

金、コネ、義理、貸し借りは社会という人の集まりでは時に能力以上に重視されるのは珍しい話じゃない。その点は芸能界だって変わらない。

劇団ララライのワークショップへの紹介。事情を知らなければ正直に言って飛び付きたいくらいおいしい話だと言える。

 

打算があったとしても将来性を見込んで投資の意味で紹介した話を蹴るって、不義理ってレベルじゃない。

それに当然だが事務所にも話が行くだろう。社長ならまず受ける。普通に考えてこんなおいしい話を蹴る理由もない。断れる口実も無い。なんとなくとか嫌だからで断れる案件じゃない。

 

「……手段を選ばなければ方法は無くも無いけど」

 

正直やりたくないっていうか。影響がデカすぎて二の足を踏む。

 

上原清十郎と姫川愛梨。そして姫川大輝。

ネットでちょっと調べた程度でしかないが上原夫妻に一児の子供がいるところまでは確認できた。

そして俺は姫川大輝がカミキヒカルの托卵児である事を知っている。

 

姫川大輝がカミキヒカルの托卵児であることを文春辺りの週刊誌にリークすれば……。

何しろ結婚した時期と姫川大輝の出産時期を考えると、上原と姫川の結婚後に妊娠したと考えられる。とんでもないスキャンダルだ。芸能界って腐り過ぎてて笑えない。

想像に過ぎないが上原と姫川の心中もカミキヒカルが姫川大輝が托卵児である事を上原に仄めかして心中に追い込んだ可能性さえある。カミキヒカルの事を考えればあり得ないと言い切れない。

 

まぁ証拠がある訳じゃないし普通にリークしただけじゃスルーされてしまう可能性も十分にある。

ただ証拠自体はこれから集めようと思えば集める事が出来る。姫川大輝と、カミキヒカルか上原清十郎の両方か最低でもどちらか。毛髪の数本でいい。それこそ所在を突き留めたらゴミを漁れば手に入る可能性は十分にある。それでDNA鑑定すれば動かぬ証拠の出来上がりだ。ゴミ漁りの証拠とか普通に考えてヤバい証拠だと思うが。その辺りはボカシて報道すればいい。

 

こんなとんでもないスキャンダルのリーク。

直接記者に会って黒星の眼を使って誘導したら……、恐らく高確率で記者を焚付ける事が出来る。

たぶんララライそのものが消し飛ぶ。必然ワークショップも無くなる。

 

少し前までならこんなこと考えもしなかった。所詮この黒星の眼はアイの模倣に過ぎない。精々注目を集める程度だと。

けれどツクヨミに会って、これが自分自身の力だと教えられてから、少しずつ強くなっている。使い方が分かるようになってきている。

 

たぶんだけど、俺はカミキヒカルがやった事と似たようなことができる。

貝原涼介のような、言ってみれば凶行に走ってもおかしくない危険なファンに「カミキヒカルがアイに付き合いを迫って困っている」とでも囁けばカミキヒカルへの鉄砲玉に……。

 

「いやいやいや……。ダメだろそれは。考えがヤバい方向に向かっている気がする……」

 

出来るからと言ってして良い訳が無い。

そんな事をすればカミキヒカルは排除できても間違いなく足を踏み外す。

人として取り返しが付かなくなる。無しだ無し。

 

 

人を騙す眼。嘘を真実だと思わせる力。

 

しかしこんな洗脳染みた力だっただろうか?

 

神様がいて、転生者がいるんだから、別に在ってもおかしくないんだろうけどさぁ……。

一般人メンタルには重過ぎる力だっての!

 

 

思考を戻して、リークに関する案はしばらく保留。

時間軸を考えれば確か妊娠するのは15歳のはず。短くてもまだ1年くらいは時間がある。その間に良い案が思い浮かぶかもしれない。

あくまで他に案が無ければの最終手段程度に考えておこう。

 

貝原涼介に関してはあまり深く考える意味が薄い。

危険なストーカーまがいのファンなんて売れていけばどうしたって出てくる。ファンの母数が増えれば増えるほどそういった人間は出てくるだろう。

貝原涼介はそんな中の一人。一人一人に注意するなんて無理だし、実害がなければ警察だってまともに相手をしてくれるとは思えない。

 

とすると、出来る事は……。

 

 

 

 

 

「ただいま。ヒカル君、アイちゃん」

「おかえりなさい。ミヤコさん」

「おかえり~」

 

時刻は午後9時半。

まだ中学生の俺たちは午後8時以降は働けない。働く時間より今はレッスンとかの時間の方が長いのだが。

ミヤコさんとはつい2時間ほど前まで事務所で顔を合わせてはいたけれど、やはり自宅に帰宅したらただいまとおかえりだろう。

 

「ヒカル君、玄関のあれは何?」

「ああ、あれですか。まぁ見ての通りなんですけど」

 

玄関に貼った一枚の紙。油性マジックで大きく「応対はドアチェーンを忘れずに」と書いた。

普通に口頭で注意しただけだとアイの性格上忘れる可能性が高いから。これなら流石に忘れようがない。

 

「この辺りに不審者が出没してるって小耳に挟んだんですよ。

 それと以前にアイがドアチェーンも掛けずに応対しているの思い出して……。ちょっと不用心かなって」

「おにいちゃん、心配性~」

「アイは女の子なんだから、もうちょっと危機意識を持って」

 

ドアチェーンは殆ど口実に近い。これを機に危機意識を高めてもらいたい。

出来る限り傍に居て守るつもりではあるが、どうしたって一人になってしまう時はある。

結局のところ自衛できるようになるのが一番だと言える。

 

「なるほど。まぁ確かにアイちゃんはちょ~っと抜けてるところがあるしね」

「見た目チンピラの社長に抹茶ラテで釣られてしまう子ですからね。ミヤコさん、同性ですし、危ないと思った事があったらビシバシ指導してやってください。男の俺じゃ気付かない事もあるでしょうし」

「う……。それまだ引っ張るの?」

「あ~……。それは危ないわねぇ」

 

二人して危機意識が薄いと窘められてアイはしゅんとしている。

ただ少しだけ嬉しそうに見えるのは多分気のせいじゃないと思う。

本当にアイの事を心配しているというのが伝わっているからだろう。

 

「んー。そうなると防犯ブザーでも持たせた方がいいかしら?」

「アイの場合、持たせても忘れそうなんですよね」

「おにいちゃん、ひどぉい……」

 

あ、やべ。あんまり弄ると拗ねそう。

 

「ごめんごめん。なるべく俺が近くにいるつもりだけど、アイも少し気を付けようねって話だよ」

「……んむぅ……。おにいちゃん、頭撫でるの好きなの?」

「んー、頭っていうか、髪かな。アイの髪ってサラッとしてて手触りが良い」

 

以前は、こう女の子の髪を触るのに抵抗というか遠慮があった。

気恥しいというのもあるが、嫌がられないだろうかと。

ただアイの場合はむしろスキンシップを推奨されてしまっている。それでも少し抵抗があったのだがキスまでしておいて何をいまさら。と思い直した。

手触りもそうだが、撫でてやると猫みたいに目を細めてされるがままになるところが可愛くて、ちょっと……癖になりそう。

 

「えいっ!」

「おっと」

「んー?なんかゴワゴワしてる」

「男の髪なんてそんなものだよ」

 

お返しとばかりに撫でられた。

男と女じゃ髪質が違うのは当然だとしても、こうまで違うのはなんでだろう。

 

「同じシャンプー使っているはずなんだけど」

「手入れの仕方も教えられた通りやってるんだけどね」

 

プロのメイクさん直伝の手入れ方を俺も叩き込まれている。髪や肌の手入れもアイドルの仕事だと。

さすがに脱色まではしたことないが、ライブやイベントのたびに髪は洗えば落ちるタイプので着色したり、ワックスで固められたりするし、化粧もされる。

いくら若いと言っても、手入れをしなければ髪も肌も痛む……らしい。

前世も含めてアイドルになる前は市販の安い薬用シャンプーしか使った事がないだけに戸惑うことも多い。

結局は慣れるしかないんだろうけど、シャンプーはともかくトリートメントだの化粧水だの日焼け止めだのと、とにかく用途に応じて種類が多過ぎて覚えきれない。

ただ経費で落ちるそうで懐が痛まないのだけは救いかな。高ぇのよ。一つ一つはそうでもないけど、まとめると万はいく。アイドルにならなければ絶対やってない自信がある。

 

「短いからかなぁ。長いと細くなるって言うし。おにいちゃんも伸ばしてみたら?」

「……男が長髪はちょっと、見苦しくない?」

「そうかな?おにいちゃんなら似合いそう」

 

さらさら、わしゃわしゃ。

お互いの髪を弄りながらどうでもいい会話に興じる。

傍から見れば何やってんだこいつらとか思われそうだな、なんて思いながらミヤコさんの方を見ると。

 

「あー、アッついわね……」

 

露骨に顔を逸らされた。なんか、その。すんません。

 

「まぁいいけど、避妊はちゃんとしなさいね」

「いや、しませんから」

「え?!ちょ、ちゃんと避妊はしなさい!」

 

いや、ちょっと待て。

 

「そうじゃなくて。そもそも避妊するようなことしませんて」

「……え?」

 

なんか反応が変じゃない?

なんでそんな反応になるのよ。

 

「え、だってアイちゃんこの前「わーわーわー!しー!しー!こここっち!」

「……えっ……と」

「ヒカル君はそこに居て!」

 

いきなりアイが騒ぎ出してミヤコさんを連れてリビングを出て行った。

 

なんなの?マジでなんなの?

話の流れから凄まじく気になる。

気になるのだけど、リビングドアのガラス部分から覗くと数メートルは離れていて内容までは聞こえない。

ドアを開ければ聞こえるかもだけど、ドアを開ければ気づくよな、これ。チラチラとこっちを見ながら話しているし。

そこまでして聞かれたくない話ってなんだ?

 

5分もしないうちに二人がリビングに戻ってきた。

 

「……」

「……」

「……ええっ……と」

 

……なにこの空気。凄く……居心地が悪いんですけど。

 

「ヒカル君」

「は、はい」

「女の子に恥かかせちゃだめよ」

「……あの、それ、どういう意味です?」

 

本当にどういう意味なのか……。ヤレとでも言うのか?襲えと?

いや、だめだろ。我ら中学生ぞ。アイドル様やぞ。むしろ貴女止める側でしょう。社長が卒倒しますよ。

 

「もぉー!」

「ちょ、アイ。落ち着いて」

 

ぶんぶんと手を振って。駄々っ子パンチなんてかわいいものじゃなく、当たると結構痛い。

だけど熟れたトマトかリンゴみたいに真っ赤な顔でそうされると文句も言えない。

 

「処置なしね……」

「ミヤコさん、放っとかないで!?」

「ううぅぅ~~~」

 

ミヤコさんが一言呟いて自室の方へ消えていった。

この状況で置いてくの勘弁してくれません?

 

アイは真っ赤な顔と涙目で見詰めてくるだけで。

ご機嫌取りの効果は薄く、一晩中居心地が悪かった。

え?これ俺のせいなの?

 

翌日にはアイも調子を戻していたことでホッと一息ついたが、結局どういう意味で受け止めるべきなのか……。




アイは誰かいる時はおにいちゃん呼び。二人きりの時はヒカル君呼び。
でもたまに混ざるw


アイは男女の距離感がバグっている。
オリ主は男女の距離感は普通だが、家族というものに理解が薄いため家族の距離感がバグっている。
家族が甘えてきたら甘えてきた分だけ甘えさせるデロ甘タイプ。実はミヤえもんが甘えてきたら普通に甘えさせる。
ゴロサリばれ後のアクアをより甘くしたようなヤツ。
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