【悲報】メラメラ食っちゃった   作:敗北者

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 音楽を愛する者なら誰でも歓迎する。

 そんな平和な島だった。

 ウタはすぐに歓迎され王にも謁見することになる。

 

「……………」

「どうした、カガ……レッドフレイムマン」

「レッドだつってんだろ。変な名前つけるな………いや、少し気になることがあってな」

「気になること?」

 

 動物(ゾオン)系悪魔の実には、意思が宿るとされている。だから物に食わせると意思を持つように動き出すらしい。

 その場合物に宿った記憶がどうなるかは不明。

 

 とにかく、意思のある悪魔の実は能力の所有者を選ぶかのように人の手から逃れるらしい。

 ただ、メロメロと言いウタウタと言い、随分と能力者に恵まれている。

 

 意思が宿る悪魔の実は、実は動物(ゾオン)系だけではないのでは? 今度ベガパンクにこの説話してみよう。

 

 

 

 

 そしてウタは島の人々の前で歌うことになった。緊張はしない、シャンクス達が、家族が見てくれているから。

 何時も通り、自然に歌えた。

 

「素晴らしい! 君の歌声は、まさに世界の宝だ! ここには音楽の専門家達や、楽器、楽譜が集まっている! 是非このエレジアに留まってほしい! 国を挙げて歓迎する!」

 

 音楽を愛する人々の国エレジア。その国王に褒められ誇らしいウタ。だけど、ウタはエレジアに留まる気はなかった。

 

 ゴードン達はとても残念そうだが、ウタの意思を尊重する。音楽は……音を楽しめなければ意味がない。

 才能がある。たったそれだけを理由に縛ったりしない。

 

 

 

 

「せっかくだからこの国を案内しよう。ここは資料館、世界中のありとあらゆる楽譜、音楽の歴史、楽器の作り方などがわかる」

「みろカガリ! ビンクスの酒の楽譜の原本だ!」

「甘いな。おれは海に消えたルンバー海賊団が各地に残した歌のまとめ!」

「「うおー! すげー!」」

「あの、聞いてる?」

 

 図書館につくなりより珍しい本を探す勝負を始めたシャンクスとカガリ。審査員は公平性を保つため国王ゴードン。

 悪人面だが根は真面目で優しい人だ。そして音楽を愛しているから、音楽が関わるこの勝負は真剣。

 

「…………カガリ」

「よし!」

「くそ!」

「ウタ、あの馬鹿どもが騒ぎそうだったら片方寝かせろ」

「解った!」

 

 ベックマンの言葉にウタは任せて、と拳を握る。

 

 

 その夜、テラスで涼んでいたウタの下にシャンクスがやってくる。エレジアの町並みを見下ろしていたウタに、シャンクスは笑いかける。

 

「ずいぶん楽しそうだったな。此処で歌っていた時」

「ん? うん……」

「おれ達の前で歌うより、大勢の人達に聞いてもらった方が、楽しかったりしないのか?」

「そんな事ないって………」

 

 楽しかったのは確かだが、どうしてそんな事を聞くのだろう?

 

「なあウタ、この世界に平和や平等なんてものは存在しない。だけどお前の歌声だけは、世界中の全ての人達を幸せにできる。

 ………良いんだぞ、此処に残っても。世界一の歌い手になったら、迎えに来てやる」

「馬鹿! 私は赤髪海賊団の音楽家だよ! 詩の勉強のためでも、シャンクス達から離れるのは………」

 

 確かに此処は、今まで訪れたどの国よりも居心地がいい。それでもウタの居場所は赤髪海賊団だ。離れるなんて、あり得ない。

 

「解った。そうだよな、明日には此処を離れよう」

 

 涙目のウタを、シャンクスは困ったように抱き締める。

 

 

 

「……………」

 

 カガリは城の屋根の上で酒を飲みながら、国中に放送されるウタの歌を聞く。

 エレジアから離れるウタを送るパーティー。最後の機会だからと色んな歌を聞かせてくれと様々な人間が楽譜を持ってくる。

 

 それだけウタの歌唱力が認められているということ。

 音楽の国でも認められる歌唱力を肴に月見酒と洒落込むカガリは、深さは劣れど範囲ならアカツキ連盟一の見聞色で、その未来を捉える。

 

「『塁』」

 

 カガリの言葉に、城の塔を覆うように現れる焼け爛れた顔の炎竜。黒い渦が城の中から現れたのは、同時。

 

 

 

 

 魔王トットムジカ。

 古の時代、どう生まれたのかは不明だが確かに存在した厄災。

 ウタウタの実の能力を通して顕現する人の負の感情の集合体。

 

 楽譜に宿る思念は国中に放送されたウタの歌声に反応し、封印を破りウタの前に現れた。誰かが置いた楽譜だと思ったウタは楽譜を歌い、魔王をこの世に顕現させた。

 

 魔王は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()島に向かい雷を放つ。建物を融解させ、人の命をたやすく奪う破壊の光。

 

 

 

「何だ、あれは?」

 

 そして、()()()()()()()()()()()()。突如現れた何かは海に向かって雷を放つ。何をしているのだろう? というか、あれは?

 

「まさか、トットムジカ!?」

「知ってるのか、ゴードン!?」

「……古の魔王。歌ってならぬ呪いの歌の化身だ」

「それがなんで、ウタを取り込んだ!?」

「トットムジカは、ウタウタの実で顕現する魔王だ…………」

 

 つまり、ウタの力で呼び出された。ゴードンの言葉に周りの国民達の目に疑惑や恐怖がトットムジカと……その中に取り込まれたウタに向けられる。

 

「ゴードン、シャンクス」

 

 と、カガリがシャンクスとゴードンのもとにやってくる。

 

「今あの変なのに幻覚見せてるが、時間の問題だ。あれは何だ?」

「トットムジカ………ウタの力で顕現した魔王だそうだ」

「そうだ。そして、トットムジカはウタウタの実により作り出されるウタワールドと、現実からの同時攻撃でなくてはダメージが通らない」

 

 中のウタの気配が弱くなっていく。悪魔の実は無限に使えるわけではない……恐らく、気絶すれば魔王は消えるだろうが………。

 

「………シャンクス、余興をやるぞ」

 

 

 

 

 突如現れた何かは海に向かい何度も光線を放っている。被害は出ていないが、その不気味な姿に島の住民に恐怖を覚えさせる。

 

「そこまでだ!」

 

 と、声が響く。魔王もその声に反応して振り返る。

 

「ここからは、おれ達が相手だ!」

 

 翼を持つ巨大な獅子に乗ったシャンクスを中心に並ぶ赤髪海賊団。背後で爆発が起こり赤い煙が上がる。

 

「あ、赤髪海賊団!?」

「さ、さあ皆! 赤髪海賊団を応援してくれ!」

「国王様!?」

 

 さらにゴードンもやってきた。

 

「あれは、歌の魔王トットムジカ! ウタを取り込み、暴れようとしているんだ! 頼む、エレジアの民達よ、歌の力で赤髪海賊団を応援してくれ!」

 

 これは、つまり………そう言うイベントなのだろうか?

 そう言う余興?

 困惑する国民達。そして、元気よく手を上げるのはウタと年が近く仲良くなった子供達。

 

「任せて国王様! 赤髪海賊だ〜ん! ウタちゃんを助けてあげて〜!」

「歌で応援するんだねー!!」

 

 子供達が歌いだし、やがて大人達も歌い出す。苛立つようにトットムジカが咆哮を上げた。

 

「行くぞ、テリア!」

「うん!」

 

 ネコネコの実幻獣種モデル【シャルベーシャ】を食ったテリアは獣型となり炎を口から吐きだす。

 シャルベーシャ……シヴァの化身。故にシヴァの炎を使うのだ。

 

「────!!」

 

 その勢いに押されるも、ダメージは受けていない。それでも人のいる場所から離す。

 大量の炎に押し流されたトットムジカは雷のエネルギーを収束してレーザーのごとく放つもシャンクスがレーザーを切り裂く。

 

 赤髪海賊団がトットムジカに向かい銃を放ち、剣を振るい、色取り取りの光が飛び散り島民達がわぁ、と歓声を上げた。

 

「出て来い! 決戦人型兵器レッド・フォース!」

 

 

 

 

「はぁ!?」

 

 塁の幻炎で島民に幻を見せてサポートしていたカガリはシャンクスの無茶ぶりに思わず叫ぶ。シャンクスは見聞色で姿を消しているカガリの位置を把握し笑顔を向けてくる。ぶん殴りてえ。

 

 レッド・フォース……シャンクスの船の名前で、決戦人型兵器? だから、えっと………

 

 

 

 

「「「きょ、きょ、巨大ロボだー!!!」」」

「「「………………」」」

 

 突如現れたドラゴンを模した兜をかぶった巨大ロボに目を輝かせる男達とシーンと見つめる女達。シャンクスを含め、ベックマン以外の赤髪海賊団も目をキラキラさせる。

 

「見ろ、見ろベックマン! レッド・フォース! 何時か本物も変形出来るようにしよう!!」

「やめろ」

 

 ベックマンは頭を押さえ、カガリに心の中で謝る。

 ウタの気配もだいぶ弱くなって、魔王の気配も曖昧になっていく。あと少し、後一押し。

 

「レッド・フォース! 巨大グリフォンだ!」

 

 シャンクスは覇王色の覇気をグリフォンに纏わせ、意図を察したテリアが飛び出す。

 決戦人型兵器レッド・フォースも剣を構えた。

 

 振るわれる2つのグリフォン。片方はただのまやかし。しかし、片方は本物。

 魔王の体を貫く。

 覇王色の気迫に押され存在しないダメージを錯覚したトットムジカの体が歪む。さらなる姿に変身しようとするトットムジカは、しかし体が崩れていく。

 

 ウタが眠ったのだ。

 テリアは直ぐ様踵を返し、シャンクスは落下するウタを抱き止めた。

 

 

 

「………崩」

 

 カガリは複数の炎弾を空へと打ち上げ、花火のように爆発させる。

 国中から歓声の声が上がった。

 

 

 

「これがトットムジカか………古い楽譜にしか見えないが」

 

 国民達を家に帰し、ウタを客間に運んだ後赤髪海賊団とゴードンは一室に集まり古い楽譜を見る。

 

「だが、伝説は本当だった。トットムジカは現れた………」

「どうするか………また、ウタを狙わないとも限らない」

 

 その言葉に楽譜を持つゴードンは険しい顔をする。しわがつきそうなほど強く、楽譜を握る。

 

「…………処分するしかない」

「じゃあおれが貰う」

 

 と、何時の間にか城に戻って来たカガリがゴードンから楽譜を奪った。

 

「カガリ?」

「カガリ君………それを、どうするのだね?」

「島に持って帰って、皆で歌う」

「おいおい………」

「ウタウタの実の能力者がいなければいいんだろ?」

「それはまあ………そうだが………」

 

 カガリの言葉に困惑するゴードン。カガリはそっとトットムジカの譜面を指でなぞる。

 

「そういうわけで悪いな、お前達をこの世に出すことは出来ないが………まあ、毎日とは言わずとも歌ってやるから我慢してくれ」

 

 トットムジカ。歌を愛する人々の心の集合体。

 「寂しい」「もっと認められたい」「誰かに見つけて欲しい」……そんな負の感情が集まり生まれた存在。

 

 だから、自分を形作る存在を求め、行き場のない自分の気持ちを受けとめてくれる存在を探している。それがウタだった。

 

「形作ってはやれないがな…………良いだろ、ゴードン?」

「………本音を言ってしまえば、私はやはり、その楽譜を燃やしたくない」

 

 たとえ危険だと分かっていても、音楽を愛する者として心に訴えかけてくるようなこの旋律を捨てたくないと思ってしまう。

 

「だから、おれが貰う」

 

 カガリの言葉に、風もないのに楽譜がカサリと揺れた。

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