一度、成功したら諦めきれないもの。
まだ特段何の成績もない新人の俺に舞い込んできたその依頼は、俺にとって『
*
「よ、よろしく?マネーピット…?」
その馬-マネーピットとの初対面、俺が思ったのは『静かだな』だった。
よく言えば落ち着いていて、悪く言えば空虚な。
周りの馬が調教を嫌がったりする様子がある時はあることを鑑みると、いつも粛々と文句を言わず従う彼は…どこか異質だった。
人間たちは『面倒が見やすくていい』と言ってたけれど。
「お疲れ様…ピット」
ひとっ走り終えて、そう労るとフンと鼻を鳴らされる。
「ははは……俺は新人だから、まだお前のことをよく知らないけど……これからよろしくな」
ピットは賢い馬だ。
調教も他の馬と比べてかなり楽だし、何より『人間をよく見ている』。
ただ、それでもやはり彼は『静か』だった。
そう……まるで何かを諦めているかのように。
ーーー
結局のところ、俺の重賞初制覇も唯一のG1勝利も、もたらしてくれたのはマネーピットだった。
「…すみません」
自分に、才能がないのは分かっていた。
それでもこの職業につきたくて、ついて、…自分の不甲斐なさを実感する日々。
「……すみません」
マネーピットの馬主は、調教師から騎手含め多くの人に嫌煙されていた。が、
「すみません」
それでも俺は
調教師は『お前は馬鹿だ』と吐き捨てたけど、俺はその道を選んだ。
だってそうだろ?
マネーピットがいなくちゃ、俺は
俺と出会うまでの、マネーピットを手放していった彼らとは違い、俺は『この馬』と出会わなければ
「すみません」
だから、俺はマネーピットの馬主に謝罪した。
自分が不甲斐ないことは、確かだから。
俺以外の人は、この人のあまりにもな言いように抗議なり、果ては暴力沙汰になりかけそうなまで、怒ってくれたけれど。
「次は、」
そんなこと言ったって、すべて
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マネーピットの馬主である男は…クズ中のクズだった。
いちおうはとある小さな会社の二代目社長だったが、若い頃から「次期社長だ」とか、その地位を傘にきて好き勝手。
だが親の前ではすこぶる『いい子』の皮を被るものだから、誰も気づけなかった。
そして親が死んで地位や遺産やらを受け継いだら……もう手がつけられなくなった。
「チッ…あれだけ出してこんなみすぼらしい馬か」
ろくな知識もないままに、そういった時の外面はいい男はマネーピットを買った。
とはいえ、男にとってマネーピットはひとつの命ではなく、気まぐれに買った玩具と同様の扱いだったのだが。
「稼げよ、なぁ?それがお前の"価値"なんだから!!」
騎手さん:
たぶん仕事的に向いてない。
でも『夢』を諦めきれなかったし、諦めようとする前に【金食い虫】に出会ってしまってそのままズルズルと…。
なので自分に少なからずの結果をもたらしてくれる【金食い虫】を手放したくても手放せない状態に。
まぁ言うなれば依存…?みたいな。