幸せな。
何の因果か、寮の同室の実家とやらにお邪魔することになってしまった。
同室本人は『そんなのいいよ』とお土産を買う俺を静止していたが、お前自身はよくてもさぁ…。
「駅から、ちょっと歩くよ」
「そ」
「まぁ30分もかからないから」
辿り着いた場所はトレセン学園と比べると…たぶん田舎ってヤツ?
駅近くは栄えているが、少し先に進むと見るからに寂れた建物とかが見えてくる感じの。
「田舎でしょう?」
「えっ、あ…あぁ、そう…かもな?」
「ねぇ、そう言えばピットくんの住んでた場所はどんなのだった?」
前を先導する相手の問いに思わず固まる。
どんなのって言われても、
(…俺、あの家から出たこと無かったし)
風邪引いても病院行くほどじゃなくて、身を縮こまらせて寝ていたらいつの間にか治っている体だったし。
腹の足しになる野草を探しに行くことはあれど、家の敷地内から出たことはなかった。
とはいえ、
「まぁ、田舎だったんじゃないか?」
「……ふぅん」
「家が、車で出ないといけないところにあったみたいだし」
俺の返答に相手も短く返すと、その後は特に会話も無く歩き続ける。
(……気まずい)
そんなことを思いながら歩いていれば、目的地に着いたのか先導していた相手が足を止める。
「ここだよ」
「……え?」
案内された場所に俺はぱちくりとまばたきする。
「ほら、入って入って。…母さ〜ん、帰ったよ〜!!」
その家は、…ごく普通の家庭ってこんなんなんだろうな、という外観だった。
クリームとか白系の家の壁に赤い屋根の。
庭には鉢植えとか花壇とかで花が植えてあって、門の近くには自転車が置いてある。
もちろん車もあって…計四人家族かどうかといったところか。
「はじめまして。娘さんと仲良くさせていただいてます、同室のマネーピットと言います」
出てきた、同室とよく似た御母堂に買ってきたお土産を渡すと「あらあらまぁまぁ」なんて反応が返ってくる。
「いつも娘がお世話になっています」
「いえいえ、こちらこそ」
ペコペコと頭を下げあう俺たちに、同室のヤツは『もうっ』なんて言いながら。
「ほら、上がってよ!!」
ぐいぐいと背中を押して家の中へと招き入れてくれたのだった。
「あら〜、仲良しね〜」
「でしょー!!」
いや、そんな仲良しか……?とか思いつつも、元から陽だまりのような奴がふたりに増えたみたいな現状にどうこうする気力もなく、俺はされるがままに相手の実家へお邪魔することになった。
「ピットちゃん、お昼は食べた?」
「いや、まだ……デス、けど…」
「じゃあ食べていってね〜」
「え」
いや、それは……と断ろうとするも、同室が『やった〜!!』なんて大喜びするものだから、俺は何も言えなくなってしまった。
そして結局、夕食までご馳走になることになって、そのまま同室がトレセン学園に帰る日まで連れてこられた俺も自ずとこの家に泊まることとなり…。
(まぁ、いいか)
俺が居たところで邪魔なだけだろ?とかいう気持ちも一週間ぐらい経てばあってないようなものとなった。
それ以上に、そんなこと思う前に同室の御母堂に「あらあらあら〜!」とわちゃわちゃ可愛がられたのもその要因だったのだが。
【金食い虫】:
マネーピット(ウマ娘のすがた)。
普通の家族をはじめて見た。
育ちのためにちょっとスレ気味なので真正面から好意を伝えましょう。
たぶん懐いたら素直じゃない感じに甘えてくるタイプだと思われ。