そういう人たちでした。
それが『救い』と呼べるなら、エクスクイジットを救ったのは結局マネーピット、そのウマ娘であって。
『ほら、あの子があのエクスクイジットを倒した…』
『あーあ、あのウマ娘がいなけりゃエクス様は…』
『ホント空気読めてないよな〜』
トゥインクルシリーズから元々決めていた通りに勇退し、裏方に回ったエクスクイジットとは違い、マネーピットは変わらず現役続行。
自分が成したある意味異形から面倒な尾ひれ背びれがつきながらも、今もその『功績』は語り継がれている。
『……マネーピットは、エクス様がいたから勝てただけなのにね……』
「ッ……」
しかしそんな栄光も、今や過去のもの。
今はもう、誰もが彼女の名を口にしない。
ただその末路を憐れむだけ。
そしてそれは、他ならぬエクスクイジット自身が一番よく分かっていた。
(僕は……間違っていたのかな……?)
そんな自問自答。
あの時、一緒に走れることを喜ばなければ。
そもそも彼女があの抽選に当たらなければ。
…僕が、慢心、していなければ。
「おはよう、ピットくん」
訪れた病室ではマネーピットが横になっている。
人によっては『眠っている』と言う人もいるだろうが、そこそこ細部まで知っている僕にとってはそれは昏睡だった。
───最後方につき、今から進出する…というところでの。
突然体がぶれ、前のめりに倒れたあとに残ったのは誰もがもうダメだと分かる
まだ走ろうともがき、立ち上がろうとする体を必死に止められ、彼女は病院に送られた。
「今日もね、キミと話そうと思って来たんだ。ほら、キミっていつも寝てるからさ。独り言だけど」
返事はない。
それでも僕は続ける。
「僕さ……ずっと思ってたんだ。キミがいたから強くなれたって……でも、それは間違ってたのかな……?」
「……」
「……ごめんね、こんな話しても意味ないよね」
ふぅと息を吐くと、マネーピットの病室を出る。
たぶん明日も来るだろうと思いながらも、はじめのように涙はもう出なかった。
*
それは、単なる偶然だった。
いつものように彼女の元へ訪れて。
顔なじみになった看護師さんに止められるのを不思議に思った矢先。
『まったく…これじゃあもう稼げないじゃあないか』
『でもこの入院でもっと貪り取れるわ!』
『だが見目は…』
下卑た声。
聞くに耐えない、欲望にまみれた会話。
「……っ!」
思わず、病室に飛び込む。
そこにはベッドに横たわるマネーピットと、その周りに群がる…彼女の親族だろうか?壮年の男女がいた。
『な、なんだねキミは!?』
『ここは関係者以外立ち入り禁止よ!?』
「……ッ」
そして。
その男女の、女の方の容貌を見て察してしまった。
目尻が…どことなく彼女に。
男女はうるさくワァワァと喚いた。
結構去年ぐらいに僕はワイドショーやらなんやらで連日騒がれたはずなのだけど、そこに言及がないあたり、この人たちはレースに興味ないらしい。
「彼女をどうするおつもりですか」
吐き出した声は唸るように低く。
その機微に触れられることもないまま、告げられる言葉は醜悪で。
「…なら、幾らです」
彼女の、マネーピットの脚はもう二度と走れない。
懸命にリハビリをしてようやく、補助の器具があって何とか歩けるようになるかどうかと言う。
だから。
俺の命の値段?
…多分───██億ぐらいじゃねぇか?
知らねぇけど。