此処は学園都市キヴォトス。
数千の学園がそれぞれ運営する自治区と、キヴォトス全体の行政を担う『連邦生徒会』によって管理されている地域『D.U.』で構成される連邦都市。
その中の一つである、『ゲヘナ学園』。
長年対立関係にある『トリニティ総合学園』と並び、キヴォトスで一、二を争う生徒の在籍数を誇るマンモス校である。
そのゲヘナ学園の生徒会である
彼女は今、万魔殿の執務室でとても寛いでいた。
「キキキッ…。今日という朝は随分と平穏なようだなぁ、イロハ?」
マコトは、自分とは違うテーブルに向かい合っている、部下である『
「はぁ……。まぁ、風紀委員会がゴロツキにチンピラ、ヘルメット団何かをしっかり取り締まってるからじゃないですかね?」
イロハは、気怠げに自分の髪を弄りつつ答える。
「うむ、風紀委員会の者たちは内憂によく対処してくれているようだ。まァ、自由と混沌が校風である以上、争いは絶えんだろうがな」
「…だったら、直ぐにでも秩序ある校風にしたらどうですか?正直、風紀委員会からの要請受けるのも面倒くさいんですけど……」
「ほぅ、イロハは秩序を望むか?なら、もうサボることも昼寝することもできなくなってしまうなぁ?」
「あー、やっぱそのままでいいです、うん。コッチのほうが、私の性にはあってます」
「キキキキッ!!」
マコトは、どこか愉快げに笑う。イロハは、はぁ、とため息をついた。
その時、執務室のドアが開く。
「マコト先輩!!イロハ先輩!!おはよーございます!!」
元気よく入ってきたのは、万魔殿で最も溺愛されている『イブキ』。
小さな体躯だが、ゲヘナ学園の行政を担う万魔殿に所属する立派な一員である。
「おぉ!元気がいいなぁ、イブキは。プリン、食べるか?」
「プリン!!食べるー!」
大好物のプリンを差し出され、ご満悦な様子のイブキ。
それを微笑ましく見守るマコト。
そんな場所に、慌ただしい足音が聞こえてきた。
イブキが開けたときとは比べ物にならない大きな音で、ドアが開く。
「お忙しい中申し訳ありません!!風紀委員会の方より、美食研究会の鎮圧援助要請が……!」
現れたのは、万魔殿に所属する一般生徒、万魔殿モブだった。
「美食研究会……?空崎ヒナに任せておけば良かろう。わざわざ万魔殿が動く必要はなさそうだが?」
「そ、それが…。空崎風紀委員長は、同時刻に暴れ出した温泉開発部の鎮圧に向かい、恐らく当分は…!」
それを聞いたマコトは、大きくため息をついた。
「はぁー……。さしもの空崎ヒナとて、身は一つか…。仕方ない、第八小隊及び第九小隊を向かわせろ。美食研究会の4人程度であれば、二小隊いれば容易いだろう」
「はっ!かしこまりました!!」
慌ただしく去っていく万魔殿モブ。凛々しい姿で指示を出すマコトを見て、イブキは目をキラキラと輝かせる。
「マコト先輩、イブキの出番はー?」
「キキキッ!美食研究会などというくだらん者共に、イブキなんぞ宛てがうものか。イブキは万魔殿の秘密兵器、おいそれと外には出せないからな、わかってくれ」
「? よくわかんないけど、わかったー!!」
プリンを食べながら、マコトに撫でられるイブキ。
「……そんな体たらくだから、『空崎ヒナの居ない風紀委員会など恐れるに足らん』と言われるのだぞ」
そんなマコトの微かな呟きを聞いたのは、イロハだけだった。
◆◆◆◆◆
「ふふっ、やはりヒナ委員長の居ない風紀委員会など、恐れるに足りませんわね」
「ぐ……ぅうっ!」
敵を眼下に見下ろすは、美食研究会部長『
方や、全身ボロボロの状態で地に倒れ伏すは、風紀委員会所属の『
「私たちはただ、あまりにも接客というものを知らない店を爆破しただけですわ?あのような行動は、美食の風上にも置けませんわね」
「一々、爆破しなきゃ気が済まないのかっ!テロリスト共め!!」
「あら、そのようなお体で私たちを止められると?他の風紀委員も、粗方片付いたようですし…。私たちは、そろそろ退散いたしますわね?」
そんな会話をするハルナとイオリに近づく3つの影。
「ハルナー!こっちも片付いたよ!!」
赤く長い髪を持つ、一年生の『
「ねぇねぇっ、早く次の美味しいもの、食べに行こうよ〜!!」
美食研究会一のゲテモノ好きである『
「ふふっ♪急がなくても、お料理は逃げませんから♪」
大食い大会常連の『
イオリが辺りを見回せば、多数の風紀委員が倒れていた。
「うふふ、貴女もそれなりに楽しめましたが…。やはり、ヒナ委員長には劣りますね」
「…どいつも、こいつも、委員長がどうのこうの……!!」
イオリは、悔しかった。
敬愛する空崎ヒナは強い。彼女であれば、美食研究会なんて数分もかからずに鎮圧できただろう。
だが、自分はどうだ?
一対一ですら遅れを取り、連れてきた仲間も全滅。
『空崎ヒナの居ない風紀委員会は脆い』ことは、誰よりも第一線を駆け抜けるイオリが一番良くわかっていた。
「では…、私たちは次の美食を求めに行きますわ。御免あそばせ」
「待つがいい」
不意に、そんな声が聞こえた。
「…遅いぞ、『武装親衛隊』…!」
美食研究会の背後に現れたのは、キヴォトス人としては想像できないほどの重武装に身を包んだ生徒たち。その数は10人。
重厚なガスマスクを付けており、表情は伺いしれない。
「あら、新手でしょうか?」
「鎮圧対象、美食研究会を確認。…風紀委員会は全滅、か。」
「なによ!!あたし達今気が立ってんの、邪魔しないで!」
ジュンコが苛つきを隠そうともせず、イオリが武装親衛隊と呼んだ者たちに発砲。避ける素振りすら見せず、命中。が、
「第八隊長。如何致しますか?」
「第九小隊は赤司ジュンコと鰐渕アカリをやれ。我々第八小隊は部長の黒舘ハルナ、並びに獅子堂イズミを制圧する」
「了解。直ちに」
ガスマスク越しのくぐもった合図とともに、武装親衛隊が一斉に美食研究会に向かう。
当然、迎え撃とうとする美食研究会だったが……。
「うわーん!こんなに強いなんて聞いてないよー!?」
捕まったジュンコが、そんなふうに泣く。
「風紀委員会の隠し玉…?いえ、でもアレは万魔殿のシンボル……」
アカリは、冷静に武装親衛隊の正体を探っていた。
「…まさか、私たちがこんなに簡単に……。ともすれば、ヒナ委員長と同等か、それ以上…!」
ハルナは、武装親衛隊の練度と戦闘力の高さに唖然としていた。
「立てるか?銀鏡イオリ」
「いってててて……。ありがとう、助かった」
イオリは、武装親衛隊の手を借りながら、身体を起こした。
「礼には及ばん。我々はマコト議長の指示に従ったのみ」
「…救援要請を出したのは、アコちゃん?」
「ああ。『イオリを信頼していない訳では無いが、戦力はあった方がいい』とな。結果的に、正しかったわけだ」
「……ハ、ハハ。結局、委員長が居なきゃ、何にもできないんだな、私も…」
「…些か頼りすぎている面もあるだろうが、空崎風紀委員長の持つ神秘と、銀鏡イオリの持つ神秘に絶対的な差がある以上仕方ないだろう。空崎風紀委員長は空崎風紀委員長の為すべきことを、銀鏡イオリは銀鏡イオリの為すべきことを為せる範囲で、だ」
「…委員長に、負けたくないなぁ」
「まぁ、我々からは強いことは何も言えんが…。ひとまず、美食研究会の身柄は風紀委員会に預けるか?それとも我々万魔殿で預かるか?」
「…こっちの牢に入れとくよ。万魔殿に行ったら、美食研究会が逆に可愛そうだ」
◆◆◆◆◆
「…はい、…はい、ええ、わかりました、伝えておきます」
そう言って、イロハは通話を切る。
「…首尾は?」
「問題ありません。数分足らずで鎮圧したとのこと」
マコトからの問に、イロハは髪を弄りながら返す。
「キキキッ!それは重畳。…しかし、
「今度、風紀委員会と合同訓練でもしますか?」
「やめておけ、このマコト様が出なければどうせ空崎ヒナの一人勝ちだ。だが……、キキキキッ!いっそ、他学園に宣戦布告するのも視野に入れねばならんか?」
「やめてください、マコト先輩が言うと冗談に聞こえませんよ…。ただでさえ、エデン条約を締結しなきゃいけないってときなのに、他方に喧嘩を売るような真似は…」
「わかっているわかっている、戯れに過ぎん。どれ、面倒な案件も終わったことだ。イブキと共に昼寝でもするか?イロハ」
「…ま、やるべきことは終わりましたからね。いいですよ、サボりましょ?マコト先輩」
魔改造万魔殿、面白いと思います。
まさしく万(よろず)の魔ってね、ガハハ!
まぁゲヘナってドイツモチーフらしいし、虐殺しないタイプなら武装親衛隊ぶっ込んでもええやろ。
ここのマコト先輩はヒナちゃん嫌いじゃないしむしろちゃんと仕事してくれてるので高評価してる。多少の融通も効かせてる、かわいいね。
ちなみにマコト本人が戦うのは当分先じゃないっすかね。