あなたの終わりを眠りと共に 作:アメフラシ
お気に入り2000人ありがとうございます。
前回に1000人と書いたばかりなのに、皆様の応援で更に多くの方に見てもらえる小説になりました。記念回のアンケートなども完結してからになりますがやりたいと思っているので、これからも本小説をよろしくお願いします。
「ふむ、あの毛皮は我が国の秘宝……ですが遠く離れたイオルコスから訪れた英雄を追い返すわけにはいきますまい、1つ、頼まれてはくれませんかな?」
遠く離れたコルキスにて、目的の物を返してもらえない時は国ごと滅ぼしてから略奪していこうと語った脳筋犯罪者たちに同調した私は立派な脳筋たちの仲間入りをしてしまったのかもしれない。しかし、彼らに同調したくなる程度にはこの船旅は過酷だった。どこかの島に寄っては何かの事件に巻き込まれ、どこの島でも完全に平和な中休みを送ることができなかったのだから、もう二度とこの旅路を繰り返すようなことがないことを戦士たちは切に願っている。とはいえ、海上だと考えればそれなりに快適な旅だったと海に慣れている英雄たちは語っていた、が旅そのものは苦労の多いものだったため二度目がないことを祈る気持ちは同じである。
みんなが一致団結して圧を飛ばしていたからだろうか、一応は国宝的な存在である金の羊の毛皮を渡してくれると王様が語った時には心の中でガッツポーズをした、周囲からは心の中で雄叫びが上がっていた。そしてコルキスの王様が言い渡した条件はアレスから受け取った牛と伝えられている火を吐く牛を使って畑を耕して、そこに竜の牙を撒いてくれというもの。火を吐く牛という時点で半分くらいの船員はその勤めを果たせずに死ぬ、そして竜の牙を地面に撒いたのなら基本的にカドモス王の逸話に現れたスパルトイが現れるに違いない、その竜の格によって差分はあるがそれに囲まれてしまえば更に多くの英雄がこの試練をなすことができずに死ぬ。しかし、我々にはヘラクレスがいる、ヘラクレスなら火を吹かれたところで火傷することもないだろうし、スパルトイがどれほど強かろうと素手で撃滅できるだろう、これなら数日で帰れるに違いないと思い胸を撫で下ろしていたのだが……
「また、この試練は船長であるイアソン殿が一人でこなしてくだされ。ヘラクレス殿のような豪傑が相手では牛は足一本も動かすことができますまい」
死刑宣告だった。
全員がイアソンの方を見た、青い顔をしながらそれを肯定した彼に無茶だと、この国を滅ぼした方が早いよと言外に語りかける戦士たちを無視してイアソンは口を大きく開けた。腹の中にこもった恐怖を押さえ付けるように肺の中へ空気を取り込んで、その全てを吐き出すように声を紡ぐ。
「それを行えば、確かに金の羊の毛皮をいただけるのでしょうね」
一国の王相手への念押し、これがただの民衆から出てきた英雄ならば王は激昂して自らに仕える戦士たちに殺すよう命令を下したのだろうが、イアソンは血統からして確かな王子である、対等とは言い難いがコルキスの王であったとしても広くテッタリアを治める王の息子だった男に嘘を吐き、礼節のない対応をしたのならば彼が器の小さい王であると口にしているようなものだ。
確かに、そうやって頷いたコルキスの王を見てからグッジョブとハンドサインを送るが冷静になれば牛の時点で瞬殺されることが目に見えているため状況は何も変わらなかった。
旅で疲れているだろうから今日は眠り、明日になってから執り行いましょうと声をかけたコルキスの王の言葉に従って船へ戻ってきた一行は完全にお通夜ムードであった。
イアソンにそれを成し遂げられるはずがないのだから、実質的に渡さないと言っているようなものである。この一年の旅にて、イアソンのことを船長として認めている英雄は多い。善性の心によって人助けを拒むことはなく、絶体絶命の事態に必ずと言って良いほどの最適解を導き出せる頭脳、それが最適解なら自分の体すら投げ捨てるくそ度胸、ナルシストな面は気持ち悪いし、平常はビビリで私の後ろに隠れてばかりだが、それと致命的でない程度に弱いという点以外は、どれもこれもギリシャの英雄としては好感が持てる要素ばかりの男なのだから真に嫌うことのできない憎めない一面がある船長として英雄たちは受け入れている。
私も勿論そうだが多くの人々がその死を惜しむ、今までのイアソンの努力が実ったようで嬉しいことだが、状況が状況のため素直に喜べない。最悪の場合はヘスティア様の加護を受けているため火に強い私の装備を渡すことも視野にいれなければならないのだが、ヘファイストス神が私の特注で作ったそれをイアソンが身につければパツパツになるためダサいことになる。丈が足りない部分が焼かれて死ぬことにもなるだろうからそもそも意味がない。
どうするか頭を捻っているアルゴノーツたちは何とかしてくれそうなアスクレピオスを頼ろうと考えたのだが、そもそもの死者蘇生が未だにできないのだから炭になった死体を蘇らせることなんてできるわけないだろうという正論が返ってきた、死ぬことが前提なのが酷い。
そんな中のことであった。
渦中に本人がいないことに気づいたのは。イアソンのことについて真面目に話していたら、本人がいなくなっていたのだ。私たちは焦る、敵意や害意が感じられなかったため本人の意思でどこかへ行ってしまったのは確実だろうが散歩に行くにしても何か一言伝えてからにしてほしい。
ボレアスの息子二人がうろちょろと空から探してみれば、何事もなかったかのように彼は帰ってきた。心配させるなと声をかける皆に謝罪した後にイアソンは覚悟を決めたような顔で口を開いた。
明日のことについては何とかしてみせる、私がこの顔をしてなせなかったことはないだろう。
そう言った彼の表情は確かな怯えとそれを覆い隠す覚悟があった。ならば心配はいるまい、そうやって寝床へ戻ったヘラクレスの足音を合図に、イアソンへ応援の言葉を口にしながら英雄たちは眠りにつくのだった。
翌朝。
これから自殺をする愚かな男を見に来たコルキスの民衆と各自で圧を飛ばすことで牛を畏縮させ言うことを聞かせるために頑張っているアルゴノーツ、半分がビビっている牛たちとそれを眺めるコルキスの王族たち。
処刑を娯楽として見る時代特有の薄気味の悪い空気感が広がり、私の心を蝕んでいく、イアソンの怯えが伝わるため朝食を吐き出してしまいそうだ。
頑張れ、でも、どうしようもなければ逃げてもいい、この場の人間を叩きのめしてなかったことにしても構わないのだから……。
イアソンに炎が吹き掛けられる。
人々は息を飲んだ、何故なら身に付けていた服以外を燃やすことなくその場に立っている青年がいたからだ。
怯えたままの牛たちは最後の頼みである炎が効かなかったことで屈服しイアソンの命令の通りに畑を耕した。その畑に竜の牙を撒けば当たり前のように骸骨の兵隊が現れる、大したことのない竜の物であったのなら脆い骨、そこそこの竜、古びた強き竜の牙であれば黒光りする骨、新鮮な強き竜の牙であれば剣と盾を持つ偉丈夫が現れるが、今回のものは黒光りする骸骨の群れ、脆ければイアソンにもなんとかなったが……いくら炎が効かなかったとはいえ、これ程の骸骨の兵隊が相手ならどうしようもない。
畑に撒いたから私たちも参加して良いよね、そうやってコルキスの王に問えば、それは許さないと返す……魔術で作られたであろう障壁を眠らせて破壊する。
イアソンより弱い民衆を狙う骸骨、ふんぞり返っていた王族を狙う骸骨、広がった地獄絵図を止める者はいなかった、手を出すなと言われたからだ。
おそらく魔術師だろう王族の一人が再度障壁を張り直した頃には残った少しの骸骨を倒したイアソンは持っていた剣を高く掲げた。
試練は果たされたのだ。
約束に従って金の羊の毛皮を差し出せと、脂汗を流す王に伝えたイアソンに彼は怒りに震えながらもゆっくりと口を開いた。
「イアソン、貴様は何かのズルをしてこの試練を果たしたに違いない。しかし、約束は約束だ、我々の宝である毛皮はあの森にあるだろう……」
負け惜しみのようにできるわけがないがなと口にした王は足早に処刑場を去っていった。試練を成し終えたイアソンを胴上げするアルゴノーツたちに当たり前だと終わったから言える強がりを口にした彼の言葉を否定する者はいなかった。頑張ったのだから、どれだけ安全だとしても心が恐怖に負けていたのなら意味はない、それを成し得たお前は確かに勇気ある者だと、称賛が鳴り止んだのは拍手の中に加わった少女、コルキスの王族であるだろう魔術師の姿を見てからである。
曰く、イアソンのことが気に入ったことで手助けがしたくなったらしい。彼が燃えなかったのも、戦士との戦いで勝つことができたのも、自分の作った薬によるものだと語る彼女に英雄たちは少しの困惑を後に、イオルコスの王が毛皮を偽物だと否定するかもしれないため、その証人として連れていっても良いんじゃないかとしたイアソンの言葉を肯定して受け入れた。
それからは全員で語られた森へ歩き、私とオルフェウスが眠れないことで悩んでいたドラゴンくんを安眠させて無事に毛皮を入手することができた一行、物資を潤沢に用意して風を受けて出港したアルゴー号だったのだが……
「あねさま、いかないでください」
娘である少女、メディアという名前とのことだ、が拐われたということを理由にコルキス王の追手が現れたのだ。本人に聞けば一緒に行くと伝え同意されたと語っていたし、彼女の言葉に嘘はなかったため、逆恨みどころか狙ってやったのであろうそれを沈没させてやれと怒るアルゴノーツだったが、その船に幼い子どもが乗っていたことに気づいたアタランテの制止によって踏みと止まった。
そこで飛び道具を私が打ち落とし、数十mは離れている船にヘラクレスが飛んでいって制圧、ちびっこと少女が話し合える場を整えていざ対談となった時に私たちの心境は完全にちびっこ寄りのものになった。仕方ないだろう、可愛らしい少年が大好きなお姉ちゃんと別れなくてはならないという事実を受け入れることができるわけがない、イアソンが如何にろくでなしかを語ることで少女を諦めさせようとするアルゴノーツたちだったが、彼女の決意は固いようで首を縦に振ることはなかった。
これだけなら良かった、今度は弟くんを諦めさせようとすれば良いだけだ、幸いにも向こうの船員たちはメディアが拐われたと思い込んでいたようで、幸せそうならそれで良いだろうと思える人間たちであった。
キィン……
不快な音、魔術を使う音、この場で絶対に聞こえてはならない音、それに瞳を開いてちびっこと少女を眠らせる。
驚いた船員たちにくしゃみが出て目が開いてしまったと語れば仕方ないとお開きになった。少し早くに起こした弟くんは仕方がないと涙ながらに別れを告げた。子どもが諦めたのだから大人がそうしないわけにもいかない、況してや小さな子どもだと思っていた王子が決意したのだからそれを従わないわけにもいかない、不満を持っていた一部もおとなしく帰っていたメディア救出隊たち、平和的に終わったことで安堵したアルゴノーツだったが、私はどうしようもない不安に襲われている。
このメディアという幼い魔女がイアソンに害を及ぼさないか心配なのだ、彼女の感情が純粋な恋情であることは理解することができたがそれにはどうにも唐突な恋、ヘラクレスに惚れたとかならわかるが……彼女のような強力な魔女が誰かに暗示や支配をされるとは思えないため……。
少女の単純な資質、あのタイミングで弟を殺せば確かに事態は解決する、血塗られた剣と引き換えにだが、それが最も効率的だと、弟を言葉で説得するよりも早いからそのような手段を選んだのだと考えればそれは危険なものだ。
それとなくイアソンに伝えてみたが、本人へこちらから恋愛感情を向けることは絶対にないと直接伝えたらしく、それで安心しきっている。
何も起こらなければ良いのだが、そう思って吐いたため息が現実のものになるとはこの時の私は想像してもいなかった。
「やっば……翔べないかも」
「すまん、アイオロスの元へ向かう余裕もない」
嵐。
皆覚悟はしていた、一部はその程度のことで我々が足を止めるわけがないと侮っていた。
その、船乗りたちの絶望が現れた。
風の神であるボレアスの息子たちですら翔ぶことができず、ボレアスの上司的存在であるアイオロス、風を袋に閉じ込めることができる、の元へ行くことすら許されないまま、アルゴー号は地獄のような空と戦っていた。
ある者はアイオロスへの感謝を忘れたことからこれが起こったのだと嘆き、あるものは道中でポセイドンの息子を殺したことがこれを招いたのだと他者を責め、あるものはメディアをここまで連れてきてしまったことを怒るコルキスの土地神の怒りだとメディアを突き落とそうとした。
阿鼻叫喚の船をオルフェウスが落ち着かせることができなければ、男たちは海の藻屑になっていたかもしれない。目指すはアイアイエー島、メディアの叔母が住んでいるらしいその島へ辿り着くことができれば嵐が止むまで耐えることができるとのことだ。
英雄たちは必死で船を漕ぐ、体が疲れれば交代し、お互いに震える体を暖めながら辿り着くことができたアイアイエー島、コミカルな見た目をした動物たちが沢山いるその島、誰かいないかと散策しようとした一行をメディアが一度抑える。
「待っていれば、この島の主はここに来ます」
その言葉に従い砂浜で体を休めていると島の主は現れた。長く伸びた髪と幼さの残る顔つき、背中から見える大きな猛禽類の羽、人間ではないことが確かなその少女はこちらを一瞥すると腕を広げて私たちを歓迎した。
「ようこそ、アイアイエーへ、このキルケーが君たちをもてなしてあげよう」
その言葉に甘えて嵐が止むまでここで過ごすことを決めたアルゴノーツだったが、私はどこかで聞いたことのあるキルケーという言葉を反芻していた。何か手懸かりがないかといつものリュックを探してみると、出発の前にケイローン先生から渡された木の札、そこに描かれた指南役を頼むという文字と先生のサイン、裏に書かれたキルケーへの文字にやっと私は彼女の正体に気づくことができた。
ああ、彼女はケイローンの語っていた魔術の指南役であったか……。
その事に気づいた後は早かった。
この島で離脱することを皆に伝え、涙で湖ができた、今の仕事をヘラクレスやアタランテ、ディオスクロイの二人に代わってもらい、この島にいる時までは船の掃除なんかを任せてくれと語る。
そして、大魔女をできるだけ読み取れた情報から嘘がないように機嫌良くさせてからケイローンの言葉が書かれた木の札を渡す。快く受け取ってくれた彼女に感謝を捧げ、アルゴー号を掃除する。
私がこれから乗ることはないが、私の友を乗せていく船だ。できるだけ丈夫になりますように、できるだけ綺麗でいてくれますように、届くように願いを込めて、加護を渡すようなつもりで磨けば船体が少し黒くなってしまったが、汚れではないので問題なし。
最終日にオルフェウスとのアイドルライブで皆を送り出し、私のアイアイエー島での日常が幕を開けた。
「ふむふむ、それじゃあ、これが終わったら私の寝室に来たまえ」
「このような深夜にも魔術の勉強をさせていただけるのは光栄ですが、私はあなた様の体が心配です。今日もゆっくりお休みください」
「むぅ……おやすみ」
超常存在との日常は命懸けだ。
それが自分に好意的な感情を持っているというのなら強く警戒すべきであるというのはケイローン先生からの教えである。
アルゴノーツが去ってからの彼女は毎日のように麦粥、キュケオーンというらしい、を私に食べさせる。味は良いため文句はないし、そのことを伝えると嬉しそうにするため不満はないのだが、その中に毒草を入れるのは如何なものかと思う。
彼女より早く起きてから掃除をして、自分の洋服を洗濯もしていることで気づいてしまったが、彼女はあのキュケオーンという麦粥を自室で作っている。立派な台所があるにも拘わらずだ。
ちなみに、一度だけ見せてもらった彼女の自室は隣にある研究室と大差なかったため、毒薬や睡眠薬、私の知らない魔術的なものを仕込んでいることは確実である。本人も人体実験だと認めていた。
故に私は料理を直接見ることでそこに眠る毒素や害意のあるものだけを集中的に見ることで食道を通り抜けていく間まで、その害意を眠らせる必要があった。
それによって毎度食事の度にゴーグルを外して食べることになったのは流石に面倒だった。彼女は私が食事をしている際に必ず対面して座っているため、彼女に味の感想を伝えるためにそちらを向く時にはゴーグルを着用しなければならない、この着脱が面倒だ。
面倒だから止めてくれないかと頼んだら、そしたら魔術を教えないと言われたため諦めるしかなかった。
次に、寝室に誘ってくることが辛い。
女神に寝室に誘われて、そのことが性行為のお誘いだと気づいてしまえば一巻の終わりである。嘘は見抜かれ、相手が既婚者であろうとお構い無し、襲われて搾り取られて死ぬことになる。
それに、相手はギリシャ基準でも稀に見るような美少女である。それが毎晩誘ってくるのを古のラブコメにいるような鈍感系主人公のような思考で乗り切らなければならないのだから勿体ないと心が思いそうになる、それでいて普通に断ると悲しそうな顔をして明日の授業で目に見えて落ち込んでる姿を見せるのだから、私は男の子の心に眠るイタリア人の精神を引っ張り出して機嫌を取らなくてはならないのだ。
一ヶ月が過ぎると彼女から相手がお客さんであるという認識がなくなったのだろう、堂々と人体実験を行うようになってきた。ついでに遠慮がなくなってきたのかボディタッチが増え、水浴びの後に堂々と裸で島を歩くようになった。勘弁してください。
実は島の動物たちは全て元人間だとか、私は魔女だけど女神でもあるだとか、何かとびっくりなカミングアウト、別に驚きもしないカミングアウトを受けたりして一年が経過した。
私はまだ童貞のままである。
ヘスティア様の依頼で島を離れる時以外は基本的に常にこの島にいたことで、第二の実家になりつつあるこのアイアイエー島。
魔術の神であるヘカテの弟子であり、自身も女神である大魔女キルケーが出来の悪い生徒である私に下した結論は……
「うん、君は既に魔術を使っているはずなんだ」
突拍子もないものだった。
散々に使えないのはあれが理由だろう、これがわからないからだろうと煮詰めていって、並みの魔術師よりも知識だけなら蓄えられていた私が魔術を使えなかった理由は既に使うことができていたからだというのだ。
「君の魔術回路は間違いなく優秀だ。だからこそ何を掴めていないのかを私と君は探っていた」
ああ、そうだ。
彼女から言われた驚くべき事実として私の体は魔術を使う土台としては最高峰といっても過言ではないというものがある。地頭も悪くない、理論派の魔術師であったとしても魔術を安定して使うことができるだけの知識もあると。
「そこで最近は君をずっと見ていたのだけど……君の体は常に異常なし、魔術を使おうとしても揺らぎはなし、そういう体質もいるからそれかとも思った、けど逆に考えれば常に魔術を使っていたとしたら辻褄が合う」
……ありえない。
「私だってそう思っていたさ、でも、そうでもなければ君が魔術を使うことができないことを説明できない。何か、心当たりはないかい?」
……ひとつ。
「うん!ならそれを教えてみて」
……昔話が挟まりますし、長くなりますが。
「構わないよ、どれだけ長くても一年を越えることはないだろうからね」
前に、起源について話されましたよね。
「ああ、そうだね。属性についても」
属性は確か水と地でしたが、私に起源というものが備わっていてそれを魔術として行使しているのなら……
「私の……私の過去の……」
真剣な表情で私の声を聞く彼女に少しだけ見惚れる、その後に雪崩れ込むような感情が暴れる。
話すつもりなんてなかった、これを話せば貴女は私から離れてしまうかもしれない、私を奇妙なモルモットだと思うかもしれない。
「大丈夫、君は嘘をつかないからね。どれだけ突拍子のないことだろうと受け入れるさ」
迷いは晴れない、けれど心は晴れた。
「私がこのギリシャに産まれ落ちる前のことです」
今生の家族にすら信じてもらえなかったこと、私の前世についての、二つの時代を生きてきた私の「魂」のお話になります。
魔女は黙って瞳を閉じた、信じると神が口にしたのだから一言一句聞き逃すまいと耳を澄ませる。
「私には……見えないものが見えていました」
ここから先はCM(他者視点)の後で
どちらが先?
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一話完結のギリシャ異聞帯
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短編のオケアノス
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幕間の二人