あなたの終わりを眠りと共に   作:アメフラシ

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 アンケートの結果、ギリシャ異聞帯が最初になりました、書くのが難しくて遅くなりました、山場もない淡々としたものになってしまいましたがお楽しみいただけると幸いです。


ギリシャ異聞帯

 

「モルス、生きてたのか!」

 

「しっ……‥うん、大丈夫そうだね」

 

 

 異聞帯のオデュッセウス、神霊カイニス、そして心無き衛星兵器アルテミス。ギリシャ異聞帯に到達したカルデアを待っていたのは絶望だった。海が大半を占めるこの異聞帯にて主な移動手段であるノーチラスを破壊され、幸運にも島へ漂着したカルデアのマスター。

 命の恩人となった暗殺の天使シャルロット·コルデーと三つ星の狩人オリオン、ストームボーダーの面々を救出してくれた最大の海賊バーソロミュー、シャルルマーニュ伝説に登場する英雄マンドリカルド、そしてヘラクレスの敗北に心を折られながらも自らの宝具の呼びかけに応えてくれた英雄たちが未だに戦っていると聞いて奮起したアルゴー号の船長イアソン、ヘラクレス島での悲劇によって協力者のドレイク船長を失いながらも島を転々としていた新生アルゴノーツたちは死亡していたと思っていたギリシャの英雄モルスと遭遇することとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむふむ……またアルテミスがやらしたってところかな。となると、オリオン、これって宇宙まで飛ばせる?」

 

「え……いや、まあ、できるだろうけど?」

 

「良いじゃん、今回の霊基は普通のアサシンだけど同じ冠位友達としてあれの足止めは任せてよ。なんなら倒しちゃうかもね」

 

 

 多くの友人が殺された、名前も知らない英雄たちが塵となる姿を見てきた、死に恐れはない、それが反撃の糸口になるのなら迷わずこの身を投げ出そう。けれど、無限に再生するような戦力を相手に闇雲に戦うのは愚策でしかない。

 イアソンの宝具によって呼び出されたアルゴー号の船員たちは支援魔術を得意とする者はヘラクレスの援護を、単純な戦闘能力に優れた者はアルテミスの攻撃によって一網打尽にされないためにも各地へ散らばるように命令があった。オケアノス同様、召喚された瞬間から命の危機に晒されているイアソンは常に虎口にて閃くのスキルが発動していることもあって今の己にできる最適解を即座に導き出し……それがヘラクレスの敗北を視野に入れたものであることに気づいた頃には全てが終わっていた。

 親友であり、間違いなく最強の英雄であると私も思っているヘラクレスがただの3発の攻撃によって十二の試練全てを突破され、消滅したことを、それが自分たちを庇うために動くことすらできなかったことを、その全てを理解するとイアソンは折れた。

 これに関しては勝手に立ち直ることが多いため、アルゴノーツたちは一旦それを無視して各地でゲリラ的に戦いを始めたのだが……この船員たちはどうしようもないほどお人好しが多い。現地の住民たちと仲を深めてしまうと己が原因でアルテミスの裁きを受けることになる彼らを守るため宝具を使ってでもそれを押し止めようとしてしまうのだ、そのために守るべき者たちに責められるようなことがあったとしても。結果、アルテミスの攻撃を受け止めることができても、大規模な魔力の放出によってオデュッセウスに発見され殺される。

 私もそうだ、現地の住民との交流を深めると気づいてしまう。彼らのそれが凡人類史のそれとはまるで違うことに、けれど少し見ただけでは善良な人間に見えてしまう。その本質が神への奉仕生物でしかないことに気づけない者も少なくない。

 それすら、真っ当な英雄の足を奪う罠だとしたら、あの小僧の腹の黒さは英雄のものではない、合理の果てに行き着いた怪物のものだ。

 

 私は潜伏を選んだ。

 いずれ訪れるであろう凡人類史のカルデア、もしくはキルケーさんの召喚を待つことにした。新月の夜の二人ならばアルテミスを相手にしても勝てる自信がある。けれど先に現れたのはカルデアだった。いや、ガッカリしたなんて口にすれば失礼にもほどがあるためできないが……しかし、彼らの連れている英雄の一人を見て話が変わった。

 オリオン、古今東西の狩人の中で最強格の存在であり、星座の知名度もあって圧倒的な強さを誇る英雄、そして冠位の英雄。最近、山の翁のお爺ちゃんが冠位を返上したことで自分にそれが回ってきたと思えば、よくわからない南米の神がそれを持っていったことで疎遠になっていた冠位のアーチャー。

 

 そして、私を宇宙へ飛ばすことのできる剛力を持ちながら百発百中の腕を持つ英雄。

 

 

「……頼むぞ、モルス」

 

「了解」

 

「え、まじ……ホントに良いの?」

 

「勿論」

 

「話が見えてこないんだけど……」

 

 

 困惑するカルデアのマスターへ微笑む。

 束の間の平穏に心を落ち着かせているのだろうか、少しだけ思考を止めているのだろう。

 

 

「うん、私がアルテミスを足止めするってこと。君たちはその間に目的を果たせばいい」

 

 

 簡潔に、それだけ言って丸太ほどの大きさをした矢をオリオンに投げ渡す。私だけでは宇宙空間へ行くことは難しい、あの翼は大気圏を飛ぶものであってそれを突き抜けることはできない。イカロスのように落ちていくのが関の山だ。

 けれど、オリオンに飛ばしてもらうのなら話は別だ。数多の英雄の中でも宇宙にまで弓を引くことができるのはアーラシュや藤原秀郷のような一部を除いて彼くらいである、その弓にしがみついて宇宙へ行けばなんとかならないこともない。

 

 

「それと……足止めだから攻撃手段は必要ないし、これを渡しておくね」

 

 

 ヘファイストスに作られた双剣、盾と対になっているため単独では彼らの目的にそぐわないだろうが、計画が上手くいけば最高の目印になる。おまけ程度の私の加護があればマスターも流れ弾で死ぬようなことはないだろう。

 

 

「それじゃあ、行ってくるね」

 

 

 貴女に貰った鷲の翼を広げ、弓兵のつがえた矢に体を止まらせる。このような冒険を死後の終わりの後にやらせてくれるのだから人生というものは面白い。

 

 

「それと、八分くらいで射るのがおすすめかな。そこまで飛べば自分で行ける」

 

 

 刹那の浮遊感、迎撃目的で放たれる極太の光線を魔眼で打ち落として矢から手を離す。

 

 

『ふぅ……』

 

 

 巨大な女神の神体、辛うじて視認できるそれに挑発的な笑みを浮かべる。私への記憶はないのだろう心の揺らぎはまるでない。

 

 

『この世界は星の夜である。この世界は混沌の闇である。この世界は光に満ちている。この世界は太陽の昼である。我が身は既に死と共にあり、永遠の眠りのままにある。これは世界への義憤であり、魂のみの命である。この世は所詮胡蝶の夢であり、私の命は運命と共にあり』

 

 

 闇夜の加護、その全ての条件を強引な解釈によって解放する。こうでもしなければ役目を果たす間もなく殺される。神造兵器こそ持っているが、全方位に攻撃することが可能な存在との相性は最悪なため彼らに託させて貰おう。本来ならやりたくないのだが、これがないだけでオリュンポスに辿り着ける英雄の数が膨れ上がることになる。そして、この役目を務められるのが私しかいないのならやるだけの価値がある。

 

 迫り来る死の光に瞳を開く。

 

 宙を逆転させ、上下を反転、地上から見て上に沈んでいく光に安堵の息を漏らす。とりあえず、即死はなさそうだ。できるのなら誰かがアトランティスを攻略するまで、アルテミスを破壊するまで……

 

 

『それじゃあ、始めようか』

 

 

 

 最初は問題なかった。

 回避するだけなら余裕はある。腕にある丸盾が頼もしく、反撃をするだけの隙もあった。回復を優先して動かなかったが。

 

 

 癖を読まれるのは早かった。

 己の本来の癖は使わずに、アルゴー号の友人たちを模倣して戦っているため、これから三十人の戦闘データを完璧に読み取られれば己は負ける。

 

 

 相手の行動パターンは想像の数倍わかりやすいものだと気づかされた。

 合理的で完璧な計算を前提にしているとなれば、それを想定した動きをすれば回避だけなら可能だ。それを想定して放たれる攻撃は完璧でないからこその隙がある。

 

 

 そして己の弱点を見抜かれることとなった。

 単純だ、相手は確かに一撃で消し飛ばすのが楽だからといって太いレーザーをメインに放っていたが、前述の通りに私の弱点は全方位からの攻撃である。

 

 

 細かい攻撃に切り替えられてからは体が崩壊していくのを感じる。ただの糸のような光に体を蝕まれ、再生することすら儘ならない速度で削られていく。

 

 

 そして。

 

 

 回避を許されない程に機動力を奪われてからの必殺の光線、わかっていながら避けられない己の体に怒りを覚える。

 

 

 けれど、これで繋がった。

 

 

『この身に御座します神々よ、願い奉ります』

 

 

 オリオンの気配が、濃密で誰よりも女神を愛おしく思う感情が駆け抜ける。

 

 

『人理にそぐわぬ異聞の地にて、枝分かれして途絶えたこの地にて、叶わぬ願いを口にします』

 

 

 第一の矢、障壁は破壊された。

 次に二の矢、相殺されることを考慮しなくてはならない最も難易度の高い一撃、それが暴かれ相殺されて宙に消える。

 

 

『どうか彼らを助けたまえ、凡人類史の最後の勇者を、駆け抜ける一矢に祈りを……』

 

 

 光が駆け抜けるのを感じる。

 懐かしい光、忌々しい太陽の光を感じるがそれすら喜びの色へと変ずる。

 

 

『あはは……それじゃあ、よろしくね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『息子の願いを聞き入れて来てみれば、随分とお怒りじゃないかいデメテル?』

 

『ああ!ペルセポネ……』

 

 

 オデュッセウス、アルテミスを撃破し、海神ポセイドンを突破し、オリュンポスへ辿り着いたカルデアを待っていたのは青銅の巨人タロスにディオスクロイ、そして狂わされた農耕神デメテルに愛の女神アフロディーテ、霊体化していたホームズや宮本武蔵との共闘、ロシア異聞帯にて対峙したカドックの助力がなければ逃げることすら許されなかったであろう戦いの中で、凡人類史の英雄たちが作り出した七十連英霊砲という兵器の存在を教えられる。街もろとも破壊するデメテルの撃破のために、カイニスへゼウスを倒すまでという条件で同盟を結んだカルデアは狂乱する女神の眼前に立つ。

 

 

『凡人類史の諸君、七十連英霊砲、神霊カイニス、これだけでも素晴らしいが確実にするために、助力は必要ないかい?』

 

「モルス……でも雰囲気が違うよね?」

 

「なら、モルスさんが中にいると話してた神様の一柱でしょうか?」

 

「ああ…‥匂いが似てるな。淡水の香り。てことは眠りの神、ヒュプノスだろ、お前?」

 

『ご明察、援護させてもらうよ』

 

 

 ヒュプノスはそれなりに怒っていた。

 神話の中で、そのエピソードがないように彼はかなり甘く優しい神である。最近はクトゥルフ神話に取り込まれそうになりながら息子の知名度によってなんとか神格を保っているような存在でしかない。

 けれど、息子が全身全霊をもって戦った後に願ったのだ。あのアルテミスを相手に痛かっただろうに良く頑張ったと褒めてあげたい彼の体を使って召喚することしかできなかったことに怒っているのだ。行きたそうにしていた両親に息子の体が危ういから出る時は一瞬だけにしてくれと頼んで自分が出ることなった。

 とはいえ、息子の体を使っても前線で戦えるような才能はないためあくまでも援護だが。

 

 

『休みたまえ君は頑張ったよ……今だよ』

 

『ああ……!ああ……、……』

 

 

 眠りの力、相手と目を合わせながら眠りつつ目を開いていても届かない絶対の力。力を失ってこそいたがゼウスを眠らせることができる程の力を持つ、それを使えば全盛期の神であろうと弱体化を免れない所謂クソゲーの極み。

 歯応えがねえなと槍を振るうカイニスを補助しながら戦うヒュプノスによって生まれた最大の隙。

 

 

「彷徨海の待機ミッション中、実装シミュレートは済ませています……!」

 

 

 アトラス院が造り出した七大兵器のひとつ。

 

 

「実行します!刻寿測定針、測定開始!」

 

 

 世界を滅ぼすことすらできるアトラス院の兵器『ブラックバレル』の展開。

 

 

「やろう、マシュ!」

 

「はい!先輩!」

 

 

 令呪装填。

 

 

 放たれる神を殺す一撃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ああ、漸く務めを果たせる』

 

 

 最高神ゼウスの敗北をもって単純な異聞帯の戦力は消滅した……はずだった。

 今、空がひび割れたように空間が開き、その歪みから巨大な瞳が現れる。

 

 

「これは……一体、何が起きて……」

 

「ゼウスの野郎はぶち殺しただろうが!これ以上、機神は一機もありゃしねえはずだろ!」

 

『ああ……あれね。父さん、よろしく』

 

 

 オリュンポス十二機神の源にして大本となる星舟、星間航行用超巨大母艦カオス。近代の神話に吟われるヨグソトースのように全ての宇宙にて同一の存在である機神たちの存続を第一とする迷惑な存在。

 

 

「……………え……………?」

 

「アレスが消えた……?」

 

 

 その目的はあくまでもオリュンポス十二機神の存続に他ならない。そしてそのためにはゼウス、旗艦兼星間戦闘用殲滅型機動要塞の存続が不可欠である。故に、重要度の高くないアレスの反逆を即座に鎮圧……消滅と呼ぶのが正しいだろうが。

 

 

『カオス、オリュンポス十二機神の母艦にしてその存続を目的として動く厄介な機械……そして』

 

『余の獲物だ』

 

 

 地上にも濃密な闇が広がる。

 凡人類史の人間たちを守護するかのように、天の瞳と同じく空間を喰らうかのように現れたのはモルスの中にいたヒュプノスとは違う「何か」の気配。

 

 

『余の名はエレボス、凡人類史のガイアの意思のひとつであり、汝らの友であるモルスの祖父だ』

 

 

 放たれる闇の権能と十二機神の権能の衝突。

 

 

『何を呆けている、汝らの目的はこの異聞の切除であろう。余が抑えている間にあの狭間を塞ぐか本体を殺す手段を考えろ』

 

「エレボス神、貴方の力で」

 

『……依り代が崩壊する可能性が高い。故に、未来の神に二刀流の剣士よ』

 

「うむ」

 

「……ううん、待ってました!」

 

 

 ストームボーダーの防御を担当するエレボス、近づくまでの道を切り開くロムルス、そして……

 

 

「我が天眼、この一戦の為にあり」

 

 

 カオス本体への攻撃を任された宮本武蔵。

 

 

伊舎那天にお納め奉る!

 

 

 その一閃によって最後の破神は成った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どちらが先?

  • 一話完結のギリシャ異聞帯
  • 短編のオケアノス
  • 幕間の二人
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