あなたの終わりを眠りと共に 作:アメフラシ
水曜日の遅刻、申し訳ないです……。
「アキレウスは私の義理の息子だから、メディアの従兄弟になるんだよね」
「そして私と貴方、アタランテはアルゴノーツのメンバーで繋がっている」
「なんというか、狙って召喚されたような気すらしてくるよ。いや、宝具で召喚されてるのを単独行動スキルで誤魔化してるだけなんだけどさ」
コルキス魔女メディア、私にとっては親友を奪った相手であると同時に親友、彼女のそれは恋慕だったろうが、を失った悲しみを共有する同士、キルケーさんの姪ということもあって関係としては血の繋がらない親戚といったところだろうか。そんな彼女を発見したのは魔力補給のための食料が足りなくなってきたために別の島へ移動した時のことだ。
アキレウスの戦車は使うわけにはいかないため、私の背中にアタランテを背負わせて海を走ることで島を移動する。ちなみにアタランテを持ってきているのは砲台担当としてである。
水に沈む前に足を出せばなんて話を聞いたことがあったが、そんなことができるのなら神話の英雄は船で旅をしたりしないと声を大にして言いたい。けれど、私は海水と混ざらない冥界の川に包まれているため沈むことは絶対にない……らしい。こうやって死んでから逸話が力になることもあるとは知っていたが自分がそれを体験するとひたすらに困惑するしかない。
生前はできなかったことを当然のようにできるようになっているのは無茶苦茶だ。確かにヘラクレスの十二の試練もそれに分類されるのだろうが、私としては、そもそもが絶対的に強いためバーサーカーの時の実質的な弱体化の引き換えにだと思っているのだけれど……アーチャーでも残機があるとかなら私も抑止力くんに文句を言わなくちゃならない。
ちなみに私と抑止力くんとの関係は比較的良好である。曰く、何もない時には冠位に該当する霊基と違う状態で召喚されてくれる常識を持ち、道理に沿わない命令でなければ従ってくれる従順さもあるのが助かるらしい……というか、何もない状況で冠位に該当する霊基で召喚されようとしている連中がおかしいだけなのだと思う。
まあ、人理とは私の想い出そのものであり、絶対に守るべきものなのだから、それを守るために必要ならなんだってやってみせるとも。
まあ……今回はその抑止力くんが雑にイアソンを召喚するやらかしをしたことでヘラクレスと戦うことを強いられているわけなのだが。
ああ、そうだった。
海を歩いている感覚は面白い、私の足が水面を踏み締めると海がそれを拒むように避けるのだ。
けれど、それは水面だけ、海の中は岩のように固くなって私の侵入を阻むようになる。とんとんと叩いて手を入れてみるとビーズクッションのように腕が沈んでいく、試しにアタランテと手を繋ぎながら水に手を入れてみれば確かに川に手を晒した時のようにサラサラと波が流れていく。
まあ、アルゴー号に見つかってしまえば危険なのはわかっているが、この引っ越しは平和な山で過ごすだけの日々で歯ごたえのある獣が見つからないことが不満げなアタランテの機嫌を治すことも兼ねている。魔力を消費しにくいことで銀さんとワイバーンくん改めて白くんを呼び出すような行為ができなくなるのは実際に面倒なので、主目的はあくまでも美味しい食べ物がたくさんあるか、上質な霊地となる島を探すことなのだが。
「あら、久しい顔ね」
「あ、メディア、こちらこそひさしぶり」
そこは他の英雄にとっても恵まれた環境だったのだろう。アキレウスと同じように抑止力によって召喚されたのであろう彼女はメディア、神代の魔女であり頼りになる姪であると同時に今回の首魁は彼女の幼少の姿であることことから本当に信頼していい相手なのか心配になる存在でもある。
そんな彼女と出会ったのは非常に豊かな海にある小さな島であった。透き通るような海は見るだけで山のような海産物が蠢いている。メディアがいるのも納得のマナに溢れているこの場所、完全に工房になっているこの空間でモキュモキュと彼女の作った料理に舌鼓を打つことになった私とアタランテ……アキレウスを忘れていたことに気づいた頃にはメディアの工房で一夜を過ごすことを決定していたのだが。
「ああ、親父が話してた」
合流完了、有り余る魔力で呼び出した白くんと銀さんに送ってきてもらったアキレウスに謝罪しつつ、集められそうなとりあえずの戦力は合流完了。
「ええ、私も聞かされたものよ……時々相談しに来てたのよ。どうやったら立派に育つのかとね」
二人とも相性が悪いわけではなさそうだから安心した。ギリシャの脳筋って魔術師が嫌いな人が多いから心配になってたんだけど問題なさそうだね。
「……昔の親父の話とかって」
「そうね……だったら」
うん、良いことなんだよ。メディアとしても親戚の息子さんとして甘く接してるみたいだし、アタランテの方も襲いかかってくるワイバーンや海賊なんかを蹴散らしてストレスを解消させてるみたいだし。
でもね?
「君たちはなんで人型になってるのかな?」
「……それに関しては深いわけがございます」
「といっても、ご主人様がローマで神様をやってた時に仕事を手伝うためにこの姿になったのが肖像にされちゃったのが原因なので……」
白さんは一族を守ってきた感の漂う白髪の老執事になってるし、銀さんはショートボブの銀色メイドになってるし……未来の私と頑張ってくれてた二人には本当に申し訳ないのだけど正直困惑してます。確かに絶対的な美形なのとか常に敬語なのは納得がいくけれどペットが普通の人間になってしまうのは飼い主的にかなりショック……。
とはいえ、それ以外に特別なことはとくにない、メディアがどこから持ち出したのかわからないような衣装を私に手渡してくるのはそれなりに困ったりもしたけれど。
そんな平和な……。
「親父、ひさしぶりに頼めねえか?」
「オッケー、あの時とはものが違うから油断したら一瞬で終わるからね」
「ああ、懐かしいな!」
平和な……。
「あれは……ドラゴン?」
「いえ、我々の時代とは格が違いますので……自分が片付けてしまいましょう」
「私も手伝いましょうか?」
平和……。
「君は……素晴らしい目隠れの素質を……」
「構わないけどそれが終わったら死んでね?」
「あっ……」
まあ、平和な日々を過ごしていた中で。
「漸くってところかな……」
「最初の接触は私が」
「いや、初撃が私だから任せて」
「承知した」
カルデアとアルゴー号の衝突が始まった。
「よし、ヘラクレス。あそこに集っている有象無象のガラクタ共……いや、違う!そこの弓兵!全力で私を攻撃し、ぶへっ!?」
「気にする必要はありませんよ、ヘラクレス。イアソン様はあの船を沈めて欲しいそうです」
エドワード・ティーチの一味、エイリークやアン·ボニーとメアリー·リードのような強力な英雄たちの集う「アン王女の復讐」を撃破したカルデアたちに待っていたのは最古であり最強の海賊船である……。
「オリオンさん、アルゴー号って
「はい、ご名答だコン畜生!数は随分と少ないが、ありゃ正真正銘のアルゴノーツだ!」
『藤丸くん!あれが本当にアルゴー号なら危険だ、ドレイク船長に頼んで撤退を!』
アルゴー号。
最高峰の実力を持つ英雄たちが集うその船で繰り広げられるコントに困惑しながらも、その脅威をカルデアの職員たちは確かに理解していた。見る限り人数こそ少ないがそんなものは眼前にいる大男、ヘラクレスという絶対者によって簡単に覆される……。
「ヘラクレスは死なないんだよ。十二回殺さなければ……だから全員で一度下がれ!そうでもしなければ、ぼごっ!?」
『って、大丈夫かい、イアソン……いや、敵対サーヴァントだから同情は必要ないかもしれないけど』
「マスター、ドクターの言うように一度撤退を!」
魔女メディアによって分断されたマシュはカルデアの味方をしてくれるサーヴァント、アステリオスがヘラクレスに致命傷と呼ぶに相応しい攻撃をしたのを目撃した。
その一瞬の気の緩みに、射し込まれるメディアの魔術、アルテミス、ドレイク船長の攻撃もまるで通用しない巨躯の怪物、それだけでもどうにもならないというのに撤退のために船を動かすことを許さないヘクトール。
どうすれば……。
思考しなければ、それを止めることは敗北になってしまうが、その余裕すら今はない。その刹那、アステリオスに振り下ろされる大英雄の一撃に、諦めに近い感情の芽生えを感じてしまった人々へ……。
「ふぅ、やっと確かな隙を晒してくれたね?」
『
誰よりも平等な死神は、敵対者であるはずのアルゴー号の女神は微笑んだ。
斬撃による一回、宝具の即死効果によって一回、既に四回の死を迎えていたヘラクレスの命を削る。
「良いだろう、狩りの時間だ」
『
「もう、遅い!我が戦車は星のように容赦なくお前たちを引き潰す!」
『
「ただでさえ魔力の供給が難しいのに……宝具を連続で放つ余裕なんて本当はないのよ?」
アタランテの天穹の弓、限界まで引き絞ることでヘラクレスの十二の試練によるランクB以下の攻撃を全て無効にする能力をすり抜けるランクAの火力を持つ一矢による一回、アキレウスの戦車による一撃が二回、この刹那に大英雄の五つの命を奪い去る。
「私とアキレウスが殿になるから、君たちは迷わずに逃げてね!」
『アキレウスだって!?』
即座に船を動かすドレイクと船に乗り込んできた二人の女性、アルゴー号から逃げることも儘ならないような既に動かないはずの船がギリシャの魔女の魔術によって風を受けて進み始める。
「凄い……」
「あら、この程度は序ノ口よ?」
「貴女は……オリオンさん?」
「ああ、驚くかもしれねえが……あれこそが本物の、全盛期のメディアだな」
「ええ、昔の私が迷惑をかけたわね……」
「それに……えっと」
「アタランテだ。前はフランスで顔を合わせていたがあの時は狂化されていたからな。今はアーチャーの霊基で召喚されている」
ひと息つけるだけの距離を稼いだことで自己紹介を始めたカルデア一行と二人、何がどうなっているのか意味不明な状況になりつつある中で困惑するロマニを置いて時間がゆっくりと経過していく。
「ふぅ、なんとか逃げきれたね」
「ああ、親父の竜ってだけあって気遣いが上手い……いや、クサントスが拗ねるかもしれねえな」
やがて、何事もなかったかのように帰ってきた二人を加えての対ヘラクレス作戦会議が始まるのであった。
『アキレウスの苦悩』
「うんうん、やるねえ、それならこれは?」
「当たらねえよ……つーか、技術を持ったまま若い肉体になれるって反則だろ」
こうやって戦うとわかる。
俺が勝った時の親父がどれだけ衰えてたのかってことが、身に染みて理解できちまう。
あの時は夜で大幅に強化されてたはずだろ、なら日中に俺の槍を回避するどころか片手で受け止めるのはどうやってんだよ。技術だけじゃ吹き飛ばされるような威力は確かにあるはずだぞ……。
「まあ、そこは否定しないかな。記憶さえあれば技術の再取得だって容易いからね」
「そいつはたぶん親父が異常なだけだ」
体が鈍らないようにという口実で行われる訓練はお互いに発動型の宝具を封印してるはずなんだが……効き目が悪いなんて話してた魔眼ですら至近距離で目を合わせると意識を持っていかれかねない必殺の攻撃になってやがる……俺が言えた口じゃないが出鱈目な強さだよな、ホントに。
だがまあ、親父との訓練は確かに実になる。全力で戦うことはできねえが努力型の戦士の完成形みてえな戦い方をするからな親父は。戦っていて楽しいんだよ、技の大半がカウンターなのも攻めるのが好きな俺に合ってるからな……でもよ。
「……これで一日過ごせと?」
「ええ、自信作なのだけど」
「アタランテに着せたら?」
「あの人は着せようとする前に逃げるのよね、野生の勘ってやつかしら?」
女みてえな格好で島を彷徨くのは勘弁して欲しい。俺もテティスに頼まれてトロイア戦争への誘いを断るために女装させられたことはあったがわりと直ぐに気付かれてたからな。初対面のオデュッセウスも申し訳なさそうに声をかけるべきか迷う程度には様になってなかった。
けどよ、あんたのそれは並みの女とは比べ物にならないような完成度をしちまってるんだよ。おかげで大したことのない雑魚がこの島に女神がいるなんて噂を流す始末だしよ……。
「あ、そこ解れてるよ」
「ああ、悪い」
「うん、これで問題なし」
何より恐ろしいのが親父の顔も服装も家事の上手さも……ついでに言えば性格もギリシャ男子の夢のような姿をしてんだよ。抜群に家事が上手い、初雪よりも白い肌に、姐さんと一緒にいる時は常に相手を立てる。前に遠目で見たヘレネと比較しても勝ってるような気すらしてくる。
一緒にいるだけで自分のことを好きでいてくれるだろと勘違いするような最高の女性擬きが俺の親父だと想いたくねえ……。これを射止めたお袋はすげぇ人だったんだなと再確認してしまいそうになる。一応、血が繋がってる方のペレウスがテティスに本気になれなかったのは完全に親父が原因だろ、あれ。
「よし、今日の味は完璧」
哀れアキレウス、父親に完璧な女性像を見てしまったことで毎日悩まされることとなる。メディアの作る衣装のラインナップに水着が追加された瞬間に座へ帰りかけたのはまた別のお話である。
ワイバーンくんこと白くんのイメージは角のないシャガルマガラ、銀さんは髭のない鹿の角をしたキリン、どちらもモデルはモンハンだったりします。
どちらが先?
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一話完結のギリシャ異聞帯
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短編のオケアノス
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幕間の二人