あなたの終わりを眠りと共に 作:アメフラシ
度重なる遅刻申し訳ないです……。
一日があと十二時間あればと思ってしまいます。
『それは許可できない……ただでさえ藤丸くんは巻き込まれた被害者なんだ。それを必要のない危険に飛び込ませるのは容認できない』
「違うよ、これは彼の成長に必要な危険だとも。既に九つの命を失っているヘラクレスが相手なら問題ない、というか私が死なせないとも」
藤丸立香のこれまでの特異点攻略で彼を前提に据えた作戦というものは存在しない。現状の彼はサーヴァントたちの魔力供給を行うための中継地点でしかなかった。
勿論、その役目を行えるのは彼だけであり、その彼を失うようなことになれば人理の終わりになってしまう。その人柄によって多くの英雄たちと友好的な関係になっている点はカルデアにとってもありがたいことだったが、一般人でありながら命のやり取りに身を置くという異常の中にいても、彼自身はどこか申し訳なさを感じていた。
自らを先輩と慕うマシュが前線で戦っているのを後ろから効果がわかりにくい魔術礼装による支援するだけの戦い、それは焦りを生む、どこかの正義の味方のような生身でサーヴァントを庇うような状況になってもおかしくない。
故に、悪魔のような笑みを浮かべる少女……少年とのことだが、の作戦にコクりと頷いた。
といっても、安定策を選べば一度の失敗でジリ貧になって終わるんだけどね。少しだけ焦っていそうな少年に悪そうな顔で呼びかける。
責任感の強い子はどうしても他に派手な活躍をしてる子がいると自分だけ働いてないような錯覚に陥ることになるんだよね……だから、それを発散するような場を用意しなくちゃならない、ある程度の達成感を伴う成功体験をして、命の危機というものを早めに知っておいた方がいざという時に動ける可能性は高くなる。
ケイローン先生から暇なら教えておくかという雑な理由で教わった教育者の心得のようなものを反芻して頭の中で呟く。(偽)でランクもCだけど神授の智慧を持ってはいるんだよ?
とはいえ、それに闇夜の加護も合わせれば人間の考えることくらいわかりますとも。
そもそも、アキレウスは一騎討ちが大好きな性格してるし、そうじゃない時は目に見えてポテンシャルが落ちるから、他に誰も止められなさそうなヘクトールをお願いする予定である。万が一でも先鋒でアキレウスが命をひとつも削れなかったのなら、ヘクトールと幼女メディアの妨害を耐えながら、アタランテの宝具で一回にアステリオスくんがどうしようもない隙を晒した渾身のパンチで一回、正直信用してないアルテミスで一回になってくる。
というか、アキレウスが無理な相手にアタランテや私が一回殺す余裕なんてないし……特にヘクトールとかいう防衛戦が得意な英雄が敵になられると本当にキツい。君の死体をアキレウスが辱しめないように説得したのは私だからね。トロイアの王様に必死で祈られて大変だったんだから、あっちの味方になっているのは本当に腹立たしい。
というわけで……。
「マスターからの承認も貰ったし、改めて説明させてもらおうかな」
『そういえばモルスはニュクスの孫だった……。そりゃあ、試練を与えたがるわけだ』
「はい、そこ、静粛に」
別にガヤガヤしていても良いけど、聞き取れなくて失敗しようものなら死んでも死にきれない。
「今回の作戦の要は藤丸くんとアステリオスくん、前に来てくれるかな?」
「はい」
「うん」
まず、アキレウスが単騎で突撃してヘラクレスを誘導、それが成功したならアステリオスくんの宝具でヘラクレスを、アキレウスとメディア以外を閉じ込めてしまう。
『うん、そこまでは僕も賛成なんだけど……』
そして、ヘラクレスが最優先で狙うのは事態を一瞬で解決できる藤丸くんかアステリオスくんになってくる。藤丸くんを殺せば魔力の供給が断たれて他の弱体化したサーヴァントを各個撃破、アステリオスくんを殺せば迷宮を脱することで後は如何様にでもなってしまうわけだ。
それとイアソンの洗脳を解けば終わるってのもあってエウリュアレ様が狙われることにもなるね。
『そう考えると、こっちにも意外と勝ち筋は多いのか……って、それならこちらのメディアが向こうのメディアを無効化している間にエウリュアレが宝具を撃ち込めば……』
それをするにはヘラクレスが邪魔なんだよね……。
こっちの大半の攻撃が無視されるから避ける必要がある攻撃以外のエウリュアレ様の宝具は体で受け止められて終わるよ。
ああ、そうそう、だから藤丸くんの役割は迷宮を利用したヘラクレスとの鬼ごっこ。君を狙ってる間の隙だらけなヘラクレスの命を攻撃が通る全員で削りきる。
「アキレウスたちが先に勝ちきれたならそれでも問題なし、先にこっちが勝てば勝利は磐石、どうかな、悪くはないでしょ?」
『ううん……まあ、藤丸くんがそれでいいなら構わない。けど、無理だけはしないように、君は絶対に代えられない存在だからね』
それじゃあ、各員配置に。
マシュちゃんは藤丸くんから片時も目を離さないように、アタランテは安定して宝具が打てるような速度の出る直線を探してその場所のマーキング、オリオンとアルテミスも仕留められそうな場所をマーキングかな、そして最深部でアステリオスくんとエウリュアレ様が待機、それからは私とアタランテが前衛、マシュちゃんとアステリオスくん、ドレイク船長がサポート、殺せそうな人が仕留める方針で。
『最後が雑じゃない!?』
「正直、アキレウスが負けるわけないし……イアソンの強化を含めたとしてもメディアはこっちの方が強いし……何とかなるよ」
それじゃあ、始めようか。
「生前じゃ考えもしなかったが、いつでも戦車を使えるってのはやっぱ便利だな」
「はぁ……私が魔力を供給してるから動けてるってこと、忘れちゃ駄目よ?」
アキレウスという英雄は燃費が悪い、複数の宝具を持つライダーというクラス、自然と魔力消費も増える彼らの中でもトップクラスに魔力消費が激しいこともあり、宝具を使用するのなら他にもう一人のサーヴァントを運用できる程の魔力が必要になる。
「クサントス、バリオス、ペーダソス、行くぞ!命懸けで突っ走れ! 我が命は流星の如く!」
『
しかし、それを克服したのなら、常に戦車に乗って戦場を駆け回りながら戦うという最強の戦術が完成する。
「あらら、無策に突撃するのが最適解ってわけね……標的確認、方位角固定」
『
だが、それだけの速さを誇る戦車へ絶大な火力を持つ宝具を当てられる例外が存在する。
共にトロイア戦争の両陣営の最強がこのオケアノス、最果ての海にて激突する。
「さーて、あの時は神々に邪魔をされたけども」
「ああ、今回は正真正銘の一騎討ちだ」
「まよえ……さまよえ……そしてしねぇ!」
『
怪物と呼ぶに相応しい力と定められた残忍さを持つ神話の存在ミノタウロス、今は人理の味方であるアステリオスとして召喚された彼の最も恐ろしい点はその力でも残忍さでもない。
ラビュリントス、ギリシャ最高の天才であるダイダロスが造り上げた一度でも入れば自力で抜け出すことの叶わない迷宮、それこそがアステリオスを怪物たらしめている最大の武器である。
「みんな、がんばれ……」
己が負ければ、己が殺されれば、この戦いに負ける。そのため、彼は待ち続ける。己を閉じ込めた忌々しい迷宮の最奥にて、守りたいと願った女神と共に待ち続けるのだ。
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!!!」
『藤丸くん、その角を右に!』
「わかりました!」
「もし何があっても私が守り抜きます!」
私の魔眼で弱体化はさせる、そうやって笑うモルスの顔を見て少しだけ油断していたことを実感させられた。背後から感じられる大英雄の圧、セプテムで出会ったアルテラに勝るとも劣らないそれを受けて足が震える。けれど、マシュたちはこれ程の圧を受けながら怯むことなく戦い続けていたと思うと足を止めて楽になろうなんて気持ちは湧かない。
時折、硬いものが弾きあう音と共に少しだけ薄れる圧力、誰かが足止めをしてくれているのだろうか、それでも後ろへ振り向くような余裕はない。
『よし、次の曲がり角を左に行けば最初の合流ポイントだ!落ち着いて、転ばないように!』
曲がりくねった迷宮の中にある数少ない長い直線の通路、宝具で確実に仕留めるためにそれが必要だったアタランテは神罰の野猪を被り、獣のような四足になって大英雄の到来を待つ。
「今だ!」
「ああ、わかっている……燃ゆる影……裏月の矢……我が憎悪を受け容れよ!!!」
引き絞れば引き絞る程に爆発的に威力を増す闇天の弓、それを己の体に取り込むことで放つ狩人の持つ宝具としては過剰なほどの一撃。
『
耐性を持たないランクA以上の火力を持つ宝具の不意討ち、直感的に回避しようとしたヘラクレスの足をモルスの腕がカルキノスのように押さえつける。
『よし!成功だ!』
その一撃は大英雄の命を確かに刈り取った。
「んっ!大丈夫ですか、マスター!」
「大丈夫!」
しかし、それでは大英雄は止まらない。
人理に刻まれたギリシャ最高の英雄は、失われた命を取り戻した瞬間にその腕を振るう。受け止めたマシュが後ろに弾かれるように飛んでいく。それから逃れた藤丸はその足を速める。
それは己の命が惜しいからか、反撃の一撃によって防御することも許されず即死させられたアタランテの一撃を無駄にしないためか、いずれせよ、彼はまだ走って、戦っている。
『第二合流ポイント……あと100m、頑張れ!藤丸くん!絶対に足を止めちゃ駄目だ!』
そこに待つのは月女神とギリシャ最高の狩人、狙った獲物を確実に仕留める最高の射手。
「さぁダーリン、愛を放つわよ!」
「ああ、この際ツッコミは無しだ。お前に出せる全力で頼むぜ、タイミングは任せろ!」
『
月女神の狂乱を引き起こす力を威力だけに絞った一撃、本来は周囲にいる全てを射抜くその矢はただ一人の大英雄を仕留めるために。狙った獲物は確実に仕留める、トライスターの名を持つ愛する人の名誉を汚さぬために、女神の一撃は確かに大英雄を貫いた。
「それじゃあ、後はよろしくね?」
「おう、この旅、楽しかったぜ藤丸!」
共に、この特異点を旅してきた仲間が軽い一振によって光となって消えてく。目の前で仲間が消えるのは決して初めてじゃない、それでも耐えられるものでも、慣れるようなものでもない。これは忘れては駄目な感情だ、どのような別れでも噛み締めていかなければならない。
時計の針を壊した人理焼却を行った黒幕とは違う、決して戻ったり消えたりしない記憶をその脳に刻み込んでいく。
『藤丸くん、次で最後だ!」
「はい!」
そして、遂に辿り着いた最深部。
アステリオスとエウリュアレの待つその場所、足が縺れて転びそうになる、それを耐えながら走り続ける、共に走ってきたマシュと同じタイミングで彼らの後ろへと逃げきる。
「ここまでの犠牲は想定外だった……とはいえヘラクレス、君は致命的なミスを犯した」
そして、藤丸が追いつかれそうになる度に足止めをしながらも、全体のフォローをし続けていたモルスが到着する。アタランテの宝具による呪いが黒い泥のようにその体を蝕みながらも彼は笑いながら口を開く。
「既に11回の死を迎えた君は、私の回収するべき魂のひとつでありながら少し頑張りすぎた」
ぼろぼろの体はまるで幽鬼のように半分透けて、今にも消えてしまいそうだ。
「眠りも死も紙一重、全てを等しく平等に」
『
「それじゃあ、後は任せたよ?」
それでも、ヘラクレスは倒れない。
死神の宝具の直撃を受けているはず、既に死んでいるべき命を刈り取る一撃すらも、彼の歩んできた旅路の、
しかし、全てを平等に切り裂くその斬撃は大英雄の胸を深々と切り裂いていた。それは隙と呼ぶにしては少ない刹那の時、死神の残した爪痕を……。
「アステリオス、瞬間強化!!!」
「うああああああああああ!!!」
神話の怪物……否、人理の英雄が引き継いだ。
手に持った斧を投げて、そちらへ一瞬だけ意識を向けさせての拳、筋力A++を誇る絶大な力によるそれは確かに大英雄の心臓を貫いた。
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️……!」
大英雄はその膝を地について倒れた。
「……勝った」
「はい……やりました、先輩!」
自らを打ち倒した英雄たちへ、既に力を失い消え始めたヘラクレスは咆哮すると消えていった。それは、己を打ち倒した勇者たちへの激励のようにも思えた。
どちらが先?
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一話完結のギリシャ異聞帯
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短編のオケアノス
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幕間の二人