あなたの終わりを眠りと共に 作:アメフラシ
ヤット、キマツ、オワッタ、オデ、ヤット、ショウセツ、カケル……。
「貴方のような人間は嫌いですが、見向きもされないというのもそれはそれで癪ですね。目は見えず、情報も見えない、それにしては筋力は落ちていない……となると今の私は」
「~~~~~~~ッ!」
得物を手にしたまま突貫するキャスターには目もくれずに何かへ執着するように飛び出したバーサーカーの兜を揺らす一撃を放った。鍛冶の神であるヘファイストスから受け取ったとされる短剣を変形させたと考えられる杖による一撃は三騎士のサーヴァントであったとしても回避しなければ痛手は避けられないであろう。
「頑丈ですね、鬱陶しい」
しかし、その一撃であったとしても狂戦士の歩みを止めることはなくその奥で静観していたセイバーの元へ突撃する。そのことに驚くことはあっても動きを鈍らせることのないセイバーは頭部への一撃によって力の緩んだバーサーカーの一撃を難なく受け止めると同時に、ランサーによって片腕が奪われたことで反撃に移ることができないことを悟るとキャスターの方向へと跳躍した。
共闘成立だとでも言うように己に背を向ける騎士王に気を良くしたキャスターはボソリと唱えた呪文によってセイバーの腕を忽ちに治癒してしまった。
実際は筋力の強化と傷口の偽装と暗示によって一時的に傷を誤魔化しているだけなのだが、そうであったとしても敵に塩を送ると呼ぶには大盤振る舞いなその行いには前線まで出てきているセイバーのマスターとして振る舞っている女性への敬意とこそこそと隠れているその真のマスターに対する牽制の意味もある。己との敵対の結末に生き残った騎士王がサクラに対して便宜を図ってくれるかもしれないという考えと、容赦なくその命を奪う可能性のある魔術師にその絆を結ばせまいとする、ひとつの願いしか叶えられないのなら主従は最終的に争うこととなるためそのことを躊躇させないための裏の意図があるのだが、それを知るものはいない。
「感謝します、キャスター」
「礼は不要です。それと、一時的なものですので過信はしないように」
これに誰よりも驚いたのはランサーである。
彼の宝具、
未だに継続する治癒を封じる呪いからして完全に破られたわけではなく、万全の騎士王と戦えるのは騎士の誉れとも考えるが、主に宝具の使用を許可されておきながらその成果を無に帰すようでは騎士の名折れだ。
だが、その汚名返上をするには襲撃者が、バーサーカーを含めた三騎のサーヴァントが邪魔である。
「我が主よ、セイバーとキャスターに協力し、そこの狂犬を先仕留める許可をいただけないでしょうか!」
主の当初の望みはセイバーの撃破であるため、その命令を一時的とはいえ破ることの許しを得んと姿を現さぬ己の主に叫ぶ。三騎の英雄が睨み合う今、決断を待つ暇すらない現状にランサーのマスター、ケイネスは迷うことなく決断を下した。
『構わん、しかし、これが終われば必ずセイバーを撃破して見せろ』
「はっ!」
ケイネスはこの場で最も驚異となり得るサーヴァントをステータスの高さと知名度による補正から考えてセイバーと決定している。己の馬鹿な教え子によって奪われたイスカンダルも十分な脅威ではあるが、魔力と宝具以外のステータスが軒並みCかそれよりも低い典型的な魔術師系の英霊だと思われるキャスターやステータスこそあれどこの状況で仕掛けてくる脳のないバーサーカーなどは恐れるに足らない。ここでランサーとバーサーカーを組ませれば勝つことは可能だろう。
しかし、口約束ではあるがキャスターと同盟を結んでいたライダーが気掛かりだ。
順当に強力なセイバーと搦め手が得意なキャスターに、機動力のあるライダーが加われば苦戦は避けられない。物量に敗北することになるかもしれない。万が一にでもランサーを失うことになれば聖杯戦争の資格すら失うことになるためそれは避けなくてはならないのだ。
故に、博打となるバーサーカーへの加担ではなく確実に一騎を減らせるセイバーたちへの選んだ。
「これで3対1ですが……」
激しく打ち合う二騎の中に加わるランサー、大勢は決したと考えるキャスターはアサシンに気を取られて動くことのできないセイバーのマスターの存在を確認すると用意していた手札を切ることにした。
「なあ、お前はあれに参加しないのか?」
「うむ、あれの中に飛び込むのも悪くはないが、ああなれば余が出る必要もあるまい。ここはひとつ、同盟相手の実力を見極めることにしようではないか」
ウェイバーの頭は既にパンク寸前である。
ライダーに無理矢理連れてこられたサーヴァントが争う舞台、早々に真名を明かしたライダーに困惑し、現れた黄金のアーチャーの正体が原初の英雄であるという事実に泡を吹き、マスターである自分を介することなくライダーに同盟の交渉をするキャスターとただの子どもにしか見えないそのマスターへ交渉の決を任せるライダーに怒髪天を衝くことにもなったが、その中で受け取った夥しい数の情報にウェイバーは考えるのを止めた。
今はステータスが全く見えない恐怖の対象であったバーサーカーが数によって磨り潰されているのが見えるが、今のウェイバーにとって顔も知らない相手同士であるのに声を掛け合うことで連携が取れているという事実が、うちのライダーにもあの聞き分けの良さがあればなという感情に絡み付いている。
とはいえ、自分とキャスターのマスターを戦車に乗せたまま戦うような非常識極まりない行いをしないのなら、一時は問題ないだろう。
「それにしても、モルスって言ったら……」
「ああ、そうだ坊主、彼のアキレウスの第2の師であり、その生涯で別れの際でしか敗北を許さなかった生粋の英傑よ」
「だったらキャスターってのもおかしいよな……魔女に師事を仰いでたからとかか?」
そして、ライダーが暴れるつもりのない様子と激しい争いの音こそ聞こえるが流れ弾は全てキャスターの魔術障壁に阻まれているため飛んで来ることはない。
その真名はモルス、神代ギリシャの英雄であると同時に死後に神となった英雄の中でも数少ない逸話を持つ間違いなくサーヴァントとして呼ばれるに相応しい存在ではある……しかし、ウェイバーの知識にあるその英雄は間違ってもキャスターで呼ばれるような存在ではない。
逸話からしてアサシン、次点でセイバーが妥当と言ったところだ。閲覧したステータスも敏捷性がCに幸運がD、どちらもその英雄に当てはまるとは思えない数値。
「……前に話してたけど、キャスターは自分の体が何をできるのかあまり覚えてないみたい」
「覚えてないってことは……キャスターのマスター、キャスターは確かに自分を『モルス』だと名乗ってたんだよな?」
「うん、銀さんも確かにそう言ってたよ?」
ウェイバーは確信した。
強化の魔術を唱えながらセイバーを優先して襲っているバーサーカーを袋叩きにしているあのサーヴァントはギリシャの英雄ではなく。
『到着が遅れました、主よ』
「構いません、貴方の力を観衆に見せつけてやりなさい」
ローマの女神『モルス』。
美しき銀の鹿の背に乗り、白竜の背に数多の魂を乗せ人々を冥界へと送った安寧な死を司る女神。
聖杯戦争という舞台にてタブーであるはずの神霊の存在は最後に気づいたウェイバー以外の全てのマスターが最初に驚いた事象であり、その行為に事実上の失敗をしていたアインツベルンの人間は更に深い驚きを抱いている。
アーチャーが去ったことによって完全にこの場を支配した女神は咆哮する竜の背に乗り標的に突貫する。キャスターにしては白兵戦が好きなのだなと何ともいえない表情のウェイバーを置いて、それを打ち破らんと拾った鉄骨を振り上げたバーサーカーは……。
「消えた……」
「大方、あれのマスターが勝てないと判断して引かせたのだろうな」
現れた時と同じように黒い煙となって消えてしまった。残されたのは四騎のサーヴァントと三人のマスター。
つい先程までは共闘関係であった三騎の関係は、一騎討ちを続けるには消耗が多すぎるセイバーと手の内が割れたことで近距離での手札こそ増えたが騎士王が二度の奇襲を許すとは思えず不用意に動けないランサー、マスターの性格ではランサーを、サーヴァントの性格ではセイバーを推したいという板挟みのキャスターの誰が誰に味方するのか分からない微妙な膠着状態の三騎へと変化した。
どちらがどちらに加担してもライダーかアサシンの漁夫の利で終わりかねないため動けない、その状況を変えたのは、またしても征服王の言葉であった。
「セイバー、ランサー、両雄見事であった!「あら、私は含まないのですか?」お前さんは余の客将であろう、なればその働きを精査するのは戦場から退いてからよ」
暗に、キャスターと自分を合わせてこの場は一対一対二であると告げるライダーはふざけてチャチャをいれてくる同盟相手へ言葉を返しながら残りの二騎へ向き直る。
「だが、ここで決着をつけるには、この聖杯戦争はまだ始まったばかりといったところだろう、ここで負傷したまま戦うのはあまりに惜しい」
その言葉は、未だに武器を構える二騎が共に抱える感情であり、どちらかにはトドメを刺す必要があるとしても共倒れされるのは困るキャスターの思考とも一致していた。
「ともすれば、ここは一度撤退して次の機会に仕切り直しと行こうではないか」
しかし、それぞれのマスターの思考は別である。敵対者がいなければセイバーを仕留められるであろうケイネス、マスターを暗殺する絶好の機会でありながら切嗣の言葉がないことから動くべきか悩むアイリスフィール、ここで突っ込ませればどちらも仕留められるんじゃないかと思うウェイバー、事態は膠着している。
「うむ、ならばこうしよう。ここで開戦するのであれば余とキャスターが相手になる! それでもという勇者は掛かってくるが良い」
一向に決断しない二騎のマスターへ一喝した。
お前たちより戦闘経験に優れたサーヴァントが撤退を提案しようとしているのに、お前たちはいつまで悩んでいるのかと。
『アイリ、こちらは常にキャスターとその使い魔に監視されている。一度撤退しよう』
「セイバー、撤退よ」
「はい、分かりました」
『……ランサー、お前はこれが終わればセイバーを仕留めると言ったな。ならば、次こそはセイバーを倒して見せろ』
「はっ! 必ずや」
さて、比較的平和になったその舞台にて、また戦車に乗って帰ることになるんだろうなと白目になったウェイバーとその背中を擦るサクラを置いてライダーは、征服王イスカンダルは瞳を輝かせて叫んだ。
「ひとついいかキャスター、お前さんは彼のアキレウスの師であろう」
「まあ……そうらしいですね」
「ならば、ひとつ唱うておきたいことがある」
ライダーからの子どものような言葉に、少し母性を感じてしまったことにショックを受けながらキャスターは失くした記憶を掘り起こさんと脳を廻らせていた。
「キャスター……あの時に現れたサーヴァントは確かにキャスターだったはず……」
「はい、師よ。あの英雄は十中八九キャスターであるはずです」
「ならば、冬木で起こっている事件は……アサシンが確認した『あれ』は何者だ?」
第四次聖杯戦争、その初戦。
結果として誰一人として脱落することはなかったが、全てのサーヴァントの真名がこの時点で露見しているというイレギュラーな聖杯戦争の中にある真のイレギュラーの存在を確認することができたのはアサシンを有する遠坂とこれから知ることとなるアインツベルンのみであった。
どちらが先?
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