あなたの終わりを眠りと共に 作:アメフラシ
どうにも良いものを書けないと筆を折っていたのですが頑張ってみようと投稿再開です。
「ふむふむ、正体不明のサーヴァントですか」
「といっても注意喚起程度だろ、現状は特に気にしなくても良いんじゃないか?」
監督官である冬木の教会から告げられたのは聖杯戦争に存在していないはずの八人目のサーヴァントの存在であった。
此度の聖杯戦争の規模が前代未聞であるが故に現れた
どちらにせよギルガメッシュを相手に勝利することはできないだろうことから降臨者の警戒は不必要であり、裁定者ならば万が一自分が敗北したとしてもサクラを助けてくれる可能性が高いため教会が信頼できない今、所詮はただの
結局のところモルスという英霊が最大限警戒すべきはアーチャー陣営とバーサーカー陣営であり、サクラとライダー陣営が警戒すべきはマスター殺しを狙っているだろうセイバー陣営やアサシン陣営である。余程無差別に世界を滅ぼそうとする存在でもなければ思考の片隅に入れておくだけで十分だろう。
と、うんうんと頭を捻って情報アドバーテージを得ようとしているライダーのマスターを見て結論を出したモルスは使い魔の視界を借りながら幸せを体現したような表情で笑っているのであった。
「というか、良かったのかよ?」
「……何がですか?」
「お前のマスターのこと」
「サクラちゃんはこの席ね」
「はい、先生」
サクラを結界の中に閉じ込めて絶対に出さないと言いそうなキャスターが彼女のことを学校に通わせると言い出した時にライダーのマスター、ウェイバーさんはあまり多くないであろう罵倒の語彙でキャスターを罵った。
アサシンが単純な数として複数体いるというだけでマスターが外に出ることなんて許されるはずもないのに、大量の魔力リソースと成り得る子供たちが沢山いる空間に放り込むなんてことをすれば採算が取れないバイキングを開催するようなものだと叫ぶウェイバーさん、学ぶことは良いことだと賛成して図書館から借りたというオススメの本を紹介し始めるライダーさん、サクラがこの国で平穏な日常を送るためには必須事項であるからと絶対零度のようなオーラを漂わせるキャスターとで空気が混沌としていた。
あの最中にマーサさんがシチューを持ってきてくれなければ掴み合いの大喧嘩になっていたかもしれない。最終的にはキャスターの髪で作られたミサンガに簡易的な結界の魔術を付与する形でアサシン程度なら触れることもできない魔道具?を持たせることと引き換えにウェイバーさんも学校へ行くことを承諾してくれた。因みに髪の色を変える効果もあるらしく、絶対に外さないようにと再三言い聞かされている。
今年入学したばかりなのにまるで学校に出ていなかったサクラを同級生たちはパンダを見るような目で見つめていたが、給食の時間になると家の都合で外国へ行っていたというカバーストーリーを信じた彼女たちに根掘り葉掘り質問をされることになった。ライダーさんと一緒にアメリカのことについて勉強していなければボロが出ていたかもしれない。
楽しい、キャスターの非日常的な楽しさとは違う、言葉にするのなら日常とでも呼ぶのだろうか、その楽しさに思わず口を綻ばせる。こんな気持ちになったことは、こんな気持ちを自覚したことは、あの地獄のような責め苦を受けたご褒美なのだろうかとふと考えたりもしたがそんな難しい考えは下校の頃、帰り道を友達と歩いて帰る頃には消えていた。
サクラは幸せだった。
それがひさしぶりに日常の一端を享受できたからなのか、非日常で自分が物語の中に入り込んだような感覚から来るポワポワとした感情を上手く表現できないことで出力された幸せなのかは分からなかったが、間違いなく幸せだったのだ、けれど……。
「お父様……お母様……」
人間の幼少期に最も影響を与えるのは良くも悪くも親であることが多い。それはこの世に生を受けてから最も長い間を過ごす間柄の存在であることや自らの命を保証してくれる保護者であることによるものだが、学校というこれから日常になるであろう存在とこれまで日常であった両親の存在が重なって寂しさという感情が弾けた。
けれど、間桐の家の存在や何故姉ではなく自分を送り出したのかと彼らに対する疑問、憎しみには届かないとしても簡単に割り切れるはずもない感情が渦巻いたままサクラは一人になった帰り道を歩く。
不審者、子供を狙う殺人鬼と呼ばれるような存在が彷徨いているというのに不用心な学校の体制は非難すべきだが、送り迎えを用意できないような生徒が複数いることもまた事実。よって集団下校という手段を学校は取った訳だがそれでも一人になってしまう生徒が生まれることは仕方のないことだった。
翌日、サクラと共に下校した友人が行方不明になったというニュースが彼女の目に飛び込んできた。
「恐らく、アインツベルンの仕業か」
ランサー陣営、史実ならば今日の夜にでもセイバー陣営へと決闘を仕掛けていたであろう彼らは工房として他の陣営を迎え撃つために泊まっていたビルを爆破解体され、ソラウと共に隠れ家へ逃げ込んだ。そんな彼らの目に飛び込んできたのは確かに崩れたはずのビルが再生しているという信じがたい事実であった。
冬木のセカンドオーナーである遠坂が言ってしまえばステレオタイプな魔術師であることは調査済みだ。そのため神秘の隠匿のためにこのようなことをすることはないだろう。そして間桐も御三家であるが故に伝統や仕来りに真っ向から背くようなことはしないだろう。ウェイバーは強力なライダーこそ従えているが仮にも魔術師の端くれだ、神秘が公になることをするはずがない、唯一キャスターは怪しいが彼女のマスターの様子からして攻勢を選ぶようなことはしないと考えられる。となれば消去法でセイバー陣営かアサシン陣営の仕業であることは自明の理である。
大した驚異を感じられないアサシン陣営とセイバー陣営のどちらを調べるかと聞かれれば無論セイバー陣営、アインツベルンについての調査を優先するのは当然のことである。
その結果、彼らが魔術師殺しと言われるフリーランスの魔術師を雇っていることが分かった。
ケイネスは例え聖杯戦争であったとしても最後はマスター同士の一騎討ちを望んでいるため召喚されたサーヴァントによる戦いを前哨戦と思っている節がある。
無論、前哨戦であったとしても負けるつもりはさらさらない。けれど、前哨戦をすることすらないまま、あのまま事態が進行していればこちらが勝利していたであろう戦いの後にこのような暴挙に出てきたのだから最早相手は人間の常識の通用しない存在であり、魔術師としての誇りを持たない獣でしかないと彼は判断した。まあ、魔術師殺しについて調べて奴が同じような獣であることは語るまでもない事実だ。警戒は必要だがそんなものよりも優先すべき相手がいる。
「あのステータスからしてセイバーを最優先で仕留めるべきではあるだろうが……」
ランサーの宝具である必滅の黄薔薇が発動し続けていることから仕留めるのは容易く急ぐ必要はない、あの傷から攻勢を仕掛けるはずもなく最後に残しても害はないだろう。
今、ケイネスが最も警戒を割いているのはステータスの強力なセイバーでも、絶対無敵のアーチャーでもなく、完全に崩壊していたはずのビルを時を戻したように再生させた謎の存在についてである。あれ程のことが成せるのは現存する魔術師でも最上位、下手すれば数える程しかいない魔法使いや吸血鬼の真祖のようなケイネスでも敗北は避けられないような怪物しかあり得ないのだ。
魔術師としての道理を弁えているのなら、聖杯戦争という無関係な戦いに介入することがなければ無視できるが……神秘の隠匿を守ろうとしていたところから悪逆なるサーヴァントや戦闘の規模が大きな時のみ聖杯によって召喚される
けれど、ケイネスが聖杯戦争に参加した経緯は功績をあげるためであり、観光や旅行のためではない。そのためには無名のキャスターのマスターやウェイバーのような小物を潰すのではなく大物を狩るのが何よりも優先されるのだ。
故に
「ランサー、手始めにバーサーカーを仕留める」
「は!」
冬木のセカンドオーナーであり総力をあげて戦う必要があるであろう遠坂ではなく、同じ御三家でありながらバーサーカーという欠陥品を召喚した間桐家を撃破することを目標として掲げることとした。
これが吉と出るか凶と出るかを知るのは未来を見れるアーチャーだけであったが、この聖杯戦争になんの興味も持ち合わせていない彼がその瞳を使うことはない。
「最初に潰すのなら、バーサーカーにしたいですが……二人の意見を聞かせてください」
「ステータスが見えないから不安ってのは分かるけどさ、アーチャーの宝具を無効化してた能力だってあるし、先にこっちが動くより潰し合わせる方がいいんじゃないか?」
「うむ、単独でぶつかるとなれば余もキャスターも少しばかり手間取りそうな相手だ。とはいえ、それはアーチャーも同じ、キャスターの意見も悪くないだろうが今回は坊主の意見に賛成だ」
規格外なライダー、アレキサンダー大王、征服王イスカンダル、様々な異名を持つ世界で最も有名な英雄の一人である彼を召喚できたことは彼にとって最大の幸運であり最大の不幸であった。
ライダーは命令聞かない。
魔力の消費を抑えるために霊体化しろという命令を聞かず、ウェイバーのお金で好き勝手に買い物をして、略奪と征服と称して盗みを働いたりと本当にトンでもないことをしでかしてくれた。
けれど、彼から告げられた聖杯への願いの問答が頭から離れない。だから、その答えを見つけるまでは一応は好きにさせることにしている……勿論文句を口にしないわけではないが。
そんなウェイバーの更なる胃痛の種となったのはキャスター『モルス』とそのマスターである『サクラ』であった。同盟相手である二人は魔術への知識こそあれどその知識の不足によって活用することができずにいるマスターと間違いなくトップサーヴァントに相応しい英雄でありながらライダーと同じように私欲で動き回り、マスターのことを守ると言っておきながらあれが嫌いとかこれが嫌いとかでこの聖杯戦争の英雄の多くを嫌悪し、敵対しようとしている。同じ魔術師として尊敬できる面はあるし、絶対的な強さを持つ使い魔もいたりと至れり尽くせりのため間違いなく同盟を結べたことは幸運な出来事だったのだろうが……。
「モルスだろ、ローマの女神としての側面でもキリスト教の天使としての側面であったとしても違和感があるんだよな……」
そんなウェイバーには一つの疑問があった。
同盟相手であるキャスター、モルスという女神の外見は石像や壁画によって異なり、キリスト教の歴史に組み込まれても決して変化のないパーツが存在する。
人々の魂を刈り取るための短刀、常に閉じられて開くことのない瞳、側に寄りそう銀の牝鹿。
「そうか」
そのどれが欠けたとしてとそれは英雄モルスでも、女神モルスでも、天使モルスでもなくなってしまうシンボルであり象徴。
「首に必ずあるマフラーがないんだ」
鮮やかな彩りのマフラー。
「あのキャスターは……本当に女神モルスなのか?」
その正体が判明したところで何の意味もない疑問であったとしても、漠然とした不安がウェイバーの頭から離れなかった。
ウェイバーがシリアスなことをしている間、ライダーとキャスター一行は宴会の準備をしています。
どちらが先?
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一話完結のギリシャ異聞帯
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短編のオケアノス
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幕間の二人