星見る鳥の夢   作:斎草

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ジョジョキャン△

 

 ―――

 

 車を調達し、足早にベナレスを去ったジョースター一行。

 なぜ彼らがそうせざるを得なかったのか。

「敵のスタンド使いの仕業とはいえ、あんな騒ぎになっては滞在は難しかった……」

 カルカッタでホル・ホースを取り逃がした原因となった女性、ネーナをベナレスまで送り届けることになったはいいが、彼女も敵の――"女帝(エンプレス)"の暗示を持つスタンド使いだった。彼女はジョセフの腕にスタンドを寄生させ、人語を喋ったり攻撃を仕掛けることができるようになるほどに成長させたのだ。

 ベナレスでの警察騒ぎは女帝(エンプレス)が張り上げた声と言葉のせいであり、ジョセフの名前も出されたために承太郎たちは宿を追い出されてしまったのだった。

「車が手に入っただけでもラッキーだったぜ。不幸中の幸いってヤツよ」

 運転席でハンドルを握るポルナレフがそうジョセフを励ましていた。

 女帝(エンプレス)は倒せたのだし、車は四輪駆動の良い物が手に入ったのでこれから赴く荒地もへっちゃらだ。野営もできるようにSPW財団からキャンプ用品も受け取ったばかりだ。助手席には花京院が座り、後部座席では承太郎と白鳥とジョセフが横並びになって座っている。

「これから先、もっと厄介な敵が増えるかもしれませんし……より気を引き締めないといけませんね」

 また自分たちの体にいつの間にか何かされるかもしれない。白鳥は自分の腕や脚をしきりに確認しながらそう呟く。

 空はもう夜の帳が降り始めていた。

 

「そろそろ中断して野営を始めるか」

 完全に暗くなる前に車を停め、そこに積んだキャンプ用品を広げるとテントを設営する班と焚き火の準備をする班に分かれて各々作業を開始した。

「ポルナレフ、そっちを持ってくれ」

「あいよ」

「承太郎〜、ふたつ目のテントもポールを入れて準備しておくぞ〜」

 テントの設営は承太郎、ポルナレフ、ジョセフが担当。

「そうそう、そんな感じで着火剤を中心に薪を並べて……」

「これでいいですか?」

 焚き火は花京院と白鳥が担当していた。

「あ、火がつきましたね!」

 ライターで着火剤に火をつけると、一気に燃えて細い薪に炎が移っていく。それを見て少しずつ、先ほど花京院に教わったように白鳥は細い薪を追加して炎を育てていく。

「白鳥さん、上手ですね」

「花京院先輩の教え方が上手いんですよ」

 花京院は家族でキャンプもしたことがあるらしく、手際良く焚き火の準備をしていた。一方の白鳥はキャンプなど1回もしたことがなかったのだが、こうして仲間たちとできることになってわくわくでいっぱいである。この焚き火も瞳を輝かせながら薪を並べていく様子に花京院はフッと微笑ましそうに口角を上げた。

 

 ここにアヴドゥルがいたなら。どうしてもそう考えてしまう。しかしベナレスでアヴドゥルが生存していることを承太郎と白鳥に教えてもらった花京院は内心ホッとしていた。あそこで本当に死んでしまっていたなら、ふとした時に思い出してずっと後悔してしまうような気がする。

 僕がもう少し早くポルナレフとアヴドゥルを見つけていたなら。

 そう考えてずっと苦しんでいたかもしれない。

 

「先輩、まだテントの設営に時間が掛かりそうなので先にごはん作りませんか?」

 自身も薪を投入しながらアヴドゥルのことを考えていたが、その声に意識が戻ってくると飯盒を用意している白鳥の姿が見えてクスリと笑みが溢れる。

「そうだね。こんどは白鳥さんにとびきりの料理を教えてもらおうかな」

 見てみればテント班の3人はペグやポールを手に何やら言い合いになっているようで、まだまだ設営には時間が掛かりそうだ。

 花京院も腰を上げ、調理器具や食材を準備する白鳥の手伝いをしようとそちらに歩んでいった。

 

 

「よーやくふたつとも設営が終わったわい……」

 ジョセフがげっそりとしながら隣同士に張ったテントを腰に両手を当てながら見つめる。

「じじいがポールをへし折るからこーなったんだぜ」

「補修道具が一緒に入ってなかったら、3人用テントに5人詰めになるところだったなァ〜」

 承太郎とポルナレフも口ではそう言いながらも感慨深そうにテントを眺めていた。

 今回支給されたテントは3人用テントがふたつ、アヴドゥルが欠員になったので割り振りは3人と2人。

「ま、部屋割りはいつものでいいだろ」

 ポルナレフがシュラフをテントの中にポイポイ放っていく。

 いつものということはまた白鳥と一緒か、と承太郎は既に慣れた様子でふたつのシュラフが投げ込まれたテントを見る。確かにアヴドゥルがいない今、白鳥を任せられるのは自分の他に花京院くらいしかいない。男3人でむさ苦しくテント詰めなんて自分は御免だし、そういうことになるだろう。

「お、美味そうな匂いじゃのう」

「ウィンナーとトマトのカレーを作ってみたんです。切らなくていいからラクですよ」

 そんな白鳥の方へ目を向けていると、その視界に続々とジョセフやポルナレフが入ってきた。花京院が飯盒からごはんを木製の皿によそい、それを白鳥に渡して彼女はカレーをその上からよそっている。

「へえ〜!いいじゃん!早く食べよーぜ!」

 早速皿とスプーンを受け取ったポルナレフは近くの岩場にヒョイっと腰掛けた。

「はい、承太郎先輩の分」

「ん……」

 花京院がジョセフに皿を回している間に白鳥が承太郎に皿を渡し、白鳥と花京院はお互いにごはんとカレーをよそって交換していた。

「いただきます!」

 荒野に5人の挨拶がこだまする。未知の体験に一同は奇妙に思いながらも、同時に気心知れた仲間内というのもあってかあたたかな気持ちになるのも感じていた。

「ん!これうめえよ!カレーにトマトも案外イケるなァ!缶のヤツ?」

 一口食べるなり気に入ったらしいポルナレフはカレーをガツガツとかき込みながらカレーをつくった白鳥を見る。

「はい。材料はベナレスで買っておいたんです。缶詰は保存も効くし、他にもいろいろ買っておこうって話になって」

 ベナレスではジョセフもポルナレフも席を外していて、承太郎と白鳥と花京院は今後の旅のために食糧や衛生用品の確保に向かっていた。買ったものの整理のために宿に一度戻ることになったのだが、その時にジョセフのことを知って宿を追い出されたのが先ほどのことであった。

「白鳥がいれば旅の途中の食事は心配せずに済みそうだな。承太郎も恵まれてんなァ〜!」

「あ?なんの話だ」

 ポルナレフに肘をうりうりと押し付けられ、承太郎は鬱陶しそうにそれを手で軽く押しのける。その皿は思ったより減っていないように見えた。

「あ……もしかして、お口に合いませんでしたか……?」

 その様子を見て、白鳥は心配そうに眉を下げる。

 もしかしたらトマトが苦手だったのかもしれない。承太郎は口下手なところがあるし、長く続く旅の中でそんなわがままを言えるはずもない。

「逆じゃよ、逆逆ゥ!承太郎のヤツ、食べ終えるのがもったいないんじゃあないのか〜?なかなかいじらしいヤツめ!」

 しかし、そんな白鳥の杞憂を吹っ飛ばすかのようにジョセフが快活に笑い始める。

「じじい、誰もまだそんなこと言ってねえだろ」

「へ〜?"まだ"?"まだ"なんだ?これから言うつもりだったのかよォ〜!」

 すかさずポルナレフが遅れをとるまいと肘でうりうりと承太郎を再び突き始め、彼の眉間に皺が刻まれていく。明らかにまずい状況なのに、その光景に慣れすぎているからか花京院と白鳥はくすくすと笑い声を漏らしていた。

「…………ったく。やれやれ……やかましい連中だな」

 この状況にとうとう怒鳴る気も失せたのか、承太郎は長い沈黙ののちに大きくため息をついてから白鳥に向き直る。

「美味いぜ。思わず噛み締めたくらいに。ありがとよ、白鳥」

 ふと目を伏せながら、承太郎は自然と笑みを浮かべていた。

 別に己はトマトが嫌いなわけでもないし、カレーももちろん好きだ。ただ、他人の手作りの料理はレストラン等を除けばホリィのものしか食べたことがなく、慣れない心地だっただけである。しかもそれが白鳥葵の手料理なのだからなおさらで、さすが大喰らいの美食家なだけあって味も確かなのだ。

 食べ終えるのがもったいない。もっと食べたいとすら思っている。悔しいが、ジョセフの言った通りである。

 

「…………」

 一方の白鳥は、きゅんっと自分の胸が高鳴ったことに目を丸めてきょとんとしていた。

 しかしその次の瞬間には頬がカーッと赤くなっていき、いままでとは全く違う反応に他のメンツまで目を丸める。

「おい、白鳥……?」

 彼女のそんな姿を目にして承太郎まで思わずギュッと心臓を鷲掴みされたかのような感覚に陥り、彼女の名を呼ぶ。

「あ……やだ、私ったら、なんか急に……顔が熱くなって……」

 その声にハッと我に帰り、白鳥は急激に熱くなった自分の頬に少し冷えた両手を当てる。

 カレーはそんなに辛く作ったわけじゃあないのに、顔だけではなく体までどんどん熱を帯びていく。突然のことに戸惑っているのか声までか細くなって、隣に座っている花京院が背中をさすってくれている感触が遠くに感じていた。

「まさかいまので白鳥さんがこうなるとは……」

「承太郎〜、これから料理褒めまくったらいいんじゃあねェか〜?」

「こんなにも早く承太郎の胃袋を掴むとは、白鳥くんもやるのう〜ッ」

 各々が思い思いに囃し立てる中、件の2人は気まずそうに互いに視線を逸らすしかなかった。

 

 

 晩ご飯も無事に終わり、明日の段取りを決めたところで一行は3人と2人に分かれてテントに入った。

 承太郎と白鳥は同じテントの中でシュラフに包まりながら身を寄せ合って眠っていたが、ふと白鳥は目が覚めたのかランタンの灯りをつけてそれを持って外へ繰り出した。

「わぁ……星が綺麗」

 外灯の少ない荒野のど真ん中。東京では疎らにしか見えない夜空の星が無数に輝いていて、近くの岩場に腰掛けながら思わず見惚れてしまった。

「……いまにも落ちてきそう」

 学校のプラネタリウムの授業でしか見たことがない量の星に手を伸ばし、掴もうと空で握る。できないとわかっていながらも、それでも手を伸ばさずにはいられない。

 

 鳥は、どれだけ高く羽ばたいても星には触れられない。

 星を夢見るだけの鳥。

 

(私は……私は、承太郎先輩のこと……)

 白鳥は思い返す。

 あの時――料理を褒められた時――胸の奥底がきゅんと疼いた。それと同時に、そう言ってもらえるなら毎日でも作ってあげたい――そう感じた。

(これってもしかして、一種の愛情なのでは……)

 相手のために考えて、相手のために作って、その相手に美味しいと喜んでもらって、自分も嬉しくなって。

 考えただけで幸せなサイクルだ。それを承太郎に感じて、嬉しいと思った。

(喜んでもらえるなら、次は別の料理だって考えたいし……日本に帰った後もお弁当とか、やりようはあるし……)

 白鳥はうんうん考え込む。

 これを作ったら次はどんな顔が見られるだろうか。お弁当を作るならどんな感じにしようか。もしまた空条家にお世話になるなら、ホリィと一緒に何か作ろうか。

(なんだかこういうの……楽しいし幸せだな……)

 

 もっと彼のことが知りたい。彼の喜ぶ顔が見てみたい。

 いまなら少しだけ、きっかけが掴めるかもしれない。ほんの少しだけ、あの星に触れられるかもしれない。

『次はきみから歩み寄ってみてもいいんじゃあないかな?』

 助言してくれた占い師の男がいまこの場にいないことが心残りだが、再会する頃には仲良くなった姿を見せられるだろうか?

 

「もっと教えてほしいな……承太郎先輩」

 彼の姿を思い描きながら、改めて思う。

 彼は私の中で強く輝く一等星だ。

 これまでも、きっとこれからも。

 

 





←To Be Continued

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