星見る鳥の夢   作:斎草

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死神13

 

 夢の中。遊園地。

 そしてアイスクリームの中から飛び出した拡声器。

「あの声は…ッ!"死神13(デスサーティーン)"だッ!くるぞ!!2人とも戦闘の態勢に入るんだッ!!」

 ポルナレフが持つアイスクリームのコーンから人の頭部のようなものが出てきて思わずそれを手放した。

「ラリホーゥッ!!」

 ピエロのような仮面と長く黒いローブ。その両手に構えるのは大きな鎌。まるで死神のような出立ちのそれはコーンの中からニュルッと3人の前に姿を現した。

「出ろッ!ハイエロファント・グリーンッ!!」

「ハントレス・ブルーッ!!」

 花京院と白鳥がスタンドを呼び出すより先にデスサーティーンの手がポルナレフの首を掴む。

「ポルナレフッ!なにしてるんだ、早くチャリオッツを!ハイエロファントッ!出てこいッ!!」

 なぜか抵抗しないポルナレフが首を掴まれながら口の中に鎌の切先を入れられていて、いまにも喉を掻っ切ってしまいそうだった。

 早く助けなければ。なのになぜか、呼び掛けてもスタンドが出てこない。

「ハントレス!?ど、どうしたの?ハントレス!!早く出てきてッ!!」

 白鳥も珍しく声を張り上げながらスタンドの像や己がいつも構える弓の像を出そうとするが、呼び掛けに応えてくれない。

「チ、チャリオッツが……出せねえ……!!スタンドが出せなくなっている…ッ!!」

 そう、ここはデスサーティーンが支配する夢の世界。彼が定めたなんらかの制約があるのか、生まれた時からずっと一緒にいるスタンドが何度呼び掛けても出てこない事態に3人は動揺していた。

 このままではポルナレフが殺されてしまう。だがスタンドはスタンドでしか倒すことができない。

 つまり、ここでの死は現実での死に直結することになる。

「ラリホー。夢の中で死ねるなんてロマンチックだと思わないかい?」

 ポルナレフがバタバタと手や足をデスサーティーンに向けて蹴り出すが、スタンドの像をすり抜けるだけで掠りもしない。スタンドを出せない以上、3人は一方的にコイツにやられるだけのサンドバッグだ。

「ラリホォォ〜〜っ!」

「ポルナレフッ!!」

「ポルナレフさんッ!!」

 ただ仲間が殺されるのを見ていることしかできない。

 デスサーティーンの鎌が大きく振りかぶられ、白鳥は花京院の腕にしがみつきながらギュッと固く目を瞑る。

 

「む……」

 だが、少しして目を開けた時、そこに見えたのは予想していた光景とは違っていた。

「おしい……ポルナレフ、誰かに起こしてもらって目を覚ましたか。運のいいヤツめ」

 デスサーティーンに捕らわれていたポルナレフの姿が忽然と消えている。彼のその言葉でハッとした白鳥は制服ごとカーディガンの袖を捲り、ガブッ!と自分の腕に噛みついた。

「ン?白鳥葵……まさか痛みで自分を起こそうとしているのかァァ〜ッ!?アハハッ!無駄だよォォッ!誰かに起こしてもらわないと起きれなくなっているのさッ!」

 ポルナレフを殺そうとした鋭利な切先が次は白鳥の方に向く。だが彼女が「ヒッ」と息を呑むより先に花京院がその姿を背に隠した。

「白鳥さんは殺させないッ!それにポルナレフが目覚めたなら、彼がジョースターさんたちに知らせてくれるはずだ!」

 花京院がそう凄んでみせるが、デスサーティーンはケラケラと甲高い笑い声を響かせながら標的を花京院に変える。

「花京院〜ッ!きさまバカか!?目が覚めたらこの夢のことを忘れていたのを忘れちまったか〜ッ!?目覚めたら記憶が消えちまうんだよォッ!」

「ハッ…!」

 ガーン、と花京院は自分に対して衝撃と呆れを同時に感じる。

 だったら僕らはどうしたらいいんだ。後ろには白鳥さんがいる。承太郎がいない今、彼女だけは絶対に守らなければならない。

 ――それならば。

「う……うおおおおおおおおッ!!」

 花京院は一歩前に出ると両腕をボクサーの真似事のように振り回し始めた。

「か、花京院先輩!?どうしたんですか!?」

 普段の花京院からは想像もつかない姿に白鳥は狼狽えて一歩後ずさるが、観覧車のゴンドラ自体がガタガタに揺れていまにも崩れそうになっていることに気付いてサッと青ざめる。

「なにバカなことしてんだ〜ッ!?そんなことしても俺は倒せないぜ〜ッ!!」

 デスサーティーンが彼の首を捉えようと手を伸ばすが、暴れ散らしながらサッサッと避けていく。

「あ…!か、花京院先輩、まさか…!あ痛ッ!」

 花京院の行動の意味になにか勘付いた白鳥だったが、彼の振り回す拳が頭に直撃し―――、

 

「い、痛い…!なにか当たった…!?」

 目を覚ますとそこはセスナの機内だった。しかしなにか様子がおかしい。

「白鳥ッ!花京院から離れろ!こいつ今朝もそうだったんだ、尋常じゃなくうなされてッ!」

「えっ、えっ!?」

 ポルナレフがグイッと白鳥の腕を引いて己の方に引き寄せる。そんな渦中の彼に視線を向けてみると、驚きの光景が視界に広がった。

「うわああああ!!やめろおおおお!!!」

「ッ!やめるのはてめーの方だぜ花京院ッ!起きろッ!!」

「い、いかん!このまま暴れられたら墜落してしまうッ!!」

 拳を突き出して暴れ狂う花京院。そしてセスナが錐揉みのように回転してはぐるぐると旋回していて、機内がシェイクされている。

「おい……ひょっとしてこのセスナ、墜落するのか?」

「つ、墜落!?香港の時みたいに!?きゃあっ!」

 グォンッ!とまた錐揉みした勢いで白鳥が座席から滑り落ち、前にいた承太郎の方へ転がり込む。それを承太郎はしっかりと抱え込みながら座席を蹴り付けてくる花京院の脚を後ろ手で払い除けた後、彼がようやくおとなしくなりそのことには安堵した。

「ハ…ハーミット・パープルで操縦するッ!」

 機内が静まったことでジョセフも冷静さを取り戻したのか、ハーミット・パープルの茨を出してイカれた操縦桿に巻きつけると地面に墜落する間一髪のところでセスナが態勢を立て直して再び上昇を始めた。

「いやったぁぁぁぁッ!!さすがジョースターさんだぜッ!!」

「見たかお前たちィィィーッ!!さすがわしじゃーーッ!!」

 ポルナレフとジョセフが喜びの声を上げる中、承太郎と白鳥もホッと胸を撫で下ろす。

 しかし――、

「おい!前見ろじじいッ!」

「えっ?」

 それも束の間、承太郎の声に反応したジョセフが前を向くとそこに聳え立っていたのはヤシの木。

「オーマイガーッ!なんであんなところにヤシの木が生えてるのーッ?」

 軌道修正の間に合わない速度の中セスナは無事(?)ヤシの木に衝突、バラバラに分解しながら砂漠のど真ん中に木を巻き込みながら墜落したのであった。

 

 

 ―――

 

 

 その夜。

 奇跡的に全員無事だったジョースター一行はボロボロになったセスナの中から野営道具を引っ張り出し、テントを設営したり夕飯を作ったりしていた。

「花京院先輩は休んでて大丈夫ですからね」

「メシはわしらに任せなさい」

 承太郎とポルナレフがテントの設営をし、白鳥とジョセフが火を起こして夕飯を作っている。その間、花京院は自分がしてしまったことに対して落胆し、岩場に腰掛けてはずっと項垂れっぱなしになっていた。

「花京院、こうなったのはお前のせいだぜ!一体どうしちまったんだよ、今日に限って!」

 ひと足先に設営を終えたポルナレフが戻ってきてそんな花京院に声を張り上げながら問い詰めているのを、白鳥は作っている最中のトマトリゾットを混ぜながら見つめる。

「わからない……恐ろしい夢を見たような気がするし、目が覚めたら体が死ぬほど疲れているしで……僕自身も気味が悪くて。僕はおかしくなってしまったのか…?」

「元気を出せ!きっと疲れすぎているんじゃよ……日本を出て1ヶ月を過ぎているし、その間敵は次々と襲ってきているんだからな」

 ジョセフが彼の隣に座っては安心させるように肩を優しく叩いている。

(私も……なんだか怖い夢を見た気がするけど、ぜんぜん覚えてないや。花京院先輩が暴れて殴られた時に目が覚めたみたいけど……)

 白鳥はセスナ機内でのことを思い返してみるが、どうにもポルナレフの肩で眠ってしまったところと墜落事件との間のことが思い出せない。眠っていたのだから当たり前のことのはずなのに、それがなぜかとても不気味なことのように思えてしまう。ひと足先に目を覚ましたポルナレフが教えてくれたことだが、花京院が暴れ出した時に彼の握る拳が勢いよく白鳥の頭にぶつかって、それで起きたらしいが。

「白鳥、焦げるぞ」

「えっ?」

 不意に聞こえてきた承太郎の声に鍋の中に視線を落とすとリゾットを混ぜていた手が止まっていて慌てて底からかき混ぜる。

「わわっ!ちょっと焦げたかも……」

「フ、それも味ってヤツだな。焦げたところ味見してもいいか?」

 底の方から出てきた焦げ目のついた米に笑みを溢し、承太郎は彼女の隣に腰掛けてねだってみる。彼女は鍋を火から遠ざけると、木製のお椀に焦げたリゾットを少しだけよそった。

「ごはん前だから、ちょっとですよ?」

「ン……」

 差し出されたお椀とスプーン。承太郎はそれを見つめた後、あーっと口を大きく開ける。その姿に最初は疑問符を浮かべた白鳥だったが、意図を理解すると頬を染めながらお椀の中にスプーンを突っ込んで彼に無理矢理押し付けた。

「ア、アツアツだから自分のタイミングで食べてくださいッ!!」

「あ…?」

 思わず受け取ってしまった承太郎が次に視線を彼女に向けた時には鍋に蓋をして食器の準備を始めていて、少し残念そうにしながらも焦げ目のついたトマトリゾットを口に運ぶ。

「うめぇ……」

「ケッ、アツアツなのはてめーらだろうが」

 その様子を見ていたポルナレフは面白くなさそうに悪態をつく。いつもなら微笑ましいと思える光景も、墜落トラブルのせいかイライラする。先ほどもジョセフが赤ん坊をあやすために"いないいないばぁ"とやらをやっていたが、それに対してもポルナレフはそんな様子だった。

「それにしても赤ん坊の熱が下がったのは不幸中の幸いじゃったのう。この子になにかあったら申し訳が立たん」

 赤ん坊の入ったゆりかごをそばに置きながら、ジョセフも美味しそうな匂いを漂わせて何かつくっている。それに気付いたポルナレフは彼の隣に腰掛けた。

「美味そうな匂い!なにつくってんの?」

「この子に食べさせるベビーフードじゃよ。ホリィにもつくってやったことがあるんじゃ。これはミルクに卵黄とバナナとパンをトロトロになるまで煮たものじゃ。少し味見してみるか?」

 ジョセフが彼にベビーフードを掬ったスプーンを差し出すと、彼はパクッとそれを口にする。

「ン!うまぁーいッ!こりゃあイケるッ!もっと食わして!」

「こらこら、赤ん坊の分がなくなるじゃあないか!」

 2人はケラケラ笑いながらベビーフードを囲んでいる。

 食器を運びながらその様子を見ていた白鳥も思わずくすくすと小さく笑い声を溢していた。

「フフ。みんな思ったより元気ですね。花京院先輩も元気出してください。みんなでごはん食べたら、きっと憂鬱な気持ちも吹き飛びますよ」

「え……あ、ああ。僕も白鳥さんがつくった…なんだっけ、なんか、楽しみだな……」

 不意に話し掛けられた花京院はパッと顔を上げるが、上手く言葉にできない。そんな自分が情けなくてもう一度視線を落とす花京院だったが、ふと自分の服の袖口から傷が覗いているのが見えて小さく首を傾げた。

「あれ?いつのまに傷が…?墜落した時に怪我でもしたかな……」

「あら、本当ですね。手当てしないと……傷、どんな感じですか?」

 白鳥も傷を覗き込むように腰を曲げ、花京院が袖を捲っていくのを見つめる。

 傷は単なる切り傷ではなく、姿を現すたびになにか規則的な記号のようにも見えたが、その全貌が露になると同時に2人はヒッと息を呑んだ。

「えっ…!?」

「こ、これは…ッ!?」

 

 "BABY STAND"

 

 アルファベットのようにナイフで刻まれた傷はそう読める。筆跡も花京院のものだ。

「い、一体これは…!いつ、どこでこんな…!?」

「こ、この文字…!"BABY"ッ!"STAND"ッ!」

 赤ん坊。スタンド。

 赤ん坊。

 2人は反射的にゆりかごの赤ん坊に視線を向けるが、いつのまにか起き上がっていた赤ん坊がサッと頭ごと視線を逸らしたのを見てドクンと心臓が強く脈打つのを感じた。

 

(しまった……抜け目のない奴と聞いていたが、目を覚まそうとナイフで切り付けていたわけじゃあなかったのかッ!)

 そう。この赤ん坊こそが"死神13(デスサーティーン)"の本体なのである。

 彼のスタンドは眠りという無防備な精神に入り込む夢のスタンドなのだ。

 そして本体である赤ん坊も生まれついての天才であり、このように大人と同じように思考を展開させることもできる。

(夜にこいつらが眠った後、1人ずつ殺してやろうと思ったのに…!こ、このままじゃあ先に俺がやられるッ!)

 

「赤ん坊……スタンド…!!」

「ま、まさかとは思いますけど……いや、でも……」

 花京院が赤ん坊ににじり寄る傍ら、白鳥もその文字について思考を巡らせる。

 確かにこの赤ん坊を招き入れた時からなにか様子がおかしい。いままでだってオランウータンがスタンド使いだったこともあるし、赤ん坊のスタンド使いがいたとしてもおかしくはないはずだ。

 しかし、白鳥自身は信じたくないあまりその可能性をなかったことにしてしまいたかった。だがそうしようと思うには引っ掛かる点が多い。

 赤ん坊が来てからおかしい。意識的に目を逸らした赤ん坊。そして花京院の腕に刻まれた文字とその筆跡。

「おい花京院ッ!やめなさいッ!!」

 そこで突如怒鳴るようなジョセフの声が耳に入ってハッとしたように意識をそちらに向けると、花京院が赤ん坊をガシッと乱暴に掴んでいて思わず「あっ!」と声が漏れ出る。

「いきなり乱暴じゃあないかッ!首を絞めるように抱くなんて…!」

 当然のように響く赤ん坊の泣き声を聞いた白鳥が駆け寄る前にジョセフが彼から赤ん坊を取り上げ、優しく抱え直す。

「もうメシを食って早めに休もう!きみのためにもな……ゆっくり疲れを取ろうじゃあないか」

 トントンとジョセフが赤ん坊を優しく撫で叩きながら揺らし始めると赤ん坊も大人しくなったが、白鳥の中では妙な胸騒ぎが止まらなかった。

(こ、このまま……あの赤ちゃんを放っておいて大丈夫なのかしら……それに、花京院先輩のことも……)

 花京院に視線を向けてみるとやはり項垂れている彼の姿があって、おろおろと食器を持った手を右往左往させることしかできない自分が情けなくなった。

「白鳥、さっさとメシにしようぜ。花京院も早いとこ休ませてやらねーと」

 そんな白鳥に気付いて承太郎が肩を優しく叩いてくれるが、いましがた起こった出来事の整理が追いつかない。

「は、はい……そうですね。私も早く、休みたいです……」

 なぜか白鳥の様子までなにかおかしい。

 承太郎は思わしくない様子の彼女を気遣ってか、その手から食器を全て抜き去ってはヌシヌシ歩いていき、彼女お手製のトマトリゾットの配膳を始めた。

 

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