―――
承太郎がハッと目を覚ますと、見えたのは空に浮かぶさまざまな色の風船だった。
「なんだ、ここは…!?」
シュラフから身を起こし、辺りを見回してみる。
目の前にはメリーゴーランド、コーヒーカップの乗り物、そしてすこし遠くに見えるレールを走るのはジェットコースター。風船がくくりつけてあるワゴンに、極め付けに見えるのは大きな観覧車。
「遊園地……か!?」
ここから導き出される場所はそれ一択だ。承太郎はシュラフから出ると敷地内を歩き回る。
「ここはひょっとすると夢の中か…?だがなにか妙だな……」
人はいないし、なのに乗り物は正常に動いているようにも見える。そしてこの薄気味悪さ。遊園地とは程遠い雰囲気に寒気さえ感じてしまう。
「…………」
あの赤ん坊がスタンド使い。花京院と白鳥が懸命に主張していたが、ポルナレフを始め己も半信半疑だったためかいつもより消極的になってしまっていた。赤ん坊はオランウータンのように本能から闘争心を呼び起こす性質は持ち合わせていないだろうと最初から決めつけていたからだ。
しかし、こうして不気味な夢の中に引き摺り込まれて初めて理解した。
こんな芸当はスタンド使いにしかできない。
どう絞り込んでもあの赤ん坊しかいないのだ。
『承太郎先輩、どうして今日は黙って見てるだけなんですか』
「…………」
白鳥の言う通りだ。
なんでもかんでも鵜呑みにするのは危険なことだが、花京院は信頼する仲間なのだ。もう少し彼の声に耳を傾けてやってもよかったんじゃあないのか。彼女1人に任せきりにせず、己も彼に寄り添うことくらいできたじゃあないか。そうしたら、花京院もあんなに心を乱すこともなかったはずなのに。
「花京院……花京院に謝らなければ。白鳥にも……」
花京院はポルナレフが気絶させ、白鳥も先に眠っていたのでこの夢の中に来ているはずだ。ポルナレフやジョセフと早く合流して、事情を説明してから彼らを探しに行かなくては。
いつもこうだ。チームの和を乱され、その隙をついて攻撃される。これからはもっと結束を固めなければ。
(そのためには俺も、もうちっと上手く立ち回れるようにしなきゃあな……)
この調子では白鳥に愛想を尽かされてもおかしくない。彼女だけでなく、花京院もポルナレフもジョセフも、そしてこれから合流するであろうアヴドゥルにももっと寄り添えるように。
「あっ!いた!承太郎ッ!!」
少しでも早く合流しようとツカツカ早足で遊園地の中を歩き回っているとどこからか声が掛かり、その方向へ顔を向けるとポルナレフとジョセフがこちらに向かって手を振りながら駆け寄ってきた。
「承太郎ッ!!俺、花京院と白鳥に謝らねェと!!俺もさっきセスナの中で寝た時にこの夢の中に来たんだ!一緒に殺されかけたッ!なのに俺はあいつらにひでぇことをッ…!!」
「落ち着くんじゃ、ポルナレフ!お前まで取り乱してどうするッ。承太郎、2人を見かけたか?」
ポルナレフが承太郎の両腕に縋り付いて堰を切ったように言葉をぶつけるのを、ジョセフは肩に手を置きながら承太郎に尋ねてみるが彼は首を横に振る。
「いや、まだだ。見かけたらとっくに合流してるぜ」
「だよなァ…!花京院ッ!白鳥ッ!謝りたいんだ、出てきてくれーッ!」
ポルナレフは罪悪感からなのか、大声を張り上げて2人を探し回っている。
「ここにいますけど……でも、まだ姿を見せるわけには……」
その様子を白鳥はジェットコースターのレールの上に立ってジッと見つめていた。
花京院と立てた作戦はいくつかのプランに分かれている。ここでデスサーティーンがどう出てこようと冷静に対処するのみだ。
(デスサーティーンは花京院先輩と私がスタンドを連れてきていることを知らないはず……きっと上手くいくわ)
さながら軍師といった風な花京院の作戦はいつだって抜かりなく、信用できる。この身を委ねても構わないと思える。
「ラリホー」
だからこそ、あの声が聞こえてきても平常心を保っていられる。
「キャハハハッ!!こ〜んな目立つところにいるなんてバカだねェ〜ッ!!バレバレなんだよォォ〜ッ!!」
(こっちに来た…!!)
「きゃあああ〜〜ッ!!」
デスサーティーンだ。彼は白鳥の背後から忍び寄りその身を腕で拘束しレールの上から連れ去ると、すかさず承太郎たちの前に降り立とうと素早く移動し始める。
(花京院先輩!プランAです!合図は私の叫び声!!)
スタンド使い、そして彼がここまで思考を巡らせることができる生まれながらの天才だとしても、対峙する敵のことをよく知らない奴が相手なら引けを取るつもりはない。
こちらは2人。相手は1人。もちろん油断や慢心はあってはならないが、自信と信頼は両手に抱えるほど持っている。
「白鳥ッ!!」
デスサーティーンが白鳥を人質のように抱え、もう片手に持つ大鎌の切先を白鳥の首に突き立てながら承太郎たちの前に降り立つ。
「こいつだッ!!こいつがこの夢の支配者ッ!敵スタンドだッ!!」
「ラリホー!ポルナレフ、さっきぶりだなァ!さっきは殺し損ねたが、ここできさまら全員仲良く夢の中で死んでもらうぜッ!」
ポルナレフがビシッとデスサーティーンを指差すと、対する彼はビタリと白鳥の首に切先を触れさせ、顎下につぷりと食い込ませ始める。
「動くなよッ!動いたらいますぐズブリッ!動かずにいればジワジワッ!お前らの悪夢の始まりはァ、だぁいすきな白鳥が殺されていくのを見届けるところからだ〜ッ!」
つーっとひと雫の汗のように流れ始める血液とケラケラ愉快そうに高笑いするデスサーティーンを見て承太郎はすぐさま攻撃態勢に入る。
「スタープラチナッ!!」
「待て、承太郎ッ!この夢の中ではスタンドは出せないんだ!!」
すかさずポルナレフが止めに入ろうとするが、承太郎が吠えるように張り上げた声とともにスタープラチナがズギュゥゥン!と姿を現してギョッと目を見張った。
「えっ!そんな!俺の時は出せなかったのにッ!」
しかし動揺したのも束の間、スタープラチナはくるりと承太郎の方を振り向いたかと思えばその拳を主人である承太郎に向けて突き出した。
「オラオラオラオラオラオラオラッ!!」
「な、なにッ!?うッ!!」
そのまま力強いいつも通りのラッシュを承太郎はまともに受けて後方へ吹っ飛ぶ。
「承太郎ッ!!ああ…まさか…!!」
スタープラチナはどこからかフライパンを取り出し、自分の顔をぶん殴って「おろっ?」とマヌケな声を漏らし、平たくなった己の顔をぺたぺた触っている。
「ス、スタープラチナ…?」
主人の声も聞かず、スタープラチナはそのままフライパンで顔を殴り続けながらゲラゲラ狂った笑い声を響かせていて、白鳥も含めて一行はゾッと血の気が引く心地になった。
「アハハハハッ!ラリホーッ!こいつは俺の分身だよ〜ん!この夢の中じゃあ俺の思いのまま!なんでもアリなのさ!」
原型のなくなった顔をドロドロに溶かしながら姿を現したデスサーティーンの分身は霧散して消えていく。その間も白鳥の首に刺さった鎌の切先はジワジワと食い込んでいた。
「この圧倒的な強さ!絶対的な恐怖!楽しいねェ〜ッ!スタンドとは精神の力だ!夢とは無防備状態の精神!その無防備の精神をデスサーティーンは包み込んでしまっているからスタンドは出せなくなっているのさ!」
だからデスサーティーンは他のスタンドに出会うことがない。スタンドはスタンドでしか倒せないという法則上、この夢の中に引き摺り込まれた時点でこいつに敵う者はいないのだ。
「尤も、眠る前にスタンドを出していれば……着ている衣服や持ち物と同じように夢の中に持ち込めたがね」
だが、そんなことをする人間なんてそうそういない。
眠っている時はスタンドなんて出す必要がないからだ。
――"彼ら"という例外を除いては。
(……なるほど。2人は仕組みを分かっていたのか)
承太郎は先ほどの、夢の中に来る前のことを思い返す。
結局白鳥が先に寝ているテントに入ることになった承太郎は、彼女に形だけでも謝ろうと覚悟を決めて入り口のジッパーを開けた。
しかし、彼女はすでに眠ってしまっていて、隣では彼女のスタンドが手を握って添い寝していたのだ。
だから白鳥はあの状況下でもデスサーティーンの意表をつこうと声ひとつあげていない。彼女はただただ黙って首の傷を深くしていくだけなのだ。
いつもの白鳥葵なら、真っ先に彼らに「逃げろ」と声を張り上げるはずなのに、それがない。
そして――
「フフフ!アハハハハッ!さーて!それでは最後に余裕ある勝利とハッピーで爽やかな気分を象徴した叫びを発させてもらおうかな〜〜ッ!」
そうやって機嫌の良さそうな弾んだ声を響かせるデスサーティーンの背後。ヌルリと地面から顔を出すのは見慣れた光るメロンのような頭部と触手。
承太郎たちがそれに気付いたのは白鳥の無言のハンドサインに従って彼の背後をこっそり視線だけで覗き見た時だった。
「ら、り……ほ……!?」
瞬間、デスサーティーンの首をガシッとその手が締めるように掴む。
「ラリホー」
彼の代わりに光るメロン――もとい、花京院典明の
「なっ、なんだコイツはーーッ!!俺の分身じゃあないッ!!スタンドッ!スタンドがいるーーッ!!?」
デスサーティーンの叫び声が遊園地にこだますると同時に青く光る矢がどこからともなく飛んできてびよんッ!と矢尻の吸盤が彼の額に貼り付く。
「イヤーーーーッ!!こんなの俺知らないッ!!知らないんだけどォォーーッ!!」
デスサーティーンが完全に取り乱して手の力が緩まった隙に、白鳥の体がグンッ!と緑色の触手に引っ張られてその持ち主――花京院典明の座るコーヒーカップへとワイヤーアクションのように素早く移動した。
「ラリホー、みんな」
「か、花京院ッ!!花京院だッ!!」
「白鳥のハントレスも一緒だ!!2人ともスタンドが出せるのか!?」
コーヒーカップの陰からひょっこり顔を出したハントレスに白鳥が微笑んでグッと親指を立てている間に、3人もコーヒーカップへと駆け寄ってくる。
「さっきデスサーティーンが喋ってくれた法則の通りです。偶然とはいえ、私もスタンドを出したまま眠ってしまって……」
「僕も、気を失う直前にハイエロファントを出していただろ?その時に地面に潜り込ませて隠したのさ」
白鳥に巻いていた触手を解き、得意げに笑ってみせる花京院。そんな彼を見て安心したと同時に、ポルナレフたちはハッと思い出したように目を見張る。
「花京院!白鳥も…!俺たちお前らに謝んねえと……特に花京院には本当に……」
「わしらはきみのことを精神的に弱っていると勘違いしていた……白鳥くんもあんなに主張してくれていたのに、寄り添うことすらせずに……!」
「俺も……もう少し気の利いたことをしてやればよかったと後悔していた。本当にすまない」
皆が口々に謝るのを見て、花京院もようやくホッと胸を撫で下ろす。その様子に白鳥は安心したように短く息をついた。
「いや……僕も実際かなり取り乱してしまっていたからね。誤解されても仕方がなかった」
「私も考えがまとまらないうちに色々言ってしまいましたからお互い様です。それに私たちがスタンドを出したままにできたのは、ある意味皆さんのおかげですしね」
花京院はポルナレフに気絶させられたから。そして白鳥は半ば喧嘩のようになってしまったから。
「あの瞬間ひらめいたんだ。このままスタンドを引っ込めないで眠れば夢の中に持ち込めるぞ、ってね。本当だよ?」
「そ、そーなのか……へへ、なんか複雑な気分だなあ、面目な〜〜い!」
「フン……俺は釈然としねーけどな……」
複雑と言いながらも恥ずかしそうに首裏をかいて笑うポルナレフと、両腕を組んで眉間に皺を寄せながら顔を逸らす承太郎の姿は見るからに対照的で思わず白鳥はくすりと笑う。
「てめーら……この俺をコケにしやがって……!!」
その様子を呆気に取られながら見ていたデスサーティーンだったが、ついに怒りを露わに震えた声を上げて全員で身構える。
「花京院ッ!!ここで俺を絞め殺さないのは俺が赤ん坊だからかッ!?舐めやがって!!ここはまだ俺のつくった悪夢の世界の中なことを忘れるんじゃあねェ〜〜ッ!!」
デスサーティーンが激昂すると同時に空の雲がありえない速度で動き始め、それはやがて一塊りの拳のような形になって彼の片手に持っていた鎌をグワシッと掴む。
「まずはお前から死ねェェーーーーッ!!」
巨大な拳が鎌を大きく振りかぶる。誰が見たって絶体絶命、デスサーティーンは己の背後に回り込んで首を絞めているハイエロファントを追い込んで勝利を確信していた。
しかし――
「お仕置きの時間だよ、ベイビー」
花京院は微塵も動揺していなかった。
刹那、巨大な矢が真上から降ってきて巨大な鎌をガコンッ!!と弾いて粉々に破壊する。
「天才でも脳みそは赤ちゃんサイズかしら?ハイエロファントに気を取られて、私がいることを忘れていたようねッ!」
粉々になった鎌の落ちた先に一緒に刺さったのは青い光を纏う矢。ハッとして視線を花京院の方へ向けると、弓を掲げた白鳥が口許に弧を描きながらこめかみに指先を当ててデスサーティーンを見ていた。
「なッ!なにィィィィーーーーッ!!」
これにはデスサーティーンも狼狽えていたが、次には背後のハイエロファントが胴体を紐状にしてヤツの耳の穴から体内へと侵入する。
「あッ!あぁぁぁッ!ギャーーーーッ!!」
「お前はいま、2人も相手にしているんだから片方に気を取られてはいけないよね?ここに引きずりこめればと慢心して、敵の予習をしてないんじゃあ天才が廃るなァ」
そのまま体を解いたハイエロファントが全身をデスサーティーンの中に収め、「ぎにゃぁぁぁーーッ!!」と情けない絶叫を響かせるその口の中から顔を出した。
「さあて。内部から破裂されたくなかったら僕の腕の傷をまずは治してもらおうかな?それと、白鳥さんの首の傷もね。夢の中なんだからなんでもアリなんだろう?」
花京院が腕を捲って"BABY STAND"と書かれた傷の文字を見せる。
体内爆弾と化したハイエロファントを止めることはもう彼ではできないだろう。
「は、はい……」
先ほどまでの威勢はどこへやら、デスサーティーンはそれに従う他なく。
―――
「さあみんな!朝ですよ!起きてください!」
翌朝。
フライパンとおたまでカンカンとけたたましい音を鳴らしながら花京院はテントをまわる。
「これ、一度やってみたかったんだよな」
「もう、花京院先輩はしゃぎすぎです」
寝ぼけ眼でテントから顔を出す面々とイキイキした表情の花京院を見遣り、朝食を用意していた白鳥はくすくすと笑みを溢していた。
「う、うう……」
「もう朝かぁ……なんだかひでぇ夢を見た気がするがぜんぜん覚えてねぇ……」
「わしもじゃ……ものすごく変な夢を見た気がするんじゃが……」
デスサーティーンの悪夢のせいだろう。皆一様に顔色を悪くしながら這い出てきたが、既に起きて手鍋の中をかきまぜている花京院の姿を視界に入れてギョッと目を丸める。
「あっ!花京院ッ!お前大丈夫なのか!?」
「? なにが?」
「なにがって!お前昨晩はものすごい錯乱してただろ!自分で腕に"BABY STAND"なんて傷をッ!!」
ポルナレフが慌てて彼が袖を捲っている腕を見てみるが、そのような傷はどこを見てもなくて「あれェ?」と間抜けな声を上げていた。
「白鳥、お前も……昨日はえらく癇癪を起こして……俺が気の利いたことをしてやれなかったから……」
承太郎も朝食をつくっている白鳥の方へ足を向け、彼女のそばに腰を落とし帽子の鍔を下げながら申し訳なさそうに目を伏せる。
「承太郎先輩……気にしないでください。花京院先輩も私も、もう大丈夫ですから」
そんな承太郎の頬に手を添え、白鳥は反対側の頬にそっと唇を寄せた。
「えへへ……仲直りのつもりです。朝ごはん、しっかり食べてくださいね」
頬を赤く染めながらはにかむ白鳥は承太郎にサンドイッチの乗ったプレートを押し付けるように渡して花京院の方へ小走りで駆けていった。
「おいおい〜!朝からやってんねェ!」
頬を押さえながら状況が読み込めていない彼の背中をバシバシ叩きながらポルナレフがニヤついた顔を惜しげもなく晒すが、白鳥に視線を向けると昨日とは様子が違う花京院の姿も視界に入ってきて首を傾ける。彼らは赤ん坊用のベビーフードが入った手鍋を囲んでいたが、やがて赤ん坊のオムツを取り替えるようでゆりかごの方へ向かっていく。
「花京院、赤ん坊にももう警戒してねーみたいだし……昨日のは全部夢か何かだったのかなァ?」
背中を叩かれたことで我に帰った承太郎も、ポルナレフが見ている方へ顔を向けて様子を見る。
「…………そうかもな。みんなして夢見が悪かったようだし、昨日のがそれだったのかもな」
「あ〜!なるほど!それなら納得いくぜ!あ、サンドイッチも〜らいっ」
単純思考ゆえか、早々に彼の言葉に納得したポルナレフはプレートからサンドイッチを取ってムシャムシャ頬張る。
(まあ、そうなると仲直りという言葉の辻褄が合わなくなるが……)
皆が同時に同じ夢を見ることなんてあるのだろうか。
仮に昨晩の言い争いが夢だったとして、あんなにリアリティがあったのに。すべて夢ということにして片付けてしまってよかったのだろうか。
しかし、そうであるならきっと啓示なのだろう。
もっと皆に寄り添えるように。旅の仲間なのだから。
「みんなあの夢の中のことは覚えてないみたいですね」
「覚えているのはスタンドを持ち込んだ僕らだけのようだ。"いた"ということすら忘れている……変わったスタンドだ」
一方、白鳥と花京院は驚愕の表情を浮かべる赤ん坊を取り囲んで見下ろしていた。ゆりかごから赤ん坊を出し、地面に寝かせてやるとオムツを外して中にある大便を見つめる。
「いいか。お前は赤ん坊だから再起不能にしたり痛めつけたりはしない。あそこの村人たちと約束した通り近くの街まで送ってやる。どこかに母親がいるんだろう?そこへ帰ってもう二度と僕らの前に姿を現さないと約束しろ」
花京院はベビーフードをよそったお椀とスプーンを構え、サクッとそのスプーンでオムツの中の糞を掬う。
「近付いたら……たとえばこんな罰を与えよう」
ぽちゃ、と何食わぬ顔で花京院はお椀の中に糞を入れ、ぐるぐるベビーフードとかき混ぜてはしたり顔で声にならない悲鳴を静かに上げる赤ん坊を見た。
「お!花京院!ベビーフードまでつくってくれてたのか!どれ、昨日は食べてくれなかったがけさはどうかな?」
そこにジョセフが現れオムツを替えていた白鳥から赤ん坊を受け取り、優しく抱えてやりながら岩場に腰掛けてベビーフードを食べさせてあげようと受け取ったお椀からそれをスプーンで掬って赤ん坊の口許に運んだ。
(や、やめろ〜〜ッ!!俺のうんこ入りのメシなんて食いたくねェェ〜〜ッ!!)
赤ん坊は必死で首をブンブン横に振りながら頑なに口を閉ざすが、ジョセフからすればただのイヤイヤ期にしか映らないだろう。
「あれ?こらこら、好き嫌いはだめじゃぞ!白鳥くんのように好き嫌いなくおいしく食べないと!」
「ジョースターさん、いい考えがありますよ」
その様子を見ていた白鳥が赤ん坊に手を伸ばすと、お腹の辺りをこちょこちょと擽る。赤ん坊は突然の"くすぐったい"という感情に驚いたのか、「あっ!」と大きく口を開けた。
「いまじゃ!」
ぱくっ。
その口の中にジョセフがスプーンを突っ込むと同時に、みるみる赤ん坊の顔が青くなっていく。
「ム〜〜〜〜ッ!!」
「ふふ、よく食べられましたね。このまま残さず、よ〜〜く味わって食べましょうね〜〜」
赤ん坊の苦痛な呻き声と白鳥の凄みさえ感じる笑顔の圧がなんともミスマッチ。
「白鳥くんも将来のために、赤ん坊との接し方を考えてくれとるんじゃなァ〜。ひ孫の顔を見るのが楽しみじゃよ!」
そんな中、ジョセフだけが幸せそうに微笑んでいたのだった。
チャンチャン♪