「もう!またですか!」
それはこちらの台詞だ、何度その言葉を聞いた事か。
「別にいいだろ、俺が何をしても勝手だろ」
「そのせいで毎回毎回危ない目に合っているじゃないですか!」
ああ、その通りだが…
「…悪かったよ」
今回は素直に謝る事にした。
何故なら目の前にいるムッとした顔で佇んでいる少女のあちこちがボロボロになった原因が俺にあるからだ。
現代、以前は全て神の仕業だったり錬金術で片付けられてきたりした殆どの事を科学で証明出来る時代に、俺は情けない事にも所謂神隠しに出会った。
きっかけはとあるソシャゲだった。
そのゲームのガチャで俺は所謂爆死をしてしまったのである。
どうしても欲しかったキャラがいたのである。
緑色の髪をしており、お淑やかさの中にも凛とした芯のある魅力的なキャラだった。
だが、結局引けなかったのである。
元々俺は運がない方ではあるのだが、ここまで外れたのは初めてだった。
そうしてすっからかんとなった俺は思い立ったのである。
そうだ、神社へ行こうと。
あまり信仰深い人間ではなかったので神社に行く習慣はなかったのだが、この不運を神様に払ってもらおうと都合のいいことを考えるくらいには信じていた。
しかし、俺の記憶はその神社で途切れている。
どうして俺なのだろうか、こんな平凡な大学生なのに。
そんなテンプレのような問いに答えてくれる相手もおらず、気が付いたら全く見知らぬ空を見上げていた。
周辺は森であるようで、枝が丸っこい見たことのない木々があった。
まるでファンタジーのような。
おいおい、こういう異世界転生って何か特典とか貰ってから世界を救いに行くんじゃないのかよ。
そんな的外れなことを考えて居た時に、木々の奥に小さな人影を見つける。
所謂第一村人みたいなものだろうか?
とりあえずここがどういう場所なのか知らなくては、とそちらに足を向ける。
俺はまだ、自分の事を特別で力のある人間だと思っていた時だった。
「やぁ、こんにちは」
見つけたのは金色の髪をした少女だった。
赤いリボンを付けており、黒いワンピースを着ていた。
小学校に通っていそうな程幼く感じる外見だが、何故か露出が多かった。
最近のガキはませてるな。俺のガキの頃の女の子なんて皆ガード固かったぞ。
というかこれ俺事案なのでは?こんな小さな子に声かけるのは流石にまずいかと思っていると
「貴方、人間?」
と聞かれる。失敬な。
「ああ、お前と同じな」
俺は確かに見た目はいい方ではないが、服を着たサルにでも見えたのだろうか。
そう思って答えたのだが、少女はその返答に深く満足したように笑い
「そっか、良かった…食べられそうで」
凄く眩しい笑みだった。
年相応な笑顔なはずなのだが何故か違和感がある。
その言葉と様子に疑問を持ち、その事を俺が言葉として表現しようとした同時に左腕に焼けるような鈍痛が走る。
何が起こったのか見ようと顔を向ける前に体が浮遊感に包まれ、背中に強い衝撃。
肺の空気を吐き出しながら俺の視界は目まぐるしく回っていた。
恐らく吹き飛ばされたのだろうと理解する。
誰に?目の前の少女にだ。
ありえない、まだ子供といっても差し支えない子にだぞ。
「っっっつ!?」
いきなり起こった異変に混乱する。
上手く思考がまとまらなかった。
「あら、丈夫なのね貴方。今ので骨折だけで済むなんて」
ああ、これ骨が折れてるのか。
骨折なんて生まれてこの方一回もしたことが無かったがこんなに鈍い痛みなのか。
ただ、痛みを自覚したお陰で少し混乱が収まった。
これは、逃げなきゃヤバい。
今までに感じたことのない焦りを感じる。
例えるなら…そう、生命の危機を感じた本能が警鐘を鳴らしているような。
「貴方、ここの住人じゃないんでしょ?外来人だったっけ、それらは食べても怒られないよね!」
やっぱり死ぬかどうかの瀬戸際なのか。
脚に力を入れる。
動く。大丈夫だ、逃げることは可能だ。
俺は高校では陸上部に所属していた。
勿論砲丸投げや走り高跳びなどではなく、短距離走だ。
スタミナにはそこまで自信がないが、一瞬で距離を離せば問題ないだろう。
そう考え倒れた状態から走り出し、
「…へ?」
目の前が暗くなる。
いきなり視界を塞がれた俺は更に焦りを加速させ、足をからませ倒れてしまった。
湿った土の味がする。
「何も見えなければ逃げられないよね!ふふー」
倒れた俺の頭の上から声が聞こえる。
どうやら超能力か何かで俺の視界は塞がれたらしい。
折角異世界転生したがどうやらここで俺の冒険は終わりらしい。
主人公が能力ないまま異世界に放り込まれて死ぬのかよ。
こんな異世界転生を描いた作者にはケチの1つでも付けたい所だが、それも命あってだ。
「なぁ、どうしても俺を殺して食べなきゃいけないか?」
「ええ、お兄さんとても美味しそう!」
「せめて片腕だけとか…?」
「嫌」
あぁ、終わったかなこれ…
隙をついて何とか逃げようとさっきまでは画策していたが、視界を塞がれているとどうしようもない。
勿論ここで自分自身が超能力に目覚める展開に期待したいのだが、生憎そういった前兆はない。
そうして彼女は俺の左腕に手を伸ばし、
「はむ」
根本から食べた。
激痛が走り、それだけで意識を失いそうになる。
気力が腕から血液とともに抜け落ちている感覚だ。
失った腕を見る暇もなく目の前が暗くなる。
最後に見えたのは、自身の腕の痕から出ていた血だまりだった。
次に目を覚ますと、そこは異世界転生する前に訪れた近所の神社だった。
俺はそこのベンチに横たわっているらしい。
身体をゆっくり起こしながら考える。
さっきの出来事はもしかして夢だったのだろうかと。
この神社で眠ってしまった時に見た夢なのかと。
「…!腕は!」
腕を見る。
無かった。
あるはずの腕がなく、その後には包帯が巻かれていた。
そのことを認識すると同時に腕からの痛覚と生命の危機に対する恐怖を遅まきながら感じた。
叫びこそしなかったが、汗がダラダラと流れるのを感じる。
さっきの出来事はやはり夢だったのだろうか。
しかし、夢だとするとこの腕はどう説明するのだろうか。
眠っている最中に腕を切断されてそれが夢に反映されたのだろうか?
誰がそんなことをする?
いや、ありえないだろう。
混乱しつづける俺に一人近づく人影があった。
「あ、目が覚めたんですね!よかったぁ」
そう声をかけられるまで俺はその人影に気付かなかった。
声をかけられた方をゆっくりと向く。
そこに立っていたのは翠色の髪をした少女だった。
次の投稿はいつになるか分かりませんが書いています。