場所は真条が特訓に良く使う学校裏の大木の前。
今ここで決闘が行なわれようとしていた。
「凰、貴女はトーナメントもあるし怪我はしないようにバリアグローブをつけましょう」
「ホントは素手でいきたいけど、まぁしょうがないわね」
バリアグローブとは日本が決闘法を認めたときに着用を推薦したグローブだ。
細かいメカニズムの説明は省くが、要するにこのグローブをつけていればダメージを受けた感覚はあるが怪我にはならないという優れものだ。
関節技もしっかりと怪我にはならないようにするという。
あくまでも国は推薦しているだけなので義務ではなかったりもする。
「いくわよラム!成長したあたしの力を見せてあげる!」
「その心意気やよし!存分に試させてもらうわ!」
二人の戦いに開始の合図はない。
どちらも同時に動き出した。
「はぁ!」
「シッ!」
お互いの拳が繰り出される。互いに命中こそしなかったもののその拳は相手の挨拶みたいなものだ。
「たぁ!」
凰の拳が次々と繰り出される。
その形は空手ともボクシングとも違う特殊な技であった。
腕を鞭のように振るい、腰を支点した変幻自在の攻撃。
それを受け流しつつも真条は一つの武術を思い出していた
(これは・・・劈掛拳!)
劈掛拳は中国武術の1つである。
全身の力を抜き下半身の動きによって腕を風車のように振り回す事を基本とする。
遠心力を利用した打撃は鋭く重く、しかもフットワークによって多角的な攻撃もできるのだ。
「なかなか面白い技をもったわね凰!」
「でしょう?アンタ負けっぱなしじゃアタシも悔しいから必死に特訓したのよ!」
この二人は1年前に中国で戦ったことがある。
当時の真条の師匠とも言える人物が凰の上司と知り合いだったため「ならば弟子同士戦わせて見るか」という話になったらしく、二人は戦うことになった。
当時はあまり生身での戦闘になれていない凰だったが真条には執念で喰らいついたりとなかなか見所があると真条自身も戦いながら凰を鍛えたのだ。
10戦20戦と戦ううちに凰の実力はメキメキと伸び1~2回は真条から有効打を取ることにも成功している。
最後は真条が次の修行場に行くこともあってそのまま別れたが凰はいつでも真条と合えるように必死に特訓をしこの劈掛拳をものにしたのだ。
凰の攻撃は止まない。
暴風のような凰の攻撃の合間を見てカウンターを決めることは難しい。
ならば真条はどうするか。
簡単な話である。
「ジャッッ!!」
「!?」
腰を支点にしているということは攻撃面に特化しすぎて防御に移行するのは難しいということだ。
真条はその劈掛拳の弱点を突き脚払いをしたのだ。
バランスを崩した凰はその場で倒れこんだがすかさず起き上がろうとし・・・
「なんのまだまだ――――ッ!?」
顔を上げた瞬間凰は固まった。動けないのだ。なぜなら自分の顎先に真条の拳があるからだ。
しかし既に半分まで伸びてる腕からそんなに強い拳が出るわけが無いという考えに至り凰が動こうとしたそのときだ。
「ッッッ!?!?!??」
顎に強烈な衝撃が襲い掛かる。
あの距離から何故!?そんな考えが凰の頭に巡った。
踏ん張ろうにも顎を撃ちぬかれて肉体は意思とは関係なく崩れる。
「がぁ!」
その場に崩れた凰に真条は容赦なく正拳突きを顔面に命中させ仰向けに倒れさせる。
そしてその後に行なった攻撃が。
「シッ!」
顔面への踏みつけである。
しかし、ただの踏み付けではない。踵に体重を乗せ踏み抜く下段の踵蹴りだ。
蹴り技の中でも金的蹴りと並ぶ必殺性の高さをもっている。
そんな踵蹴りを真条は1度のみならず2度、3度、4度、5度までも連続で行なったのだ。
「フフ・・・」
真条は一旦凰から距離を置いた。
「立ちなさい。まだ終わってはいないのでしょう?」
そう凰に告げた。
一見すると凰は既に気を失っているように見えたが・・・
「・・・あったり前でしょ!!!ったく相変わらず容赦ないんだから・・・」
凰はすぐさま起き上がり構えを取った。
「痛くなければ覚えない・・・私の指導はそういうモノだってわかってるでしょう?」
「えーそうよ、アンタにはほんっと痛い目あわされたわよ!」
まだまだ戦いは始まったばかりなのだ。
二人の目は獲物を見つめる飢えた狼の目であった。
「んだらぁああ!!」
「はぁ!」
二人の激しい攻防が始まった。
凰の連撃を真条は受け流し、真条の攻撃は凰の独特な脚裁さばきによってかわされる。
二人の衝突は途切れることなく続くかに思われた。
だが。
「貰った!」
真条は劈掛拳の弱点に気がついた。
腕を鞭のように振るうには相手との距離が必用なのだ。
速度や重量が乗り切る前にその攻撃を受ければダメージはほとんど無い。
それを実戦するように一気に凰との距離を縮める真条だったが・・・
「かかったわね!真条ラム!!」
「ッ!!」
突然体全体に衝撃が走る。
真条の身体は飛ばされ地面を転がる。
「鉄山靠・・・・よし、成功した!」
八極拳の代表的な技「鉄山靠」
背中全体を大きな拳とし相手に体当たりすることで絶大な威力をたたき出す必殺の拳。
その性質ゆえ、リーチが短いのだが凰は劈掛拳の弱点を相手に突かせることで向こうから射程に入るように誘導したのだ。
「か、くは・・・」
「どうよ?アンタから有効打、とれたわよ!」
その言葉を聞き真条は微笑む。
「素晴らしい、全く素晴らしいですよ!凰、貴女は良くぞそこまで強くなりましたね」
「アンタっていう目標があるからね!ずぇったいに勝つ!!」
そして二人の戦いは再開された。
痛みの上に重ねられる痛み。
疲労も限界まで達しても止めることのできない拳。
彼女達の内に秘められていた闘志はもはや誰にもとめることができない。
そう、戦っている本人達以外には。
「もらったぁ!!」
凰の拳が真条の顎先を掠める。
咄嗟に避けたが掠ったせいか真条の膝が崩れる。
すかさず凰は真条に蹴りを放とうとしたときである。
「邪ッッ!!」
真条はそのままの姿勢で凰にダッシュをした。かなり姿勢が低くこのままでは空振りの恐れがある。
凰は急いで姿勢を直し防御の体制に入った。
(おそらく狙いはタックルからの組技!ラムが組み技をもっていることはプロレス技を仕掛けてきたことから予想できる!」
凰は万全の構えで真条を待ち受けたが次の瞬間。
「―――――!!?」
凰の目の前には脚が迫っていた。
誰の?考えるまでも無い、真条の脚だ。
だが彼女はタックルに移行していたはずだ。自分の予測に誤りはなかったはず。
「そんな―――!!!」
真条はタックルに移行すると思わせておいて相手の目の前についたところでオーバーヘッドキックをしたのだ。
無常にも真条の蹴りは凰にクリーンヒット。そのまま後ろに吹っ飛んだ。
「ぐぅ・・・くっ」
起き上がろうにももうカラダが動かない、今回はここまでのようだ。
「私の勝ちですわね・・・」
「悔しいけどそうよ・・・真条ラム」
ここに決闘の決着がついた。
二人の顔には満足そうな笑みが浮かんでいた。
格闘できる女の子ってカッコイイですよね。