シャルロットとの話が終わった後は一応怪我をしたという名目なので保健室に行くことにした。
「返事はいつでもいいわ。決めるのはあなたの心しだいなのだから」
「うん・・・ありがとね。真条さん・・・」
シャルロットにはもう一人で行けると言い別れた。
そして真条は保健室とは違う方向に足を進めた。
―――――――――
真条はいま屋上にいる。
今は授業中なので生徒などいるはずも無い。
なぜ彼女はこんなところに来たのか。
答えはいたって簡単である。
今、真条の目の前にはあの銀色の鷹がいるのだから。
「・・・・ベルサーがまた来ると?」
真条の問いに鷹は頷いた。
「まさかもう本隊がきていると?・・・そう、まだ来てないのね」
真条の頭の中には鷹から与えられる情報が次々と入ってくる。
ベルサーのこと。シルバーホークの追加装備のこと。そして彼女の両親の母星のこと。
「そう、また近いうち来るのね・・・正確な日は・・・わからないのね・・・いいえ、正直助かってるわ。この星でシルバーホークの存在を極力隠しながら戦えるのはあなたのサポートがあってこそですもの・・・」
そう、この星の人間にはまだシルバーホークの存在は知られてはならない。
それは戦いを始める前からずっと考えてきたことだ。
この戦いは一人でやらなくてはならないと。
そのためには真条は自分を捨てる覚悟も十分に持っていた。
「わかったわ、今回も迎撃という形をとるわ」
真条がそう言うと鷹は空に飛び去った。
戦いが近い。
今の自分の体では戦うたびに壊れていく。
敵の戦力が小出しの今ならそれでもまだ良い。
しかしもし敵の攻勢が本格的なものになったら?
その時は休息なんてしていられない。
ならばそうならないための手段は必要だろう。
真条は携帯を取り出すとある番号に電話をかけた。
「・・・・あぁウォン?今大丈夫かしら?・・・そう、いいのね。・・・突然で申し訳ないんだけど『ミカエルの眼』に例のものの要請をしてほしいの。・・・えぇ、一応念のために持っておきたいのよ。・・・・そう、何かあったらまた連絡するわ」
そういうと真条は電話を止め振り返る。
「覗き見・・・では無いわねぇ。堂々としているのだから」
「うふふ、確かに覗きではないわねぇ。はじめまして、真条ラムさん」
そこには扇子を手に一人の少女が立っていた。
その立ち方は堂々としており、自信と実力の持つものだと雰囲気でよくわかる。
真条はこの人物を知っている。
といってもこの人物はIS学園では有名なほうであり、真条もチラッと見かけた程度でしか知らないのだが。
「更識・・・楯無・・・生徒会長だったかしら」
「ご名答~かの真条ラムに名前を知ってもらえるなんて私もいよいよ有名人なのね~」
楯無は口元に扇子を広げて笑いながら答えた。
扇子には「光栄」と書かれていた。
「何をとぼけたことを、あなたはこの学園では知らないものは殆どいないほどの権力者じゃない」
「権力者とは、穏やかじゃないわねぇ~ただの生徒会長よわたしは?」
とぼけているのかつかみどころ無い雰囲気を漂わせる。
だが目の前に現れたということは真条に何か用事があるのだろう。
「えぇ、あなたに聞きたいことがあるのよ」
「なにかしら?私は正直言って更識家の得になるような情報なんて何も無いわよ?」
「またまた~まぁいいけどね。まず聞きたいのは貴方は確か保健室に行く予定じゃなかったかしら?」
「足首の痛みが治まってきたから外の空気を吸おうと思いましてね」
真条は自分の足をとんとんと叩いた。
「生徒会長としてはサボるなんて不良行為は見過ごしたくないのだけど?」
「でもだからこそ貴方は私に話しかけられる。違う?」
「・・・まぁいいわ」
そう言うと楯無はため息を吐いた。
扇子には「保留」の文字が書かれていた。
どうやら不問にするようだ。
「では次に、あの銀色の鷹は何なのかしら?よく聞こえなかったけどなにか話をしていたようだけど?」
「・・・・別に、珍しかったから声かけてみたりとかして反応うかがったのよ」
答えるのに少し時間がかかった。
見られていたのは知っていたがやはり少々迂闊だったか。
ベルサー接近の知らせに少し苛立っていたのかもしれない。
「それで納得しろと?」
「納得してもらうよりないわね。それが私の持ってる情報だもの」
「しゃべる気はないと?」
「しゃべるも何も無いもの。しょうがないじゃない?」
再度ため息。
もはや楯無からの疑惑は晴れることは無いのだろう。
そんなことは真条にだってわかってる。
彼女の前で迂闊な行動を取った時点ですでに形勢は不利なのだ。
「いいわ、最後にこれだけは聞かせてくれない?」
「なにかしら?」
楯無の目をみる。
先ほどの優しさを秘めた目ではなく、敵意を秘めた鋭い目つきだった。
「『ミカエルの眼』とつながりがあるようね。この学園で何をするつもりなのかしら?」
鷹との対談が見られたのだ、その後の電話も聞かれたのだろう。
彼女が敵意を持ってこちらを睨むのも無理はない。
ミカエルの眼は言ってしまえば「殺し屋の寄り合い」だ。
そんな組織と繋がりがある人間が学園にいたら警戒もするだろう。
彼女はこの学園を守るためにあらゆる手段を用いるのだろう。
その心には敬意を表するべきだ。
「そうね。私がこの学園で行うことは防衛。守ることよ」
だから正直に答える。
巻き込むつもりは無いが、守るということを志す同士なのだ。
「守る?あなたが?」
「そう、最近物騒になってきたじゃない。特にこの学園はまだまだ何か起こる。そんな気がしてならないのよ。」
「それは、そうね・・・」
何せこの学園には謎のISが現れしかも同時刻に謎の艦隊とISが戦闘を起こしたのだ。
学園からすればそんな状況なのだ。
「話すことはもう無いかしら?そろそろ空を見たいのだけど?」
「え、えぇ。とりあえず今はそんなもので良いわ。まだまだ好感度も低いようだから今日はこの辺で引き下がるわ」
「好感度上がることってあるのかしら?」
「そこは私の腕の見せどころよ!」
楯無の扇子に「攻略!」の文字が書かれている。
真条は別に気にもとめない。
「それじゃぁ私はもういくわよ。あんまりサボらないでね」
「サボることは珍しいからそんなに気にしなくて良いわよ?」
「そうなることを願っているわ・・・っとそうそう」
帰ろうと歩いていた楯無が止まりこちらを見る。
「簪ちゃん。いい顔するようになったわ。たぶん貴女のおかげ」
「・・・何もしてないわよ?」
「でもあなたと関わってから焦っている雰囲気が抜けたもの。姉としてはちょっと複雑だけどね」
「なら次は自分で解決できるように努力しなさい」
「それが出来たら苦労しないわよ・・・」
そういいながら楯無は歩いていった。
その背中が扉の向こうに行ったのを確認した真条は空を見上げる。
雲がまばらにある空。
その青と白のコントラストが生み出す風景。
これを守るために、自分は戦っている。
そう思いながら真条は静かに歩き出した。
まだ孤独な戦いさせたいのに皆が絡んでくるから、
孤独という名の城壁が壊れそうです!
誰か援軍はおらぬかー!!