「お前は何と戦っているんだ?」
千冬がそう言った。
これはつまり自分がベルサーと戦っていることがばれているのか?
いや、早とちりはいけない。カマをかけている可能性だってあるのだ。
「戦う、ということ・・・は、決闘のこと・・・でしょうか?」
だから真条はとぼける。
ベルサーとの戦いは誰が知る必要もない。
特に目の前にいるこの女性には。
なぜなら彼女はあの「天災」と繋がりがあるからだ。
天災がベルサーの持つ技術に興味を持ってしまえばこの世界はさらに混乱するだろう。
いや、それだけならまだ軽い方か・・・。
「そんなことでないのは分かっているはずだ。あまり時間をかけさせるなよ?」
千冬の鋭い目つきが真条を射抜く。
決闘や修行時代にこのような目つきの人間は結構いたが彼女はその中でも怖さ上位に入るだろう。
「他に・・・何があるの、ですか・・?」
だがまだとぼける。
事は重大なのだ。
自分の問題ではない、全人類の問題なのだ。
この地球の外も例外ではない。
自分の行動で世界が滅びるかもしれないなど真条の肩には重過ぎる荷物がかかっていたのだ。
「・・・トーナメント襲撃時、お前はISを用い空に飛び正体不明機群を撃滅した。それ以外にも各地に現れる謎の軍隊を壊滅してる・・・そうだな?」
「・・・根拠は?」
この台詞を言った時点でもはや負けているかもしれないが理由は必要だろう。
予想だけでは断定は出来ないのだ。
「トーナメントの時は風邪だと聞いていたが自室に居なかったそうじゃないか。それにちょくちょく授業も居なくなってるしな。後はそのISの操縦者の肌の色だな」
「肌が・・・見れるぐらいの、映像があると?」
「あぁ。各国も謎のISに興味心身でな。大気圏から人工衛星を用いての超豪華な盗撮だ。かかった費用など馬鹿馬鹿しいほどだ」
まさか自分にそんなに価値があるとは思わなかった。
シルバーホークの見た目は完全にISなのだからあまり研究しない程度だと思っていた。
だがISであそこまで戦闘をしたという事実は白騎士意外あまりない。
それもあって監視されたのか。
迂闊だった。
「まぁ私としては今のお前の状況で確信したんだがな・・・」
「え・・・?」
そう言うと千冬は真条の髪に手を伸ばした。
「お前、自分の怪我を治すために薬物を使っているだろ?例えば・・・身体の代謝を向上する薬。しかもものすごく強いものを」
「・・・・」
真条は千冬から顔をそらし天井を見る。
事実そうだった。
真条が「ミカエルの眼」から受け取った薬とは『代謝を促進させる薬品を直接摂取することにより、体に過剰な負担をかけながらも一時的に身体能力を向上させることができる』という代物だ。
この薬を使えば真条の肉体的損傷は瞬時にふさがるのだ。
シルバーホークから生み出される強烈なGからくる負傷を直すために真条はこの薬を使っていたのだ。
その代償に身体の成長も早まり毛髪や爪が短期間で伸びてしまったのだ。
「あんな滅茶苦茶な軌道を取っているのだ。操縦者に負担がかからない訳が無い。だからお前は傷を治し次の戦場に出るために薬を使っている」
「それがわかった今。貴方は・・・・どうしますか?私を、IS委員会にでも連行しますか・・・?」
捕まるわけにはいかない。この星に平穏をもたらす為に戦っているのだ。
自分が新たな混乱の火種になることは許されないのだ。
「いや、この対話は『織斑千冬』個人として望んだものだ。IS委員会や天災のことなど関係ないぞ」
「え・・・?」
意外だった、自分の存在はIS委員会などに知れ渡り拘束しに来たのが彼女だと思っていたからだ。
では彼女の話したいこととは何なのか。
「・・・・まずこれだけは言わせてくれ」
そういうと彼女は神妙な顔つきになった。
「すまない・・・お前だけに戦いを押し付けてしまった・・・」
「・・・どういうことです?」
なぜ自分が謝罪を受けているのか?
それに戦いを押し付けた・・・とは?
「お前は私の代わりに戦いにいってしまったのだろう・・・その傷は本来私が受けるべきはずなのに・・・」
「代わり・・・!まさか、貴方は・・・」
「あぁ・・・」
千冬が許しを乞うように声を絞りながら言った。
「私もあの銀色の鷹の啓示を受けた人間だ」
その瞬間。真条の身体は上半身だけだが起き上がった。
千冬はそのことに驚きつつも言葉を続けた。
「あの鷹から地球のために戦ってほしいといわれた。だが、私には一夏が、弟が居た・・・あいつを放って置いて戦いなどいけるはずも無かった。だから私はあの鷹の言葉を無視したのだ」
「・・・・」
「だからあの鷹はお前を戦士にしたのだろう?その責任は私にあるんだ・・・!」
そう言う千冬の顔はとても辛そうなものであった。
その顔を見た真条は憎憎しげに呟いた。
「なぜ・・・私だけにしなかったのよ・・・」
「・・・なに?」
「背負うのも、戦うのも、傷つくのも、知っているのも、奪うのも、奪われるのも、私だけでよかったのですよ!なのにあの鷹は私の気持ちを無視して・・・他人に救いを求めた・・・!!」
自分の感情が出てしまう。
せめて何も悟られないようにするぐらい出来ただろうに。
でもあの銀色の鷹が自分以外を巻き込んだことを知ってどうしようもなかった。
「この星の人間を・・・いえ、全人類を守るためなら、私だけの犠牲でよかったのよ!・・・なのに、それなのに!」
「真条!」
千冬が大きな声を上げて真条の言葉を遮る。
その目には若干の怒気が含まれていた。
「お前だけの犠牲だと・・・まるで最後には死ぬような言い草だな・・・」
そう言うと真条は少し笑った。
ここまで感情を露にした自分への嘲笑か。
諦めから来る笑いかはわからない。
「そうならざるを得ませんから・・・」
「なに・・・?」
「この星の人間に宇宙は早過ぎる、私から言えるのはそれだけです。千冬先生、今日はこの辺でいいでしょう?」
もうこれ以上は何も言わない。
ベルサーのことも、それよりも恐ろしい存在を言わない。
言えるわけが無い。
この星の人間がそれを知るのは今の戦いが終わってからでいい。
「・・・・今日は休みということにしといてやる。ゆっくり休め」
「ありがとうございます・・・」
そう言うと千冬は入り口まで歩いていった。
扉の前で振り返る。
「私は生徒を守る義務がある。その中にはお前も含まれているのだぞ、真条・・・」
真条はそういわれると少し笑いながら。
「私はこの星を守る義務があるのです。千冬先生・・・」
そう返すのであった。
真実に一番近いのは千冬先生です。
何気に一番遠いのが凰なのよね。