1986年6月12日9時30分
屋敷に入ると、広い玄関ホールの近くに肖像画が飾られていた。十八はその肖像画に興味をもって、近づくと使用人にである源次が、やって来た。
「お久し振りです。源次さん…」
「うむ。打ち合わせがあります。」
「蔵臼様と夏妃様に、挨拶していこうと思ったのですが…」
「書斎にいる。ついてきなさい。」
十八は壁に飾られている肖像画について、聞いてみると、源次は肖像画に視線を向けていった。
「あの肖像画は、黄金の魔女ベアトリーチェ様の肖像画だ。2年前にお館様の指示で飾られている。十八はその時には、いなかったな。」
「家の事情のため、辞めざる終えませんでしたが…シフトも結構中途半端で、申し訳ありません。」
「当主様が認めたことだ。気にするでない。」
十八と源次の会話から、譲治にも教えていた通り、この屋敷の元使用人あり、当主に認められて、片翼の鷲を刻むことを許された人間のようだ。
「今は…お館様は…?」
「今日も、書斎から出ない。」
「…………わかりました。」
会話を終えた十八と源次に、近くにいた秀吉が源次に、飲み物の用意を頼んでいる。十八は最後に肖像画を見つめると、蔵臼の書斎に向かった。
1986年6月12日10時
屋敷内の赤いカーペットの廊下を歩いていると、元使用人だが、屋敷に住み込みで働いているシェカと遭遇した。
「今日は使用人ですか?」
「お互い様だと思いますよ?十八さん…戦人君は大丈夫ですか?」
「今のところは…やはり、明日夢さんへの裏切りが許せないのか、私に話してますよ。今は大丈夫ですが…精神的にどうか…」
「朱志香もです。戦人君にちゃんと話せたら…私も、お役御免です。」
シェカは、朱志香から姉のように慕われているようで、十八と同じ立場のようだ。
「長話が過ぎました。シェカさんも、戦人君に素直に言ってみたらどうですか?」
「………無理ですよ。私では…」
シェカは何故か、悲しみの笑みを浮かべているが、すぐに使用人の仮面を被り、十八を蔵臼の書斎に案内した。
1968年6月12日10時30分
蔵臼と十八が10月の使用人の仕事の話し合いをしていた。一緒に参加している夏妃からは、何故か機嫌が悪いのか、溜め息ばかりをしている。
(朱志香さんのことで、機嫌が悪そうですね。確か、婚約者がいると聞いたことがありました。蔵臼様の判断で…)
「十八君は久し振りに使用人として働くが、問題ないかね?前は余り出来なかっただろ?」
「そうですね。今もですが、休みの日くらいしか出来ませんでしたね。申し訳ありません…蔵臼様。」
「気にすることはない。その分仕事をこなしていれば、文句はない。」
蔵臼は十八の事情を察しているのだが、夏妃には言い訳にしか聞こえないようで、機嫌を悪くしている。
「今日はもう良いから、ゲストハウスに泊まると良いだろう。」
「ありがとうございます。蔵臼様…」
十八は蔵臼の書斎を後にすると、廊下を渡り、屋敷の客間に到着すると、譲治、紗音が会話をしているところだった。
(離れた方がいいですね。)
そう考えていたが、譲治が気づいてしまい、仕方なく客間に入ることになってしまった。
「十八さん。先程はどうも…」
「譲治様。失礼ながら、年齢は譲治さんより下なので…さん呼びは無しで…」
十八の様付けに譲治は、少し違和感を感じているようだ。
「一応、10月からの短期間ですが…使用人復帰です。様付けは、お許しください。」
「それなら良いよ。十八君と呼んでも良いかな?」
「勿論ですよ。譲治様…」
十八は笑みを浮かべると、客間を出ていきゲストハウスに戻ろうとするが、紗音に止められた。
「紗音さん。どうしましたか?」
「……今回は変わりましたね?いろいろと…」
「私の存在ですか?過去と前には、いませんでしたからね。楽しませてもらいます。」
十八の言った意味を理解している紗音は、何も言わずに、通り過ぎていった。