IS学園でポンコツとゆく   作:ドニムルラ

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Chapter 1 第二の男
敵意の空に弾を撒く


「あ、あの……これが僕の専用機ですか?」

 ある日の事。恐るべき担任の織斑千冬先生にアリーナに呼び出された僕は「なんか悪いことしたかなぁ。ボコボコにされるの嫌だなぁ」とガクブル震えながら向かうと、そこには我らが癒し担当こと副担任の山田麻耶先生もいた。それで、話を聞くと僕専用のISが唯一の同性同級生の一夏君より先んじて届けられたと言うではないか。

 

 女性しか使えない謎パワードスーツの「インフィニット・ストラトス」、通称IS。男の一夏君が動かしたと言う事で全国的に「もしかして他にもいるんじゃね?」的なノリで同年代の男子を対象に一斉検査が行われた。なんて事はない、盗難防止のために怖いお姉さん方に守られたISに触るだけの簡単な検査だ。その検査で見事(?)ISを起動できたもう一人が僕ってわけ。

 ISを動かした僕は国の研究機関に入って研究の協力をするか、IS専門学校とも言うべき学園に入学するかの選択があった。中卒で働くしかないと思っていたけど思わぬ僥倖。IS学園という高度な教育制度が整っているであろう学校を卒業できれば大学進学が叶わずとも職に困る事はあるまいて。ウッキウキで入学した。

 

「ああ………そうだ」

 苦虫を噛み潰したような表情の織斑先生。山田先生もなんだか申し訳なさげだ。

 ISはその装着者同士を戦わせたりする国際大会があって、代表候補生と国家代表には国から専用のISが貸与される。その代表候補生になるのも物凄い経験と才能と実績が必要な、まあ要は凄い人じゃないとなれない。専用ISはその凄い人だっていう勲章みたいなものだ。

 その専用ISを僕も貰えるわけだ。世界で二人だけの男性IS装着者、それだけの価値があると言う事なのだろう。

 

 が。

 

「あ、あの………僕、まだまだ勉強不足で認識が間違っているかもしれないんですけど………そのう………装甲がリベット打ちに見えるんですけど……」

「………その認識で合っている」

 リベット打ち……文字通り装甲をリベットで接合するやり方だ。低コストで溶接よりも安上がりだが耐久性については溶接装甲よりも劣る。一昔前の戦車ですらリベット打ちは卒業している物ばかりだ。

「あの………ISって肩の辺りにかっこいい大型スラスターがありますよね! そのう………この機体には見当たらないのですけど………まだパーツが足りていないのでしょうか………?」

「いえ………この、BASHO型にはスラスターは……ないんです」

 ISの特徴といえば大型スラスターだ。飛行制御だけでなく砲台やら格納庫やら色々な機能も搭載するタイプもある。それがないと言う事は飛行制御機能は不安があり、且つ拡張性も期待できないということになる。

 

「BASHOって…………それあまりにも人気が無さすぎて生産中止にまでなったしくじりフレームじゃないですか! 僕ディスカバリーチャンネルのIS特集で見ましたよ!?」

 バッと手を広げて目の前にある鉄板をリベット打ちで箱形にし、更にそれを複数繋げて人型にした余りにも無骨すぎる、言ってしまうと急いで作った小学生の工作のようなフレームを差して二人に叫んだ。

 

 第一世代型BASHOフレーム。重工系企業BAWSが開発した初期の初期のフレームだ。ISが出始めの頃、BAWSは来るべき宇宙開拓時代に備えて自社の主力商品である作業用パワードスーツ「マッスル・トレーサー」通称MTをベースに作業用ISを開発した。ISの開発者は当初「ISは宇宙時代に備えた新世代の宇宙服だ」みたいな事を言っていたらしいのでそれを真に受けたのだろう。

 ところが肝心の宇宙開発の方はまるで進まず各国はISの武装兵器化、それが一般的なISの運用方法となった。ISを動かすにあたって絶対必須のパーツの数が少ない事もあり作業用などもってのほかとなった。

 BAWSは大慌てで世間の潮流に乗ろうとBASHOを戦闘用に設計し直して売り込むも失敗。まずBASHOは元が作業用という事もあり腕部が銃器の使用に適しておらず、現代の戦闘では必須レベルである銃撃戦が不得意だ。次に手元にさえ集中できりゃいいという発想なのか網膜センサーなんて高等な物ではなく安上がりなカメラアイ。だからスキャン距離が短い。これも戦闘で不向きだ。

 一応の強みだが、フレーム自体はリベット打ちにも関わらず装甲を厚めにするとかの工夫で強引に硬くできているので防御力についてはそれなりにあるらしい。更に作業用が元だという事で武器の積載量が同じ重量のISよりも多い。

 

 だがBASHOが不人気なのは、何よりそのデザインが原因だ。前にも言った通りスラスターがなく、余りにも無骨すぎるデザインは全く女性ウケせず、これを着る事を拒んだIS装着者が続出。まるで売れなかった。

 BASHOの失敗はBAWSの株価にも大きな影響を与え、同社はIS事業からは完全撤退。以後はMTの開発と販売に集中し、一昨年発表した大型の四脚MT「TETRAPOD」のおかげで何とか株価のグラフを上向きに修正できるようになった。

 

「そ、そりゃあ僕はたまたまIS適正があっただけで他の人たちみたいな物凄い努力をして凄い実績を残したってわけじゃないですよ。専用機を貸与してもらえるだけ贅沢なのはわかりますけど、それにしたって打鉄とかラファールとか量産型の方がまだマシですよ!」

「打鉄を一機貸与する案もあったのだが、お前の場合、男性搭乗者のデータを取るという意味合いが強いらしくてな…………積載量性能の高いBASHOが選ばれた」

 織斑先生が渡してきた資料に目を通すと、どうやら拡張領域の中に計測機器がみっちみちに詰まっているそうだ。

「このゲージって拡張領域の容量ですよね!? これじゃ何も入らないじゃないですか!」

 ISは武器を粒子化してコンパクトに仕舞っておける素晴らしい機能があるのだが、その格納部分がほとんど計測機器で占められている。これでは如何に粒子化したとしても武器が格納できない。

「武装は外部パーツとして常に外に出しておくしかないみたいで、松尾君の機体が持てる武器は両手で持てる分と、背部ハンガーに装着できる分で、四つだけです……」

「ノォォォオオオオ!?」

 BASHOの数少ない利点の一つが殺されている。

 

「こ、こんな機体で勝てるわけがない! 僕オルコットさんの奴隷にされちゃいますよ!?」

「あんな話を真に受けるなバカ者」

 つい二日前のこと。クラス代表者(委員長みたいなもん)を決める学級会議で一夏君とイギリスの留学生セシリア・オルコットさんが揉め、決闘して勝った方がクラス代表に、負けた方が奴隷になるという取り決めがなされ、僕の事を代表に推薦する人がいたので巻き込まれた。

 オルコットさんは代表候補生、才能もあり経験も豊富なはず。一斉検査と形だけの入学試験でちょっとISを動かしただけの僕が勝てる通りはない。それでも専用機が貰えるとのことでワンチャンを期待していたのだが、これでは望み薄だ。

 

「大人の事情に巻き込んだようで心苦しいが、お前も男だろう。やれるだけやって見せろ」

「私たちも全力でサポートしますからね!」

 鬼めいて厳しい事を言う織斑先生と菩薩めいて優しい事を言う山田先生。退路はない。僕はこのポンコツなデバフ付き骨董品でどうにかするしかないらしい。

 

 ◆

 

「お、おいムネフサ。大丈夫かよ?」

 迎えた決闘当日。アリーナの待機室で僕はその辺の段差に腰掛け、ガタガタ震えながらその瞬間を待っていた。この一週間、織斑先生や山田先生が忙しくない時間帯を見計らってISについて質問しまくった。アリーナは予約が埋まっていたので使えなかったが、射撃場程度ならなんとか使えて練習ができた。自分にできる精一杯はやったと思う。

「だ、だだだだだだいじょじょじょじょだだだだ」

「落ち着けって! 深呼吸しろ! 深呼吸!」

 サムズアップしようとしたけど手が震えて出来なかった。一夏君が肩を掴んで僕を抑えようとしてくれるけど収まりがつかない。

 正直死ぬほどビビっている。何しろ撃ち合いは初めてだ。絶対防御とかいう装着者を致死性のダメージから守る装置はあるそうだが、それでも怖いものは怖い。

 

「お、織斑くーん! 織斑君のISが今届きましたー!」

 山田先生が何処とは言わないけどデカい物を揺らしながら走ってきた。織斑先生も後ろから来ている。しかし、ええ、試合直前にぃ? まあこの決闘自体急遽決まった事だから届くのが遅れるのも仕方がないのかもしれない?

「松尾。最適化は終わっているな?」

 ISは搭乗者に合わせて形態変化する。これがファーストシフト。届いた日に最適化のため、特別に学園の海上を飛ぶ事を許可されたので飛行練習も兼ねて形態変化するまで装着していた。

「は、ははははひ。大丈夫れす」

 着心地は良くなったけど外見的にはそんなに変わった気はしない。

「よし。ならお前が先にオルコットと対戦するので構わないか? その間にこいつとISの最適化をやっておきたい」

 最初に出るとかアウェー感凄いから出来れば遠慮しておきたい………いや、どっちにしろ最初か最後でアウェー感は変わらないか。なら先に行こう。

「わ、わかりまひた」

 震えながら待機室から発進ドックに向かう。関節がギチギチして動きが硬い。めちゃくちゃ汗も噴き出てきている気がする。こ、このまま僕死ぬのだろうか。

 

「松尾君!」

 山田先生が駆け寄ってきて僕の手を握った。………え?

「大丈夫です! オルコットさんは確かに優秀な代表候補生です。でも、松尾君なら大丈夫です!」

 は、励ましてくれた。嬉しい。泣きそう。

「山田先生。勝てたら僕と結婚してください」

「はい! ……………ええ!? 何を言ってるんですか!?」

 よし、言質は取った。撤回される前に僕は山田先生から走って離れ、腕輪の形をしているBASHOを展開して見にまとう。そしてブースターを吹かせてアリーナに飛び出た。

 

「あら。逃げずによく来れましたわね。貴方は小心者だと思っていましたが」

 一年生だけでなく他学年も観客席でひしめくアリーナの中心、その上空には空よりも深い青色のISを纏う金髪の美少女があり。複数枚のスラスターが翼のようで天使と見まごう美しさだ。セシリア・オルコットさんと彼女のIS「ブルー・ティアーズ」だ。

「それにしても…………クスクス。随分と、可愛らしいISですわね」

 イギリス貴族の末裔らしいオルコットさんはイギリス人らしい皮肉を込めて笑いやがった。

 

「えー、何あのダサいIS」

「どこかの新型? 見たことないわ」

「アタシ知ってる! BAWSって企業が大昔に作ったポンコツだよ!」

「何それー! ほんとー!」

 

 くそう、ISの優秀な集音器が拾わなくていい嘲笑を聞かせやがる。

「キィー! 笑っていられるのも今のうちだぞオルコットさん!」

 ムカつくムカつくムカつくー! でもこっちは山田先生との結婚がかかっているんだ。絶対に勝ちたい!

「あらそう。でしたら、是非ともやってみなさいな」

 

 瞬間、BASHOヘッドのカメラがオルコットさんの周りに映し出すターゲットリングの上部が警告音と共に赤く点滅した。

 

「どひゃあ!?」

 横にすっ飛んで回避すると先程僕のいた場所に金切り音と共に青色の閃光が走った。オルコットさんがレーザーライフルで撃ってきたんだ。

「さあ踊りなさい! わたくしとブルー・ティアーズの奏でるワルツで!」

 セシリアさんは次から次へとレーザーを撃ってくる。右、左、上、下。何とか回避する。

「動きが単調でしてよ!」

「ギャー!?」

 右足に被弾。ディスプレイに映し出されるシールドポイントのゲージが二割減った。単純に考えるとあと四発くらったら負ける。

 

「こんの!」

 敗れ被れだ。飛び回りながら右手に持つBAWS製3点バーストSMGエツジンをオルコットさんに向けて引き金を引く。発射される三発の弾丸! は、それぞれバラバラの方へ飛んでいきオルコットさんには一発も当たらなかった。弾が避けたんじゃないかってくらい当たらなかった。

「オーホッホッホ! 曲芸射撃がお得意ですわね!」

「じゃかあしい!」

 ただでさえ照準のブレやすいSMGと射撃性能の低いBASHO腕の相性は最悪の一言だ。なんとか距離を詰めようとしながら引き金を引き、撃ちまくる。

「狙いが粗い!」

 だがオルコットさんは僕の射撃を避けまくる。しかも後ろに飛んで距離を詰めさせてくらない。対照的に彼女のカウンター射撃は正確だ。

「ウゲェー!」

 レーザーが一発かすった。

 

「くぅ〜〜〜! ならこれだ!」

 距離が空いているならミサイルだ。この機体の背中には有り難い事にファーロンダイナミクス製垂直四連ミサイル「BML-G1/P01VTC-04」が付いている。BASHOの低い射撃能力もミサイルなら関係ないもんね。

「垂直ミサイル………成る程、空を飛ぶISには効果的な武装でしょうね。ですが!」

 頭上から降り注ぐミサイルをオルコットさんはなんと体を回転させながら回避した。ふつくしい……………ハッ! 見惚れている場合じゃない! 今のうちに距離を詰めないと!

「誘導性能が低いですわ。そしてこのミサイルは一度避けられるともう追尾されない。牽制用ですわね」

 得意げにぶつくさ分析しやがって。だがもういい感じの距離まで近づけている。ここまで来ればエツジンもまあまあ仕事してくれるかもしれない。そして左手のメリニット製小型バズーカ「リトル・ジェム」を叩き込んで大ダメージを!

 

「浅はかですわ」

 

 オルコットさんがゾッとするくらい冷たい声で言ったかと思うと、彼女の周りに浮いていたスラスターが四方八方へ広がった。

「さよならですわ」

 

 最後に僕が見たのは、全周が真っ赤に点滅したターゲットリングと、真っ青に染まる視界だった。

 

 僕は、負けた。

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