IS学園でポンコツとゆく 作:ドニムルラ
パンッ! パンッ! ドンドンッ! ドヒューッ! パンッ! 第二アリーナの上、よく晴れた空に向けて花火が打ち上げられる。試合の開催にはうってつけの気候だ。観客席には人、人、人の群れ。観客席は満席。座れなかった人は通路の窓で立ち見していて、それでも入れない人はモニタールームのライブ配信を見る。
「凄いな一夏君と凰さん。片や二人だけの男ISパイロットで、片や転入初日にクラス代表の座を簒奪した転入生。まさか席に座れないなんて」
かく言うあたくしは立ち見組でしてね。いやー、早く行動したつもりだったのに予想以上に二人のマッチが注目されていたようで、間に合わなかったです。はい。
「あ まっつーだ〜。おはよ〜」
む、布仏さん。仲良しの相川さんと鹿目さんもいる。
「おはようござい。三人も座れなかった?」
「そうなんだよー。早起きしたつもりだったんだけどな」
「たはは、ゆっくり朝ごはん食べてる暇なかったね」
「せっかくみんなで横断幕作ったのにね」
僕たちがいる通路の反対側の観客席の下を見ると「GO! GO! ICHIKA!」とデカデカと書かれた横断幕が吊るしてある。アリーナを覆う安全シールドと観客席の間にあるので燃えたり吹き飛んだりする心配はない。
ちなみに右下にはデフォルメした一夏君の顔が描いてあるが、これは僕の力作だ。我ながらいい感じに描けたと思う。一夏君は恥ずかしがっていたがね。
「一夏君、勝てるかな?」
「凰さんは中国に戻って一年足らずで代表候補生に上り詰めた天才型、織斑くんはほとんどISに乗っていないのにセシリアさんに食らいついた同じく天才型。一般的には稼働時間が長い方が強いって見方だけど、この二人の場合どうなるかわからないね」
「おりむーは近接格闘一点特化、相手の
へー、凰さんのISシェンロンって言うのか。星が描いてある玉を7つ集めたら願いとか叶えてくれるかな? ちなみに彼女のアリーナランクはD3でオルコットさんより一つ上だ。
しかし………天才か。僕もISを動かせる男という意味ではとんでもない天才なんだろうけど…………動かせるだけで終わりたくないなぁ。
「なーんかここ臭くなーい?」
「うんうん。わかるー。負け犬って感じの臭いがするよねー」
ふと、声が聞こえてきた。後ろを見ると二人組の女子が僕の方をチラチラ見てクスクス笑いながら歩いていくのが見えた。
「まっつー。気にしちゃダメだよ」
「ああ言うのは言わせておけばいいんだよ」
布仏さんと相川さんがそう言い、鹿目さんが二人から僕を隠すような位置に立った。心なしか布仏さんののほほんとした雰囲気が消し飛んでいる気がする。
「ダッサー」
二人の嘲笑う声が遠のいていく。僕からは鹿目さんの背中しか見えない。
「三組の蛍火シズコさんとウェンディ・レーリーさんだね。ハハッ。あの二人の陰口なんて慣れっこさ。今更思うことなんてなーんにもないよ」
「あの……松尾くん?」
相川さんが何故か恐る恐る尋ねてきたが、もうそろそろ試合だから顔はアリーナの方へ向けておこう。努めて笑顔だけどアリーナに向けておこう。
「ま、まっつー? 顔が、そのう………凄いことに………」
「ハッハッハ。布仏さんな、何を言っているん、だい? こ、これは南斗鳳凰拳奥義高級メロンの術だよ? 何でもないよ、なん、何でも」
あの二人はいつか泣かす。絶対にだ。目に物見せてやらないと気が済まない。
そうこうしているうちに一夏君と凰さんの試合が始まった。と、同時に何故か腕輪が通知をしてきた。何だ? と思って見るとログハント対象を捕捉したとのこと。対象は………白式と甲龍? アホか。対峙しているわけでもないのにそんなん通知してどうする。
「松尾くんどうしたの?」
「あー、何でもない。それよりほら、一夏君が斬り合ってる」
一夏君はレーザーブレードを構えて突撃し、凰さんが巨大な薙刀? 斧? 剣? を出して迎え撃った。
「ふーむ、凰さんも近接格闘タイプなのかな? 見てよあの武器。戦車を真っ二つにできそうだよ」
「でも〜あれが第三世代型ならでっかい実体剣だけじゃ済まないと思うんだよね〜」
二人は空中にDNA螺旋を描くように飛びながらぶつかり合う。白とマゼンタの軌跡の美しさよ。ISファイトが競技として見応えがある物だって、こうして見ると実感が湧くよね。
「あっ! 織斑くんがいきなり吹っ飛んだ!?」
「スラスターの球体が一瞬光ったような……」
「丸いし目玉みたいだし、もしかしてソルディオス砲?」
「う〜ん、違うとおもうな〜。ソルディオスなら緑色の発光をすると思うし〜、あれは条約で試合での使用を禁止されているからね〜」
ソルディオスが禁止されているのは知っていたのだが、そうするとあれは何なんだろう? 一夏君は見えない何かを必死になって避けている。そして彼が避けた所の地面が土煙を上げて爆発している。
「空気砲かなにか? 青いロボットの道具みたいな」
「そうかもね。空気にしろ何にしろ、見えない砲弾って考えたら物凄い厄介だよ」
一応全く攻撃が見えないと言うわけでもない。よーく目を凝らすと凰さんの周りが陽炎のように歪んでいる。見えない砲弾も同様にそれがある空間が歪んでいると思うんだけど、生憎と今は快晴。凰さんが青空をバックに攻撃してきたなら歪みなんてわからないぞ。
と言うか、その見えない攻撃を大体避けられている一夏君はなんつー勘の良さだ。それともどうにか見えるようになるやり方でも見つけたのだろうか?
僕だったら訳もわからずやられていそう…………いやいやいや、ネガティヴになってはいけないな。そんなんじゃ強くなるなんて夢だぞ。
「お、一夏君は反撃に出ようとしているな」
一夏君の飛び方が変わった。あれは距離と隙を測っている動きだな。多分イグニッションブーストで距離を詰めて一気にシールドエネルギーを削るつもりなのだろう。あのブレードの攻撃なら相手が代表候補生でも一気に形勢逆転できるぞ。
「よし、よし! いけ! 行くんだ一夏君!」
「おりむーがんばれー!」
「食券一週間分は頼んだよー!」
「ファイトー!」
僕たちの応援が伝わったのかはわからないが、一夏君はイグニッションブーストで一気に凰さんの目の前まで急接近した。よし、あれは完全に不意をついている。そのまま青い刃を振り下ろすんだ。
しかし次の瞬間、轟音が鳴り響いて地面が揺れた。
「きゃー!? な、何!?」
「わ、たたたっ」
「布仏さん!」
布仏さんが振動で倒れそうになったのを掴んで助ける。
「あ、ありがと〜まっつー」
「いいって」
周りを見ると他の人たちも状況がわかっていなさそうだ。一体何なんだ? 甲龍の必殺技でも使われたのか? それにしちゃ大袈裟な威力なような。
「み、皆んな、あれ」
相川さんが指差すアリーナを見ると、真ん中辺りから煙が上がっている。一夏君と凰さんの二人は戦いの手を止めてその煙を眺めていた。と、言うことはあれは二人のどっちとも無関係の何かだ。
『ログハント対象を捕捉しました』
「はあ?」
こんな時に何だよ、まだ一夏君や凰さんと戦えって言っているのか? ちょっとウザくなってきたから後で通知切ろうかな。
「ん? 二人じゃない………」
COMが示しているのはあの煙の中心部。そこにいる何かを倒せと言っている。
晴れた煙の下から現れたのは巨体だった。オブシディアンめいた光沢のある黒色で、節々に金色のフジツボのような円盤が埋め込まれている。異常に巨大な腕はあらゆる物を叩き潰さんとした殺意に溢れているように見えた。
そして顔面に乱雑に開いた無数の穴の下からは赤い光が溢れていた。それは、機械的な無機質の下に血に飢えた凶悪な本性を隠している。僕にはそう見えた。
ログハント対象「ゴーレムMk.Ⅰ」。アリーナに突如として降り立った恐るべき暴力が、僕を見たような気がした。