IS学園でポンコツとゆく   作:ドニムルラ

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亡霊の群れ

 剛腕がこちらに向けられたように見えた瞬間、窓の緊急防壁が降りて外の光景が見えなくなった。直後、赤いパトランプが明滅して警報がけたたましく鳴り響く。

 

『警報! 敵性ISの襲撃! 生徒各員は速やかに避難せよ! これは訓練ではない! 繰り返す! これは訓練ではない!』

「え? 何? 何なの?」

「対抗戦とは関係ないの?」

「こ、怖い」

 通路の人たちが混乱しはじめている。いけない、集団が無軌道に動いたら怪我人が出るぞ。

 

『通信が入っています』

 と、通知が入る。連絡してきたのは…………織斑先生だ!

「先生!? 織斑先生!」

『松………きこ…………るか?』

 音が酷く途切れ途切れだ。電波が悪いのかな? でも連絡が取れるだけありがたい。

『避な………せ………エント………ンスホール……………い……げ』

 避難させろ? エントランスホールに? ここの人たちの避難先を教えてくれたんだ。一夏君と凰さんも心配だけど今はここの人たちを助けないと。

「へ、ヘイCOM。エントランスホールへの避難経路を出して!」

『了解。最短の避難経路を算出中………完了。モニターに表示します』

 アリーナの3Dマップが映し出され、さらに僕たちがいる位置がズームアップ。そこから矢印が伸びて避難経路が表示された。

「COM! 拡声器オンにして!」

『了解』

 ISには機種関係なくデフォルトで搭載されている便利機能がいくつもある。特段戦闘に役に立つ物ではないが、まあそこはマルチフォームスーツだからね。

 

「すぅー………」腕輪に顔を近づけて『皆さん! 落ち着いてください!』叫ぶ。

 拡声器の大音量で無軌道に動こうとしていた通路の人だかりがピタリと止まる。よし、取り敢えず注目させられた。

『一年の松尾です! ISで避難経路を調べました! これから誘導を行うのでついてきてください!』

 だが反応は芳しいものではなかった。

「松尾って………、もう一人の男子?」

「ほら、イギリスの代表候補生にボロ負けしたって言う」

「あの子のISって第一世代のポンコツでしょ?」

「そんなのアテにならないよ!」

 クソ。僕の悪評が作用してしまっている。どうしよう、どうすればいい?

 

「まっつー。ちょっと失礼〜」

 と、布仏さんが僕の腕を引っ張って顔を近づける。

『生徒会の布仏です。皆さんの安全は生徒会が保証します。そして皆さんはIS学園の生徒です。慌てず騒がず、落ち着いてこの緊急事態を乗り切りましょう』

 とても落ち着いたパリッとした声色で布仏さんが言う。と言うか布仏さん生徒会なの? 料理研究会とか手芸サークル辺りかと思っていた。今日一番の驚きだ。

 って、そんな事考えている場合じゃない。

「生徒会? なら安心かも」

「助かるかも」

「で、でも怪我したら松尾くんに責任とってもらうからねっ」

 また落ち着いた空気になりはじめた。しかし布仏さん、か、かっこいい。ちょっとドキドキしてきた。

「まっつー。避難誘導お願いね〜」

「は、ハイッ」

 しまった、思わず織斑先生に応対するみたいになった。

 

「BASHO!」

 ISを纏って人だかりの頭上を飛ぶ。アリーナがでかけりゃ通路もでかい。これはやりやすい。

「後列の誘導は私たちがやるよ! 松尾くんも頑張って!」

「かっこいいぞ男の子!」

「後でお菓子あげるね〜」

 僕は三人にサムズアップを返えして避難経路まで飛ぶ。自動ドアを開けて少し先に進み、安全を確認してから振り返る。

「こっちは大丈夫そうです! 安全のために一列になって来てください!」

「う、うん!」

 同じように先を進み安全を確認しながら、先頭の人を引き離さないように飛ぶ。目指すはエントランスホールだ。

 

 周囲を警戒しながら考える。これはテロ事件だと思うけど、いくら学生ばかりとは言え全世界のISの一割近くを保有しているこの学園に殴り込みをかけるとは。相当戦力に自信があるらしい。

 自身の出どころはあのISだろう。ゴーレムとか言ったっけ? 資本の支援なしにISを動かせる筈がない。テロリストは相当な力を持っている企業、国家、あるいは………。

 

『まもなく目標地点』

 そうこうしている内にエントランスが近づいてきたらしい。とにかく今は皆んなを逃さないと。

「きゃあっ!」

 僕がエントランスに入った瞬間、後ろから悲鳴が聞こえた。何があったと肝が冷える思いをして振り返ると、僕が出てきた通路がバリアで阻まれていた。後続の人たちは何が何だかわからず立ち止まり、群がり始めている。

「何だよクソ!」

 クイックターンで急いで戻りバリアを蹴っ飛ばした。しかしうんともすんとも言わない。この蜂の巣柄はアリーナを覆うバリアと同じだ。つまり僕の武装では壊すことはできない。

『解析完了。防災システムがハッキングされており、強制的に稼動しています』

 本来ならこれで火事を封じ込める用途なのだろうが、まさか人を閉じ込める檻にされるとは。

「み、皆さんの落ち着いて! 後続の人たちが押し合うと群衆雪崩になります! 落ち着いて、後ろの人たちに安全を確認しながらゆっくり後退するように伝言を」

「松尾くん後ろ!」

 

 警報ブザーが鳴る。

 

「!?」

 再びクイックターンで振り返ると青い光の線、レーザーが見えた。咄嗟に回避しようとしたが、もしこの攻撃がバリアを貫通するような物だったらという考えが脳裏をよぎった。

「ぐあッ!」

「松尾くん!」

 身体で受けたレーザーが爆散し、衝撃に襲われる。シールドエネルギーが15%消しとんだ。オルコットさんのライフル程でないにしろ強力なハイレーザーだ。

 

「クソッ!」

 次の攻撃が来る前に上に飛ぶ。あの威力ならバリアは問題ない。それよりも注意を僕に引きつけないと。

 警報ブザーが鳴る。今度は別の方向からだ。

「チイッ!」

 クイックブーストで回避。だが更に別方向からの警報ブザー。クイックブーストで回避。また別の方向から。もういい加減にしてくれ! 一回の回避でどれだけ精神をすり減らしていることか!

 敵はどこにいる? 全方位を見渡しても姿が見えない。だが一人ということはないだろう。最低でも二人はいる。

 

「織斑先生! 先生! エントランスにもテロリストがいます! どうなっているんですか!?」

 逃げ回りながら織斑先生に通信を飛ばす。ここが安全だからと指示してきたのに敵がいるとは。確認と文句の一つくらい言いたいし、次の指示を請いたい。

『松尾、聞こえるか?』

 先ほどよりはっきりとした声。そして警報ブザー。

「織斑先生!? 何がどうなっているんですか!?」

 クイックブーストで回避。

『松尾、聞こえるか?』

「先生…………?」

『松尾、聞こえるか? 避難させろ、エントランスホールに。急げ』

「いや、織斑先せ」

 

 

『松尾聞こえるか避難させろエントランスホールに急げ松尾聞こえるか避難させろエントランスホールに急げ松尾聞こえるか避難させろエントランスホールに急げ聞こえるかエントランスホール松尾避難急げ急げ聞こえるかエントランスホール松尾松尾松尾松尾松尾松尾聞こえるか避難させろエントランスホールに急げ松尾聞こえるか避難させろエントランスホール松尾聞こえるか避難させろエントランスホールに急げ松尾聞こえるか避難させろエントランスホールに急げ松尾聞こえるか避難させろエントランスホールに急げ聞こえるかエントランスホール松尾避難急げ急げ聞こえるかエントランスホール松尾松尾松尾に急げ松尾聞こえるか避難させろエントランスホールに急げ聞こえるかエントランスホール松尾避難急げ急げ聞こえるかエントランスホール松尾松尾松尾松尾松松松松松松尾聞こえるか避難させろエントランスホールに急げ松尾聞こえるか避難させろエントランスホールに急げ松尾聞こえるか避難させろエントランスホールに急げ聞こえるかエントランスホール松尾避難急げ急げ聞こえるかエントランスホール松尾松尾松尾松松松エントラン急松松松松松松松』

 

 

 な、何だ、これは? 通信が混乱しているとかいうレベルじゃないぞ。織斑先生の声が段々と違うものに変わっていく。

 

『松尾 ムネフサ』

 

 これは、誰だ?

 

 

 

『キエテモラオウ』

 

 

 

 全身が凍りついた瞬間、頭上に向けての警報ブザーが鳴り響く。顔を上げると青い光。だがレーザーではない。電流のほど走るそれは蛇のようにうねっていた。

 そして、その電流を操るのは透明な人形の光だった。

 

「ガァッ!?」

「松尾くん!」

 

 空中から地面に叩き落とされる。シールドエネルギーが50%を切った。そして全方位からの警報ブザー。回避できたのは野生的勘としか言いようのない瞬発力によるクイックブーストのおかげだった。

『解析完了。敵機は光学迷彩を使用。スキャンにより位置を割り出すことを推奨』

「言うのが遅い!」

 COMに怒鳴りながらスキャンをする。オレンジ色の球形が僕の目の前に広がっていくと、それに当たった透明の敵が映し出される。

 奇妙な姿だった。色はアリーナのゴーレムと同じく黒地で丸いパーツは金色、白いラインが入っている。だがその姿は巨大な円盤から手足が生えているとしか言いようのない姿だった。それが四体もいる。

 

『ログハント対象を捕捉。強襲型MTゴーストの狙撃型と近接型。そのカスタマイズ機です』

「はあ!? MT!? ISじゃないの!?」

『市街地における対IS用戦用に製造されたハイエンドモデルです』

 対IS用MT!? 僕が経験不足で弱くてBASHOがポンコツだってのを差し引いてもかなり追い詰められている。そんな代物が存在しているなんて。ISが最強だからって成り立っている今の世界を揺るがしかねないぞ。

 しかも、消えてもらう、だって? こいつらの狙いは、僕なのか? 一体どうして………?

 

「うわっ!」

 混乱し始める僕の頭を叩き割らんと振り下ろされた鞭を回避する。命を狙われている事や世界情勢に関する考察は後にして、今は目の前の敵をなんとかしなくては。通路には僕が騙されたために危険に晒してしまった人たちがいる。早く彼女たちを本当の意味で安全な状態にしなくては。

「こっちだ!」

 奴らの狙いは僕だ。当たるかどうかは関係なくゴーストたちに向けて発砲しつつ外を目指す。天井が低いせいで垂直ミサイルが使えない。とにかく皆んなから引き離して屋外戦に持ち込みたい。

「!?」

 だが玄関口に差し掛かったところで何かにぶつかった。蜂の巣柄、ここにもバリアが張ってある。

「チイッ!」

 警報ブザーが鳴ったので上に飛び退く。直後、レーザーがバリアに当たって四散する。

 ゴーストたちの位置を再度掴む意味も込めて再びスキャンをすると、正面口は窓ガラスがある部分も含めてバリアで覆われていた。この分だとエントランス外に続く場所には全てバリアが貼ってあると考えていいだろう。

 クソ、僕一人を狙うだけで随分と大掛かりな。

 

「うわっ!」

 あらゆる方向から警報ブザーが鳴り響く。奴ら、時間差で狙撃することで僕の動きを制限しつつ、近接型の電撃鞭で叩いてくる。それを何とか回避しても狙撃レーザーが襲ってくる。

「このォッ!」

 近づいてきた近接型に向けてコキレットを連射するが、瞬間奴の全身は黄緑色の膜に覆われ、その膜は弾丸を弾いてしまった。

『敵機はパルスアーマーを装備しています。瞬間的な火力で消滅させるか、同系統の』

「ぐっ!」

 COMが話終わる前に飛び退く。まずい、このままじゃジリピンだ。命の危険、死神の鎌が首にかけられているような気がしてきた。

 嫌だ。死ぬなら織斑先生みたいな美人さんに殺されたい。こんなMT風情に殺されるなんて絶対に嫌だ。

 

「ハァ……ハァ……。っ! そうだ、相手はたかがMTなんだ」

 落ち着け。落ち着け松尾ムネフサ。怖がらず、もっとフラットに物事考えるんだ。相手は対IS用に開発されているとはいえ所詮はMT。いくら何でもISより動きが良いというわけではないのだ。それに戦場を市街地に限定している意味。それ即ちそのような運用しか出来ないという事。そこに付け入る隙がある。

 

「ゴーレムに……ゴースト。学校の怪談になるね、これは」

 面白くなってきた。僕は左腕のリトル・ジェムを肩のハンガーに掛けておいた別武装と交換する。コンセントに円柱が斜めにくっついたような武器。タキガワ・ハーモニクス製「HI-32: BU-TT/A」。織斑先生が持ってきてくれたこれでBASHOは真価を発揮する。

 

「MTって事は………中に人がいるんだよね?」

 僕に必要なのはフラットな思考、そして勇気だ。学園の仲間たちを守るため、人を殺す勇気だ。

 

「デヤァーーーッ!」

 ブーストを噴かせて近接型に突っ込む。奴は僕を迎え撃たんと鞭を振り上げてジャンプした。

「さよなら!」

 そしてその下をくぐり抜けて後ろに飛ぶ。そして壁に張り付いている狙撃型の一体に向けて直進。奴は大慌てで僕にレーザーライフルの照準を向けるが、見えているなら当たらない。

「うおおおおおお!!!」

 そして奴の眼前に急接近して左腕を振るう。HI-32: BU-TT/Aから近接型のパルスアーマーと同じ色のエネルギーが噴出し、狙撃型ゴーストを袈裟斬りにした。思った通りだ。狙撃型は攻撃に集中している間は動きが鈍い。ちゃんと接地して構えないと攻撃ができないんだ。

 HI-32: BU-TT/Aは第二世代から第三世代に移る途中に開発されたちょっと古めのコンセプトパーツのような物で、パルスエネルギーの奔流を叩きつける事で物体を構造から破壊するブレードだ。一夏君のレーザーブレードのように常時展開しているのではなく攻撃の瞬間だけ展開する事で燃費と威力を両立し、更に相手の距離感を狂わせる事もできるのだ。

 

「一つ!」

 

 爆発四散する狙撃型を尻目に別の狙撃型に向かう。すると奴はとんでもない勢いのジャンプでその場からエントランスの反対側まで跳んだ。

 逃すものか。僕は織斑先生に教わったイグニッションブーストで逃げた狙撃型に向けて飛ぶ。警報ブザーが鳴ったが横からのレーザーは僕が数瞬間までいた場所を攻撃している。

 チラリと下を見ると近接型が地面を滑るようにして近づこうとし、更に大ジャンプで僕を叩き落とそうとするが攻撃は空振りに終わる。こいつら偏差撃ちできないんだ。

 

「デヤァーーーッ!」

 

 袈裟斬りにして二体目の狙撃型を撃破。

 

「二つ!」

 

 そして反転してもう一体の狙撃型の方へ向かう。まず邪魔な横槍を全て薙ぎ倒しててからゆっくり近接型を捌く。

 だが目の前に近接型が飛び上がってきた。驚いて思わずブレードを振ろうとしたところ、奴は何かをばら撒きながら後ろに跳ねた。

 

「ぐあっ!?」

 瞬間、ディスプレイが真っ青に染まりシールドエネルギーが減少して地面に叩き落とされる。

『小型のプラズマ機雷を散布したと推定します』

 光学迷彩に鞭にばら撒き型の爆発装備。どうやらオバケではなくニンジャだったようだが、生憎と「アイエエエ!」と情けない悲鳴を上げるつもりはない。

「松尾くん………」

 高性能な集音器が通路に閉じ込められた人の声を拾った。今の僕には守る者がある。カッコ悪い姿なんて見せられない。ただ勇ましくあるだけだ。

 

「行くぞ!」

 立ち上がり、ミサイルとリトル・ジェムをパージする。少しでもウェイトを軽くするために無駄な武装を外す。そして警報ブザーと同時にイグニッションブーストで駆け抜ける。

 発射されたレーザーを眼前で回避。振り下ろされる鞭も眼前で回避。ちょっと掠ったけど問題なし。接近し、ジャンプで逃げようとする最後の狙撃型を銃撃で怯ませて、

「三つ!」

 袈裟斬りにする。

 

「次はお前だ!」

 近接型に向き直る。ここからが本番だ。

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