IS学園でポンコツとゆく 作:ドニムルラ
狙撃型3機を倒した今、残るは目の前の近接型のみ。こいつだけ多彩な上にガチガチに守られているところを見るに指揮官機に違いない。でも所詮はMT。電気鞭の威力は侮れないが注意して一対一で戦えば負ける道理はない。
『…………』
『敵MT、暗号通信を行なっています』
「外の仲間と連絡でもしているのか? させるかよ!」
通信の内容はわからない。もしかしたら何かのデータを送っているのかもしれないが、増援要請だったら大変だ。これ以上敵が増えたりしたら今のシールドエネルギーじゃ対応できない。
「デヤァーーーッ!」
急接近しながらコキレットを連射する。パルスアーマーを少しでも減らせればいいし、牽制くらいにはなる。当然のように弾丸はアーマーに弾かれ、ゴーストは後ろにジャンプしながら後退する。
追いかけては逃げ、追いかけては逃げ、時折「近づくな」と言わんばかりにプラズマ機雷をばら撒いている。そこで気がついた。奴はコキレットを無い物のように振る舞って避けようともしないが、僕が近づこうとすると離れようとした。つまりコキレット以外の現状唯一の武装を警戒している。
「COM! さっき言っていたパルスアーマーの対処法もう一回!」
近接型を追いかけ回しながら叫ぶ。
『瞬間的な火力をぶつける事で強制的に四散させるか、同系統のパルスエネルギーを衝突させることで対消滅させることが可能です』
当たりだ。奴は左手のパルスブレードを警戒している。だから動きが消極的になっているんだ。鞭のリーチはブレードよりも圧倒的に長いが、それでも近接武器であることには変わりはない。腕を振るという動作には隙が生まれるものだ。
ゴーストは測っているんだろう。どの距離でどう鞭を振れば僕を倒せるのかと。そして僕も測っている。奴が機雷をばら撒いたタイミング、鞭を振るタイミングを突いて攻撃をする。残りのシールドエネルギーではゴリ押しができないが、時間もかけられない。全神経を集中させて最良のタイミングを最短で導き出す。
『…………!』
前に出た瞬間ゴーストが鞭を振り回してきた。青白い雷が迸る対IS用兵器が空気を焼き裂きながら迫り来る。だが落ち着け。僕は奴が鞭を使うことを予期して前に出たんだから。
「ここだ!」
鞭が当たる直前、後方へクイックブーストして紙一重で回避する。そして青白い光が眼前を通り過ぎた直後、イグニッションブーストで一気に距離を積める。鞭を振ったこの体勢なら機雷も使えない。
「デヤァーーーッ!」
腕に力をこめてパルスブレードを二回ゴーストに叩きつける。瞬間、奴が纏うパルスアーマーが薄くなった。あと一歩、だがブレードは冷却時間に入っておりあと五秒ほど使えない。コキレットではこの薄くなった状態でもアーマーを剥がせるかが怪しい。
ならば取れる手段は一つだ。ゴーストが飛び退いたタイミングでイグニッションブーストを発動し、突っ込む。
「うおおおおおお!!!」
そして蹴る! IS程の質量にイグニッションブーストのスピードを乗せればそこから繰り出されるキックの威力は計り知れないものとなる。
『!?!?!?』
パルスアーマーが消えた。今が好奇だ。リロード、この場合はブレードの冷却時間だが、そのデッドタイムを潰す立ち回りは一夏君との対戦で学んでいる。
コキレットを連射する。この距離なら目を瞑っていても当たる。無論両目はガン開きの状態でゴーストに弾丸が叩き込まれる様子を凝視する。
そしてブレードの冷却が完了。
「デヤァーーーッ!!!」
同時に二回斬りつける。流石は近接型で指揮官機。狙撃型が一撃で真っ二つに出来たのにコイツはまだ動けるようだ。コキレットはリロード中。ならばもう一度イグニッションブーストからのキックを食らわせてやる。
「デヤァーーーッ!」
『………』
このキックで怯ませてからコキレットを連射、そしてブレードで斬るの無限ハメコンボでゴーストを倒す。そう息巻いていた僕は予想外の事態に直面する。
目の前からゴーストが消えた。またジャンプかと思って上を見たが姿がない。レーダーを見るとその反応は………僕の後ろだった。
「っ!」
振り返るとゴーストの後ろ姿が離れたところにあった。離れたところ、上空に浮いている。だが火が見た当たらないのでブースターで飛んでいるわけではない。
『敵機よりIS反応を確認』
「!?」
COMの報告に驚いている間に更に事態は更に動いた。ゴースト正面の円盤が破れたかと思うと左右に浮かんだ。そして動いた円盤の下からポケットナイフを開いたように、人間のような上半身が起き上がる。顔面はアリーナのゴーレムと同じ、赤い光を放つ穴が無数に空いている状態だ。
両腕から鞭が飛び出る。その姿は女王様と表せるような威厳に満ちていた。
『………!』
ゴーストが舞の予備動作のように体を捻る。瞬間、警報が鳴り響く。
「クソッ!」
右に飛び退いた瞬間、青い光の瞬きが見えたような気がした。瞬間、床が真っ二つに割れて空気を裂く音が遅れてやってくる。
達人が扱う鞭の速度は音速に達するというが、ISが使ったならどのくらいの速度になるのだろう? 想像もつかない。想像もつかないが、それでも考えることをしていないと死ぬ。
あんな不可能な変形していると言うことは奴は人間ではなさそうだ。いや、恐るべき改造手術を受けているのかもしれないが、今は中に人間はいないと信じる。
「このォッ!」
コキレットを乱射する。やぶれかぶれ半分様子見半分。
『………!』
しかし奴は空中に曲線を描くような素早い飛行で弾丸を難なく回避した。機動力も上がっている。そしてこっちに向かってきた。
「くッ!」
恐らく鞭という武器の特性上仕方ないのだろう、ある時点で止まって一歩前に出るように進みながら振ってくる。だがその一歩が僕にとってはとてつもなく遠い。圧倒的なリーチの差、そして速度のせいだ。
『……!』
「クッ!」
鞭の縦振りを右に飛んで回避する。長椅子が無残に破壊された。
『………!』
「ソッ!」
横振りをジャンプして回避する。大型観戦モニターが無残に粉砕された。
『……………!』
「ガァッ!」
めちゃくちゃに振り回される鞭をめちゃくちゃに回避しまくる。床材が、壁が、ウォーターサーバーが、学園マスコット「イズちゃん」のパネルが、ありとあらゆる物が無差別に、無感情に破壊されていく。
ゴーストの一振りが僕を追い立てる。しかも両手に鞭を持っているから絶え間がない。攻めあぐねているし、何とか回避しているが追い詰められている。ワンチャン織斑先生がこの事態を把握して助けに来てくれるかもと期待していたが、先生が来る頃には僕が輪切りにされている可能性の方が高くなってきた。
(落ち着け、落ち着け自分。速くなっているけど動きはMTと大差ない。ゴミだ。あいつは何ゴミだ? 危険物が粗大ゴミか。粗大ゴミの日は何曜日だ………いや、本当に落ち着け)
ダメだ。単純に性能が違いすぎる。IS形態になったゴーストは桁違いに強くなっている。奴の鞭に終わりが見える。地獄の一丁目、その入り口。生命が叩き落とされる場所が確かに見えた。
「うわっ!?」
目の前を鞭が通過する。避けたつもりだったけど損ねたようだ。コキレットが真っ二つにされた。さっき投げ捨てたリトル・ジェムはと探したら粉々になっていた。これで僕は遠距離攻撃の手段を失った。
無理だ、勝てるわけがない。だいたい何で僕だけこんな目に遭わなきゃいけないんだ。ISなんて動かさなければ、今頃はどこぞのコンビニでバイトしているか、ライン作業でベルトコンベアから運ばれる品物を虚無顔で組み立てるか、鳶職辺りについて怖い先輩なんかに怒鳴られているかで、それは大変であるけれど平凡で命のやりとりとかの危険の少ない生き方のはずだったんだ。
「え?」
鞭が目の前を通過したかと思うと、その軌跡から拡がるように青色のキラキラが見えた。
プラズマ機雷だ。
「うぐあっ!?」
吹っ飛ばされ、壁に背中から叩きつけられる。シールドエネルギーが10%を切った上に視界がぐらついてきた。クイックブーストとイグニッションブーストの乱用のツケが今頃になって回ってきたか。
思い返すのは今までの人生。優しかった頃の両親、好きだった頃の姉さん。「かわいそうかわいそう」と言う割に何も手助けしてこない周囲、IS学園に入ってからの生活。楽しいこと、悔しいこと、色々と思い出す。
僕に闘う力は………もう…………。
「松尾くん! 立って!」
耳に声が入ってきた。センサーが通路に閉じ込められた人をアップする。
「諦めないで! 諦めたら死んじゃうんだよ! 立って! 立って飛んで! 諦めないで! 生きて!」
「頑張りなさいよ男子! あいつもあとちょっとだよ! あと少しで勝てるよ!」
「こんな目に遭わせて! 絶対責任取ってもらうんだから生きてこの場を切り抜けなさいよ!」
飛んでくる激励、若干の罵声の数々。たくさんの人が、僕を応援してくれている。
「………………ハハ」
ずるいよ。ずるいよ皆んな。今まで僕のことバカにしたり下に見たりしていたのに、こんな状況でそんな応援されたら、頑張らざるを得ないじゃないか。
「わかったよ。頑張るよ。やりたい事、まだまだ沢山あるし、一夏君との約束もあるからね。こんな所で死んでいる場合じゃないよね」
思い返してみたら理不尽や不条理は散々経験してきた。それは僕の強みだ。それを活かす時が来たんだ。
不条理を跳ね除けるには、賭けに出るしかない。部の悪い掛け。失敗すれば死ぬ。成功しても死ぬかもしれない。だが勝つためには死に向かっていくしかない。必要なのは勇気、観察、そして幸運。全てを手繰り寄せるんだ。
頑張るぞ松尾ムネフサ。負けるな松尾ムネフサ。もう絶対負けると思わない。
「うぐぁ………!」
ヘッドギアをガンガン叩いて無理やり頭を起こしながら立ち上がる。ゴーストは縄跳びで遊ぶように鞭を振り回している。僕を嘲笑っているのか手を出してはこなかった。
「ヘイCOM。頼みがあるーーーーーー」
「来い」
前に出る。もう飛ばない。飛ぶ必要はない。しっかりと地面に足をつける。
「来い」
ゴーストが鞭を弄ぶ手を止める。とどめを刺しにくる、そう言う気配だ。
「来い!」
鞭の攻撃範囲内に入る。ここまでの挑発をしているんだ。奴が機械だとしても攻撃してこないわけがない。
『…………!』
奴が腕を振り上げる。その軌道をしっかりと見ろ。何があっても目を離さない覚悟を持って。
『……………!』
振るわれる腕。それと同時に僕は右手を前に突き出し、
『!?』
鞭を掴んだ。全身に纏うシールドを右手に一極集中させたので切断はされていない。
「ぐぅっ! うおりゃああああああ!!!」
瞬間、残り少ないシールドエネルギーが減少する。そしてエネルギーがゼロになる前に渾身の力を込めて鞭を引っ張った。当然鞭が繋がっている先、ゴーストの体も引き寄せられる。
『!?!?!?!?』
「うおおおおおおおおお!!!」
パルスブレードの最大出力を叩き込む。ゴーストの体表面が割れた。その内側は全て機械。中央には球形のパーツが見える。良かった人間ではなかった。少なくともこいつは。
『……! ………!!』
だがまだまだ浅いようだ。ゴーストは身を捩って逃げようとしている。ブレードは冷却中。だったらやれる事は一つ。
「食らえええええええ!!!」
渾身の左手パンチを球形パーツに叩きこむ。位置的に一番重要な部分に違いないと思った。
拳がぶつかった瞬間、シールドエネルギーかゼロになりISが強制解除される。
「あっ………」
誰の声かわからなかった。自分のか、それとも通路の誰かのか。僕の体はふわりと地面に落ちた。四つん這いの状態で見上げれば、ゴーストの赤い光が僕を睨みつけている。
『………!』
そして爪で僕を刺そうとしてきたが、直前にピシリという亀裂音が響いて動きが止まる。それは段々と連鎖していき、最後の破砕音と共に消え去った。
『……………』
爪の先端が僕の目の前で止まっている。倒したと思ったが、本当に倒したか疑わしくて動けなかった。
「松尾くん……?」
誰かの声がしてようやくその場から退けた。見るとエントランスを覆っていたバリアが消えていくのが見えた。そして通路に閉じ込められていた人たちが恐る恐る出てくる。
「あ……あははは! 勝った! 勝ったよみん」
最後まで言えなかったのは、直後に轟音が聞こえたからだった。振り返ればそこにはボロボロで片腕のないゴリラのような巨体が…………。
「ムネフサ!!!」