IS学園でポンコツとゆく 作:ドニムルラ
戦い終わって
ボヤボヤとした頭が徐々に覚醒していく。全身を包むサラサラとした温もりには覚えがあった。病床、以前保健室にお世話になった時の感覚と似ていた。
「んん……うぅっ」
起きようとしたが身体が動かなかった。身体中に包帯が巻かれ、ギプスか何かで固定されている部分もある。それどころか、動こうと身じろぎするだけで全身に痛みが走る。
「っ! 松尾さん? 松尾さん! お返事できますか!?」
うめき声を上げると知らない女の人の声で名前を呼ばれた。誰だ? ここは、保健室じゃないのか?
「ふぁ………はい。大丈夫です」
「よかった! 少し待っていてくださいね! 今先生を呼んできますから!」
そう言い残して声の主の気配が急足の音共に遠ざかって行った。
重たい瞼が持ち上がり、視界が徐々に鮮明になったので周りを見る。やはり保健室ではない。僕はベッドで寝ていると思うのだが、見たこともない機械に取り囲まれている。まるで宇宙船の中のようだ。
「!」
円盤状の機械が視界に入った途端に身構えてしまった。あのゴーストを思い出したがそれに手足が生えていない事で安心した。たぶん計測機器かなんかだろう。
(どうなったんだ? 皆んなは無事か?)
確か、変形したゴーストを倒して安心していたらゴーレムが目の前に降りてきて、最後に誰かに名前を呼ばれたような気はした。そこから先が思い出せない。何で僕はベッドで寝ているんだ?
「失礼」
部屋に誰かが来た。顔を動かすと白衣を着た女の人と看護服の人が近づいてくるのが見えた。白衣を着た人は早歩きで僕に近づいてくると顔を触ってきた。
「君は…………松尾ムネフサ君で合っているよね?」
「は、はい。そうです」
「意識はハッキリしているようだね。ちょっと眩しくするよ」
「うっ」
白衣の人はペンライトを取り出して僕の目に光を当ててくる。眩しい。
「瞳孔の反応も問題なし………。良かった。このまま昏睡状態が続く可能性があったんだ。凄い回復力だね」
「えっと……」
「おっと、申し遅れた。私は
白衣の人、門先生はそう言いながらペンライトを胸ポケットに戻し、バツが悪そうな顔になった。
「一週間前、君はこのキサラギ中央病院に緊急搬送されてきた。全身の骨折、打撲、出血や内臓の損傷も酷く、この病院の医療技術を持ってしても一命を取り留められた事は、まさに奇跡としか言いようがない状態だった」
そんなに、酷い状態だったのか。
「あの…………皆んなは、僕の他に怪我をした人はいませんでしたか?」
だがこんなズタボロになったのに目的、守ろうとした人たちが怪我や最悪のケースに見舞われたとなれば僕は何のために戦ったのか。
「不幸中の幸いと言うべきか、君以外に負傷者はいなかった」
「そう……! いてて」
そうですかと思わず声を張ろうとした瞬間、痛みが走る。
「落ち着いて。一命を取り留めたとはいえ、君は依然大怪我をしているには違いないんだ。大きな声は出さないように」
声すら上げられないとは、情けない。まあでも、僕はやるべき事をやれたんだ。これは名誉の負傷だ。そう思えばこの痛みも愛おしいものさ。
「……………火粉君、準備しておいてくれ」
「はい……………先生」
門先生は看護師さんに目配せをして何か作業をさせた。看護師さんを目で追おうとした時、遮るように門先生が立ち位置を変えてきた。
「……………ムネフサ君。私は………自分で言うのもアレだが、外科手術に関しては世界一だと思っている。過去には爆弾でバラバラに吹き飛んだ子供を繋ぎ合わせた事もある。現在は元気に走り回れるようになるまで回復した。君も後遺症もなく治るだろう段階まで持っていける」
そこまで言うと門先生は口元を隠すように手で顔を覆った。
「だが…………どんなに優れた医者でも、失われた物を治す事はできない」
不穏な気配を感じる。
何だよ、失われた物って。何故今そんな話をするんだ。先生は何が言いたいんだ。
「いいか、今から真実を告げる。だが、決して取り乱さないように」
先生は、僕の左方向を指し示す。見たくない、でも、見ないといけない。きっと目を逸らしてはいけない問題だから。せっかく開いた目をぎゅっとつむり、恐る恐る、ゆっくりと頭を動かす。
そして、ゆっくり、ゆっくりと瞼を持ち上げる。
「本当に気の毒だが、左腕だけはどうしようもなかった」
そこにあるはずの物は、なくなっていた。
◆
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
窓の外を、ただ呆然と眺める。意識が戻ってからは病室を移された。政治家とか、お金持ちとか、そう言う上級国民さんが入るホテルのスイートルームのような部屋。学園の寮室のそれよりも豪華なベッドの上で窓から海を眺めながら毎日ぼーっとしている。自分で言うと嫌味だが、世界で二人だけの男性IS操縦者だもんね。ハハハ。
学園も人工島だから海が身近にあったな。海水浴とかはできなかったんだけどね。まあ、仮にできるようになったとしても、僕にはもう無関係の事だ。
僕の左腕は根本からなくなっている。聞いた話によると搬送される時既に無くなっていたらしい。傷口が焦げていたからビームか何かで消し飛んだのではないかという話だ。どうでもいいけど。
「松尾さん。入ってもいいですか?」
ふと、部屋のドアがノックされて看護師さんの声が聞こえてきた。正直、返事をするのも億劫だが……………個人的な感情で人を蔑ろにするのは良くない。
「はい………大丈夫です」
返事をするとドアが開いて看護士さんと…………見覚えのある女性が入ってきた。
「織斑先生っ」
黒いレディーススーツに身を包んでいる、僕の担任の先生。手にはフルーツバスケットが握られている。心がぱっと明るくなった気がした。でも、先生の表情は何だか…………痛々しく感じる。
「松尾…………」
織斑先生は重い足取りでベッドの側まで近づいてきた。
「先生。今日は……授業はどうしたんです?」
「山田先生や、他の先生方が穴埋めをしてくれている。お前が目を覚ましたと聞いて急いで来たのでな。無理をお願いしてしまったよ」
次に先生は僕の左側を見て一層苦しそうな顔になったかと思うと深く頭を下げた。
「すまない、お前がこんな事になったのは全て私の責任だ」
あの、凛々しく、何者にも負けないと言った雰囲気を纏っていた先生の謝罪する姿を見た途端、心臓が雑巾搾りでもされたように締め付けられた。
「やっ、やめてください織斑先生。先生は、先生は何も悪くはないんです。全部、あんな事をしたテロリストが悪いんですよっ」
「私には生徒を守る責任がある。それを果たせなかったんだ。ほんの数ヶ月前まで、普通の少年だったお前に戦いを強いてしまった。その結果がこれだ。どう償っても償いきれない」
声が、震えていた。確かに書類とか立場的な観点から見ると織斑先生に責任があるのかもしれない。だが僕は先生が悪いなんて思っていない。テロリストは巧妙だった。しかもあの時は目の前で身内である一夏君も危なかったはずで気が気ではなかっただろう。一人の責任でどうこうなる問題ではないはずだ。
「…………先生? 僕は大丈夫、ですから」
「何を………」
「これは、僕自身の未熟が招いた結果です。それでも、あの場にいた人たちを守れたんです。これは名誉の負傷、男の勲章みたいなもんです」
無理やりに笑顔を作ってそう言う。
「名誉であるものか………そんな傷はお前のような子供が負っていいものではない。それは」
「名誉って事にしておいてください」
失礼だとは思うが先生の言葉を遮った。こればっかりはいくら織斑先生でも譲れない。せめてカッコいいものであってほしい。
「お、男は隻腕とかに憧れる時期があるんですよ。ガッツとかアナキン・スカイウォーカーとかキングスレイヤーとかね。アハハハ」
「………………………」
ミスった。
「……………………………フルーツでも、食べましょうか」
「……………………………ああ」
織斑先生に剥いてもらったリンゴを食べた後、オンライン授業のやり方を教えてもらって、今後使う予定の資料とかをもらって織斑先生は帰って行った。
今後どうなってしまうのか。不安は募るばかりだった。