IS学園でポンコツとゆく   作:ドニムルラ

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帰還者

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 目の前に広がったのは高層ビルが並び立つ街、いや、戦場だった。

 ビルはどれも黒ずんで汚れており、半ば倒壊している物、窓から炎を噴き出す物、戦闘機が突き刺さって物、状態はともかく人が住んだり仕事ができるような物は一つとしてない。

 戦争があった。あるいは戦争の只中。そういうシチュエーションのロケーションだ。

 そして、車がまともに走れないことは明らかな道路の真ん中に立つ者がいた。

 

『戦闘技能検証プログラムを開始します』

 オールマインドのアナウンス。

『今回の対象はIS名 オルタネイト。識別名 米谷 すみれ ランクF7』

 現れたのは緑色のいかにもミリタリーチックな機体。そして初期のISにありがちな重装甲型だが、特徴としてスラスターが左右非対称だ。片方は剥き出しのガトリングを備え付けており、もう片方は円筒形の物が飛び出ている。

 映し出されたエンブレムは四つの螺旋が渦を巻くように外へ向かって伸びていて、まるで花のように見える。

 

『検証を開始します』

 

 ゴングが鳴らされた。それと同時に僕はオルタネイトに向かってイグニッションブーストで接近を試みる。

 相手は即座に武器を展開してきた。右手にはロングライフル、左手にはミサイルポッドを持っている。そして僕から距離を取るように後ろに下がりながら撃ってきた。スラスターが僕の方に向き、内蔵されているガトリングとグレネードランチャーも発射してくる。

 所謂引き撃ちという技能だが遅い。僕は攻撃の全てをクイックブーストで回避しつつ接近。オルタネイトにキックを叩き込み、怯んだところへパルスブレードを叩き込んで大ダメージを与え、更に即座にブレードをリトル・ジェムに交換して砲弾を叩き込む。

 

『ーーーーー!』

 

 オルタネイトは尚も弾幕による波状攻撃で僕を圧殺しようとしてくる。だが弾丸の一つとして僕は届かせる気はない。クイックブーストを右、左、前。そしてイグニッションブースト。パルスブレードで斬る。なんてことない、単調な作業だ。

 数分もしない内にオルタネイトは01分解された。有無を言わせぬ試合運び。あっという間に勝てた。

 

『検証完了。お疲れ様でした』

 

 視界が01分解されていく。

 

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 目を覚ました僕は手の甲から投影されたホログラフィーに目をやる。ランクがまた上がった。調子に乗る気はないが、Fランク帯で詰むことはないだろうと確信できる。

「松尾さん。もうすぐ着きますよ」

「あ、はい。わかりました」

 船員さんがわざわざ伝えてきてくれた。いつまでも船室にいるのもアレだと思い、甲板に出ることにした。

「わあ」

 波を切り裂きながら進む人員輸送船の向かう先は我が愛しの学園だ。夢のようだ。またあの校舎に通えるなんて。

 

 ISに護衛されている僕の乗る船は波止場で止まった。

「今日までお世話になりました」

 ここ一カ月、僕の世話をしてくれた人たちにお礼を言って船から降りる。

「ついに帰ってきたワニ」

 六月。爽やかな朝日を浴び、涼しげな風を受けて僕は懐かしの学舎の前に立つ。久方ぶりに袖に手を通した白い制服で陽光を余す事なく浴びる。鼻から肺いっぱいに吸い込む空気は潮の香りが混ざっている。

 IS学園。一ヶ月もの入院生活も終わった僕はようやく復学できる。こんな天気がいい日に戻れるとは、やっとツキが回ってきたかな?

 

「松尾くーん!」

 正門の方から走ってくる人が見えた。あの、大きい物を揺らしながら走ってくる可愛らしい女性は一組の癒し担当こと山田先生だ。

「先生! 顔を合わせるのは久しぶりですね!」

「松尾くん!」

「うわあっ!?」

 気さくに挨拶しようとしたところ、全身が柔らかい感触に包まれた。そしていい匂いが……。

 

「よ、よかった。戻ってきてくれて、本当に良かったです……!」

 嗚咽が直に耳の中へと入ってくる。同時に、この先生がどれだけ生徒の事を考えてくれているのかと言うのがヒシヒシと伝わってくる。

「………ただいまです。山田先生」

 僕は先生の背中を撫でた。

 

「山田君。あまり急ぐものではない。それに、松尾は病み上がりだという事を忘れないように」

 そう言いながらツカツカとやってくる黒いレディーススーツの人は、僕の顔を見て微笑んだ。

「おかえり、と言っておこうか。松尾ムネフサ」

「ただいまです! 織斑先生!」

 

 僕は左手でサムズアップをした。

 

 ◆

 

「それじゃあ呼んだら入ってきてくださいね」

「はい」

 一組の前まで移動した。山田先生はまだ赤い目元であるもののニコリと微笑み、織斑先生と一緒に教室の中へ入っていった。

 

『おはようございます! みなさん!』

『山田先生おはよ、どうしたのその目!?』

『またコケたの!? それとも合コンが失敗した!?』

『静かにせんか! それと教師に対して失礼なことを言うな!』

 少し緊張してきた。皆んな、僕のこと覚えてくれているだろうか? 元気よく挨拶しようかと思っていたけど「誰あいつ?」なんて言われたらどうしよう。そのままISに乗って遠くまで行ってしまおうか、心配だ。

 

 やいのやいのとした騒がしさは一分程度で収まった。

『今日は皆さんに嬉しい知らせがあります!』

『え? なんだろ?』

『もしかして、また転校生? 昨日に続いて?』

 え、僕がいない間に転校生なんて来たの? 鳳さんに続いてそんなエリートがポンポン湧いてくるものなのだろうか? それともエリートというのは畑で取れるのだろうか?

 

『それじゃあ入ってきてください!』

「は、はい!」

 呼ばれた瞬間全身がガチガチに固まった。自動ドアが開いてすぐに油の切れた機械のようにギシギシと教室内に入り、俯いたまま教団の前の横まで進む。

 

「「「「「え」」」」」

 

 教室内の大体の人の声が重なった。意を決して教室を見渡す。目を丸くした見知った人たちの視線が僕に向けられていた。

「お、お久しぶりです皆さん! 不肖、松尾ムネフサ! 遅ればせながら本日から復学いたしますですございます!」

「「「「「…………」」」」」

 応えは沈黙。あ、あれ? なんか滑るようなこと言ったか? それとも本当に誰も僕のこと覚えていないの?

 

「ム、ムネフサ…………なのか?」

 あ、よかった。覚えていてくれた人がいた。そしてこの学園で僕を下の名前で呼ぶ人は一人しかいない。

「あ、あははは。一夏君、久しぶり」

 久しぶりに見る友人は少し痩せているように見えた。目の下に隈があるし、疲れているかあまり眠れていないのだろう。

「ムネフサ!」

 と、一夏君は椅子を吹っ飛ばす勢いで立ち上がるとイグニッションブーストかって勢いで突っ込んできて、僕を抱擁した。

 

「ワアー!? ち、ちょっと一夏君! 野郎同士でこういうのはちょっと」

「よかった……まじで、よがっだ……!」

 一夏君の声が震え始める。

「ま、松尾君!」

「松尾!」

「松尾さん!」

「まっつー!」

 一夏君を皮切りに教室中の人たちが立ち上がって僕の周りに寄ってくる。

 

「よがっだ……まじで……!」

 一夏君は僕の肩に手を乗せたままだが身体を離した。顔は涙と鼻水でぐずぐずになっている。

「あははは。色男が台無しだよ」

「う、うるせえ! ………ムネフサ、俺、俺ぇ」

 一夏君が顔を伏せる。

「アリーナで、あのゴリラ野郎を倒したと思ったら、アイツが突然逃げ出して、追いかけたんだ。でも、あいつ凄え速さで、追いつけなくて、お前がぶっ飛ばされるまで、間に合わなくて。左腕、探したけど、見つからなくて」

 声が震えている。嗚咽が漏れている。でもそれは一夏君からだけではなかった。周りから聞こえる鼻を啜る音。見回すと、僕を見つめる人たちの目には涙が蓄えられていた。

 

「あの…………みんな」

 気恥ずかしくなって、席に戻るように頼もうと思った。でもそれは違う気がした。もっとふさわしい言葉を選ぶべきだろう。

 この状況で必要な言葉。それは……………………。

 

「改めまして」

 一つ咳払いをする。

「ただいま」

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