IS学園でポンコツとゆく 作:ドニムルラ
午前の授業が終わって昼休みに突入した。久しぶりの対面授業にはなんとか着いていけたが少し疲れた。今日は久々のIS学園チャーハン、それも油淋鶏付きのボリューミーな奴を食べようかな。スタミナをつけたいもんでね。
「ムネフサ。これ美味いぜ」
「あー…………うん。ありがとう」
「ムネフサ。コップがからじゃねーか。茶のおかわりいるか?」
「大丈夫だよ。ありがとう」
そう思っていたんだけど、今僕は屋上にいる。一夏君に連れ出されたもんで当初の予定であるチャーハンではなく購買で買った海苔弁をつついている。
それはいい。チャーハンは残念だが青空の下で昼食を摂るのも悪くない。だが一夏君がやたらと僕を介護しようとしてくる。気を遣われているのは明らかだ。
「ムネフサ。ほっぺにソースがついてるぞ。ふいてやるよ」
「いやいやいや、そこまでしなくてもいいって」
距離感がおかしい。肩に手を置いて顔が近い。確かに一夏君は頻繁にボディタッチをするタイプだったがここまでベタベタすることは無かった筈だ。
「イチ×ムネよ! あれは絶対イチ×ムネよ!」
「離れ離れの二人がようやく会えて、禁断の………キャー!」
「え、SNSに拡散……その前にフォルダを埋め尽くさなきゃ」
腐臭が漂ってきた。あの三人は一組の人じゃないな? どこのクラスか知らないけど妄想するなら聞こえないようにやってくれ。寒気がしてきた。
「「「……………」」」
「え、えーと………」
この場には僕と一夏君だけではない。篠ノ之さん、オルコットさん、鳳さん、そして謎の白人美少年? がいる。人工芝の上で縁を組む形で腰掛けているのだ。何故美女が三人もいて一夏君は見向きもしないのだろう。その謎を解明すべく我々(一人)はアマゾンの奥地へ足を踏み入れたい。
しかし、鳳さんかぁ。この場にいるということは一夏君とは仲直りしたようだが僕とは絶賛険悪中だ。彼女がいる場には連れ出してほしくはなかったというのが正直なところ。彼女の方もなんか微妙な顔しているし……。というか、鳳さんだけでなく二人もちょっと微妙というか、若干曇った表情だ。気まずい。
「一夏。その辺にしておけ。松尾が困っているではないか」
一夏君の腕を引いて僕から離したのは篠ノ之さんだ。
「あ? あ。あー……そうだな。ちょっと構いすぎた。悪かったなムネフサ」
しょんぼりする一夏君。
「気にしないで。それにしても……みんな、一ヶ月ぶり。元気してた? ご飯はちゃんと食べてた? 僕なんて病院食が薄味もいいところでちょっと痩せちゃったよ。アハハ」
軽く場を明るくしようと思ったのだが、誰の表情も明るくなることはなかった。何なの? もしや、僕が帰ってくることを一夏君以外は歓迎していないの? もしそうな泣いちゃうよ。誤魔化すように芝生の上に広げたハンカチに乗せた弁当を取ろうとする。
「松尾さん、いえ、ムネフサさん」
「え? オルコットさん、今」
名前で呼んだ。そう言いそうになったが言えなかった。彼女は僕の方へ近寄ってくると白魚のような美しい指で僕の両手を包んで持ち上げた。
「え? え? え?」
あ、温かい。突然のことで僕は動揺を隠せなかった。そして、右手と左手から伝わってくる彼女の温もりに胸の高まりを感じた。
「本当に……本当に戻ってきてくれて………。あんなテロリストなんかに学友を奪われなくて……良かった……」
オルコットさんの青い瞳から宝石が溢れる。いや、違う。彼女のIS名になぞられえるような、青い宝石めいた涙だった。
「とても勇敢に戦ったと伺いました。その身が傷つくことも厭わず、皆を守りぬいたと。ご立派ですわ」
そして微笑んだ。とても綺麗だった。慈愛に満ちた母親というのはきっとこんな顔をするのだろう。
「いや、そんな………そもそも敵の狙いは僕だったみたいですし、今になって考えたら僕なんかいない方がみんなを巻き込まずに済んだんじゃ」
「やめなさいよ」
そこに割り込んでくる声があった。鳳さんだ。釣り上がった瞳が僕を睨んでいるが、そこに憎しみは感じなかった。
「自分を卑下するんじゃあないわよ。テロリストの狙いはどうあれ、あんたは戦ってみんなを守ったのよ。悪いのは百ゼロでテロリスト。自分がいない方が良かったなんて、二度と口にしないで。ぶっとばすわよ」
厳しい口調だったが優しさがこもっている事は十二分に伝わってきた。鳳さん、なんだか雰囲気が柔らかくなった気がする。
「グスッ。そうですわ。私が女王なら貴方に騎士勲章を授与していたところです。貴方はもっと自分を誇るべきですわ」
オルコットさんはそう言って手を離し、繊細な百合紋章の刺繍が入ったハンケチーフで目元を拭いながら言った。
女の子を泣かせてしまった。我ながら酷いやつだと思う。でも同時に人に想われている事実が嬉しくなってしまう。
「ムネ…………松尾」
今度は篠ノ之さんに声をかけられた。見ると彼女は難しい顔のまま無言で自分の弁当箱から唐揚げを三つ取り、僕の海苔弁の上に乗せた。
「え?」
「食え。その………軽い快気祝いだと思ってくれ」
そう言うと篠ノ之さんは定位置に戻り、頬を少し赤くしてバクバクと弁当を食べ始めた。
「ありがとう。みんな」
少なくとも好意的に見られているという事実に心が温かくなった。左腕は失ったけど、IS学園、来てよかったな。
「ところで………蚊帳の外に置いてしまってごめんなさい。僕は松尾ムネフサです。貴方のことを教えてもらってもいいですか?」
「あ、うん。なんだか僕、部外者みたいで、ここにいてよかったのかなって思い始めていたよ」
金髪の美少年? は「たははー」と笑った。
「はじめまして。僕はシャルル・デュノア。出身はフランスで、君と一夏と同じ男性のIS乗りだよ」
「へー、男性の…………ええー!?」
思わず声を上げた。パンツスーツの制服を選んだ女生徒って思っていた。
「はははっ! ムネフサも驚くよな。シャルルの転校初日も大騒ぎだったんだぜ?」
「だよねー」
カラカラと笑う一夏君。というか、入院中もそれなりにテレビやラジオでニュースを聞いていたけど三人目の男性IS乗りが見つかったなんてどこも報道していなかったぞ。報道規制でもかけられていたか?
「あの………失礼だとは思うんですけど、その、トランスジェンダーだったりは………」
「えっ。ち、違うよ! 僕は生まれた時から男だからね!」
「で、ですよねー! すいません」
流石にこの手のデリケートな質問は失礼だったか。いや、トランスに偏見があるわけじゃないけど、彼、どう見ても女の子な顔つきなんだよなぁ。でもテレビとか歌ってみた動画とかで女の人にしか見えない男の人とか割と見るし、単に女顔ってだけなんかな。
「そ、そう言えばさ! 松尾君は休学していたみたいだけど、何があったのかな? ああ、言えないことなら別にいいんだけど」
デュノアさんは慌でた様子で僕のことを聞いてくる。
「あー、えーと……まあ、ちょっとあってね。入院していたんだ」
さっきまでの会話でテロリストとか言っちゃっているけど、まあそこは詳しく話すようなことじゃないな。
「入院?」
「左腕がね」
「ムネフサ。その話は……」
一夏君が左肩に手を置いてきた。僕は首を横に振って止める必要はないと暗に伝える。
「うーん………人に聞かせるような事かは悩んだんだけど、何かあった時に協力してほしいから、みんなにも伝えておこうかな」
僕は袖を捲って手袋を外し左腕をみんなに見せる。
「ムネフサ……」
「松尾……」
「ムネフサさん……」
「あんた……」
肌色の手袋の下には銀色の腕がある。これが僕の新しい左腕だ。
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「失礼します」
火粉さんが連れてきたのはセールスレディは温和な笑みを浮かべていた。黒地にエメラルドグリーンのラインが入った独特のデザインをしたレディーススーツに身を包んでおり、手にはビジネスバッグを持っている。
髪型はショートボブでグリーンの目には縁なしメガネをかけていた。織斑先生とは別ベクトルで「できる女」って感じの人だった。
「貴方が……。ああ、失礼しました」
一瞬嬉しそうな顔になりすぐにビジネス的なスマイルになる。そして彼女は事前に指示されていたのだろう、僕と面会するための椅子の近くまで来て火粉さんに促されて腰掛けた。
「初めまして、松尾ムネフサさん。私はオールマインドのエージェント、ケイト・マークソンです」
そう言ってセールスレディ、マークソンさんは名刺を取り出した。それをISSPが受け取りISの機能で危険物でないかを測定し、危険でないとわかったら僕に回してくる。
「どうも、松尾ムネフサです。オールマインド……様って、人がいたんですね。全部AIで運営していると思っていました」
「うふふ。その手の誤解はよくありますが、重要事項ともなるとどうしても対面で対応しなければ信頼関係を築けないのが人間ですからね。私のような者も在籍していますよ」
クスクスと静かに微笑み、すぐに神妙な表情に変わる。
「さて、まずはお怪我の事、心中お察し申し上げます。オールマインドとしても将来有望なパイロットの卵が損なわれることは大変な損失でありますが、貴方のような若者が重い障害を患うことに胸が酷く痛みます」
私がここに来た理由をお話させていただきますと、将来有望なユーザーを失う事は我々にとっても本意ではありません。そこで、我々オールマインドが松尾さんが無くされた腕の代用として、機械義手を提供させていただきたく思います」
そう言いってマークソンさんはカバンからパッドを取り出してタンタンと操作し、ホログラフィーを映し出す。流線型であまり見たことのないようなISだった。
「オールマインドはISパイロットの支援とパーツの製作を事業としていますが、そのテーマは人体感覚の拡張です。ISをただ身に纏う鎧やロボットアームに留めることなく拡張された人体の一部とする事が目的です」
ホログラフィーがスライドしてISと人体のモデルが並び、それらが重なるイメージが映し出される。
「その副産物としてバイオハイブリッドの技術は他のあらゆる企業、研究機関よりも洗練されています。拡張に留まらず、完全なる代用として機能するほどに」
ホログラフィーがスライドして腕が映し出される。一瞬だと生の腕に見えた。ディティールの少ない形状で、関節部はよく見ないと球形関節だとわからない。色が銀色であるから辛うじて義手だとわかるほど、人間の腕にそっくりだった。
「マインド・オルタ。オールマインドが開発した機械義肢です。基本的な動作は他企業の製品と同等の性能ですが、最大の特徴は触覚を有するところです」
ホログラフィーがスライドし、義手を装着した人体モデルが目隠しをして物を掴むイメージが移される。次に湯気がたったマグカップに触り、咄嗟に手を離すイメージ。
「手のひらには120ものナノセンサーが埋め込まれており、触った感覚、熱さ、冷たさの情報を電気信号に変換して神経に伝達します。これによりユーザーは失った身体部位と何ら変わらない、欠損などしたことなどなかったかのように生活することが可能です」
え、それ、すごくない? 現行の技術では神経からの信号で義肢を動かすだけで、外部からの接触を体の方に伝えるなどの機能はない筈だ。だから多分、機械義肢に対して違和感や不快感を持つ人もそれなりにいると聞く。
だが感覚まであるのならば……それはもう本当に新しい腕がくっつくのと同義ではないか?
「更に外装には我が社で開発した特殊合金を用いており、軽量でありながら耐久性も確保されています。ISによる戦闘にも耐えうる強度を有しております」
もう文句がない。これが本当ならばこの義手は必ず僕に必要な物だ。
「ご希望であればサンプルをお持ちし、試用していただくことも可能ですが」
「ぜ、是非お願いします」
僕は二つ返事で頼んだ。そして後日試させてもらった義手の性能に大満足し、本契約を結んだのだった。
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「そういう訳なんだ」
「ISの技術が医療に利用されているなんてな……」
みんな感心している。自分達が学んでいる物の技術が世のため人のために利用されている、その実例が目の前にあるんだ。感動しないわけがない。
「腕を無くしちゃったのは……まあ凹んだよ。でも、皮肉だなぁ、そのおかげで僕はISのことをもっと好きになったんだ」
僕はもうIS無しの人生は考えられないくらいになっている。これの登場のせいで世の中は狂ったと言う意見はあるが、良くなった部分だってたくさんあるんだ。MTだってIS技術の解析がちょっと進んだおかげで進歩したって言うしね。
(…………ゴースト)
一瞬、僕を襲ってきた亡霊どもを思い出したが、すぐに頭の中から叩き出した。尊い技術もいつだって悪用するやつが現れるものだ。技術そのものは悪ではない。
そういう奴らをやっつける。そんなヒーローが出てきてくれたらいいのにな。