IS学園でポンコツとゆく 作:ドニムルラ
IS学園では土曜日も授業があるがそれは午前中だけの話。頭で湯が沸かせられるような座学が終われば午後は完全フリー。部屋に戻って遊ぶもよし、昼寝するもよしだがここはエリート学校。体調の管理以外では殆どの生徒が校舎に残って自習をしている。
特に土曜日はアリーナが全開放されるので訓練機のレンタルに漕ぎ着けた人たちは必ずと言っていいほどここに足を運んでISを乗り回す。専用機持ちでもない限り生徒でも自由にISで飛び回れる機会なんて少ないからね。
「お待たせー!」
当然僕もアリーナで自習だ。オールマインドの仮想空間トレーニングがあるとは言え、やはり現実で身体を動かすのも必要だと思うからね。しかも今日は一夏君とデュノアさん、そして僕と男三人での訓練だ。ウキウキしないわけがない。
他の生徒たちの戦いの余波、流れ弾をカンカン受けながら白いISとオレンジのISに近寄る。
「あ! 松尾君が来たみたい………」
「おう来たか! ムネ…………フサ? だよな?」
トイレに行っていて遅れた僕を出迎えた一夏君は呆けた顔になる。デュノアさんもなんとなく怪訝な表情だ。
「そりゃそうだよ。何? ほんの十数分で友達の顔忘れた?」
「お前IS纏っていると顔見えねーだろ。そうじゃなくって………お前のIS、そんなデザインだったっけ?」
「わあ……カエルみたい」
デュノアさんが率直な感想を述べた。失礼とは思わない。だって出来上がった後で自分でも同じこと思ったもん。
ゴーストとの戦いでBASHOは相当なダメージを負った。特に胴パーツの破損が酷くて修理不可能とのことだった。しかもBASHOは生産数が少なく、その少数ですら他のISやMTのパーツにするためにバラされている。ちょっとした破損なら他ISのパーツで修理可能なのだが。
他のISに乗り換えるか、パーツが見つかるまでISはお預けにするかと言う時、なんとマークソンさんがオールマインド製のパーツを貸与すると提案してきた。何でも僕が戦ったゴーストたちの交戦データは少なく、希少なのでログハントポイントが高めに設定されていた。撃破ボーナスによりボディパーツの貸与権が得られるまでハンターランクが上がったらしい。政府やIS委員会のお偉方との話が付き次第送ってくれるとのことで、ウッキウキで提案を飲んだ。
そして届いた胴体パーツ、07-061 MIND ALPHAが取り付けられた。騎士甲冑を思わせる流線的なデザインで、僕のISのシルエットは一気にスリムになった。あの可愛かった段ボール坊やはどこにもいない。マッシブな戦士に見える。
せっかくならと色を僕の好きな緑色に変えてみた。その時の感想はデュノアさんと同じく「カエルみたい」だった。
「あれ? 名前も変わっているのか?」
一夏君が疑問をもらした。多分網膜ディスプレイに僕の機体情報が表情されたのだろう。BASHOの面影が薄くなったのでいっその事機体名も変えることにした。
「ダイバーフロッグって……カエルじゃねえか!」
「えー、かわいいじゃん」
僕の戦闘スタイルは兎にも角にも相手の懐に飛び込む事に重きを置いている。敵に向かってダイブするカエルのような機体、まさにピッタリだと思うんだ。
「これが日本のかわいい文化……勉強になるよ」
「いや、違うと思うぞシャルル」
腕を組んでウンウンと首を振るデュノアさんに一夏君がツッコミを入れる。日仏万歳条約かな。
「ま、そんな話は後回し。せっかく久々の生IS戦だ。誰かスパーリング手伝ってよ」
ジャキンッとコキレットを構えて見せる。ここ最近は病み上がりだからと実際に殴り合うタイプの授業は見学させられていたからな。フラストレーションが溜まって仕方がないぜ。
「よーし、じゃあ俺が」
「待ってよ一夏」
一夏君が肩を回しながら前に出ようとしたところ、デュノアさんがそれを制した。
「僕が先に戦わせてもらってもいいかな? 」
なんとまあ、まさかの挑戦だ。
「へ? ……まあ、ムネフサがいいなら俺は構わないけど」
チラッチラッと、一夏君は何故か僕の様子を伺っている。うーん、久々に刃を交えたいのは僕もそうなんだがね。パルスブレード貰ってから一夏君と対戦してないし。
だがデュノアさんも気になる。かの……いや、彼か。彼のISはラファール・リヴァイヴ・カスタム。オールマインドのISデータを検索したところアリーナランクD16、フランスの代表候補生シャルロット・デュノアさんの機体と同じ………だそうだ。
パイロットデータに添付されている写真にはデュノアさんと瓜二つな美少女の顔が写し出されているのだが…………双子? そうでないなら…………。
「…………うん、いいよ。やろうか、デュノアさん」
「ありがとう。じゃあ一旦離れようか」
取り敢えず戦ってみれば何かわかるかもしれない。いや、考えるのが面倒くさくなったとか、単に戦いたいだけとかじゃないよ。ほんとだよ?
「一夏君、レフェリー頼めるかな?」
「おう、任せとけ」
僕とデュノアさんは10メートル程距離を取り、その間に一夏君が立つ。気がつけば周囲で飛び回るISはいなくなり、戦闘音も途絶えた。ここにいる生徒さんたちは皆僕とデュノアさんに注目しているようだ。
「準備はいいか?」
「いつでも」
「同じく」
武器を握る手に力が入る。それは向こうも同じか、或いは落ち着いているか。
『ログハント対象を捕捉』
僕がターゲッティングした相手だけにログハント照会をするように設定を変更したCOMがデュノアさんを対象にそうアナウンスする。ダイバーフロッグもやる気満々だ。
「よし。それじゃあ両者、見合って見合って……」
「相撲じゃないんだから……」
「ファイッ!」
一夏君の合図で上空に飛び上がる。それは向こうも同じで僕たちは同じ高さまで飛んだ。と、同時にさりげなく垂直ミサイルを発射しておく。一夏君と戦った時にもやった伏線ミサイル。すかさず突撃して意識を僕に向ければーーー。
「!」
と、思っていたのも束の間。デュノアさんは後ろに飛び込むようにしながら両手にマシンガンを展開し、ノールックで右方を僕に向けて撃ち、上空のミサイルを左方で撃ち落とした。ノールックとは言え弾丸が広範囲にばら撒かれたため足を止めざるを得なかった。
うまいな、こんな器用な事ができるなんて。
「じゃあこっち」
デュノアさんの動きが止まらない内にリトルジェムを撃っておく。入院中は射撃練習もしっかりやった。BASHO腕の射撃武器適正じゃ動き回っている相手に当てるのは難しいが、止まっている相手と「この辺に来るかな?」でグレネード弾を置いておくように撃てばまあまあ当てられるようになった。ノールックが仇になったぞデュノアさん。
「きゃっ!?」
一回転して僕を正面に捉えたデュノアさんにグレネード弾が直撃する。すかさず突撃だ。と、思ったら警告音が鳴り響く。慌てて右へクイックブーストを吹かすと爆煙を引き攣れる様に何かが飛び出した。僕がいたところを握り拳大の物が通り過ぎて後方で爆発する。
「やってくれたね!」
間をおかずに爆煙から上方へ飛び出したデュノアさん。迎撃しようとした。
「うおっ!」
眩しい! 太陽を背にしている!
「お返しだよ!」
怯んでいる僕へ降り注ぐ弾丸の雨あられ。シールドエネルギーの十分の一を削られながらも前方にクイックブーストして脱出。
「まだまだっ!」
一瞬攻撃が止んだかと思えば炸裂音が連続で聞こえてくる。目も向けずにクイックブーストで前、右、左、左、後ろと回避し、タイミングを見てクイックターンしてデュノアさんを見据えると、両手にはマシンガンではなくショットガンを持っていた。
「どんどん行くよ!」
かと思えばショッガンは光になって消え、一秒もしない内に二丁のアサルトライフルが出現。距離を保ち、僕を中心に円を描くように飛びながらデュノアさんは銃撃してくる。
(武器の展開が早い……攻撃が絶え間ない……それに、距離や状況に応じた適切な武器の選択が早い……)
避けながら考える。マシンガンで牽制とミサイルの排除、僕の初撃を食らった直後のグレネードは警告音で僕の足を止めるため、ショッガンは僕を遠くへ追い返すためで、僕の武器の射程外からアサルトライフル。全ての動きに無駄がない。
「凄いね、デュノアさん……」
デュノアさんは武器の特性を知り尽くしている。最近見つかった三人目の男性ISパイロット、つまり経験が浅い筈にしては異常な程の実力だ。
可能性は三つ。一つ目は本当はデュノアさんが何年か前に見つかった一人目の男性ISパイロットでフランスはその存在を秘匿していて裏で訓練を積んでいた。二つ目は一夏君以上の天才型か短期間詰め込み学習を施された。そして三つ目は………。
「なかなかっ! 決めさせてくれないね!」
おっと、ミサイルが飛んできた。まあ、今考えるのはよしておいてこの瞬間を楽しもう。それに避け続けるだけじゃデュノアさんもギャラリーもつまらんでしょうて。
ふと気がついた。いつになく頭の中がフラットだ。前だったら楽しみながらも血が昇って、焦って、わちゃわちゃと色々考えて戦っていたはずだ。
理由はなんだろう。命の危機がないからか? この戦いで勝っても負けても死ぬことはない。命懸けの焦燥感、身を焦がすようなスリル、それがない。中々に状況を俯瞰して見ている気がする。
(いけない、いけない。戦いに集中しないと)
気を取り直した僕はミサイルが自分の右斜め前に来るように動き、当たる直前でクイックブーストを蒸して前に飛ぶ。ミサイルの弧を描く軌道の内側に飛び込んだ。入院中アリーナやトレーニングで何回もやったミサイル避けだ。
そして左武器を切り替えながらイグニッションブーストでデュノアさんに向かって突撃する。
「動きが直線的だよ!」
迎え撃たんとし、尚且つ後ろに飛びながらデュノアが武器をショットガンとマシンガンに切り替えて攻撃してくる。面圧攻撃と継続攻撃の合わせ技で突撃を殺すつもりなんだね。
「そうは問屋が卸さないんだな、これが」
発砲と同時にクイックブーストで右に飛ぶ。
「え!?」
デュノアさんがこれまでにない驚愕の表情を浮かべた。すぐに狙い直してきたが今度は左へ飛んで射線から外れる。
眼前に迫った。
「フンッ!」
イグニッションブーストの勢いを乗せてデュノアさんの腹を蹴り上げる。
「がッ!?」
身体に致命的なダメージはないだろうが衝撃にたじろぎはするだろう。動けないでいる隙、次の瞬間に僕は左腕のパルスブレードを二回、叩きつけるようにデュノアに刻み込んだ。
「うぐっ……あっ……」
まだまだだ。冷却装置が作動したパルスブレードをリトルジェムに切り替え、至近距離からグレネードを。
「ヤァッ!」
撃とうとした僕の視界いっぱいに、何か黒い球体が無数に広がった。かと思えばそれらは次々に爆発。僕の体は後ろに叩き飛ばされる。かと思えばオレンジの影が僕の横を通り過ぎた。
「これは、隠し球だったんだけどな」
そして衝撃。一気にシールドエネルギーが消し飛んで僕は負けた。
◆
「はあ〜〜〜……。凄えよ二人とも!」
一夏君が関心した様子で言ってきた。「まあ、ドンマイ」って感じじゃない。良いものを見れた、そんな雰囲気だ。
「病み上がりでブランクがあるとは思えん……なんて戦いを見せてくれるんだ」
「ええ。お二人の試合、学ぶことがとても多かったと感じました。貴重な経験ですわ」
「アタシも負けてらんないわね。ムネフサ! 次はアタシとやりましょうよ!」
いつの間にか来ていた篠ノ之さんオルコットさん鳳さんも感心してくれたように言ってくれた。周りのギャラリーたちからも「二人ともカッコよかったよ!」「いい戦いだった!」「シャル×ムネも……いや、ムネ×シャルか?」と声が上がる。最後の人はだまらっしゃい。
結果として負けたが皆の反応に哀れみや同情はない。そこが嬉しいと思う。今回は心が曇っていない。Dランク帯という僕よりも三つも上位ランクの人に喰らいつけたんだから。
ただ反省はある。前に一夏君と戦った時も最後の最後で逆転された。織斑先生に言われた事が活かせていない。対策を考えねば。
あとコキレット全く使わなかったな。OSポイント結構溜まっているし、そろそろ武装面も調整しようかな。
「太陽守とアシュミードは秘密兵器だったんだけど、そうも言ってられなかったよ。本当に強かった。とても二ヶ月程度の稼働経験者とは思えないよ」
デュノアさんがそんな事を言ってきた。まあオールマインドの仮想空間訓練毎日やっているからね。アリーナ使用の順番が回って来るまでISを乗り回せない人たちよりは訓練できていると思う。オールマインドアリーナでAIとは言え世界中の人と対戦できるし。
それにしても太陽守とアシュミードか。どっちもベイラム系列の武器だった筈。特に太陽守は王先輩が「アレを一回振るとぉ♡お腹の底からバーンってなってぇ♡頭の中ぐっちゃぐちゃになっちゃうのぉ♡」とヨダレを垂らしながら言っていた。ぐちゃぐちゃになるかはさて置き、その威力は身をもって体験した。採用するに一考の価値はある。
「それはデュノアさんも同じだよ」
「え?」
戦い終わって落ち着いたところで、ちょっとデュノアさんを突っついてみることにする。
「すっごく楽しかったし、すっごく強かった。最近発見されたって言う男性ISパイロットなら僕や一夏君より経験が浅い筈なのに、ISの動かし方とか、武器の使い方とか巧みだったよ。
まるで………そう、二年かそこらみっちり訓練した人みたいだった」
その時、デュノアさんの表情が一瞬強張ったのを僕は見逃さなかった。この人……やっぱり何か隠している。
「確かに……」
「そう言われてみれば」
「そうかも」
皆んなも言われてみて不思議に思い始めたらしい。デュノアさんはと言うと、平静を取り戻したように笑顔だが額に汗が浮かんでいるように見える。
「え、えっと……あ、あれだよ! フランス政府からどこに出しても恥ずかしくないようにって特別な訓練を受けさせてもらったんだ!」
「へえ……特別な訓練ね。よかったらどんな内容なのか、教えてくれないかな。僕、今よりもっと強くなりたいんだ」
あくまでも好奇心で聞いていると言うテイにしておく。努めて笑顔でいようとしているがデュノアさんの目が泳いでいる。少しずつ詰めていけばその内ボロが出るかな。
「わー! わー! わー!」
と、一夏君がブンブンと腕を振りながら僕とデュノアさんの間に割り込んできた。
「そ、そう言えばシャルルに射撃について教えて欲しかったんだった! わ、悪りぃけどムネフサ! また後でな!」
「あ! おい一夏!」
篠ノ之さんの静止を振り切り、ガシッと一夏君はデュノアさんの手を掴んで離れていった。
(誤魔化された? 一夏君?)
一夏君の行動は明らかにデュノアさんを守ったものだった。きっと何らかの秘密を共有している。そしてそれは唯一同性の友人である僕にすら明かせないものだ。
(………)
デュノアさんから渡されたライフルを構え、後ろから姿勢指導を受けている一夏君。何だか、あそこだけ閉じた世界に見える。無論物理的な障害があるわけではないが………なんか、会わない間に距離が出来ちゃったかな。
「ねえあれ!」
ふと誰かが声を上げた。皆んなの視線の先を追って見ると、ドッグに黒いISが見えた。一夏君を引っ叩くという、中々にエキセントリックな初登場をかましてくれた転入生、ラウラ・ボーデヴィッヒさんだ。
「おい、私と戦え」
冷たくも激情の見え隠れする声色で、一夏君を睨みつけていた。