IS学園でポンコツとゆく   作:ドニムルラ

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黒の真実

「嫌だね。理由がねえ」

 ISの集音機能が二人の会話を拾う。一夏君は顔を背けて拒んだ。普段の練習とかなら快く引き受けてくれるだろうが会合一番暴力を振るってきた上に今のボーデヴィッヒさんは敵意剥き出しだ。一度ゴングが鳴ってしまえばタダでは済まない雰囲気がある。本当に付き合う理由がない。

「貴様になくとも私にはある」

 しかしボーデヴィッヒさんは引く気配すら見せない。一体彼女は一夏君にどんな恨みがあると言うのだろう。

「貴様がいなければ教官が大会二連覇を成し得た事は想像に難くない。故に私は貴様の存在を認めない」

 は? 今あいつ何て言った?

 確か織斑先生はモンドグロッソ優勝の翌年の大会で、何故か決勝戦を参加せず不戦敗となっていた。理由は知らない。聞く機会なんてなかったし、あったとしてもデリケートな問題だから聞くことはしなかったと思う。だが織斑先生はその事で一夏君を疎んでいる様子はない。そりゃあ、普段からぶん殴っているが嫌っているとは絶対に思わない。

 それよりも、僕の友達の存在否定だと? 頭に血が上る。

 

「さっきから黙って聞いていれば好き放題言いやがる! 不愉快だ!」

「あ! ムネフサさん!?」

 オルコットさんの静止を振り切り、地面に足を叩きつけるように強く踏みしめながらボーデヴィッヒさんの立っているドッグに向かう。すると彼女は視線だけでチラリと僕を一瞥した後、興味ないねと言わんばかりに視線戻した。

「おい! 無視すんな!」

「部外者はすっこんでいろ。口出しをするな」

「ムネフサ……これは俺たちの問題なんだ。だから……」

 一夏君ですら止めようとしてくる。でも止まれない。

「いいや! 友達がボロクソ言われてるのに黙ってられないね! 織斑先生に何があったのかは知らないけどその家族の存在理由を否定していいわけがないし、先生が何か思うことがあったとしてもそれは家族の問題だ! 僕から言わせて貰えば肉親でもないアンタだって部外者で黙るべきたろーがッ!」

 その瞬間、ボーデヴィッヒさんが勢いをつけて僕の方に振り返った。白い顔は真っ赤に染まり、眉は吊り上がって口角がピクピクと痙攣している。

「そうか……黙るつもりがないなら私が直々にその臭い口を塞いでやる! このヒキガエルが!」

「上等だ! かかってこい! それと機体イメージはアマガエルだッ!」

 拳を振り上げて突撃しようとした時、後ろに引っ張られる力で足を停められた。

「落ち着け松尾! 熱くなりすぎだ!」

「そうよ! 第一アンタ今シールドエネルギーすっからかんで機体もダメージ入っているでしょーが!」

「気持ちはわかりますが一度冷静になってください!」

 三人に止められた。思わず振り解こうとしてしまったが鳳さんの言った通りシールドエネルギーが空っぽなので少しも抵抗できずに押さえつけられる。それで段々と頭が冷えてきて、確かに今の状態で戦ってもズタボロに負ける事は確定的に明らか。まだ熱りの冷めぬ頭でなんとか冷静に振る舞おうとする。

「フゥーッ! フゥーッ! す、すいません三人とも。おいボーデヴィッヒさん! き、今日のところは勘弁してやらぁ! 後でアリーナ使用の予約しておくから予定空けておきやがれ!」

「ここまで来て逃げるか! 臆病者め!」

「何とでも言え!」

 ダメだ、頭が爆発しそうなほど怒りが湧いてくる。このままだと丸腰同然でボーデヴィッヒさんに突撃するかその辺の誰か、或いは何かに八つ当たりしてしまいそうだ。

 アンガーマネジメント。今日のところは頑張って寮に戻り、誰とも接触しないで仮想空間トレーニングとかAMアリーナで暴れる。これしかない。

「ムネフサ!」

 一夏君に呼び止められる。

「その……ありがとうな。俺のために、怒ってくれて」

 お礼を言われた。瞬間、頭がフッと冷めた。気を遣わせてしまった。やってしまった。くぅ……ISの操縦にはまあまあ慣れてきたとは思っているが、人間的な成長は全然じゃないか。

「い、いや……なんか、ごめん」

 急に恥ずかしくなって足速にここを去ろうとする。足取りが乱暴でなくなったが逃げ足気味になっていると自分でもわかる。寮に戻る理由がアンガーマネジメントから本当に逃げに変わってしまった。本当に恥ずかしい。

 

「ふん! 邪魔がいなくなったところで………織斑一夏。戦わざるを得ないようにしてやる!」

 は? まだこの話を続ける気かよ。と、驚いて振り返ると更に驚かされた。ボーデヴィッヒさんのISの肩部パーツに搭載されている巨大な砲塔が一夏君に向けられていた。

「一夏く」

 手を伸ばした瞬間、ボーデヴィッヒさんと一夏君の間の地面が爆散して土煙を上げた。威嚇射撃で済ませたのか? と、思っていたその時。

「ぐえッ」

 なんか急に衝撃に襲われて目の前が真っ暗になった。意識はある。目の前にあるのは地面だ。僕は地面に押さえつけられていた。

 

「あら……踏み心地がいいカエルね。部屋の泥拭きマットに丁度いいわ」

 

 上から聞こえてくる声に背筋が凍る。この心の底から僕のことを見下しているような、それでいて綺麗な声色の人を僕は知っている。

「お、お久しぶりです。シェリー先輩」

 ガンッ! 背中に衝撃が走る。多分思い切り足踏みされた。

「返事がしたいならカエルらしく鳴きなさい。いいわね?」

「ゲコ」

 有無を言わさぬ命令に従ってしまう。

 この人は三年生のメアリー・シェリー先輩。王先輩と並んで僕がISの訓練を頼んだ人で、イギリス代表に最も近いと言われている代表候補生だ。搭乗機体プロメシュースによる狙撃戦を得意としており、第二世代ISでありながら彼女の手にかかれば並の第三世代乗りなど相手にならない。

 そして性格はかなりのサディストだ。僕が訓練を頼んだ際は快く了承してくれたかと思えばキツネのように追い回され、痛ぶるようにボコボコにされた。ぶっちゃけても足も出なかった。それ以来頭が上がらないが、それでも僕に特訓をつけてくれる数少ない先輩であることには変わりないのだ。

「レールガンの弾を撃ち落とすとは……なんて素早く精密な射撃なんだ」

 え、先輩そんな凄いことやったの? つまり、一夏君とボーデヴィッヒの間の地面が爆散したのは弾が撃ち落とされたから? どうやら畏怖敬愛すべき先輩は想像以上のバケモノだったようだ。

 

「メ、メアリーさん……」

「あら、セシリア。ごきげんよう」

 どうやら二人は知り合いのようだ。まあ同じイギリスの代表候補生だし当然っちゃ当然か。

「え、ええ。ごきげんよう。ですがあの……ムネフサさんの上からおどきになっていただけますか?」

「ムネフサ…………誰のことかしら? 私の下にいるのは復学したのに挨拶にも来ないバカなカエルだと思ったのだけれど?」

「す、すいません。色々と立て込んでいまして」

 ガンッ! ガンッ! ガンッ! 三回踏まれた。

「二度言わせるつもりね? カエルが喋るんじゃないの」

「ゲコ」

 いつになったら人間に戻してもらえるのだろうか?

 

「ちょっと! 先輩だかなんだか知らないけど退きなさいよ!」

 鳳さんの抗議する声が聞こえる。正直ありがたい。このまま地面にへばりついた状態が続くのは困る。

「うーん……ま、いいわ」

 上から重量感が消える。地面から起き上がって頭を上げると、空を飛ぶシェリー先輩の背中が見えた。そしてそのままボーデヴィッヒさんの方へ飛んでいく。

「今年の一年生は随分と元気なのね。そんな大きなキャノンで不意打ちするなんて」

「貴様……」

「あら、怒らせてしまったかしら? それならごめんあそばせ。お詫びに私が相手になろうかしら?」

 一触即発の空気。その時だった。

『そこのお前! 今の攻撃はなんだ! 名前と学年、所属クラスを明かせ!』

 アリーナを管理している先生の怒鳴り声がアナウンスされる。ボーデヴィッヒさんは周りを見回すと舌打ちをしてISを待機状態にしてアリーナに背を向ける。

「興が削がれた」

 三度の横槍にやる気を無くしたらしい。今日はそのままでいてくれ。僕も今日は喧嘩したくない。

「私も失礼させてもらうわ。せっかく練習しようと思っていたのに、そんな空気でもないから。セシリア。後でお茶でもしましょう。リリウムの近況を聞かせてあげる」

「え、ええ。よろしくお願いします」

 シェリー先輩も帰って行った。その時、予鈴が鳴った。アリーナの閉館時間が迫っていることを知らせているのだ。

 

「……帰るか」

 今日は色々なことがありすぎた。寮でシャワーでも浴びてAMアリーナやって寝よう。

 

 ◆

 

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 舞台はトレーニングエリア。僕と相手を遮るものが何一つとしてない、ある意味これ以上ないほど正々堂々としたこの場所こそ節目に相応しいのかもしれない。

『戦闘技能検証プログラム、Fランク帯最終検証です』

 オールマインドのアナウンス。

『対象はIS名 グラスボール。識別名 シキ』

 目の前に立つのは青を基調としたスマートなフォルムの機体。これがFランク帯最期の敵だ。

『検証を開始します』

 その言葉を合図にグラスボールが飛び上がった。通常では考えられない程の上昇推力。ジャンプ性能強化を目的とした特殊脚部だ。

 追いかけるとグラスボールの両手に光の粒子が集まりパラボラアンテナのような装置が出現する。次の瞬間、空間が円盤状に歪んだ。更にその歪みは推進力を持って僕に向かってきた。

「くっ!」

 避けるが歪みは一つや二つではない。視界を覆い尽くすシャボン玉の如く、僕を圧殺せんと迫り来る。当然クイックブーストで避けるが面制圧攻撃だ。二、三発被弾して衝撃に襲われる。

 これはパルス攻撃だ。僕のパルスプレードと同じく破壊を伴うエネルギー波。ブレードと違ってエネルギーを発射している弊害か、一発一発の威力は大した事はない。しかしとにかく連写性能が高くて範囲が広いため避けづらいことこの上ないし、下手に近寄って全弾喰らうと一瞬でシールドエネルギーが消し飛びかねない。

 だが弱点もある。パルス兵器は高出力の代償にオーバーヒートしやすい。銃で言うリロードタイムがあるのだ。その隙に攻撃する。

 グラスボールが地面に着地したと同時にパルスガン、そのアンテナ部分が下を向くように折れ曲がり排熱装置が露出する。今だ。

「うおおおおおお!」

 イグニッションブーストで突撃し、パルスプレードを振り上げる。だが振り下ろした瞬間、グラスボールが目の前から消えた。瞬間移動? クイックブースト? いや、ただ上に飛んだだけだ。そしてパルスガンの排熱が完了するまで逃げ回るつもりだろう。

 だがそうはさせない。既に垂直ミサイルを撃ってある。飛んだグラスボールは次の瞬間、ミサイルに激突して地面に落ちてきた。そこへリトルジェムに持ち替えた左手を向けて引き金を引く。爆発。まだまだ。突撃しつつパルスプレードに切り替えて溜め攻撃を叩き込む。最強の黄金コンボ。

 グラスボールは沈黙した。

 

『検証完了。お疲れ様でした』

 

 視界が01分解されていく。

 

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『おめでとうございます。貴方はFランクの検証を全て完了し、Eランクへ昇格しました。これからも弛まぬご研鑽、そして活躍をお祈りしております』

 オールマインドからの祝辞を聞いても心のモヤモヤは晴れないでいた。考えるのはボーデヴィッヒさんのことばかり。いくら何でも不戦敗の責任を一夏君におっ被せるのは異常だ。いや、もしかしたら一夏君が当時急病だとか事故だとかに遭って病院に担ぎ込まれて、それで駆けつけた織斑先生が試合放棄したって話かもしれないが。

 だが気になるのはボーデヴィッヒさんが織斑先生の事を「教官」と呼ぶ点だ。確かに教官って感じだし、もしかしたらファンが先生を呼ぶ時の呼称かなんかかもしれない。でもそれにしては二人は顔見知りな感じがするし………。

 

「あ! そうだ!」

 一つ思いついた。オールマインドには専用機持ちのパイロットとしてのデータだけでなく経歴とかもちょろっと書いてあったはずだ。これを見れば何かわかるかもしれない。

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒ、ラウラ・ボーデヴィッヒ、ラウラ・ボーデヴィッヒ………、あった。Cランクだって? 代表候補生相当であるランクの最終帯、つまり国家代表に最も近い人たちで、彼女は一年生の中では最強である可能性が高い。だが今はそこは重要じゃない。早速来歴を見てみよう。

 

 そして僕は後悔した。

 

 

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒ。アリーナランクはC36。搭乗IS『シュバルツァ・レーゲン』。

 ドイツIS部隊『黒うさぎ隊』の隊長。強化人間計画によって製造された試験管胎児であり、国の剣となるべく冷たい機械の子宮から産まれた彼女は立って歩けるようになると同時に軍事訓練に従事させられた。生身での成績は優秀であった一方でIS適正は低く適合性向上手術も失敗し、一転して落ちこぼれた。

 しかしある時に運命的な出会いを果たし、適性の低さをねじ伏せるような努力により積み重ねた実力を持って部隊長に上り詰めた。

 

 

 

「……」

 絶句した。軍事利用目的で産まれた試験管胎児って……酷い人権侵害だ。いや、そもそも彼女は人権を保証されてすらいない。彼の国にとって彼女はスターウォーズのクローン兵とか戦闘ロボットみたいな認識なのだろう。一体今は何世紀だ? WW2の時代じゃないんだぞ。

「はあッ……! はあッ……!」

 息が荒れる、吐き気がする。あまりにも真実が重すぎる。この事実を公開して…………そんな事、僕みたいな一個人がやっていいのか? そもそも信じてもらえるのか? あと僕みたいなのでもアクセスできる情報な時点で世界的には問題ないのか? 軍事利用目的で人間作る事は合法になっているのか?

 

 わからない。わからない。頭が混乱してきた。こんな真実なら知らない方が良かった。知らなければボーデヴィッヒさんはただの嫌なヤツって認識で終わっていたのに。

「どうしよう……どうしよう……」

 嫌な汗が噴き出る。胃が痛む。何も考えられない。

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