IS学園でポンコツとゆく 作:ドニムルラ
フロントについて辺りを見渡したが二人はまだ来ていなかったので、適当な席に座って五分ほど待っていたら来た。
「ムネフサ! 元気そうだな!」
会うなり一夏君は駆け寄ってきて僕の肩を掴んだ。
「ああ、うん。ちょっとは回復できたかな」
「全く…………日本の男性は休むことを知らないと伺ったものですが、どうやら本当でしたのね」
オルコットさんが額に手を当てながら呆れたように言った。
「二人とも、まずはおはよう」
「ああ、おはよう」「ごきげんよう」
軽く挨拶してからオルコットさんに向き直る。やっぱり緊張する。でもケジメはつけないと。
「それで………オルコットさん」
「ええ。何かしら?」
腰を九十度に曲げて頭を下げる。
「昨日はごめんなさい。心配してくれたのに、怒鳴りつけてしまって」
「…………まあ、驚きましたけど、それ程気にしてはいませんわ。疲弊していると些細な事でも爆発してしまうものですから。頭を上げてくださいな」
オルコットさんは寛大にも許してくれた。やっぱり、根は良い人なのかな。
「ですが………貴方がおかしくなったのは、決闘から二日後に私と話した後と記憶しています。もしかして………何か気分を害するような事を言ってしまったのではないかと………」
「あ、え、いや、今回のは僕が全面的に悪いんです。オルコットさんは何も責任はありませんよ」
気を遣われたのは確かに堪えたが、オルコットさんには悪意はないのはわかっている。これは僕の実力とプライドの問題だ。実力がなかったからズタボロに負けたし、無駄な自尊心があるから謝られただけで激怒した上、僕よりも活躍した一夏君も妬んだ。悪人は僕だけなんだ。
「俺たち出会ってからまだ一月くらいだけど、ムネフサはさ。思い詰めると一人で突っ走るんだってわかったよ。悩み事があるなら、何も全部話す必要はない。けど、俺たちが力になれる事があるなら頼ってくれよ」
「一夏さんの言う通りですわ。苦しむ人がいるなら貴族の勤めとして、一人の学友として手を差し伸べたく思います。関係ないなんて悲しい事言わないでくださいまし」
また気を遣わせてしまった。二人とも良い人だ。あまり煩わせるのも悪いな。でも全く何も頼まないのもそれはそれで気を悪くさせそうだ。
「ありがとう。二人とも。そ、そうだなあ。それじゃあ、二人が都合よくて、気が乗った時でいいんだけど…………一緒にISの訓練してほしいかなって」
小っ恥ずかしくなって指先を突き合わせる。
「なんだ、そんなことか! いつでもお安い御用だぜ!」
「わたくしも出来うる限りの事はお教えいたします」
満面の笑みになった一夏君は肩を組んできた。オルコットさんは腰に手を当てて胸を張る。
頼もしいし、良い友達を持てたなと思う反面、やはり心のどのかはチクチクとしていた。
◆
二人と別れた後、鷹月さんに連絡してフロントに来てもらった。出身地の話とか、好きな漫画やアニメやドラマの話とか色々して、今度一緒に映画やドラマを観ようって話になった。だが鷹月さんが面白そうと提案してきたのがゲーム・オブ・スローンズだったので全力で軌道修正し、ダンジョンズ&ドラゴンズに切り替えることに成功した。
いや、ゲーム・オブ・スローンズも面白いは面白いのだが、あれは異性と観ると気まずくなるシーンが多々ある。クラスメイトと一緒に観るなんて拷問でしかない。その点ダンジョンズ&ドラゴンズは楽しいファンタジー映画だ。あれこそ友達と観る作品として一つの完成形だろう。
わりかし充実した一日を過ごせた夜。晩飯を適当に食べた僕はオールマインドにアクセスした。休日とはいえ多少は勉強や訓練がしたい。遅れているしね。流石に今後はちゃんと睡眠時間は確保するが。
『おはようございます。登録番号ISs091、松尾ムネフサ』
よしよし。ちゃんと起動したな。色々と気になっているが、特に仮想空間ってのが興味ある。説明してもらおう。
『仮想空間はISの基本的な機能であるスキンバリアの生体補助機能を応用したシステムです。電界的に構築された電気信号を五感に伝達することで利用者は電子空間内での経験を得る事ができます。また、脳からの伝達信号を遮断・回収し、デジタル信号に変換する事で現実の肉体が動くことを防ぎ、仮想空間内でのボディを操作することが可能です』
本当に凄い技術だな。ISってそこまで凄いことできるの? SAOじゃん。ハンドルネーム「†キリト†」にしようかな。いや、色々なところから怒られそうだからやめておくか。もうなんか実名登録されちゃっているし。
「技能講習もその、仮想空間内でやるのかな?」
『その通りです。仮想空間内でトレーニングを行った後、現実においてISを操縦した利用者は操縦技術の向上を感じ、違和感は極めて少ないと感想を述べています』
つまり今後、アリーナを使えない時は仮想空間でトレーニングすればいいと言う事か。これは凄いぞ。飛行機なんかもそうだが優秀なパイロットのステータスは操縦時間だ。ISにも同じ事が言えるらしいが現実では限られている時間を伸ばして動かす事ができるのは大きなアドバンテージだ。
「さ、早速試してみたいんだけど、技能検定の前に自由に動かしたいんだけどいいかな?」
『可能です。時間無制限のトレーニングエリアがあります。利用しますか?』
「おねがいしますっ」
『かしこまりました。それでは、身体を横にして楽な体勢をとり、出来るだけリラックスしてください』
言われるがままベッドに横になってだらーんと脱力した。あ、やべ。このまま眠っちゃいそう…………。
『スキンバリア、展開。バイタル解析……正常。脳波の取得と肉体からの隔離………完了。接続開始』
だが落ちそうになった意識はバッと引き戻された。目が大きく開くのを感じる。世界が0と1に分解され、再構築されていく。
01110100011100100110000101101001011011100110100101101110011001110010000001100001011100100110010101100001001000000010110001101100011010010110111001101011001000000111001101110100011000010111001001110100
01の群れから形作られたのは巨大な空間だった。アリーナくらいはありそうだ。灰色で無機質な作りの壁と床、100メートルくらいの高さがありそうな天井には無数の照明。どこかの倉庫の中かと言わんばかりに飾り気のない部屋だった。
頭を下げようとしたがある角度で止まった。BASHOの板状ヘッドギアがやたら前に出っぱった胸部装甲に引っかかったからだ。どうやらISは展開状態がデフォルトらしい。
『トレーニングエリアへようこそ』
オールマインドの声が聞こえる。
『ここではISの動作確認が行える他、設定により歩兵、戦車、武装ヘリ、MT、IS等の仮想敵を出現させることも可能です。時間は無制限ですが、利用者の健康状態の変化と生活への影響を考慮して二時間程度で切り上げる事をお勧めします。それでは、心ゆくまで研鑽ください』
そこでオールマインドのアナウンスが止まった。説明は以上という事だろう。
『よっと』
まず試しに歩いてみた。ISって基本的に空を飛ぶし、地上でもホバークラフトみたく滑るように移動するから歩行はあまりやらないんだけど、感覚の確認はやはり歩いたり手に物を持ったりするのが一番だ。
歩く、軽く走る、しゃがむ、立つ。色々な動作確認をして違和感がないことを確かめた後に空を飛んでみた。BASHOは肩スラスターがないせいでPICが不十分なので飛ぶには各部に装着されたブースターを蒸す必要がある。ISに似つかわしくない轟音を立てながら空を飛ぶ。ここ数週間の練習で飛行技術はそれなりに上達したと思う。スィーっと空を飛び、上下移動、左右移動、旋回、急旋回も試した。
スロー、スロー、クイッククイック、スロー。スロー、スロー、クイッククイック、スロー。うん、問題ないな。
『オールマインド。いいかな?』
『何なりとお申し付けください』
そろそろ武装テストをしたくなってきた。
『仮想敵を出現させてほしいんだけど、それって動き回って僕を攻撃してきたりするの?』
『ご希望であれば実戦さながらの戦闘をさせることができますが、出現場所から停止した状態で攻撃を行わないようにする事も可能です』
『じゃあ攻撃オフで…………ISを出して』
と言うか歩兵だの戦車だのMTだのを出す理由が僕にはない。軍属の人なら国防戦の訓練で出すのかもしれないが、ISは基本的に軍事利用してはいけないと条約で決まっているのだ。
『かしこまりました』
するとレーダーに敵機出現のアナウンスがされた。その方を見ると第二世代量産機の打鉄型のテスターISが直立不動の状態で立っていた。手には一応刀を持っているが近寄ってみても構える様子はない。パイロットがいるべきところには、何というか灰色のののっぺらぼうがいる。胸こそ平たいが、髪型がポニーテールで、ウエストもいい感じにくびれていて、腹筋が色っぽく浮き出ていて…………こ、これはこれで一部界隈に刺さってしまうのではないだろうか?
『登録番号ISs091、式別名「松尾ムネフサ」。本プログラムは利用者の性的欲求を解消するためにあるのではないという事を、ご理解いただけますか?』
『ごめんなさいっ』
怒られたので慌てて打鉄から飛び退いて距離を取る。危ない、これで垢BANなんてアホらしすぎる。
『じ、じゃあ、まずはこれで』
右手のSMGエツジンを構えて発砲する。タタタンッ! と発射された三発の弾丸は相変わらずバラけて飛んでいく。一応練習の成果が出たというべきか、止まっている相手には一発、たまに二発当たるようにはなっているが。被弾したテスターISは「なんか当たりました?」と言わんばかりに直立不動だ。
距離を調整しながら有効な距離を手探りで模索する。三発全ての与弾率が高く、テスターISをよろめかせることができるのは大体15メートル以下と言ったところか。ISからしたら友達の距離だ。
次にバズーカのリトル・ジェム。こいつが曲者で威力こそ僕の武装の中では一番高いのだが、反動制御が苦手なBASHOの腕では照準がブレにブレまくる。それでもこれより大きなバズーカを持つよりはマシらしいが、与弾率の高い距離は10メートル以下。実際の敵は動き回るから更に命中率は下がるだろう。
そして垂直四連ミサイルBML-G1/P01VTC-04現状の武装ではこれが一番の頼りだ。何せ肩に付いている武装だから腕の射撃適正なんて関係ないし、ミサイルだからロックオン距離内なら命中率も威力も変わらないというステキな代物だ。まあそもそもの追尾性能がそこそこという点に目を瞑ればだが。
(基本戦術は離れている敵をミサイルで牽制して、SMGを乱射しながら距離を詰めてバズーカを当てる事かな。僕にとれる最善の戦術はこのくらいか………)
『松尾ムネフサ。一つ提案があります』
ふと、オールマインドが話しかけてきた。まあ姿は見えないから場内アナウンスという形だが。
『BASHOフレームの腕部を解析した結果、近接攻撃の適性が高い可能性が出てきました。試してみてはどうでしょう?』
『え、そんな事まで調べてくれたの? いやでも、この機体ナイフの一本もないから近接攻撃なんて………殴ればいいのかな?』
チラリとテスターISを見る。灰色ののっぺらぼうだが女性的な形であるわけで…………ダ、ダメだ。殴るのは生々しすぎる。甘っちょろい事をとか言われるかもしれないが生理的に現実的な暴力に抵抗がある。
『データ上で再現した打鉄の標準ブレード「葵」を装備可能です』
お、流石仮想空間。実物を持っていなくてもこう言うところで融通が効く。
『お願いします』
『では、左腕部の小型バズーカを交換します』
あれ、右腕じゃないの? 僕右利きなんだけどな。だが抗議する間も無くリトル・ジェムが01分解され、代わりに馬鹿でかい日本刀みたいなブレードが01構築された。
『解析の結果、左腕部が最も近接攻撃に適していると出ました。どうぞ、お試しください』
ああ、そう言う事ね。納得してテスターISに向き直り、飛びかかってブレードを斬りつける。
『おおっ!』
なんとリトル・ジェムを直撃させた時よりも大きなダメージを与える事ができた。テスターISはシールドエネルギーが0になり01分解された。これはいい、素晴らしい。手にすごく馴染むというか、足りなかったパズルのピースを見つけた気分だ。
『BASHOフレームは元々作業用であり、採掘や解体用の工具を使用する前提で設計されています。近接攻撃適正が高いのはそれらの要因があると推測します』
成る程なぁ。きっとこれはBAWS社も想定外だったに違いない。急拵えで戦闘用にした上、全く人気が出ないからゆっくり解析している暇もなかっただろうし。
『でもなぁ、いくら近接攻撃が強いって言っても、現実の僕が持ってないんじゃわかった所でなぁ』
専用機送ってきた所に連絡して頼んでみようかな。色々なデータが欲しいって言っていたし言葉を選んで頼めば送ってもらえるかも。それかISの装備品管理している先生とかに頼めば貸してもらえるかな?
『そう言えば教習項目クリアすればパーツを貸してもらえるんだっけ? ブレードはないの?』
『教習項目達成の貸与品には近接武装は含まれていません。お力添え出来ず申し訳ありません』
『いやいや謝らないで。まあ、無い物ねだりしても仕方ないかあ』
そう言いつつもどこかに剣が生えていないかなぁ、なんて馬鹿な事考えていたらオールマインドからそろそろ二時間経つと言われた。うげ、マジか。結局教習受けられなかった。夢中になりすぎていた事を謝ると『楽しさを知る事は上達への近道』と言ってもらえた。泣きそう。
よし、明日からは教習を頑張るぞ!