IS学園でポンコツとゆく 作:ドニムルラ
最初のオールマインド教習プログラムはISの起動の仕方、歩行の仕方、手の動かし方、飛び方なんかの基本まとめを行った。その報酬として火器管制システムをつかさどるFCSチップを一つ貰った。
ファーロンダイナミクス製の「FCS-G2/P05」。中距離武器の適正が高いが他の適正もそこそこある、割とバランスの良いパーツだ。
今BASHOに搭載されている「FCS-G1/P01」は第一世代型でバランスはいいのだが、もうあらゆる性能が最新の第三世代どころか第二世代よりも低い型落ち品。ぶっちゃけ碌に弾が当たらないのは腕の射撃適正以上にこのしょぼいFCSのせいもあると思う。取り替えられるなら取り替えたい代物だからこの貸与品は助かる。
二回目のプログラムは武器の使い方。ハンドガン、SMG、アサルトライフル、バズーカ、最新のレーザー兵器、近接武器、現実じゃ雑誌やテレビ越しにしか見れないような兵器をいくつも体験し、軍事企業ベイラムの開発したハンドガン「HG-003 コキレット」をもらった。
コキレットの射程距離はエツジンよりさらに短くなるのだが単発威力は高く、セミオートハンドガンなのでバーストマシンガンみたく射線がガタガタしないのがうれしいね。どうせめちゃくちゃ接近しないといけないんだから右手はこっちに変えようかな。
貸与されたパーツがどうやって渡されるのかと言うと、コアネットワークを介して粒子化したパーツを転送し、待機状態ならば整備室でガチャガチャしなくても内部で付け替え可能とのこと。余ったパーツはオールマインドの拡張領域で預かってくれるそうだ。ハイテクとサービスのハイブリッド。この技術が普遍化すればあらゆる物流業回に大打撃は間違いなしだろう。
『ISパイロット教習プログラム、初級項目「クイックブースト」へようこそ』
基本編、火器編から続けて次のプログラムに進んだ。一時間で終わったからね。推奨されている終了時間までまだたっぷりとある。ギリギリまで色々吸収しよう。
『クイックブーストはエネルギーを爆発的に噴射することで急加速し、変速的な動きを可能とします。敵からの攻撃の回避、此方の軌道を予測させない事を目的とします。まずは前後左右に3回ずつ行ってください』
網膜ディスプレイにデモムービーが映し出される。ふむふむ、こうやればいいのか。
『よおーし!』
試しに一回前にクイックブーストを吹かしてみる。
『い゛ッ!?』
す、凄い急加速だ。背中から車で追突されたみたいな衝撃が伝わったかと思うと前に吹っ飛んでいた。着地の瞬間はよろめいたがなんとか踏ん張った。続けてもう一回、二回。前方クイックブーストは終わったが、せ、背中が痛い。ISのスキンバリアって操縦者の身体の負担を軽減する機能もあるのだが、それを突き破って身体に負担がかかっている気がする。
今度は右に飛んでみた。また衝撃、前方クイックブーストでなんとなくどんな感じになるかは想像はついていたので身構えた。衝撃はまだいい、だが視界が写真のスライドみたく急に切り替わったのでくらっとした。気持ち悪い。
ぼさっとしていてもプログラムは終わらないのでもう一回やったのだが…………。
『う゛ぶッ!?』
『大丈夫ですか?』
膝をついた。無理、立てない。頭がぐちゃぐちゃのぐるぐるで何も考えられない。
『受講者の健康状態を考慮し、プログラムを中止します』
視界が01分解されて感覚が現実に引き戻される………。
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「うぶっ」
『そのままの体勢でリラックスしてください。スキンバリアのファーストエイド機能により治療を行います』
ベッドの上に吐きそうになるのを耐え、全力でリラックスしながら呼吸を整える事に注力していると、段々と気持ちが落ち着いてきた。吐き気も緩くなってきた。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ」
『気分はどうですか?』
腕輪からオールマインドからの声が聞こえて来る。気遣いもできるなんて、高度なAIだね。
「最悪。落ち着いたけど、大しけの海に小船で送り出されたみたい……』
『解析中…………完了。基礎体力の不足と三半規管の未発達が原因。現時点でクイックブーストの連続使用は健康状態に害をもたらします』
「は、走り込みの量増やして、トランポリンで跳ねたりしたほうが、いいかな?」
『此方でトレーニングメニューをご提案いたします』
「あ、ありがと」
初級編でいきなり躓いた。悔しい。でもこれ乗り越えないと………もっと悔しい目に遭う。頑張らないと。
「で、でもこれ、本当に初級技能なの? めちゃくちゃキツいんだけど………」
『本プログラムは専用機持ち、本来であれば十分な訓練を積み心身共に完成に近いパイロットを対象としており、クイックブーストで健康を害することはありません。ご研鑽ください』
テメーはもやし野郎だからぽっきりいったんだよ。努力しろや。って言われている気がする。
「と、ところで、なんで仮想空間なのに、こんなに苦しいんだ?」
『現実とのギャップをなるべく少なくするため、仮想空間内での運動による疲労の度合いを計算・再現して利用者に直結させる仕組みとなっています。無論、生命の危機に瀕するような損傷はカットし、疲労が限界値に達しそうになった場合は即座に中止するようになっています』
「ハ、ハイテクだね………」
理にかなっているな。ただゲーム感覚でIS動かしたいってだけだとひっくりかえるぞこれ。
コンコン
ふと部屋のドアがノックされた。
「は、はーい」
ヨロヨロしながらベッドから這い出て玄関に向かい、ドアを開ける。
「ようムネフサ。晩飯行こうぜ」
「くぅ……! 何故二人きりになれんのだ……!」
爽やかスマイルの一夏君と不機嫌そうなポニテサムライガール篠ノ之さんがいた。そうか、もう晩御飯の時間か。丁度中断してもらってよかったのかも。
しかし、篠ノ之さん、いっつも怒っているなぁ。怖くて近寄り難いけど、晩御飯は食べたいし、我慢するか。
「う、うん。ちょっと待ってて。準備してくる」
汗を拭こうと部屋の奥へ戻ろうとしたが、目がぐるんとして壁にもたれかかるハメになった。
「ムネフサ! 大丈夫か!?」
一夏君の声が耳元に響いてきた。見ると一夏君の顔が目の前に。
「だ、大丈夫。ちょっと立ちくらみしただけだから」
「よく見たらすげえ汗かいてるじゃないか! まだ疲れが残っているのか? ベッド行くか? 水、欲しいか?」
「ほ、本気に大丈夫だから。晩御飯ね、早くしないと食堂混むし、準備するから」
その時一夏君が吹っ飛ばされて入れ替わりに篠ノ之さんの顔が現れた。
「フンッ!」
「うわあっ!?」
驚く間も無く僕は篠ノ之さんに抱え上げられ、ベッドの近くまで運ばれる。
「一夏! いつまでボサッとしている! 掛け布団をどかせ!」
「いてて。お、おう」
そしてテキパキとまたベッドの中に戻された。これは……?
「え、えっと、ありがとうございます」
「いい。後でこのバカに食事を持ってこさせる。身体を労れよ」
や、優しい……? 篠ノ之さん、本当は良い人なんだろうか?
「バカって言うなよ! ムネフサ、何か食いたいものはあるか? 和食か? 中華か? イタリアン? フレンチ?」
「病人に質問攻めをするな!」
篠ノ之さんが一夏くんを叩いた。やっぱり怖いかも。
◆
「で。何故こうなる?」
「ほらムネフサ。あーん」
戻ってきた一夏君は焼き鮭定食を持ってきた。それはいいんだが、何故ベッドに入ったままあーんなんだ。何故か一緒に戻ってきた篠ノ之さんはまた不機嫌だし。
「流石に自分で食べられるって」
「病人は無理すんなよ。ほら、あーん」
死ぬほど恥ずいし野郎にあーんって……。でも一夏君やると決めたらテコでも動かないからなぁ。
「あー、ぱくっ。もぐもぐ」
「くぅ……! 何故だ……? 幼馴染の私ですらまだなのに、何故男に先を越されるのだ……!」
食べづらいです。
「あの、そんなに気を遣ってくれなくても……」
「ええい、何を遠慮することがあるか。一夏、私によこせ」
「ああ!? おい箒!」
一夏君の手から奪い取られる箸。そして篠ノ之さんはゴイッと米を掴み取ると、それを僕の口に突っ込んできた。
「ふんぐっ!?」
「おい、箒……」
「食え。思えばお前は理外の軟弱者だ。食って食って稽古して身体を鍛えろ。そうすれば倒れるなんてことも、我を忘れて声を張り上げることもなくなる」
喋りながら篠ノ之さんは僕の口に次々に物を詰め込んでくる。く、苦しい。
「やめろって箒! ムネフサが窒息死するぞ!」
「え? うわぁ!? み、味噌汁で流し込め!」
「ふごごご!?」
汁物の濁流で口の中の物は強引に胃袋の中に流された。いや、気を遣われるのは嫌なんだけど、これは病人に対する扱いではない気がする。
「ああ、もう! 後は俺がやるから箒は部屋に戻っておけって!」
「何をする一夏! ちょっと間違えただけだろう! おい!」
篠ノ之さんは一夏君に背中を押されて部屋から追い出されていった。正直助かった。そして一夏君が離れている隙に他の食事を平らげた。野郎にあーんされるのはもう勘弁願いたい。
「まったく箒の奴……あれ? もう食べたのか?」
「ああ、うん。わざわざ持ってきてくれてありがと。食器は明日返しに行くよ」
戻ってきた一夏君は何故か残念そうな顔をした。
「まあ、お礼と言っちゃなんだけどお茶でも淹れるよ。八つ橋もあるよ」
「無理すんなって」
「ああ、大丈夫だよ。良くなってきたからね」
ベッドから出た僕は一夏君を椅子に座らせ、玄関近くの台所でお茶と八つ橋を用意して持っていく。
「悪いな、わざわざ」
ぼくも椅子に座ったところで一夏君はお茶を飲み始める。
「うん、美味いな! このお茶! お、茶柱!」
「あいがと。八つ橋もどうぞ」
情報提供の見返りとしてBASHOを送ってきた研究機関からお金もらっているからね。高校生では身に余るくらいで、必要品を買った後は何に使おうか悩んで取り敢えずそれなりに良いお値段のするお茶を買ったんだ。普段飲みは勿論、お客さんが来た時も困らない。
「ふぅ………。あ、そうだ。千冬ね、じゃなくて、織斑先生から伝えておけって言われてるんだった」
「え? 僕に?」
なんだろう。この間の暴露の件かな?
「俺さ、先生から個別指導受けている時があるんだけど、それにムネフサも参加しろって」
「え? いいの?」
織斑先生は国際IS格闘大会モンドグロッソのチャンピオンだった経歴がある。そんな人からの個別指導なんて受けたいに決まっているのだが、先生は忙しそうだし、姉弟水入らずの時間に割って入るのは気が引けたので個別指導までは踏み込んでいなかったのだ。
「ああ。俺たちはどの専用機持ちよりも遅れているし、その、無理な独学で身体を壊させたくはないからってさ」
「痛いところ突くね……」
黒歴史として抹消したいんだが。
「事実だろ。俺も唯一同性の仲間が怪我でいなくなるなんて嫌だからな。助け合っていこうぜ」
「お、おっけ」
クソう、仲間って言葉を出されると続かざるを得なくなるじゃないか。二人には申し訳ないが、僕も参加させてもらおう。
一夏君とは色々と雑談をした。どのISが強くてカッコいいだとか、クラスの女子で一番美人は誰かだとか、割と同棲同士じゃないとできないような話をたくさんした。そして、僕たちの茶と八つ橋が無くなった頃、一夏君は「そろそろお暇するよ」と玄関に向かった。
「なあ、ムネフサ」
去り際に言われた。
「俺たち、強くなろうな」
「…………うん」
僕は頷いた。