IS学園でポンコツとゆく 作:ドニムルラ
休日明け、クラスメイトに心配かけたと謝り倒したが、みんな「気にしないで」と言ってくれた。若干気を遣われている感は否めないが、まあよしとしよう。その内誰も僕を舐めた目で見れないようにしてみせる。
「やっぱりキノコだろ」
「いいや切り株だね」
「ねーねー二人とも」
一夏君とだべっているところへ田中さんが話しかけてきた。噂好きで学校の七不思議について探っていたりするらしい。
「転入生が来たって噂知ってる?」
「こんな時期に転入生? 入学じゃなくて?」
「試験とか難しい上に国の推薦が必要なんだっけ? 理にかなってないな」
入学試験の時に病気でもして参加できなかったのかな? でも大事な時に体調崩す人が国からの推薦なんてもらえるのかなぁ。
「なんでもね、中国の代表候補生なんだって」
「へー、王先輩と同じなんだ」
何気なく身近な中国人の名前を口に出した途端、僕はクラスメイトたちに取り囲まれた。視線が………痛い。
「ねえ、松尾くんって王龍花先輩と仲良いんだって?」
「どの程度まで進んでいるの?」
「そ、その、チューとかしたのかなって」
避難がましい声、疑念がこもった声、ませた声が次々と浴びせられる。な、何だ? 何でここまで突っ込んでくるんだ?
「へー。ムネフサって仲良い先輩とかいるんだな」
「仲良いって言うか………ISについて色々教えてもらっていて。す、すすす、進んでるって何だよっ チューって何だよっ べべべべ、別に王先輩とはそう言う関係じゃないし………」
「ふ〜〜〜ん? まっつーが教えてもらったのって〜、本当にISの事だけ〜? 他には〜?」
袖余り女子こと布仏さんが嫌な笑顔を浮かべながら詰め寄ってきた。心なしか目が光っているように見える。
「な、何もないよっ 他ってなんだよっ」
「た〜と〜え〜ば〜、エッチな事とか!」
顔が熱くなる。思い出してしまった、王先輩の柔らかさと重量感を。
「そ、そそそそそ、そんな事してないよ!」
思わず声を上げて立ち上がる。ああ、クソ。また怒鳴ってしまった。
「その過剰な反応、怪しいわね……」
「昨日二人で整備室に入っていくの見たよ!」
「いったいドコのナニを整備したの!?」
「何もない! 何もないったら! おっさんみたいな事言うのやめてよ!」
抗議した途端、飛びかかってきた複数人の女子が僕の両腕を掴掴んだ。つ、捕まった!? 動けない!
「うら若き乙女に向かっておっさんとは何事かー!」
「これは有罪だね!」
「オルァ、神妙に白状しやがれい!」
「あのおっぱい………柔らかかった?」
「王先輩っていろいろと凄いんでしょ? 松尾くん抜かれちゃった?」
こ、こいつら………! 当たり前のようにセクハラしてきやがる。女子は意外と下ネタ大好きだって本当だったのか。ちょっと怖くなってきた。
「ほーら! 松尾くんが困っているでしょ! 散った散った!」
すると手をパンパン叩きながら鷹月さんが注意した。周りの女子たちはぶーたれながら僕を離した。助かった。
「た、鷹月さん。ありがとうございます」
「うん、それはいいんだけど………うーん、あのね、松尾くん。こんな事言うのは陰口みたいで嫌なんだけど、王先輩は……」
「いつまでくっちゃべっているつもりだ! さっさと席につかんか! ショートホームルームを始めるぞ!」
鷹月さんが何かを言おうとした直後、織斑先生が教室に来て声を上げて皆んなサッと自分の席に戻った。ふと、教室のドアの端から茶色い帯、いや髪の毛が見えた。
「くっ……! かっこよく再会するつもりだったのに……!」
「お前も自分の教室に戻れ!」
「はいィッ!」
何だったんだ?
◆
「お前のせいだ!」
「あなたのせいですわ!」
「な、何が?」
昼休み、食堂へ行こうとしたとこらで篠ノ之さんとオルコットさんの二人が僕に詰め寄ってきた。オルコットさんは態度が軟化したと思っていたが、また若干キツい感じに戻っている気がする。
「お前が騒ぎを起こすから、その……こ、
「一夏さんったら、小休憩の時間も貴方のところへ行きますし、せっかく二人きりになれても貴方のお話しかしませんのよ! わたくしとの時間がまるでできませんわ!」
それ、僕のせいなんだろうか? 他の人たちと一夏君の性格の問題な気がするが。
と言うか、篠ノ之さんはちょっと怪しいけどオルコットさんは一夏君が好きなんだろうか? 思い返してみれば一夏君を見る目が熱っぽいような……。
「俺がどうしたんだよ?」
そこへ一夏君。
「話なら飯食いながらにしようぜ。早くしないと食堂混むぞ」
「わわわ」
背中を押されて教室を出る。ちょ、転ぶからやめて。
「あ! ま、待て!」
「わたくしもー!」
叫び声が続く。今後ろを見たくないなぁ、絶対般若がいるもん。
教室でまごまごしていたせいで席は埋まり始めていた。四人で座れるかなぁ。
「フッフッフ……ようやく再会できたわね! 一夏!」
僕たちの前にラーメン丼を乗せたお盆を抱え、立ちはだかる人が現れた。茶髪のツインテールで、小柄で、袖があるのに肩だけ露出した謎めいた改造制服を着ている。勝ち気な笑顔で唯一の同性の学友を見ていた。
僕は彼女に見覚えがある。整備室で王先輩と睨み合った人だ。
「鈴……お前、鈴か?」
「そうよ! 中国代表候補生の
「え、一夏君知り合いなの?」
何とびっくり。もしかして整備室で言っていた「アイツ」って一夏君の事か? いやそれ以外ないか。「他に男」とか言ってたし。
「鈴、お前…………そんなところに突っ立っていたら邪魔だろ? どいたどいた」
一夏君の反応はドライだった。凰さん? はピシリと固まり、一夏君はスタスタと近寄ると持ち上げて通路の脇に置いた。
「そ、それが一年ぶりに再会した幼馴染に言う言葉!?」
「ん? おう、久しぶりだな。元気そうでよかったぜ。そんでムネフサ、お前何食べる? 今日もチャーハンか?」
「え? え? えーと………じゃあ酢豚定食にしようかな」
一年ぶりに再会した、幼馴染さん? に対して余りにもドライだ。良いんだろうか? 良いのかなぁ。
「酢豚?」
「うん。たまにはね」
ワナワナと震える凰さんをチラリと見ると…………鬼がいた。髪の毛が逆立っている。その恐るべき視線、殺人光線を放てそうな目は僕に向けられていた。
「あわわわわわわ」
「どうしたんだムネフサ、顔色が良くないぞ。また体調が悪いのか? うどんとか消化のいい食べ物にするか?」
「だ、だだだだっ、大丈夫だひょっ は、はやく食券買おっ」
心配と気遣いに溢れた声だが今は嫌どころか話しかけてすら欲しくない。おそらく命の危険に関わる。
「い〜ち〜か〜〜〜!」
一人増えて五人になったのだがなんとか座れる席を見つけた。お洒落な環状チェアだ。だが一夏君を挟んで隣に座っている凰さんの怒気で落ち着いていられない。
「おいおい、何怒ってんだよ。久しぶりなんだし仲良くしようぜ?」
「いやぁ、あんな雑な対応されたら怒るのも当然なんじゃないかな……」
恐る恐る言ってみる。
「そうか? 悪かったな鈴。なんか、あんまり久々って感じがしなくってなぁ」
「ふんっ!」
拗ねちゃった。
「何なのよ、女の子侍らせて、その上スケベな家来まで従えちゃってさ」
「スケベな家来?」
凰さんは僕に箸を向ける。
「そいつよそいつ! あの肉女にデレデレして鼻の下伸ばしていたスケベマヌケ!」
「い、言わせておけば……!」
初対面で何故ここまで言われなきゃいけんのだ。仏陀の生まれ変わりと言われている程温厚な僕も流石に怒るぞ。
「松尾………お前、あの噂は本当だったのか」
「不潔ですわっ」
「ダマラッシェー!」
クソっ。どうして、どうしてだ。僕は経験豊富な代表候補生の先輩にご指導をお願いしているだけだと言うのに。
「噂って、さっきみんなが言っていた、ムネフサが誰かと付き合っているってやつか?」
いかん。一夏君まで参戦してくると収拾がつかなくなる。周りで聞き耳立てている人もいるし、なんとか話を逸らさないと。
「え、えっと、二人はどういった関係なのかな? よければ自己紹介がてらお話が聞きたいなー、なんて………」
「ああ、幼馴染だよ。小学五年生からの」
それは……幼馴染と言うのか? ただの同級生なんじゃ。いや正確な幼馴染の定義は知らんけど、少なくとも物心ついた頃からの知り合いくらいのレベルだと思ってはいるが。
「どう言う事だ一夏!? 私はこんな奴知らんぞ!」
篠ノ之さんが激昂して凰さんを指差す。大和撫子としてお行儀が悪いですわよ篠ノ之さん。
「ああ、箒がファースト幼馴染で、鈴が後から会ったからセカンド幼馴染な。箒が転校していったのが小四で、鈴が小五の時に転入してきたんだよ」
「サードは?」
「え? ……弾かな?」
知らない名前が出てきた。一夏君の友達だろうな。男っぽい名前だけど、その人も女の子なのかな?
「まあいいや。鈴さ、元気にしていたか? おばさん元気か? 久しぶりにお前ん家で飯食いたいよなぁ」
「お、お家でご飯を食べる間柄ですの!?」
「そうよ! それ程ふか〜〜〜い仲なんだから!」
深い仲ね。やっぱり付き合っていたのかな?
「やっぱり元カノさん?」
「かっ、カノ!? ち、ちちち、違うわよ! 流石にそこまでじゃあ……」
「そうだぞ。こいつん家が中華料理屋やっているからよく食いに行ってただけだ」
「チャッ!?」
「………」
そのお店ってチャーハン美味しい? って聞こうと思った僕は固まった。凰さんの機嫌がまた悪くなった。
「ンンッ! ンッ! ンンッ! わたくしの存在を忘れてはいないかしら? このセシリア・オルコットを! 中国の代表候補生さん?」
オルコットさんが咳払いをして主張する。
「ごめん、誰?」
「なっ! イギリス代表候補生のわたくしを知らないと仰るつもり!?」
「うん。他の国とかあんま興味ないし。どうせあたしより弱いでしょ?」
「なんですってー!」
喧嘩し始める二人を無視して昼食を食べる。思えばちょっと時間をかけすぎた。早く食べないと織斑先生にぶん殴られるぞ。
「と、ところで一夏。あんたも専用機持ってるんでしょ? あ、あたしがISについて色々と教えてあげてもいいけど」
この照れ顔。凰さんも一夏君の事が好きなのかな?
「そりゃいいな! ムネフサもよろしく言っておけよ!」
は?
「待てい! 何でそのスケベまで参加させようとしてくるのよ!」
「そうだよ。この人一夏君しか指名してないじゃないか」
「えー? どうせならみんなでやった方が楽しく訓練できると思うぞ?」
一夏君、案外寂しがり屋なのかな? 何かにつけて複数人と一緒にいようとするし。
「生憎だが! 一夏の指導なら私で間に合っている!」
「そうですわ! わたくしと二人きりで優雅に訓練するのを邪魔しないでくれて!?」
「何よ! 一番強い人が指導した方が身になるでしょ!」
言い合いが始まって、ヒートアップして、まるで止む気配がない。もう面倒臭くなったのでさっさと食べて退散することにした。
この後、篠ノ之さんとオルコットさんと一夏君が授業に遅れて織斑先生にぶん殴られたのは言うまでもない。