ロウリア‐クワトイネ国境よりロウリア側50km地点
ドイツ国防陸軍対ロウリア王国懲罰軍集団所属B軍団野戦司令部天幕
日が沈み暫くした頃。
クワトイネの対ロウリアの重要拠点エジェイの責任者であり今回は観戦武官として派遣されたノウは驚愕していた。
何重にも張り巡らされた鉄条網と塹壕。
一見無秩序に見えるそれは決して堅牢とは見えないだろう。
しかし、実際は計算しつくされた配置となっている。
何もしらない敵がノコノコとやって来たならばすぐさま照明弾かスポットライトに照らされ、機銃の十字砲火で細切れになるだろう。
その即席の要塞の外にも危険は潜んでいる。
定期的にパトロールするヘリ。
草木に隠れ周りを監視するレンジャー部隊。
各所に設置された自律ロボット兵器。
対人レーダーに感があったと同時に敵を粉砕する火砲の数々。
この世界では過剰ともいえる防衛網の内にあるのがこの天幕である。
「いやはや、説明されて初めて理解しましたが。凄まじく頑丈な防衛陣地ですな。それこそエジェイを上回りそうなほどに……」
「そういっていただけると部下たちも喜んでくれるでしょう」
ノウにそう返すのは眼鏡をかけた優男、ドイツ国防陸軍対ロウリア王国懲罰軍集団所属B軍団長アーダルベルト・ボルマン中将だ。
ノウはボルマンを横目で見る。
黒で固められた軍服はノウが着るキラキラと輝くド派手な軍服とは別の優美さを醸し出しており、また男心を擽るような機能美のあふれたデザインをしている。
当初こそ突然祖国の領土に土足で踏み込んできた礼儀のなってない蛮族とドイツのことを散々と扱き下ろしていたノウだったがこの軍服だけでもドイツへの見方は十分に修正された。
「ところでボルマン殿。貴国がロウリアの前線を破壊した兵器はビーズルに使用しないのですかな?」
「今のところ使用する予定はありません」
「理由を伺いしても」
「先程ノウ殿が仰った兵器はもうないからです。誤解のないようにいっておきますが、あれは全て旧式でもう生産されておりません」
ノウは派遣されてから何度目になるかわからない驚愕をした。
「あ、あれが旧式……」
「ええ、ルフトバッフェも喜んでいましたよ、これで今までの不良在庫が全てなくなる、と。ちなみにここB軍団の保有している砲弾やロケット*1もほとんどが旧式ですよ」
「それでは、作戦効率が下がるのでは」
「大丈夫です。正直ロウリア軍であれば旧式でも新式でも大して変わりませんから。だったら、安上がりでしかも倉庫の肥しとなっていた旧式を使えばいい、となったわけです」
ノウが関心したように頷く。
「それに、上層部が財務省の不興を買っちゃいましてね、なるべく安く済ませなくてはならなくなったんです。そのせいで動かしただけで大金が消えるルフトバッフェはロウリアの辺境にちょっかいを掛けるぐらいしかしてくれないんですよ」
「ええ、わかります。我が国の財務卿も同じですよ」
ノウの言葉に二人は他基地と通信している通信士のことも気にせず豪快に笑った。
「ああ、そうそう。ノウ殿は観戦武官として派遣されてきましたが、我が軍のことはよくわかりましたか?」
「ええ、よくわかりました。それと我が軍の目指すべき道しるべも同時にわかりましたよ」
「それはありがたい」
そこで会話は途切れた。
ノウは再び周りを見渡す。
画面を睨みつける者、とこかと通信している者。この天幕に詰めている者は全員が高度に訓練された精鋭でありB軍団の頭脳として働いていることがよくわかる。
その行動の動作一つをとっても洗練されており、クワトイネの高級将校でもこのレベルの者は少なく感嘆の意を示さずにはいられない。
暫く眺めていると通信士の一人が近づいてきた。
その手には、たしか電報といったか?そのような物が握られていた。
「ボルマン中将、懲罰軍集団本部から電報が届きました」
そういうと手に持っていた電報をボルマンに渡す。
ボルマンは何も言わずにそれを受け取るとすぐに読み始めた。
『オーディンはグングニルを構えた。ユミルは死ぬだろう』
電報にはそれのみが書かれており知らない者が見ればいたずらと思うだろう。
しかし、その意味を知るボルマンは笑った。
「通信士、B軍団全隊に通達。作戦内容に変更なし、グングニルの準備は出来ている。我々のユミルは……ビーズルだ」
通信士は復唱をおこなった後、すぐさまその内容を通達した。
「ほう、今からビーズルに?」
ノウが聞く。
「いえ、我々本隊はここに待機です」
「確かに司令部が前線に行くのは危険ですからね」
「ええ、そんなところです」
実際はもっと闇深い理由があるのだが、とてもノウの前ではいえない。
「しかし、こまりましたな。私は政治部会にドイツ軍の戦いぶりを見てこいと言われました。どうにかなりませんかボルマン殿」
「ご安心ください。ビーズルの確保が完了したら。我々B軍団は東進します。その時は司令部も一緒に動きますので」
「それは安心しました」
ノウは本当に安心したように息を吐いた。
ユミルは死に世界が作られる。
ドイツはユミルの屍からここラウリーアにあらたな世界を作るだろう。
―――――――――――
時間は少し戻り
ビーズル南西の森
クワトイネとの国境からちょうど対面となるようにあるのがこの森だ。
平時であれば森の浅いところでは木こりが、深いところには猟師が潜り森の幸を収穫する。
そんな森も現在はドイツ軍との衝突に備え改造されていた。
森の各所に設置された穴とそれを地下で結ぶトンネルは史実のベトナム戦争のクチトンネルのように見える。
さらに森のいたるところに偽装されたトーチカのような建造物が建てられ、それらには投石機などが設置されている。
天然の要塞となったこの森。
例えドイツ軍といえど正面から攻略しようとすれば少なくない死傷者がでるだろう。
時間帯は夕暮れ、地上を温かく見つめる太陽が地平線の先に消えようとしていた頃。
その森につながる一本の道を走る二つの影があった。
馬に跨り疾走する男が二人。
彼らは天然の要塞となった森に潜む部隊を確認するためビーズルの司令部から派遣された者たちだ。
普通であれば魔信で十分であるが今回、司令部はそれでよしとしなかった。
南西の森周辺はついこの日の昼までドイツ軍の羽虫が飛び回っており森に潜む部隊との物理的な接触ができずにいた。
それがこの日の昼頃、普段見るドイツ軍の羽虫よりも一回り以上大きな羽虫が二つほど何かを落としていったのだ。
そのうち一つはビーズルからでもよく確認できるほどのおおきな爆発をおこした。もう一つは不発だったのかとくにこれといって何もなかった。
司令部はすぐに森に潜む部隊に魔信で被害を確認した。
しかし、魔信では細かく確認することが難しかったためこのように彼らが送られたのだ。
また、しばらく前から司令部と交信している者の声が変わったことから最悪の事態も考慮し彼ら二人は剣技に優れた精鋭が充てられた。
森まで何の遮蔽物もない平野。二人とも周囲を念入りに確認しながら馬を走らせる。
太陽の姿が完全に消え、空からも紅の色が消えようとした時二人はようやく森についた。
森に着くとすぐにどこからかカサカサと草木をかき分ける音が聞こえる。
二人は腰に携えた剣の柄に手を置いた。
そして、出てきたのは顔に泥を塗り、頭には草葉を被った蛮族のような男。
普通であれば警戒するところであるが二人は肩から力を抜いた。
「お話はかねがね。あなた方はカゲ殿とウース殿ですね」
男はその恰好とはまるでにつかない穏やかな声で尋ねた。
「ええ、今回この森の基地が受けた被害の詳細を確認しに来ました。貴方がリット殿でよろしいでしょうか」
リットと呼ばれた男は頭を縦に振った。
「ではこちらに、私が案内いたします。それと、ここは森なので鎧を着ていたら動きづらいでしょう。どうぞこちらの袋に仕舞ってください」
リットはそういうと袋を二人の前に差し出した。
二人は少し戸惑いながらもそれを受け取り鎧を脱ぎ始める。
脱いだ鎧は馬の近くに置いた。
「では行きましょう」
二人はリットの後ろについて行く。
やはりというべきかリットの足取りはまるで平な道を歩くように軽く、一方、二人はそれに着いて行けていなかった。
それを見かねたリットはペースを下げ二人に合わせる。
太陽が完全に沈み森が黒に包まれたころ、ようやく明りが見えた。
「ほら、付きましたよ」
二人はその光景に絶句した。
恐らくは強大な力でなぎ倒されたであろう木々。
昼から埋め立てているだろうが未だにクレーターが覗く地面。
「こ、これは」
カゲが枯れた声で聴く。
「爆発跡です。それよりもお二人ともお疲れでしょう。どうぞこちらを」
リットが革水筒を差し出す。
二人とも疲労が限界だったのか勢いよく水を飲んだ。
二人がリットに水筒を返そうとすると突然視界が歪んだ。
「リt……」
何か言おうとした時二人は倒れた。
二人が倒れたことを確認するとリットは腰に仕舞っていた
「こちらDHチーム、お客さんはお眠りになった」
『こちら260偵察中隊本部、ただちに旅団本部に連行せよ』
「了解」
その後、この情報はすぐに
『グングニルは構えられた。ネズミは何もできなかった』
二人は次の日朝一番に森を発ちビーズルに帰還し、司令部に確認したことを伝えた。
・被害は軽微であり戦闘に支障はない
・死傷者は奇跡的にゼロ
・森に敵が侵入あるいは部隊が謀反を起こした可能性はない
など
しかし、その時には本部はそれを確認するだけの能力を持ち合わせていなかった。
なぜなら、ドイツ軍がビーズル周辺を囲むように展開していたのだから。
・この世界線の歴史
1942年イギリスがドイツに宣戦布告したと同時にルフトバッフェは待ってましたと言わんばかりにイギリス上空に殺到した。
史実であればイギリスのレーダー網により大損害を受けたドイツであるがこの世界では違った。ドイツも旧ベネルクス地域、ティーフランド総督府に設置されたレーダー網で対抗したのだ。
最初こそ拮抗していたこの世界のバトルオブブリテンであったが次第にイギリスが押されることとなった。
ドイツはイギリス空軍と積極に空戦することを避け、軍事工場への爆撃を優先したのだ(その際間違って市街地に爆弾を落としてしまいベルリンに報復されたがモルヒネデブじゃないゲーリングが総統閣下を説得し報復合戦を回避した)。
史実であればドーバー海峡とイギリス海峡に鉄と油が降り注いだこの戦いはこの世界ではイギリスに爆弾が降り注ぐこととなった。
参戦から僅か数か月でイギリスはその継戦能力のほぼ全てを喪失することとなった。
to be continued
中央暦1639年4月27日我々はロウリア王国に対して外交団を派遣した。しかし、彼らは我々と話すこともなく蛮国と罵り、挙句の果てには火矢を用いて攻撃を行ってきた。そのため我が国ドイツは国家の威厳を保つための懲罰行為が必要だ。だが結果は見えている。やつらはどのように我が国に貢献してくれようか?
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ラウリーア国家弁務官区の作成
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我が国が管理するほど豊かとは思えん
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仲間たちに分け与えよう(分割)
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ゲルマン人の箱庭を再び(完全併合)