中世の時代、夜というのは人の時間ではなかった。
獣が闊歩し闇に包まれた世界、人の活動にとても向いているとは考えられない。
現代文明にとっては関係のないことであるが。
高度に機械化されたドイツ国防陸軍は夜の闇など関係ないとばかりに野営地点から最大で120kmにもなる道のりを僅か3時間で踏破した。
一日の最大行軍距離が精々50kmが常識の世界、この速度はあまりにも異常であり、この行動速度をビーズルの司令部が予想できなかったのは仕方ないことであった。
長距離の移動を終了したドイツ国防陸軍はそれだけでは終わらない。
目標地点に到着した彼らは休む間も見せず次の行動を開始した。
それを現代日本人にも分かり易く表現するならば豊臣秀吉の一夜城とでも言うべきであろう。
ロウリアからしたら昨日まで何もなかった所に起きてみれば要塞(側だけ)ができているのだから仰天ものだ。
しかし、ビーズルの司令部は慌てこそすれど絶望はしなかった。
それもロウリア三大将軍の一人スマークのカリスマ性とビーズル防衛の三本柱が生き残っているという確信からであった。
その三本柱とは何なのか?
一つは、商業都市ビーズルの外壁とその周辺に建設された疎開民たちを中心とした簡易の要塞。
一つは、ビーズルを中心に半径5km以内に北北東、西、南に建設された三つの要塞。
一つは、ビーズルから12kmはなれた南西の森を中心とした自然の要塞。
そのどれもが急造とは思えないほどに堅牢でありこの世界の下位列強レイフォルやパーパルディア皇国でも手こずるものであった。
ビーズルを中心として建設されたこれらの要塞群をドイツはビーズルラインと呼んだ。
魔信を中心とした連絡網、互いに共闘可能な戦力配置、限られた魔導砲やマスケット銃の理想的な配置、敵側であるはずのドイツですら手放しで称えたくなるほどにそれは完璧な物であった。
悲しいかな、前述でわかる通りそれらはドイツに筒抜けであり、その三本柱の内の一つも気づく間もなく敵の手中に収まってしまった。
そしてビーズルから少し離れた位置にある要塞の部隊も目視で13km離れた位置にいるドイツ軍のせいで身動きが取れずにいた。
戦いが始まる前にその結果は決まっている、と言われることがある。
しかし、ドイツとロウリアであればそもそも戦いにならない、であればなぜドイツがここまで徹底して事前準備を行うのか、それも全て過去のトラウマからであった。
WW2から日独冷戦の代理戦争、そして二度の西ロシア戦争*1の時ドイツをもっとも苦しめたのは正規軍などではなくレジスタンスであった。
前線の後方、または戦後支配した地域に湧くレジスタンスはその地を支配した国家にとって鎮圧しなくてはならない相手である。
彼らは基本的に一般人であることが多く見た目で見分けることは難しい上に利益ではなく理想を求めて行動する。
そのため交渉が難しくさらに鎮圧も難しい。
もし、自国の支配地域の一部でレジスタンスが発生したらその地域は税という利益を吐き出すどころか不利益ばかりを生み出しその国の国力を弱体化させる。人口が多い地域ならばなおさらだ。
であるならばドイツがその地域の人口を壊滅させるというキチ〇イ染みた結論にいたるのもおかしくはない。
そのためにドイツは準備を進めたのだ。
まずはここビーズル周辺の……ロウリア北部(原作のロウリア戦後のロウリア王国直轄領土)の人口を減らすために。
そのためにドイツはそれなりの時間をかけて人を一か所に集め、埃を被ったロマン砲を運び、一つだけ離れにある敵基地(南西の森のこと)を緑の悪魔と恐れられた降下猟兵をもってして陥落させたのだ。
どこまでも合理的に理性的に敵を殺す準備をした。
理性ある獣ほど恐ろしい物はない。
かつて地球ではこんな試みがあった。
核の戦術利用だ。
核の弾頭を小型化し大砲を以てして打ち出す。
ドイツにおいても研究されたそれは、戦術核を使用しても戦略核が飛んでくる可能性から凍結された。
負の遺産がドイツに利益を与える日が来るのだろうか。
―――――――――
ビーズル南西の森
ロウリア王国軍が国を守るために作った要塞は現在ドイツ国防軍に運用されている。
その立地と堅牢さからドイツ国防軍にコンゴ戦争の悪夢*2を思い起こさせ本気にさせてしまい、緑の悪魔と相対し憂き目にあった。
相対したと言っても深夜の気づかないうちにクチトンネル擬きに無味無臭の睡眠ガスを流しこまれ魔信で連絡する間も与えられず制圧されたのだが。
そしてそんな南西の森において開けた場所がある。
国防軍が先日投下した爆弾が吹き飛ばした跡地だ。
そこは現在、兵士たちが寝る間も惜しんで整備されたことでクレーターの跡が埋め立てられ上に鉄板が敷かれていた。
この整備された地点の中央あたりには一際目立つ砲がそびえたっている。爆弾投下のどさくさに紛れて投下されたもう一つの物体RX-00 310mm無反動砲だ。
この世界に4門しかないそれはB軍団に所属するビーズル攻略部隊が全てを保有していた。
そのうちの一門がこれである。
「エヴァンズ大佐。特殊弾頭の装填完了しました。いつでも発射可能です」
「了解した。ベッカー少佐、他の砲とのデータリングはどうだ?」
無反動砲からすこし離れた位置に設置された旅団本部。そこで会話が行われている。
エヴァンズと呼ばれた無精ひげを生やした男はこの第26空挺旅団の旅団長である。
ベッカーと呼ばれたのは短髪で金髪をそろえている女で第26空挺旅団に所属する第262空挺砲兵中隊の中隊長だ。
「はい、そちらも準備が完了しています」
それを聞くとエヴァンズは手に括り付けられた腕時計に目を落とした。
アナログの時計は長針と短針が午後の3:57と刺していた。
「グングニルが突き立てられるのは1600か」
「はいその通りです。エヴァンズ大佐は撤退しないのですか」
ベッカーは無表情で聞く、それを見たエヴァンズはどこか悲しそうな顔をした。
周りを見てみると最低限の機材を残しほとんどの機材が撤去されておりそれは現在も続いている。
「いや、私はいい。指揮官が敵の前に立ってはいけないことは一兵卒でもわかることだが、今回は死の雨だ。相手が違う」
「わかりました指示に従います」
風向きは南西。あの兵器を使うとなるとその残滓はかならずこの森を通過する。
そのため、現在第26空挺旅団は撤退の準備を行っていたのだ。
「もう時間か」
エヴァンズは時計を見て呟く。時計を見ると秒針がせわしなく動き後30回動けばあの砲が火を噴くことを示していた。
エヴァンズは残り少ない機材からトランシーバーを取る。
「第26空挺旅団全隊に告ぐ。グングニルは放たれる。速やかに目標地点まで撤退せよ」
森の各所に設置されたスピーカーからその通りの言葉が放たれる。
しかし、その言葉を聞く者はほとんどいない精々が土に埋まったロウリア軍兵士の成れの果てか残された機材のみだ。
「では我々も行こう」
エヴァンズはそういうとベッカーを連れて歩き出す。
目指すのは目の前の高機動車だ。
そして二人は後部座席に乗り込み、運転手は扉が閉められのを合図にアクセルを踏んだ。
それとほぼ同時に後ろから轟音が聞こえた。
クロムスキット式に設計された無反動砲は作用反作用の法則を利用して310mmもの砲弾を吐き出す。
初速115㎧だった砲弾は徐々にその速度を上げていき500m地点で最大速度の305㎧に到達。その後、慣性にしたがって弧を描くようにビーズルに向かった。
そして、発射されてからおよそ40秒後その凶弾はビーズル直上460mに到達した。また他の3つの凶弾もそれぞれの要塞の少し後方の直上460mに到達。
その瞬間、センサーが反応し爆薬を起爆、コンマ数秒の誤差すらなく球の中に設置されたプルトニウム239が圧縮され核分裂が発生した。これにより砲弾は超高温超高圧状態となり超高温超高密度となった重水素化リチウムがローソン条件を満たし核融合を起こす。加えて核融合によって発生した高速中性子がウラン合金製の外郭に到達、再び核分裂を発生させた。
二回の核分裂、一回の核融合。それによって発生した熱とエネルギーと光、そして大量の放射線は瞬く間にビーズル周辺を包み込んだ。
一発あたりTNT換算で17キロトンの核砲弾はこのビーズルラインにとってあまりにも荷が重い相手であった。
ビーズル自慢の外壁は蒸発し、その無慈悲な力は民間人、軍人問わず平等に振り下ろされた。もちろんロウリア三大将軍の一人スマークも例外ではない。
即死した者はまだマシであった。
死ぬことの叶わなかった者は肌が焼け爛れ、ある者は全身にガラスが突き刺さっている。
即死できなかった不運な者は水を求め亡者のようにさまよう。
地獄はまだ終わらない。ドイツ国防軍は事前に効果が完全に見込めない地域を割り出しており、核砲弾が炸裂してから暫くして三方向から砲弾が雨あられと降ってきた。
後の統計でこの日この場所でおおよそ210万人というドイツにとっては尊くもないただただ邪魔な人命が失われたことが判明した。
独ソ戦に完勝してみせたドイツであったがそれはロシアに存在する主権の全てを獲得したわけではなかった。とくにモスクワ以東の西ロシア地域からは補給の関係から攻めきれず、放置することとなった。結果、赤いナポレオンことミハイル・トゥハチェフスキーを中心とした赤軍残党の反攻を許すこととなった。俄然の戦力比では天と地ほどあるドイツ国防軍と残党赤軍。しかし、当初戦いは赤軍有利で進むこととなった。理由は西ロシアに潜む反独レジスタンスの抵抗が大きい。
これらレジスタンスはモスクワまでの鉄道網を破壊した。それによりドイツは主力部隊の輸送に手間取ることになりモスクワ失陥一歩手前まで攻め込まれることとなった。
しかし、陥落前に国防軍主力が到着、またドイツの日本に対する反ロシアキャンペーンの結果日本も参戦。その後ロシアはウラル山脈を境に日独で分割され四半世紀の間主権国家が存在しない地域となった。
第二次西ロシア戦争またはレーベンスラウム紛争ともよばれる戦争。
時代は2000年ドイツの経済は着実に鈍化していた。イタリアやトルコのドイツ陣営からの離脱、競争のない一方的なドイツを中心とした国際市場。
そんな時、日本が介入してきた。日本はドイツの隙を見逃さず西ロシア地域に存在する地下組織に大量の武器援助を行ったのだ。
そして破局は訪れる。2000年5月22日ロシアの泥濘が無くなったころそれらは一斉に蜂起した。
現地住民は彼らに協力し、そして国防軍に敵対しレジスタンスとなった。
それら地下組織が一つ一つ別々に行動したならばドイツが簡単に鎮圧しただろう。しかし、彼らはドミトリー・ヤゾフの意志を付いたロシア国家再生政府の指示の元行動していたため逆に国防軍の駐屯部隊が各個撃破されていった。
それからしばらくしてドイツはレーベンスラウムを維持することで得られる利益と不利益が釣り合わないことから西ロシア地域から完全撤退することとなった。
ちなみにですが核砲弾が炸裂するまでに空爆やドイツ国防陸軍によって100万人後半の被害が出ています。
あと、ロウリアの人口は3500万人ではなく3800万人でした。
変更するのがめんd……ゲフンゲフン。流石にもう240万人死んじゃうのは可哀想なので私の優しさで少し減らしてあげました。
・この世界線の歴史(イギリス編最後です)
ルフトバッフェの爆撃によりその防空能力のほぼ全てを失ったイギリス。軍事工場、レーダーサイト、飛行場、陸軍駐屯地それらが破壊され最後に目をつけられたのは海軍基地であった。しかし、イギリス海軍の一大拠点スカパフローは航空機の飛行距離の問題からどうしても攻撃ができなかった。
そのためドイツはSSミッテ駆逐師団とブランデンブルク師団による共同スカパフロー強襲作戦
この作戦により英国海軍の脅威を取り除いたドイツは英国本土上陸作戦アシカ作戦を実行。英国も民間人をホームガートとして徴兵しドイツの上陸に対抗したがそれも焼石に水に過ぎなかった。
極寒のロシアで灼熱のアフリカで文字通り世界中で戦ったドイツ軍に銃の使い方すら覚束ない彼らが抵抗できるわけがなかった。
ドイツ軍がドーバー、ロンドン、バーミンガムと陥落させついにマンチェスターに総攻撃を行おうとした時、地下壕でチャーチルの死体が確認された。自殺だった。
これを受けこれ以上の継戦に価値がないと悟ったイギリス政府はドイツに対して降伏。その後ドイツはコーンウォール半島を割譲しイギリスをスコットランド、イングランド、ウェールズに分割、北アイルランドはアイルランドに帰属した。
英国の栄光はここに潰えた。
中央暦1639年4月27日我々はロウリア王国に対して外交団を派遣した。しかし、彼らは我々と話すこともなく蛮国と罵り、挙句の果てには火矢を用いて攻撃を行ってきた。そのため我が国ドイツは国家の威厳を保つための懲罰行為が必要だ。だが結果は見えている。やつらはどのように我が国に貢献してくれようか?
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ラウリーア国家弁務官区の作成
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我が国が管理するほど豊かとは思えん
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仲間たちに分け与えよう(分割)
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ゲルマン人の箱庭を再び(完全併合)