「なんと……なんと、恐ろしい……」
玉座の上で縮こまり怯えているハーク・ロウリア34世。
外からは断続的に砲撃音が聞こえる。
城壁も防衛部隊も、あらゆる物を吹き飛ばす砲撃は音のみでハークに多大なストレスを与えていた。
ドイツの理不尽とも言うべき武力はロウリア王国のみでなく、その支配者であるハークの心も蝕んでいたのだ。
部屋の外から砲撃音とはまた別の音が聞こえる。
薄い金属板が互いに擦れるような音だ。
部屋の扉が開かれた。
「大王さま、お迎えにあがりました」
部屋に入って来たのはロウリア王国最強の剣士、そして近衛隊大隊長のランドだ。
ランドは跪いて話す。
「すでに、ドイツ軍の地上部隊による侵攻が始まっております。いつ王城に攻め入れられるかわかりません。お玉体の避難を」
「……わかった。では頼むぞ」
そう言うとハークは椅子から立ち上がり、ランドに着いて行く形で部屋から出た。
部屋から出ると待機していた近衛隊の面々がハークを囲うように守りにつく。
果たしてそれがドイツ軍の攻撃からハークを守れるかという疑問は残るが、その姿は非常に頼もしく見える。
「こちらです」
王城というだけあって長大な廊下を何回か曲がり、たどり着いた扉。
ハークは安堵の気持ちを感じながら、それと同じぐらいの疑念を感じた。
ランドにエスコートされて扉の中に入る。
通常なら脱出用の通路が見えるはずのそこには、普段玉音放送に使う魔信とロウリア王国宰相のマオスがいた。
ハークが困惑していると、誰かが走ってきた。
鎧を身に着けた近衛隊の騎士だ。
「ランドさま、各省また軍司令部の制圧が完了しました」
「よろしい、狼煙を上げよ。それと司令部から全部隊に戦闘の停止命令を」
「了解しました」
騎士が走り去っていく。
この時、ハークはようやく理解した。
「マオス、謀ったな」
「はい、申し訳ありません」
「いや、それよりもだ。貴様らはどうやって、この戦争を終わらせるつもりかね。余を殺した程度では終わらんぞ」
「ご安心をすでにドイツとは話が付いております。それに我々は大王さまを傷つける機は毛頭ありません」
暫く沈黙がこの場を支配する。
ハークは己の底知れない無力さを感じた。
自らの野望によって動き出した巨大な計画は最終的に栄光ではなく絶望を運んで来た。
それに際し、自分は最善の結果になるように図ってきたつもりであった。しかし、それは何の意味も持たず結果、自らの臣下にこのような苦渋の決断を迫らせたのだ。
「そうか……そうか……」
ハークは眉間を抑え、上を向いた。
「余は……余は、どうすればいい」
「こちらの魔信を使って、どうか……戦争の終結を……」
「わかった……」
上を向いていた顔が再び前を向く、その実、没落の王国の王でありながら、その顔は確かに一国を支配するにたる威厳があった。
『余ハ深ク大陸ノ大勢ト王国ノ現状トニ鑑ミ非常ノ措置ヲ以テ時局ヲ収拾セムト欲シ茲ニ忠良ナル爾臣民ニ告ク(中略)惟フニ今後王国ノ受クヘキ苦難ハ固ヨリ尋常ニアラス爾臣民ノ衷情モ余善ク之ヲ知ル然レトモ余ハ時運ノ趨ク所
この時を以てロウリア王国はドイツに対しての一連の戦闘を全て終了した。
本当の地獄の窯がようやく開いた。
―――――――――――
大王による玉音放送により、ロウリア王国軍は全ての戦闘を終了しドイツ軍に投降した。
その翌日には大ドイツ国国防陸軍対ロウリア懲罰軍集団長マンシュタイン上級大将とロウリア王国宰相マオスとの間に正式に休戦協定が成立。
さらにその3日後にはジンハーク北の港に停泊していたフリングホルニ艦上でハーク・ロウリア34世が降伏文章に署名。
ロウリア王国はドイツに対し無条件降伏した。
少し時間はさか戻り、玉音放送から足して時間も経っていない頃、陸から海から空からラウリーア地域に入っていく集団があった。
ラウリーア軍政統治軍と名付けられた軍勢。
正式名称を国防省直接管轄の
前身の組織に悪名高き、保安警察及び保安局のアインザッツグルッペンを持つ。
第二次世界大戦時のアインザッツグルッペンの任務は基本的に前線後方に存在する敵性分子の排除であったが、大戦終結後からは大きく変わることになる。
大戦終結寸前に行われた日独伊、他多数の枢軸国加盟国の首相が参加したアンカラ会議。
その結果を受けドイツは広大な海外領土を手に入れた。
ドイツは広大な領土を手に入れたはいいが、その統治は困難を極めた。
サブサハラを完全に支配しているミッテルアフリカでは英仏政府の崩壊からドイツが割譲するまでの間、その統治機構もまた崩壊していた。そのためドイツは一から統治機構を作成する必要に駆られたのだ。
そこで役立ったのがアインザッツグルッペンである。
彼らは反乱分子をヘリで追いかけまわしMG42で細切れにし、ガス室を搭載したトラックで村々を周り、現地民を虐殺して周った。
その結果、ミッテルアフリカは早急に統治能力を獲得したのだ。
それからもアインザッツグルッペンはその任務形態を変化させながら存在し続けた。
1990年代のアインザッツグルッペンはまさに一つの国家とも言うべき権力を得ていた。
かつては、本国から植民地に対して派遣される部隊でしかなかったアインザッツグルッペンは1960年代から始まったコンゴ戦争から急激に発展を始めた。
日本の介入を受け早急に壊滅したコンゴの委任統治政府。
その変わりにコンゴを統治したのがアインザッツグルッペンである。
あくまでも国防軍に所属し、親衛隊から隊員を貰う特殊な組織からアインザッツグルッペンという単一な組織へと変わった時期だ。
ドイツの国防軍に属する一組織にも関わらず司法部や治安維持部、海軍部に空軍部を持つなどドイツの第三の軍隊となった。
彼らは度々、海外領土に派遣され、そこにいる委任統治政府の代わりにその地域を統治した。
そんなアインザッツグルッペンの絶頂期の中頃、アインザッツグルッペンの存続に関わる大事件が発生した。
親衛隊クーデター未遂事件である。
これ自体はゲシュタポ経由で情報を得た中央政府により早急に制圧され、親衛隊の規模の割にそこまで大事にならなかったが、アインザッツグルッペンにとっては大事になった。
アインザッツグルッペンを構成する隊員の殆どは親衛隊傘下の保安警察と保安局から派遣された者たちであり、所属こそ国防軍であったが対外的には親衛隊側の組織と見られていた。
そのため、親衛隊崩壊後に行われた大粛清の手はアインザッツグルッペンにも及ぼうとしたのだ。
そこに待ったをかける組織さえなければ。
その組織とは……
中央政府である。
親衛隊とその傘下に収まっていた組織の粛正が終わった頃、中央政府はシュペーア派により掌握されたばかりで、また国防軍もミッテルアフリカとレーベンスラウムの崩壊、第二次西ロシア戦争の煽りを受けており、両組織どちらともまともに動けない状態であった。
そこで中央政府は未だに保有する海外領土の維持のため、アインザッツグルッペンの保持する統治ノウハウを欲したのだ。
このような紆余曲折を経て、かの悪名高きアインザッツグルッペンは中央政府の持つ統治軍となったのだ。
なお、国防軍の中には自分達以外にもドイツに正規軍がいることを気にくわない者が多く、もっぱら彼らは移動展開軍のことを第二の親衛隊や特殊任務部隊と呼んでいる。
マンシュタインの号令を受けて、展開を始めた移動展開軍。
彼らに与えられた任務はラウリーア地域の治安の最適化であった。
ドイツ国防省の戦争目標の一つであった、ラウリーア地域の人口の8割減。
その目標の戦争中での達成は早期に諦められた。
理由は単純に予算不足である。
ロウリア王国は中世程度の文明しか持っていないため人口が各地に散らばっていたこともこのことに拍車をかけた。
当時のドイツ国防省に与えられた予算だけではこれほど広い地域を同時爆撃することができなかったのだ。
クワトイネに基地を設置する時は外務省も一枚かんだため予算を折半できたが、戦争となるとそれも難しかった。
そこで、国防省はラウリーア地域暫定統治局に目を付けた。
この組織はラウリーア国家弁務官区までの繋ぎの組織であり、与えられた仕事は統治組織の作成から治安回復と幅開く、その分予算も潤沢であった。
国防省は暫定統治局に『うちの展開軍で治安はどうにかするからよ~、あんちゃんの持ってる銭、少し分けちゃくれないか(チャカ チラ チラ』と
その予算はしっかり
――――――――
ラウリーア地域 ジンハーク第4配給場
マイラスは感動していた。
「うまい、旨すぎる!」
マイラスが食べているのはドイツの伝統料理であるアイントプフだ。
トマトとコンソメのスープをベースにソーセージやニンジン、ジャガイモや玉ねぎを入れて煮込んだ料理である。
ドイツでは日本の味噌汁や豚汁のような立ち位置を得ている料理であり、この世界のドイツや現実世界のナチス・ドイツではアイントプフの日曜日というキャンペーンが行われており。10月から3月までの冬の期間に毎月1回、日曜日の御馳走の代わりにアイントプフを食べ、節約したお金を募金するというもので、冬季の助け合い運動と民族共同体意識を高めるためのプロパガンダとして使われるなど、国民的な料理ということがよくわかる。
「トマトとコンソメのスープにソーセージのうまみがよく染み込んでいる。それに……これは、わざと水を少なく使うことで、野菜の水分にしみついている野菜本来のおいしさを最大限引き出している!」
「確かにうまいが、そんなにか?」
マイラスの余りにもオーバーなリアクションにラッサンが突っ込む。
その言葉を聞いたマイラスは先程までの笑顔が嘘のように途端に真顔になりラッサンを見た。
「な、なんだよ。そんな顔で睨みつけてよ」
「ラッサン、君は何もわかっていない、なぜ君とも言うべき男がこのスープのうまさを理解できないなんて私はガッカリだ」
そう言うとマイラスはあからさまに肩を落とした。
「ラッサン、仕方ないから君に説明しよう」
「あ、ああ」
「君はムーのレーションや軍隊食を食べたことがあるかね?そしてそれらはお世辞にもうまいか?」
「ああ、食べたことはあるな。まあ、おいしくはないな」
「その通りだ!フリングホルニに乗った時から薄々気づいていたが、ドイツ軍の食事はうまい!それこそムーのレーションや軍隊食が豚の餌に感じるほどに!さらにそれを降伏したとはいえ元敵対国の国民にもくれるなんて……僕は、僕は、感動したんだ。そのドイツの……
ラッサンはドイツ賛歌を延々と語り続けるマイラスを横目にアイントプフとパンを持って別の席へと向かった。
「おや、これは。バルス殿とベーベル提督ではありませんか。一緒に座っても」
「ええ、どうぞ」
ラッサンの問にベーベルが答える。
「マイラスさんが見えないのですが、一緒ではないのですね」
「はい、マイラスの悪癖が働いてしまって」
「ああ、そういうことですか」
それなりにマイラスと一緒にいたバルスはすぐに理解した。
恐らく自分の世界に入って、虚空に語り続けているのだろう、と。
「ところでベーベル提督もここでお食事をされるのですね」
ラッサンは周りを見渡しながら言う。
確かにこの配給場は上を青空に周りには柵の一つもなく、広場に組み立て式の椅子とテーブル、後は食事を作るテントがあるだけだ。仮にも元帥号を持つベーベルがいていい場所とは思えない。
「そうですね。海軍はどんなに階級が高くても船が沈む時は他の船員と一緒に死にます。なので船が沈まないようチームワークが大切になるんですよ。その為に私もこうしてよく食堂などに足を運ぶんです。今回はたまたま、配給場だっただけですよ」
「素晴らしい考えですね」
「ええ、本当に素晴らしい!我が国の海将などそのほとんどは自分を上級国民だと思い込んで、水兵を酷使している、泳げるかも怪しい豚どもですから、その考えはぜひ我が皇国にも広がって欲しい物です」
「頑張ってください」
そこで会話は途切れそれぞれが食事に手を付けた。
食事が終わり、時計は6時を指していた。
この時を以て各国から派遣された観戦武官は任を解かれ、帰国の途に就くことになった。
彼らはジンハーク北の港から少し離れたところに停泊している駆逐艦にタグボートを使って乗り込み、帰っていった。
バルスは皇国海軍の改革を成し遂げると胸に刻み、ブルーアイは海戦の結果をどうやって政治部会の面々に信じさせるか悩み、マイラスは夕方の配給を食べれなかったことを悲しんだ。
マイラスが褒め散らかしたドイツの配給食はジンハークのみならず、ラウリーア地域の内陸部でも食されていた。
それを配給しているのは移動展開軍。
マイラスが朝食を食べた時、ラウリーア地域全土ではそれと同じ物を2500万人食した。
この人数は対ロウリア懲罰戦争でロウリアの出した戦死者と合わせると2920万人となり、人口の8割以上となる。
作戦の実行が決定した。
マオスは安心していた。
ドイツに無条件降伏してから約一週間。
大王と王家の存続は約束通り履行されている。
ただし、主権については占領軍による統治が行われており回復していない。
ドイツから派遣されてきた占領軍による統治が行われている。
占領軍が来た時は約束と違うと激怒したが、明日には段階的に我々の統治へと戻るらしい。
随分早いと思うかも知れないが、何でも東部地域などを支配していた貴族たちが軒並み死んでいたためロウリア全域の掌握が予定よりも早く済んだかららしい。
こうして、早くも主権を回復できそうなのもドイツが爆撃してくれたから、というのだから皮肉なものだ。
ここジンハーク城では、それを祝い祝賀会が行われていた。
ドイツもお祝いとして、料理を振舞ってくれた。
机の上には肉と野菜のコントラストが美しい料理たちが乗り、官僚や騎士、はてはマオスやハークも食した。
これがまだ絶品だった。
味付けや調理法、さらには料理に使われているものまでロウリアの物よりも上質であり、マオスはドイツは軍事力のみならず文化までもロウリアを超越していると痛感した。
マオスは強烈な眠気に誘われ眠りにつく。
明日というロウリアの新たな歩みを脳裏に思い浮かべ。
ロウリアの発展を夢見て。
王家の繁栄を思い描いて。
彼が再び目を覚ますことはなかった。
それどころかこの日の夕方、移動展開軍の出す食事を口にした者たち凡そ2600万人は誰一人として朝日を眺めることが出来なかった。
TDガス、ガスと言いながらその見た目は液体であり無味無臭、基本的に食事に混ぜて使われる。
初期症状は眠気を誘う程度で気づくのが非常に難しく、遅効性。
経口摂取した場合その致死率は100%である。
ドイツの関係者からは苦しまずに人を殺す天使の薬と呼ばれ、日本などの敵対国からは静かに死が近づく様を死神に例え死神の血と呼ばれる。
この日の夕方の配給と祝賀会の食べ物にもこれが混ぜられていた。
一週間という短い期間でありながら移動展開軍の巧みな策により、すっかり心をほぐされていたロウリアの民は何の躊躇いもなくそれを口にし、息絶えた。
彼らは、歴史を知らなかった。無知であるが故に罰を受けたのだ。
地獄への道は善意で舗装されている。彼らは地獄の窯が開ききって初めてそれを知った。
新世界の秩序が崩れ始めた。
というわけでロウリア滅亡です。
パーパルディアはドイツの犬に成り下がったので暫くほのぼの?回です。
・この世界線の歴史
日本の中華内戦への介入の決定は様々な思惑が絡まった結果行われたことであった。
まず奉天軍閥、そしてそれと入れ替わるように誕生した満州国。これらは日本にとっての大切な市場であった。
この世界の日本は史実よりも経済が発展していた。
もちろん、昭和恐慌が起きなかったり、政府が超積極財政を行ったなどの理由もあるが、それ以上に満州地域とイギリスの存在が大きかった。
例えば、満州地域は一人当たりの所得は少ないもののその母数は膨大で購買力はバカに出来なかった。
さらにイギリスとはワシントン条約で日英同盟を破棄されたもののイギリスのアメリカに対する不信感と世界恐慌により市場を求めたためこの世界の日本はスターリングポンドブロックに所属した。
その結果、最初こそイギリス製品により日本の国内産業圧迫されたが、国内ではすぐにイギリス製品を国内製品が追い越し、さらにはイギリスよりも日本の方が近いため輸送料の関係からオセアニアやインドでもその存在感を増し、日本の景気の追い風となった。
しかし、日本が中華内戦に介入を決定した少し前にイギリスではクーデターが起きており、これにより首相になったチャーチルは日本をスターリングポンドブロックから追放。
経済発展の一翼を担っていたイギリスが消えたため日本は満州の自国勢力圏への引き留めに全力を掛ける必要があったのだ。
なお、この時アメリカはナチスな対して復讐に燃えるイギリスに多額のお金を貸すと同時に大量の兵器の無期限の有料支援を行い、急速的に経済を回復させていた。
これが後に壊滅的な打撃をアメリカ自身に与えることになるとは考えずに。
to be continued
中央暦1639年4月27日我々はロウリア王国に対して外交団を派遣した。しかし、彼らは我々と話すこともなく蛮国と罵り、挙句の果てには火矢を用いて攻撃を行ってきた。そのため我が国ドイツは国家の威厳を保つための懲罰行為が必要だ。だが結果は見えている。やつらはどのように我が国に貢献してくれようか?
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ラウリーア国家弁務官区の作成
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我が国が管理するほど豊かとは思えん
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仲間たちに分け与えよう(分割)
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ゲルマン人の箱庭を再び(完全併合)