ネタ回です
「か、勝てない」
暗い作業部屋。
そこでマイラスは一人頭を抱えていた。
その目の前には現在ムー最大の仮想敵国であるグラ・バルカス帝国の海岸要塞の写真があった。
第二次世界大戦時ドイツが英米のフランス上陸を警戒して建設した大西洋の壁、それと似たモノがレイフォルの海岸線一体に連なっているのだ。
ムーの対グ帝戦の作戦では初手でレイフォル一体の海岸線に上陸しグ帝軍が混乱状態になっているところから突き崩す、というものであった。
そこで重要になるのが迅速な上陸後の橋頭保の確保であるが、グ帝が建設した海岸要塞があるままでは上陸すら覚束ない。
ムーの作戦高官たちは考えに考えて一つの結論を出した……
『せや、これ壊せばよくね』
言うは簡単だがやるのは難しいの典型例だ。
このような無理難題を吹っ掛けられた部署らは早々に匙を投げ最終的に”ムー軍随一の技師”と名高いマイラスにお酌が回ってきたのだ。
マイラスは厚くなった頭を冷やすために、ぬるくなった紅茶を口に含む。
口に含んだ瞬間、今まで液体に閉じ込められていた芳醇な味わいが解き放たれ、マイラスの口腔を蹂躙した。
それに触発されるように大量に分泌される幸せホルモンは、マイラスの悩みを一時的に忘れさせてくれる。
紅茶の成分の一つであるカフェインはその効能を十二分に発揮し三徹目のマイラスの頭を冴えさせた。
ドイツから伝わった
寝不足が原因で頭に響く鈍痛を紛らわせるため紅茶をもう一回、口に含む。
その時、天啓が舞い降りた。
「これだ!」
マイラスは即座に頭の中でその兵器を思考実験した。
結果は上々。
これはいける!
そこから二徹。
完成した設計図はグ帝対策本部を通して、兵器開発部に渡り、無事試験機の制作が許可された。
――――――
ムー 北東の海岸
夏の日差しがサンサンと降り注ぐ海岸線。
そこで後世まで語り継がれる実験が始まろうとしていた。
「マイラス、これは本当に兵器なのか」
ラッサンの疑問はもっともだ。
彼の目線の先にあるのは、寝かせた樽を巨大な車輪で挟んだような見た目をしている兵器。とても兵器には見えない見た目だ。
それどころか、公園に置いてあったも違和感がないようなフォルムをしている。
「ラッサン、君は解かっていないね。これが一体どれほどの破壊力を持っているのかを」
この兵器、通称:ロケット推進式樽型自走機雷は、車輪のリムにロケットを備え付けており、その推進力で
「では、実験を始めよう。目標はあのバンカーだ。ここのスイッチを押せばあのロケットが一斉に火を噴くぞ」
「大丈夫か?時速100kmで突っ込むんだよな、ここから精々100mしか離れてないぞ、こっち向いて突っ込んできたら俺もお前も一緒にお星さまになるぞ」
「安心しろラッサン。僕の考えに狂いはない。間違いなく、きっと、恐らく、あのバンカーに突っ込むはずだ。多分」
マイラスは気まずそうにラッサンから目を離した。
「こんな危険な所にいられるか俺もあいつらと同じ場所に行く、ここにはお前だけいろ」
そう言ってラッサンが指さしたところには陸空の将校や兵器開発部の者など、この実験を見学しに来た者たちがいた。ところでマイラスがいるのはそこよりもずっと珍兵器に近い位置だ。
ラッサンは少し大股で急いでマイラスから離れた。
マイラスは、科学の醍醐味を知らない愚か者め、とラッサンを貶しながら、頭を横にやれやれと振った。
「では押しますよ~」
マイラスが叫ぶ。
それが聞こえたのか一人の将校が腕を使って頭の上で大きな円を作った。恐らく見る準備が整ったということだろう。
ポチッ
後にネット界で輝かしいほどの存在感を醸し出すことになるかの兵器がその炎を上げた。
ボーッ
まるで手持ち花火の音を大きくしたような音とともに、その兵器は走り出した。
瞬く間に加速し、バンカーに突っ込む……誰もがそう幻視した。
しかし、その珍兵器は急に曲がり目標を変えた。
その目標とは……マイラス
「逃げろ!マイラス!」
ラッサンの悲鳴が響く。
これにはさすがのマイラスも顔を青くして逃げ出した。
珍兵器の直進方向に
バカである。
普段の頭の良さは地獄の五徹の間にそぎ落とされたのだろう。
「おい!バカ!100km相手に直進方向に逃げるな!横に逃げろ!」
それを聞いてマイラスもハッ!とし、進路を変える。
それとほぼ同時に珍兵器もバランスを崩し、横に倒れた。その時、不運なことに信管が作動……
大きな爆炎と共にマイラスが吹き飛ばされた。
後にパンジャンドラムと呼ばれる兵器が唯一上げた戦果である。
※マイラスは奇跡的に軽傷で済んでます。
・この世界線の歴史
大和艦隊に切り込んだ太平洋艦隊の戦艦部隊を最初に出迎えたのは46cm弾の雨だった。
第二派攻撃の時大和は計9本の魚雷を受けていたが、その過剰ともいえる防御力と魚雷の信管の欠陥から致命傷にはならなかった。
大和(この時、アメリカ側は大和の存在を知らなかったためアンノウンと呼んでいた)の生存に驚く太平洋艦隊だったが数の優性から引くことはなかった。
お互いの距離を詰めながらの砲撃の応酬を続け、距離が20kmを切った時、遂にそれは起きた。
大和の放った砲弾が戦艦ペンシルバニアの砲塔に直撃、そのまま装甲を突き破り、轟沈した。
その後も砲撃は続いた。
最終的に太平洋艦隊は戦艦1隻、重巡1隻、軽巡4隻、駆逐艦2隻喪失。
また、空母エンタープライズも大和の搭載機の特攻により甲板に穴が開き、作戦行動できなくなっていた。
これでは連合艦隊に対して不利であると悟った太平洋艦隊は撤退していった。
to be continued