大ドイツは異世界でも生存圏を作りたい!   作:ちんすこー

26 / 29
パーパルディア皇国目線のフェン軍は鎌倉武士と薩摩武士のハイブリット
ドイツ軍目線のフェン軍はベトコン


可哀想なフェン王国と危なかったガハラ神国③

中央暦1639年 9月29日 フェン王国

 

この世界、ドイツでは新世界や異世界と呼ばれる世界では、内燃機関を実現した所謂現代文明が少ないながらも存在する。

彼らは地球の現代文明のような装備で武装しているのにも関わらずなぜか、塹壕を掘らない。

一応、概念は存在するが、それを作ることはほぼないのだ。

理由としてワイバーンが上げられる。火炎放射を行える飛行生物がいるこの世界では、塹壕に入って銃弾や弓矢を防いでも上からやって来る火炎弾で焼かれてしまう。

高度な制空装備や防空装備のある現代文明であれば、それほど恐れることはないはずが、彼らは本能的にそれを嫌っている節がある。

 

では第三文明圏はどうだろうか。

こちらは、文明のレベルが近代程度で、さらにワイバーンの陸上バージョンともいえるリンドブルムがいるため、塹壕を見るのはさらに稀だ。

 

そう考えれば、ここニシノミヤコの戦場はパーパルディアにとっていい演習場なのかもしれない。

そこにいる兵はどう思っているかは分からないが。

 

 

 

ニシノミヤコの戦いはパーパルディア皇国軍が上陸してから1週間経っても続いていた。

この1週間で変わったことと言えば、ニシノミヤコが完全に焼け落ち瓦礫の山となったことと、各地に塹壕が掘られたことだ。

それ以外の、例えば猿叫だとか火矢だとかは変わらない。

皇国軍にとっては初めてとなる塹壕戦、それはドイツ軍から見ればお粗末な物であったが、確かに戦場に影響を与えていた。

 

 

「撃て!!」

 

塹壕から少し身を乗り出した複数の影、そのうちの一人が叫んだ。

間を空けず彼らは引き金を引く。

銃弾が飛び出る。その形状は今までの球体ではなく、円錐のような形をし、底辺の部分が凹んでいる。

地球では、ミニエー弾と呼ばれる弾丸だ。

 

「リンドブルムが通るぞ!」

 

この1週間の間、何度も聞いた言葉。

それに合わせ皆、塹壕の底に屈む。

瞬間、塹壕の上を巨体が踏み越えていった。

 

リンドブルム、パーパルディアを列強まで押し上げた最大の立役者だ。

見た目はアンキロサウルスに似ている。なお、炎を吐くことができる。

 

リンドブルムを見送ったあと、塹壕の中には安堵の空気が流れた。

 

「おい、アルス二等兵」

 

額に傷をつけた男が言う。

 

「は、はい。ラウル曹長、どうかいたしましたか?」

 

「どうかいたしましたか。じゃあねぇよ。お前なんで撃たなかった」

 

「だって、捕虜を盾にしていたではないですか!!」

 

「けッ。そういうことだと思ってたよ」

 

「何で、曹長は撃てるのですか!!」

 

そう聞かれたラウルは少し上を向いて考えた。

 

「そりゃ、撃たなけりゃ、死ぬのは自分、そして隊の皆だ。第一、さっきのは捕虜じゃないしな」

 

「え?」

 

「おーい!リーア伍長はいるか!」

 

「ここに!」

 

「おい、この新入りにこの地獄がどんな所か教えてやれ」

 

「了解」

 

リーアはマスケット銃を抱えながら新人の近くに行った。

 

「いいか、ここではな、向かってくる奴は敵でも味方でも民間人でも、何でも撃ち殺せ。でなきゃ次に死ぬのは自分自身だ」

 

「あの盾にしていたのが、捕虜じゃないって言うのはどういうことですか?」

 

「あいつらももう余裕がないんだよ。なんて言ったって相手は天下の皇軍だぜ。まあ、冗談はそれまでにして。フェンの戦闘狂どもが余裕がないってのは本当だ。塹壕が完成するまでは本当に酷かった」

 

「ああ、本当に酷かったな。お前のような定期便*1に乗ってきた新入りは文明圏外国家つって、大抵が調子に乗ってな~」

 

「ええ、一人でずかずか進んで。次の日にはフェンの盾になってましたね」

 

ラウルとリーアはそんな不謹慎なことを言いながら爆笑した。アルスはひいた。

 

「だから二等兵もフェンの戦闘狂を文明圏外だからって、舐めてかかるなよ」

 

「はい、それよりも捕虜の話は?」

 

「ああ、そうだったな。捕虜な。塹壕が出来てから、俺らはずっとここに引きこもってるわけだ。塹壕の中じゃあ、あいつら自慢の大太刀も、皇軍支給のダガーでどうにかできる。そんな白兵戦の間に捕虜なんて確保できないだろう。まあ、さっきみたいにこっちも攻めることはあるから、そこで捕虜が出ることはあるけど、大抵はワイバーンロードの対地支援でフェン軍が先にくたばるから数は少ない。最近じゃ、もっぱらフェンの農民にうちらの制服を着せて、盾にしてるんだ」

 

「そ、そんな自国民を!!」

 

アルスは絶句した。軍とは国家や国民を守る物という考えがある彼には自国民を肉の盾にするなど、考えもつかなかったからだ。

 

「だから、言ったろ。戦闘狂って」

 

「まあ、安心しろ二等兵。彼奴らはワイバーンも持ってなければ、馬も小柄で塹壕を飛び越えられない、大太刀だって塹壕ならダガーの方が強い。ここに居ればフェンからは安心だ」

 

「フェン軍からは?」

 

ラウルが続ける。

 

「ああ、フェン軍からは、だ。この塹壕は安全だからな、わざわざここから出てクソをする奴はいねえ。だからこんなに臭えし、汚いんだ。小さな傷口でもずっと塹壕にいたら、手足を切り落とさなくちゃいけなくなる」

 

「ひぇ」

 

パーパルディア皇国軍にとって初めての塹壕戦。

そのためか、塹壕の出来はお粗末な物であった。

排水の事など考えてもいない。そのため汚水はたまり続けた。資材不足のため、塹壕の下に敷く木板などといった気の利いた物などなく、皇軍兵士は四六時中その汚水と付き合うこととなった。

有機物が大量に含まれる汚水を目当てに大量の細菌や虫が集まり、それにつられ、ネズミがやってくる。まだ、塹壕戦が始まってから1週間程度しか経っていないが、疫病があっちこちに潜んでいた。

また、傷口に汚水が触れるとそこから、細菌が侵入し手足を壊死させるなどの被害も少しずつ増えていた。

 

「おい!!二等兵!お前、その傷口!」

 

アルスを指さしたリーアは深刻そうな声色でそういった。

先程の話でビビっていたアルスはすぐさま恐慌状態になり体中をまさぐった。

 

一方のラウルとリーアは大爆笑しながらその様を見ていた。

 

「安心しろ冗談だ。定期便できた新入りには皆やるんだよ」

 

「そ、そうですか」

 

 

 

地獄の戦場に少しの笑い声が混じった。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

パーパルディア皇国 皇都エストシラント 独パ合同指揮所

 

 

 

「ふむ、凄まじい被害だな」

 

組み立て式の机と椅子、通信機に巨大なモニター、フェンの立体地図を映し出した空中ディスプレイなどが置かれ、人々がせわしなく動く部屋、そこに居る右目の刀傷のある厳つい男がぽつりと漏らした。

彼はパーパルディア皇国軍陸将でここでは独パ共同特別軍事作戦監督官であるシウス。

彼の目の前にあるのは、皇軍がフェンにて被った被害を映し出しているタブレットだ。

 

「一度撤退すべきか?」

 

「いえ、それは難しいかと」

 

シウスの言葉に突っ込んだのは大ドイツ国防軍大佐で、ここでは独パ共同特別軍事作戦参謀長であるフロリアン・フォン・パウルだ。

 

「やはりか」

 

「ええ、軍事作戦でもっとも被害を出すのは撤退時です。四六時中戦闘が継続されているうえ、戦闘狂の集まりであるフェン軍に背中を見せるのは愚策でしょう。アルモス提督の判断は正しい」

 

皇軍がニシノミヤコに上陸してすぐの話。

独パ合同指揮所に詰めていた皇軍将校はタブレットに映し出された被害に目を剝いた。

上陸した5万の兵力のうち1万が一日のうちに戦闘不能になったのだ。

恐慌状態になった合同指揮所の皇軍将校は一時撤退を指示、この指示を受けたアルモスはこれを拒否したのだ。

一時は更迭が叫ばれたが、ドイツ将校団の説得により、それは棚上げされた。

 

「政治的にも撤退は難しい。かといって大規模な援軍を送るのを皇政府が許すとも思えない。どうするべきか」

 

作戦実行前に流れていた楽観的な空気はすでにない。

きっぱくした空気が流れていた。

パーパルディア皇政府、ドイツ中央政府が彼らに要求した2週間という期限。それまで半分しかないのだ。

 

「やはり、ドイツ軍をこちらに回すことはできないか?」

 

「申し訳ありません。兵力的にそれは厳しいですね」

 

ドイツがこの作戦に動員した兵力は精々が一個連隊強程度、数字にして千数百人。

いくらヘリや戦闘車両で機械化されているとは言え、支え切れる戦線には限界がある。

集落など、人口密集地を電撃的に攻略しているが、フェンのゲリラ的抵抗にはドイツ軍も少なくない被害を出していた。

特に、トラップなどは熱源を探知することが難しい物が多く、負傷して後方に下げられる隊員は数えきれない。

 

「ドイツ軍の持つという、自律二足歩行兵器はどうか?」

 

「そちらの皇軍は判別用のタグをもっていないので、投入した場合、フェン軍もろとも皇軍も被害を被ることになります」

 

シオスは髭を撫でながら考える。

 

「そういえば、ドイツには戦車なる兵器があると聞いた。それは使えないのか?」

 

「戦車、ですか……」

 

パウルは渋い顔をして唸った。

 

戦車、それは勝利。戦車、それは最強。戦車、それは栄光。

ドイツでの戦車軍の扱いだ。

ドイツにとって戦車とは今までの数多の侵略の中核として国防軍を支え、その勝利に貢献してきた英雄たちだ。

第二次世界大戦、第一次西ロシア戦争、中東紛争、ユーゴスラビア紛争、イラン政変、あらゆる戦争にその身を投じ、勝利という果実を本国に還元し続けた。まさに生きる伝説。

それが大ドイツ国防陸軍戦車軍だ。

 

マンシュタインが育てた歩兵軍、ロンメルが育てた砲兵軍と諸兵科軍、そしてグデーリアンが育てた戦車軍。

この中で最も発言力があるのは間違いなく戦車軍だ。

彼らは力を持つと同時に巨大なプライドを持った。

そのためか、あらゆる作戦において全ての兵科は戦車軍の隷下として組み込まれたのだ。

 

今回の軍事作戦は陸軍総司令部によるもの、それを後から出てきた戦車軍に渡すわけにはいかなかった。

一応、陸軍総司令部の子飼いの戦車師団はいるが、それはブランデンブルク州東部に駐屯しており、政治的に大きな意味を持っている。フェン王国程度に一個小隊だろうと引き抜く訳にはいかなかった。

 

「ダメそうだな」

 

「はい、申し訳ありません」

 

「いや謝らなくもよい。こちらも無茶を言ったからな」

 

二人の間に再び沈黙が流れた。

 

部屋にオペレーターの声と現状をどう打開するか相談する参謀たちの声だけが響いた。

まるでどこかの病院のような、静かなのか騒がしいのか判断に迷う部屋。

シウスは皇軍の出した被害に頭を抱え、パウルは地図を睨みながら策を考える。

そんな時、扉が開き一人のドイツ軍の軍服を纏った男が入ってきた。

 

彼は部屋に入って来ると少し目線を彷徨わせパウルの元へ向かった。

何事かと、男を見るパウルに男は耳打ちする。

 

それを聞いたパウルは嬉しさのあまり立ち上がった。

 

「どうしたのかねパウル大佐」

 

「シウス監督官、この軍事作戦、もうすぐにでも終わります」

 

 

 

彼らのとって短くも長い戦争が終わりをみせた。

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

フェン王国、夕方の空、晴時々矢。

そこを9機の巨体が高度3000mを飛んでいた。

 

二重反転プロペラを4つ装備した巨大な輸送機、T‐74。

その後ろのハッチがゆっくりと下がっていく、暫くして機内のランプが緑になった。

それを合図にロボットのようなスーツを身に着けた人々がパラシュートもつけずに飛び降りていく。

 

第00特殊空挺旅団 第001強化外骨格降下猟兵大隊

 

元々はドイツ本国と接続したパラディス大陸にて実弾演習を行う予定だったのだが、陸軍総司令部の介入によって急遽、フェン地域での実弾演習に変わった。

彼らはエリートだ。ただでさえ精鋭の集まりである空挺旅団からさらに選抜を行って選ばれた者たちだ。

その程度の変更に動じることはない。撃ち殺す相手が魔物から人に変わっただけだ。

 

地上まで200m、彼らは大の字にしていた体を起こし、地面に向かって垂直にする。

それと同時に背負っていたジェットパックが火を噴いた。

ジェットパックの推進力により、今まで蓄えられた位置エネルギーは殺される。

 

高度30m、この地点でジェットパックは役割を終えパージされた。

普通の人なら余裕をもって死ねる高さ、しかし強化外骨格に包まれた彼らには関係ない。

傷一つなく着地した。

 

 

 

この世界最強の戦闘集団がフェンの地に降り立った。

*1
一日に5,6回来る船。補給の他に補充の兵を送ってくる。

皇国としては大規模な援軍を送りたいところだが、フェン相手に手こずっていると思われたくないので、小規模な兵数に終始している。そのため現場からは皮肉も込めて定期便と呼ばれている。




二重反転プロペラとかいうロマンの塊


・この世界線の歴史

独米冷戦。
1942年から1年程度続いた独米間が大西洋上で展開した緊張状態のこと。
この当時、アメリカはイギリスの敗戦の煽りで戦時経済の計画が崩壊、たび重なる海戦で日本に敗北したため、準備期間を必要としていた。
また、ドイツはアメリカを攻撃するほどの遠征能力を持っていなかったため、自然的に形成されたのがこの冷戦だ。

この世界での日独伊三国同盟。その発端となったのは日独間の経済協定であった。日本はドイツの技術を貰う、ドイツは日本を通してスターリングポンドブロックに接続する。
このような利害関係から始まった。
そのためか、その後の日独伊三国同盟もまた。経済的側面が多くあった。
これに日本は救われた。
ヨーロッパで生産された装備や、戦時急造艦や輸送艦、航空機が日本に届けられた。
また、ドイツは戦勝したことで戦前バカみたいに刷った外国債が逆流し、インフレになることを恐れ、日本に大量に投資を行った。
例えば、工場の建設、狭軌から標準軌への変更。
一方の日本はそれと引き換えに艦船の技術の提供や占領した南方資源地帯での資源を格安で売った。
これらはドイツ海軍の下地を作り、日本を工業大国にする下地を作った。

未来の日独は死ぬほど後悔した。

to be continued
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。