今回の話には、話の都合で原作に登場しない国家が登場します。
第221回大ドイツ国国家総合戦略会議発言記録より
情報保安局長官『こちらのふたつの地図をご覧ください。右側は我が国の衛星の情報より作成した世界地図、左側はこの世界で流通している世界地図です。ご覧になればわかる通り、この新世界にて定義される世界とは、11か国会議が把握している範囲でしかありません。把握していない範囲、例えば我が国の遥か南にある巨大な十字の大陸や、環状島の内部にさらに島のある特殊な陸地などは、世界の定義の範疇に存在しないのです』
新世界領土管理大臣『つまりは、我々の属する国際社会からヘイトを買わずに領土の拡大ができる、という訳だな』
情報保安局長官『その通りです』
財務大臣『しかしだ、我が国はすでにこの大陸とラウリーア、ついでにフェンクにて開発を行っている。それに、こちらの世界にきてからの連続した軍事行動の負債もまだ残っているのだ。これ以上の大規模国家事業は承認できない』
情報保安局長官『何も私は占領して開拓するなどとは言っていませんよ。我々はただ、その地に三色旗かハーケンクロイツを立てて占有すればいいのです。人がいない土地も随分とあるようですし、やりやすいかと』
経済大臣『いや、それではだめだ。今のドイツ経済には巨大な内需がいる。国債をさらに発行し、その予算を以てして、さらなる内需拡大を行うべきだ』
財務大臣『だから、それが許される財政状況ではないと、言っているのです!』
外務大臣『今しかチャンスはないのですよ。第三文明圏やロデニウス大陸、ムーなどでは我が国を中心としたインターネット体制を構築し始めています。もうすこしして、彼らが我が国の情報をインターネット経由で見れるようになれば、今我が国が独占できたはずの領土を取られる可能性が十分にあります』
運輸大臣『運輸省としても、これは世界の運輸の大部分をドイツが握れるチャンスであると考えます。目先の小さな利益で、この後得られる膨大な利益逃すのは、とても賢い者がする行動とは思えません』
経済大臣『我々ドイツは一度日本に経済で負けています。その最たる原因は間違いなく国家による大規模投資の有無でしょう。日本は何度も国家経営が破綻すると言われる程の国債を擦り続けましたが、それらのほとんどは有意義な開発に注がれ続け、それによってもたらされた膨大という言葉すら生ぬるい経済成長が、その国債を相対的に縮小させ続けました。はて、この状況、今の我が国でもできるのではないでしょうか?』
財務大臣『うぬぬ……分かりました。中央銀行と話をつけましょう』
新領土領有法より
ドイツ船籍の船舶の全ては航海中に発見した無所属地域を国に報告する義務を持つ。
また、ドイツ船籍の船舶は未発見の島などには、可能な限りドイツ国旗または、ナチス党旗を設置することをここに定める。
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中央暦1640年 2月3日 ドイツ本土北東部海上 環状山脈島
巨大な環状山脈を中心に広がる島、ドイツ呼称:カイェス島。
その島は環状山脈の中にアイルランド程の大きさの湖島を持つ。
大きさは環状の中心から1200kmほどに外縁があり、リングは200km程の幅である。
気候は高緯度にも関わらず暖流のおかげでドイツ本土と同じ亜寒帯に属す。そのため、ここカイェス島は現在、2月3日において、雪化粧に飾られていた。
そんなカイェス島の南部の一角、そこでは雪など関係ないとばかりにドイツによる大規模な開発が行われていた。
ウィィィィン
機械の可動部が動き、プログラム通りに建造物を築いていく。
山間部まで広がる、広大な開発地域。
広大な開発地域では、夥しい数の機械が動き回り、人間の理想を実現しようと奔走していた。
「うぅぅ、寒い寒い」
白い地面にポン付けされたように設置されている簡易住宅。そこに一人の男が入って行った。
「お疲れ様。コーヒー入ってるわよ、飲む?」
「ああ頼むよ」
ふかふかなソファーに身を沈め、ノートパソコンをいじる美女が男に温かいコーヒーを渡した。
男は、コーヒーの入ったマグカップで、まずはかじかんだ手を温め、続いてコーヒーを口に入れ体感温度を引き上げた。
小さな部屋の中、二人の間に小さな沈黙が流れ、コーヒーから離れた男の口から聞こえるほッ、という声とともに人数にふさわしい喧騒がなった。
「あらためて、機械の修理お疲れ様」
「ありがとよ。できれば、君にも現場に出てほしいんだけどね」
「いやよ。だって寒いじゃない」
「ごもっとも」
「それに、私だって仕事をしてるじゃない。ほら」
女は先程からカタカタと打ち込んでいたノートパソコンの画面を男に見せた。
画面に映し出される緑のプログラミング言語が女の仕事を教えてくれた。
「仕事ねぇ……、ところで、そのプログラム。なんなんだ?」
「貴方のその手に持っているコーヒー。何処のか知ってる」
「何だいきなり……そうだな、クワトイネ産とか?」
「ブッブ~、不正解。それはドイツ本国産の代用コーヒーよ」
「代用コーヒーだ!これがか!?」
男が驚いたように、手に持つコーヒーを再び口に含んだ。
口の中で転がしてみたり、直接鼻で臭いを嗅いでみるが、転移前から飲んでいたコーヒーと何ら違いが分からなかった。
「フフフ、驚いたでしょう。ちなみに、それを作るレーンのプログラミングの一部は私がやったのよ。そして今はその改良作業中」
「へぇ~、そりゃありがたいな。てか、これ本当にチコリの根っこなのか?」
「正真正銘チコリの根よ」
「にしては、甘みを感じないが……これが、現代技術の賜物ってやつか」
男は他人事のように感心して言ったが、この本物のコーヒーと値段以外で違いがほぼないチコリコーヒーを作るまでの過程は途方もない努力と苦節の積み重ねだった。
そもそも、この開発が始まったのは日独冷戦の中盤頃、アフリカ情勢と南アメリカ情勢が一気に不安定になった時期である。
この時、アフリカでは、ようやく欧州枢軸とそれなりにやり合えるようになったと、自覚した日本が本格的に介入していた。それは、武器の密輸から始まり、顧問団の派遣やドイツなどの直接支配下には大量のアヘンがばらまかれた。これらの行動はその前に行われた第二次中東戦争*1で独立を容認させたエジプトから注意をそらすためであった。
さらに、南アメリカでも日本は反政府組織を支援し、アルゼンチンやベネズエラを内戦状態にした。
これらの事象により、今までドイツにコーヒーを供給していた各国はその混乱から、供給量に乱れが起き、ドイツ中の商品棚から一時的にコーヒーが消えた。
紅茶がイギリス人の精神安定剤であるように、コーヒーもまたドイツ人の精神安定剤であった。
もし、仮にドイツからコーヒーが消えたら、それはパンが消えるのと同じ混乱と破壊が齎されるのは想像に難くなかった。
ドイツの支配者を自認するナチスにとって、それはとても許されたことではない。
ナチスは直ちに膨大な国費を投じて代用コーヒーの新規開発と発展を開始した。
それから苦節半世紀、数多の研究者の毛根を生贄に、全く新しいチコリコーヒーが誕生したのだ。
今、男がへぇ~とアホずらさらして飲んでいるチコリコーヒーは、ドイツが転移するまでは一般に流通どころか、認知すらされていなかった。
理由は単純に、ナチス党が対外政策の弱腰を悟られたくなかったこともあるが、一番大きいのが、万が一コーヒー豆の供給が途絶えチコリコーヒーを代用とする時に、国民に忌避感を感じさせないようにさせるためという、ナチスにしては珍しい気遣い*2での政策だった。
効果の所が一体どうだったかは男の反応を見れば一目だろう。
「にしても最近はよく呼び出されるはね。国防軍は一体どんな機械の扱い方をしているのかしら」
「国防軍の連中、機械を二十四時間ずっと動かしてやがる。何かにせっつかれたように、急いで整備しるぜ」
「それで扱いも荒くなって、故障が多発しているわけね」
「ああ、上司から楽な仕事って聞いてきたが、ちっとも楽じゃねぇ。ノルウェーゲンの北部みたいな寒さの中、規格度外視の星型ボルトに舌打ちしながらやってるぜ」
「今更だけど、軍の技師はいないの?いたなら貴方がこんなに苦労することもないのに……」
「残念ながらあいつらは血税で買った玩具にご執心で、土木機械の面倒なんて見てくれないさ。それでもよ~、国防軍の連中ももっと機械に優しくしてほしいぜ。一体なんのためにこんなに急いでんだ?」
「あら、貴方知らずにここに来たの?」
「?知ってるのか」
「ええ、ここが環状山脈の島だっていうのは知ってるはよね?」
「ああ、勿論だ」
「この環状山脈の中に島があるのは?」
「それは知らんな」
「フフ、その島に文明があるのよ。国防軍が何かにつけて急いでるのは、他の国に先を越されないため。最近じゃ、パーパルディア皇国あたりが、外征する余裕ができたからそれを警戒してるのでしょうね」
そう言うと女はノートパソコンを閉じ立ち上がった。
女は男の方に歩いていき、頭一つはでかい男の首に手をまわし、体を預けた。
「お前は随分と元気なこった。俺にももう少しその元気があれば、この仕事ももっと楽なんだろうな」
「何を言ってるの?
その晩、男と女のいる簡易住宅からは、肉と肉がぶつかり合う音と女の嬌声がともに聞こえたという。
それを聞いた国防兵士は半ば八つ当たり的に男の仕事を増やした。
男の仕事が多いのは十中八九このせいだろう。
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クルセイリース大聖王国 属国ヴァンブス王国
ロデニウス大陸から南に3000km、そこには縦500km、横500kmの十字の島があった。
そこに本土を置くのが、世界に知られざる大国クルセイリース大聖王国である。
クルセイリースは帆船を宙に浮かせる技術を持ち、それが担保する軍事力は非常に強大な物であった。
また、その強大な軍事力を背景に数多の侵略戦争を行い、周辺に多数の属国を従えている。
そして、シチリア島程度の大きさを持つ、この島国、ヴァンブス王国もまたクルセイリース大聖王国の属国である。
属国といっても、その形態は戦国日本の大名的なものであり、支配は非常に緩やかなもので、一部特定の税をクルセイリース大聖王国に収める必要があったり、外交権が無かったりとその程度で、独自の軍を持つことを許されているくらいには緩いものであった。
そのため、クルセイリース大聖王国の経済力のおこぼれを貰い、非常に富んだりもしていた。
少し前までは……
遡ること、数日前。
大海の向こうから、鋼鉄の船がやって来た。非常に珍しい赤い色を背景にした鉄十字の船団が。
一隻ではない、少なくとも10隻は下らない数。
それらは、意思疎通の一つもせず、突如襲い掛かってきた。
船首に一つだけ取り付けられた大砲はその数に見合わず、圧倒的……否、あまりにも理不尽な精度で、ヴァンブス王国軍を粉砕した。
それが終わると悪魔の船団の砲は市街の方を向いた。
砲はまず最初に役所や駐屯所、商会といった重要施設を破壊すると、人々の安らぎの場を奪っていった。
市街地が軒並み瓦礫で飾られると、巨大な羽虫が飛んできた。
それは、地面に近づくと灰色の薄汚れた服を着た男たちを吐き出した。
薄汚れた服を着た男たち……蛮族共は、奪うことも犯すこともせず、ただ淡々と命を狩っていった。
そこには、女も男も、老人も子供も区別はなかった。
見つかったら次の瞬間バンッ、という軽い音共に命が消えている。
そんな地獄が始まった。
それから暫くして、希望がやって来た。
唯の帆船に回転翼を付けた形の空浮く船。
ヴァンブス王国の宗主国だるクルセイリース大聖王国の飛行艦だった。
ヴァンブスの民は涙を流し歓喜した。かの蛮族共を駆逐できると。
だが、その希望も瞬く間に刈り取られた。
まるで、熟練の猟師がようやく飛べるようになった野鳥を弓で撃ち落としたように。とても簡単に墜ちていった。
強国クルセイリース大聖王国の力の象徴たる飛行艦が、蛮族の船から飛んでくる光の槍にいともたやすく貫かれ地に伏していった。
それを見た民は膝を折り、天の理不尽を嘆き叫んだ。
ただそこに残るのは、奈落のように深い絶望から来る、狂乱と静寂だけだった。
それから、僅か一週間足らず。
ヴァンブス王国はこの世から未来永劫消え去った。
これは、その後も繰り返されるクルセイリース大聖王国の属国で起きる悲劇の開幕に過ぎない。
全ての発端はイタリアであった。二次大戦によって、自由主義とユダヤ主義が破壊された世界においてほとんどのユダヤ人は差別のない極東か欧州で差別が一番マシなイタリアに移り住んだ。
イタリアにおいてはドイツに対する反発でユダヤ人の根絶を行うことは無く、一応の平穏が確約されていたこと、さらに同じ白人国家であることも後押しし、大量のユダヤ移民が流れ込んだのだ。
これに頭を抱えたのだイタリア政府である。ドイツに対する反発心だけで、ユダヤ人の根絶反対を訴えていたイタリア政府は、当初のユダヤ人が少ない時期はよかった。
しかし、移民が増えるにつれ、欧州枢軸の圧力が増し続けた。
そしてついに、イタリア政府が音を上げた。
最初は根絶作戦を考えていたイタリア政府であったが、それにかかる費用と国民感情により困難に、そこでイタリア政府が目を付けたのが、パレスチナであった。
この時、パレスチナではロンメル将軍率いるアフリカ軍団が本国からユダヤ人を輸送し、パレスチナに移民させていた。
そこで、イタリア政府はこのアラブ人とユダヤ人の雑居状態のパレスチナにユダヤ人国家を作り、イタリアにいるユダヤ人を吸収してもらうことを考えた。そして、ここにロンメルも乗っかることになる。
これに慌てたのがトルコであった。
この時、パレスチナはトルコの一部地域であり、そこにユダヤ系国家ができることは許容できなかったのだ。さらにここにアラビア半島に大量の石油利権を持つ日本がアラビア諸国にせっつかれ参戦。
これを第一次中東戦争と呼ぶ。
最終的にこの戦争はイタリアの経済力の限界からトルコ・日本側が勝利、パレスチナを死守した。
そこから数年後、アメリカ大陸でもドイツの支援でユダヤ人狩りが本格化、そこでドイツは気づく。ユダヤ人根絶の余りのコストに。
そのコストは戦時中ならまだしも平時において掛けていい金額ではなかった。
ドイツは思案し一つの結論に至った。ユダヤ人を追放すればいいと。
つまりは、ドイツの中東戦争への本格介入であった。
その衝撃はあまりにも大きく、結果、第二次中東戦争ではイスラエル国が建国された。
トルコ・日本はそれと引き換えに、経済・軍事共に大打撃を受けたイタリアからスエズを含むエジプトの独立を容認させた。
その後の中東戦争において第四次まで続き、悲惨な歴史を積み重ねることになる。
・この世界線の歴史
1944年4月7日
太平洋戦争最後の大海戦、サンフランシスコ沖海戦。
日本側空母16隻、艦載機数1200機、戦艦3隻。
アメリカ側空母5隻、艦載機数460機、戦艦11隻
まさに、空母と戦艦の最強決定戦ともいえる戦いであった。
日本にとっては最後の壁たる米太平洋艦隊の撃破が懸かった海戦。
アメリカにとっては、祖国防衛の最後の壁を維持する海戦と。
どちらともに厚い心意気を以て取り掛かり、世界中がこの海戦に注目した。
だが、その結果は日本の第二・第三艦隊による第一波攻撃隊によって米太平洋艦隊の作戦能力がほぼ消失するという、なんともあっけないものであった。
なお、この時獅子奮迅の働きをする艦があった。
その名を武蔵級航空母艦。武蔵と信濃である。
武蔵級航空母艦の船体は大和級戦艦の船体を流用した物だった。
一番艦の武蔵に至っては艦橋が完成してからの改造だったのだ。
この時問題になったのが、大和板である。
日本艦特有の上に突き出た船首のことだ。
工廠側はこれを削り取って改造しようとしたが軍令部が時間がないとし、別の案を要求した。
これにより武蔵は船体から9度斜めに飛行甲板が取り付けられた。
世界初の斜め飛行甲板である。
だが、それからしばらくの間、武蔵は斜め飛行甲板のみしか使用できずその全力を発揮できなかった。
その状態が変化するのがハワイ陥落を機にする太平洋戦争の一時的な落ち込みであった。
この間に武蔵は邪魔だった大和板を取り除き、斜め飛行甲板とともに、全通飛行甲板も装備した。
これは建造が最終段階に入っていた信濃も同じで、両艦ともに太平洋戦争最後の大海戦への準備が整ったのだ。
サンフランシスコ沖海戦ではその持前の発艦速度で他の艦以上の衝撃力を米艦隊に与えた。
また、今海戦で活躍したのはこの両艦のみだけでなく太平洋の伝説大和もまたその神話のページを増やした。
海戦終盤にて発生したアイオワ級戦艦6隻と大和、長門、陸奥との闘い。
この時、大和はアイオワ級の50口径410mm砲に対し、心配な防備しかない長門級戦艦の代わりに、6隻からの砲火を吸収し、3隻を撃破、その後米戦艦部隊を突破し、太平洋戦争開戦時から大和と共に生きながらえてきたエンタープライズをその主砲で沈めた。
この海戦により、アメリカの太平洋における制海権は消失。
米本土上陸の準備が整った。
to be continued