何処までも広がる大海。
その上を走る船団があった。
ドイツ海軍第一打撃艦隊である。
地球では、たった一艦隊で中小国を滅ぼせると呼ばれた精鋭中の精鋭だ。
2隻の大型空母に2隻の護衛空母、1隻の対潜ヘリコプター空母、3隻のミサイル巡洋艦、4隻のミサイル駆逐艦、それらを守る防空駆逐艦(スヴェルシステムと呼ばれる防空システムを搭載している。史実でいうイージスシステム)が8隻。
その他にも、多機能駆逐艦が12隻。
そして、戦艦1隻。
フリングホルニ級戦艦一番艦フリングホルニ。
本艦は日本の4代目大和型戦艦に対抗する目的で建造された戦艦だ。
全長345m、最大幅62m、満載排水量12万3000t、速力 最大39ノット。
主機関は2基の大型核融合炉を、副機関には4基のコンパクト核融合炉と2基の大出力ディーゼルエンジンが。
前世界で、戦艦としては初めてのウォータージェット推進を採用しており、低速域での運行に対応するためスクリュープロぺラも搭載している。
主砲は、三連装52cm電磁加速砲を前後に1基ずつ。
また、VSs(史実でいうVLS)を124セル。
魚雷発射管を8基。
CIWs(史実でいうCIWS)を6基。
127ミリ単装速射砲を5基。
ヘリコプターを2機、無人機を5機搭載可能。
それ以外にも、超大音量を指定の方向のみに飛ばし対象を共振現象で粉砕する超振動波兵器ギャラルホルンを一基。
電子加速式レーザーを4基。
また、本艦は本艦を中心に半径300mの範囲に電磁バリアを展開可能(エネルギー消費量の観点から全方位を囲むことはほとんどない)で、それを破ったとしても船体に非対称性透過シールド(エネルギーが尽きない限り物理攻撃を一切受け付けない)を任意の瞬間に展開でき、万が一攻撃にそれが間に合わなくても本艦の素の防御力も目を見張る物で、その船体を形作っているのは平均して300mmものオリハルコン合金と呼ばれる超合金である。最も薄い箇所であろうと52cm電磁加速砲の直撃を耐えることができる。
国家の全てを注ぎ込んで完成された怪物だ。
そんな怪物の艦内では、
「随分な歓迎ですね」
そう言うのは大ドイツ国外務省アジア州局東アジア課のマンフレッド・ホルム。
彼は、25年もの間現役のベテラン外交官であり、前世界ではもう一つの覇権国である日本との外交で第一線に立ち続けたという確固たる経歴も持ち合わせている人物だ。彼は長期休暇を取り本国に戻っていた所で、国家ごと転移するとい天変地異に遭遇した幸運か不運か判断に難しい人物でもある。
「これがこの世界の外交儀礼かもしれませんよ」
それに答えるのは、5年も経験を積んでいない新人外交官のルイーゼ・エバリーだ。ちなみに、彼女は金髪碧眼の長身美女でヒトラーの言うアーリア的美学に基づいた女性像そのものである。
「ハハ、恐らく違うかと」
エバリーの言葉に突っ込んだのは本艦隊、第一打撃艦隊の提督ヴァルター・ベーベルだ。
「というと?」
彼女は、自分をからかったように言われたことで少しムスッとした態度で聞く。
「先日、ルフトバッフェが我々がこれから向かうであろう国パーパルディア皇国に強行偵察を行ったことはご存知で?」
「ええ、勿論。外交官として情報収集は欠かせていません」
「でしたら、これらの歓迎も合点が行く筈ですよ」
そういわれるとエバリーは少し考え、暫くすると合点がいったとばかりに左手に右手を打ち付けた。
それを見ていたホルムとベーベルは本当にこんな反応をする人がいたのかと若干呆れる。
「つまりは、我が国が行った強行偵察への危機感からこれほどの戦力を配置していたっていうことですか?」
「恐らくは。強行偵察時の時はこれほどの戦力を確認していないのでそれで正解でしょう」
「もう一つあるだろう」
今まで聞き手でいたホルムが言う。
「ほう、それは?」
「威信を見せつけたかったんだろうな」
「そうなんですか?」
それを聞きベーベルは確かにと反応をしめし、エバリーは解からずしかめっ面をする。
「ああ、見てみろ、この艦の周りだけで何匹の竜……いや、ワイバーンが飛んでいる」
「1、2、3……少なくとも30以上は」
「そうだ、しかもそれが、後方にいる空母をなどを除いた、本艦を含む9隻にほぼ同数ずつ取りついている。ワイバーンはあの巨体だ間違いなく馬以上のコストを要求するだろう。それをエスコートするためだけにこれだけ出せるのだ。まぁ、彼らが言うにはあれらのワイバーンはそこらの中小国が運用するものではなくさらに強化したワイバーンロードというらしいが」
「うーん、確かにそうですが、でも無理をすればそれぐらいは出せるのでは?」
「ふむ、それはそうだ。ワイバーンは我々が初めて見たものだから、それでパーパルディアを計るのは間違っているかもな。では、我々でも十分に理解できる物もある」
「戦列艦ですか?」
ホルムは満足げにうなずく。
「そうだ。提督、相手の戦列艦は確認できるだけで何隻いる?」
「聞こえたかレーダー員、報告を」
突然、声をかけられたレーダー員は驚くことなく、分かっていたとばかりにすぐに報告を開始した。
「はい、再度報告を申し上げます。まず最初にこれはレーダー上に映った影からの推測ですので多少の誤差があります」
「構わない。続けよ」
「はい、では。パーパルディア皇国の本海域での推定海上戦力を申し上げます。50門級戦列艦が46隻、70から80門級戦列艦が33隻、100門以上の戦列艦が22隻、また空母のように運用している戦列艦(竜母)が3隻、計104隻です」
レーダー員は報告を終えると素早く元の位置に付き任務を再開した。
「凄まじい数だ、19世紀初頭の大英帝国の保有戦列艦数以上の数だな。しかもこれで全てではない。よくわかっただろう?」
「はい、よくわかりました」
「では、これからの会談で気を付けることは?」
「相手に侮られないように高圧的に、けれども、挑発的な発言は避けること。ですか?」
「そうだ、前に立つのは私だ。君はそれだけ押さえておけばいい」
暫くの間沈黙の後、再びホルムが口を開く。
「彼らは大陸共通言語と言っていたが、あれは間違いなく日本語だった」
「はい、意志の疎通がしやすいのはいいですが、あまりいい気分はしませんね」
余談だが、ドイツのいた地球では3つの世界公用語が存在していた。一つは英語、残りの二つはドイツ語と日本語である。基本的には英語が主流であるものの外務省や商社に勤めるとなるとドイツ語と日本語は必須科目であり、勿論ドイツの外務官も全員がマスターしている。
「外務省の方々、色々話している内に陸が見えてきましたよ」
「すまない提督、ついつい熱が入ってしまった」
「いいえ、別にいいですよ。それよりもここの港は水深が浅いのでエアクッション艇に乗り換えてもらいます」
「わかりました」
「では、案内します」
彼らの接触は近い。
―――――――――――――
第一外務局局長のエルトは震えていた。
震えると言っても、彼女は歴戦の外交官だ。常人ではわからないだろう。
そんな、彼女の眺める窓の先には威風堂々たるパーパルディア皇国海軍の戦列艦……ではなく、それが小舟に見えるような巨大な艦たちであった。
とくに、その中でも異質な存在感を放っている船、戦艦。たしか、魔信の報告によるとフリングホルニと言ったか、と思い出す。
彼女は軍事に疎く、それでいてかの艦たちがよくわからない装備を乗せているが、それでもわかった、あれは化け物だと。人をいかに効率的に殺すか追及したモノだと。本能的に悟った。
廊下の途中で一人恐怖していると、彼女の肩を誰かが叩いた。
咄嗟に出そうになる声を我慢して後ろを振り向くと、そこには元上司で現第三外務局局長のカイオスがいた。
「エルト、あまり緊張しない方が良い。それだと相手に足を掬われるぞ。お前の外交能力は私だけでなく皇帝陛下も認めてくれているのだ。それをそんな下らない理由で発揮できなければ笑われるぞ。それに、なによりも君らしくない」
「フフ、そうね、私らしくないわね」
そういってエルトは自分の両頬を思いっきり叩いた。
「よし、これでいいわ。じゃあ行くわよカイオス」
先程とはまるで打って変わって意気揚々なエルト。その背中を見てカイオスは、煽りすぎたか?と少し後悔するのであった。
ちょっときり悪かったかな?
・この世界戦の歴史
この世界ではスターリンが政戦で敗北して2代目書記長の座についたのはブハーリンである。
彼の政策はスターリンに比べ非常に生易しく、結果ソ連上層部の腐敗や工業化の失敗につながった。