エルトは目の前にそびえたつ、堅牢でありながら優雅な印象を思わせる扉を穴が開く程見つめていた。
少しして扉の向こうから足音が聞こえてくる。
そして、扉の前でとまり、次はノックが聞こえ扉がひらいた。
「失礼します!大ドイツ国外交団お入りになります」
それだけ言って、衛兵は部屋から出ていった。
それと、入れ替わるように二人の男女が入ってくる。
片方は白髪をオールバックで纏めた初老の男、もう片方は金髪碧眼で身長が180に届きそうなほどの長身美女。
「どうも皆さんお初にお目にかかります。大ドイツ国外務省アジア局東アジア課所属、そして本日は対パーパルディア皇国外交団団長を務めるマンフレッド・ホルムと申します」
「大ドイツ国外務省対パーパルディア皇国外交団のルーイゼ・エバリーです」
二人はそれぞれ挨拶を終えると丁寧に礼をし、上座に座った。
「第1外務局下位列強担当シランと申します。」
「今回の会談の司会進行を務めます。第一外務局局次長ハンスです」
「私は、パーパルディア皇国第三外務局局長カイオスと申します」
「パーパルディア皇国第一外務局局長エルトです。本日はお願いいたします」
自己紹介が終わり各々が席に着く。
皇国側は相手が思ったよりも礼節のある相手とわかり安心し、ドイツ側はまさか初手から局長クラスが2人も出てきたことに驚愕した。しかし、どちらとも外交官、その感情を表に出すことはなかった。
「いえ、こちらも突然の訪問にも関わらず、局長自ら対応していただき。ありがとうございます」
そういうとホルムは早速本題に入った。
「まず、先日我が国の偵察機が貴国の領空を侵犯したことに対し、正式に謝罪させていただきます」
「わかりました。このことは私たちのみでは取り扱えないので皇帝陛下に直接お話しを通させていただきます」
「ええ。わかりました、それが妥当かと。では、後日そちらの皇帝陛下の声明をもってこの件は終わり、ということでよろしいでしょうか?」
「はい、その認識で相違ありません」
「では、こちらを」
ホルムの持っていた大統領直筆の謝罪文がシランを通してにエルトに届けられる。
「はい、確かに受け取りました」
「では、本日あなた方が我が国に来訪された理由をお聞きしてもよろしいでしょうか」
ハンスがそういうとホルムが事前に決められていた通りに話始めた。
「はい、今回我々が貴国に伺った理由は、国交開設のためです。ですが、そのためにはお互いにお互いを知る必要があるでしょう。なのでまず我が国の説明を行いたいと思います、エバリー外務官投影機の準備を」
それを聞くや否や、エバリーは席を立ち席の横にかけていたカバンを持ち上げた。皇国側の面々が警戒しているのを肌に感じつつ、カバンを皇国側の外交官とドイツの外交官の間に置かれた机の上に置き、そして開く。その中には、丸いガラスのレンズがあり、それをよくわからない物が覆っている。
エバリーはエルトたちの視線を無視しながら準備を行い、スイッチを押した。すると電源が起動し、空中に鷹が逆卍を掴んでいる大ドイツの国章ライヒスアドラーが映し出される。
それを確認するとホルムが説明を開始した。
「こちらは、我が国で作成された空中ディスプレーと呼ばれるものです。私は専門ではないので詳しいことは分かりませんが、何でも光の屈折を利用しているとか何とか。それはともかく、こちらを使って我が国を説明したいと思います。まぁ、途中からは、こちらで投影される映像のみという形になりますが」
「は、はいよろしくお願いします」
ホルムはエルトの言葉を聞くと早速説明を始めた。
「我が国は貴国から1000kmほどはなれた所にある大陸に本土があります。そして……」
「ちょっとまってくれ。そこには小島しかなかったはずでは?」
事前情報からある程度予想は出来ていたが、それでも気になりカイオスが質問した。
「ええ、元々はそうだったかもしれませんが、今は違います。我々は別の惑星、もしくは世界から転移してきたのですから」
「て、転移!?」
カイオス含む皇国側全員が驚く、彼らからしたら国ごと転移など神話の魔法帝国の話で、ドイツを魔法帝国と疑ってもおかしくない。
一方、ドイツ側も驚いていた。ドイツはこの世界に転移した時、新たな大陸、パラディス大陸に接続していた。そのためずっとこの大陸はこの世界に存在したものと考えられていたのだ。しかし、ここで、そうでないことがわかった。
「はい、信じられないかもしれませんが事実です」
「ふむ、確かにあそこに住んでいた蛮族たちでは、いくら集まろうがあのような物が作れるわけがない。そうすると、それが最も辻褄が合うのかもしれないな」
「では、説明を続けさせていただきます。我が国の正式名称は大ドイツ国、首都はゲルマニア、国土面積は元々は114万㎢現在は新たに接続した大陸、パラディス大陸全土を国土に組み込み730万㎢に拡大しています。人口は3億4000万人、以上で口頭での説明を終えます。これからは、こちらの空中ディスプレイで映像を流しますのでそれをご視聴したいただくことになります。映像の内容は我が国の文化や風土、歴史や経済、あとは軍事になります」
カイオスは後悔した、自分達がドイツの言うパラディス大陸を知らないと遠回しにいってしまったからだ。もし、あの時口を滑らさなければ自国の領有を主張できただろうがもう後の祭りである。
またその他の皇国側の面々はそんなことに気づかず、本日何度目になるかわからない驚愕をした。自国に比べて少ない領土で自国よりも5倍近い人口差があるのだ、しかもこちらの世界に転移して国土を大きく増やしている。
まだ、説明が残っているのだからこれから何度驚けばいいのかとエルトは諦めた。
その後に行われた、映像を用いた説明はエルトたちの既存概念を破壊していくものであった。
何千万もの人が死ぬ大戦争、都市を一撃で破壊する兵器の数々、それらを互いに突きつけ合い世界を二分した冷戦、1億を超える馬のいらない馬車、それを支えるインフラ、天を貫く摩天楼、空の先に届く技術力、魔道砲をはるかにこえた威力を放つ砲の数々、それを積み馬以上の速度で地をかける戦車、音を超える速度で飛ぶ飛行機械、魔法帝国の誘導魔光弾(ミサイル)、それを積み何百kmも離れた場所から打ち込む船etc……
2時間近くに及んだ映像であったがエルトたちからすると一瞬しかたっていなかった。
あまりにも、内容が濃かったのだ。
彼らはドイツが本当に転移国家であると確信し満足する一方、恐怖していた、その力がパーパルディア皇国に振るわれることを。
そうなった時自分達ではどうしようもないと確信していたし、今の腐敗しきった皇国政府では本当のことを伝えても信じてもらえない可能性がある。彼らは何としても敬愛なる祖国の暴走を止めようと各々の心の中で誓った。
「いかがだったでしょうか」
考え事をしていエルトは一瞬びくっとするがすぐに立て直す。
「はい、大ドイツ国について良く学べました」
「それはよかったです」
何か含みを込めてそういうホルム。エルトを含む皆が理解したこれは普段自分達が文明圏外国家に向けているものであると。
「では、我が国の説明を……と行きたかったのですがもう日が暮れてしまったようですね。ですので本日はこれまでにさせて頂きたいと思います。よろしいですか?」
ハンスが言う。
「はい、大丈夫です」
「では、案内を呼びますので少しお待ちください」
少しして案内がくると、ホルムたちは来た時同様、礼儀正しくお辞儀をし退室していった。来るときと違っていたことがあるとすればホルムたちは満足げな顔をし、一方のエルトたちは意気消沈していた。
この日のエルトの日記にはこう書かれている『我が国とドイツを例えるならば、列強第一位と文明圏外国でも足りない。それこそ、世界を滅ぼせるような怪物と一般人だ』
・この世界線の歴史
この世界の日本は時の大蔵大臣である高橋是清を中心に工業の規格化に成功しており、対米戦までに大量生産の基礎が出来上がっていた。